EPISODE328:あずみ・剣は優雅に、意志は鋼のように
不破が階段を駆け上がれば、そこには白い鎧のビートロンや黒い鎧のスタグロンと戦っている市村と葛城の姿があった。
「市村、あずみちゃん! ライオグランデなら倒してきたぜ!」
「不破さん! 無事だったんですね!」
不破の声に耳を傾け、葛城はビートロンの大剣を横っ飛びでかわして急所をピンポイントで突く。ビートロンを退かせると、不破のもとに舞い込んだ。
「東條はんやったら俺らが先行かせた! 三人でこいつらブッ飛ばしたろうや!」
スタグロンにビームを何発も撃ち込み更にチャージショットも命中させてから、宙返りで不破のもとに移動して市村は言う。
「おっしゃ! 二人より三人なら楽勝だな!」
「フン! ナメるなよ人間。三対二など卑怯の極み!」
「そうだ。貴様らのような卑怯者は死ね!」
「……お前らが言うなや!」
戦いは仕切り直された。市村と不破はスタグロンを引き付け、その間に葛城がビートロンの相手をする。相手のパワーは半端ではないが、比較的身軽なスタグロンに比べれば大振りだ。付け入る隙はいくらでもある。しかしだからといって、油断は出来ない。カイザークロノスには遠く及ばないとしてもこいつらは強敵だからだ。
「そりゃ、うりゃ!」
「ファイヤーッ!」
スタグロンに突きとビームの嵐が襲いかかる。だがスタグロンは引き下がらず、槍を激しく振り回して二人をぶっ飛ばした。
「うっとうしいわあッ!」
「クッ!」
ビートロンは角からエネルギー弾を撃ち、葛城を攻撃。エネルギー弾はガードしたものの、斬撃と盾による打撃を受けてのけ反った。
「くそっ、楽には勝たせてくれないってか……」
「なんちゅうヤツらや……!」
一体だけでも手強いというのに、そこに巧みなコンビネーションが合わさってより強さを増している。三人とも苦い顔になってきた中で、葛城はあることに感付いた。
健さんが戦おうとしている相手はカイザークロノス。ヤツは今までのどの相手より遥かに強大なはず。だったら、強敵とはいえここでビートロンとスタグロンを相手に複数人で戦っている場合ではない。三人のうち誰かが残って、残りの二人は救援に向かわねば。誰が残り誰が行くべきか? 答えは見えている、この際理屈はいらない――と。
「……お二人とも、ここはわたくしに任せて健さんを援護しに向かってくださりませんか」
「よせ! あずみちゃん一人であいつらと戦う気か?」
「せや、一体だけでもごっつう強い連中や。それを女の子が一人で相手するなんて無茶もええとこやで……!」
「それでもかまいませんッ!」
制止しようとした二人の言葉を振り払って、葛城は力強く叫ぶ。すさまじい気迫だ。叫びには彼女の強い意志と覚悟がよく表れている。
「一人ではカイザークロノスに勝てないかもしれません。でも一人より二人、二人より三人ならきっと勝てる。わたくしもあとから向かいます」
「あずみちゃん……わかった」
「ここはあんたに任せるで。必ず追い付いて来てな」
「はい!」
不破と市村をその気にさせ、葛城は笑顔を二人に見せてからひとりビートロンのスタグロンのもとへ突っ込む。あとの二人も、葛城の勇ましい姿を見届け走り出さんとする。
「お前らの思い通りにはさせんッ!」
「こちらこそ! さあ、二人とも早く!!」
スタグロンの槍を盾で受け止め、葛城は不破と市村に先へ進むよう促す。二人は、「頼んだぜ!」「俺らも頑張ってくるさかい!」と、エールを送りダッシュで階段を上がった。
「おのれーっ!」
「ッ!」
怒り狂うスタグロンが葛城に槍を振るう! 横に跳んでかわして、葛城は突きと斬撃を連続で繰り出し、ハイキックもお見舞いしてスタグロンを吹っ飛ばした。
「ぬおーーっ!」
「なんのっ!」
続いて、ビートロンが角からエネルギー弾を発射。葛城は左手に持ったローズシールドで弾き返し、踏み込んで一太刀入れた。
しかし、背後からスタグロンが槍を叩きつけ、ビートロンは雄叫びを上げ大剣を振りかぶる! 葛城は、うめき声を上げて地に伏せた。
「このアマッ! 俺たちをコケにしおってッ!」
「お前のような小娘ひとりだけで何が出来る! 容赦はせんぞ!」
ビートロンとスタグロンは互いに葛城へ罵声を浴びせ、葛城を壁へ放り投げる。葛城の頬には傷が入り血が流れ出す――だが、彼女は傷付いてもなお立ち上がった。右手にレイピアを、左手には盾を携え――凛々しい顔をして。
「な……なにい〜〜〜〜ッ!? なんだその顔は、まだやる気か!?」
「……わたくし言わなかったかしら? 勝利を掴み取るまで、わたくしたちは精一杯抵抗します、と。こんなところで倒れるわけにはいかない。この体に託された希望を、ここで断ち切ることになってしまいますから」
まだ若干17歳。にも関わらず、芯はがっしりと強く、剣の腕前も身のこなし、生まれも育ちも超一流。何が葛城をここまで動かすのか? それは母から託された希望と、勝利へ懸ける勇気と情熱、熱き正義の血潮に他ならない。
「ほざけ! どうせお前には何も出来ない!」
「いいえ、出来ます」
「なにい? では、何が出来るというんだ!?」
「あなたたちに勝つ!!」
葛城は勇敢に、微笑みながらビートロンとスタグロンにそう言い放った。スタグロンは彼女の言葉を鼻で笑い、「何が希望を託された、だ! そんな下らんものこの場で貴様ごと叩っ斬ってくれるわ!」と、角から電撃を繰り出す。
葛城は転がって電撃を回避。ビートロンも続けて、「あきらめろ、希望を抱くだけ無駄なことよ!」とエネルギー弾を繰り出すが、葛城はレイピアで打ち消した。
「リーフストーム!」
「「うぉぉぉぉうっ!?」」
念力か、唐突に吹き始めた風によるものか? 葛城が左手をかざして叫べば、花びらや木の葉が宙に舞い、ビートロンとスタグロンを鋭い刃のようにズタズタに切り裂く。
「はあああああああァァァァッ!!」
「なッ!?」
スタグロンに向かって突っ走ると、葛城は連続で突きを繰り出し、急所をピンポイントで狙ってフィニッシュ。それだけでは終わらず、ステップを踏むような鮮やかな動作で、優雅に、だが鋭利に激しく――スタグロンを連続で斬っていく。
「――葛城家秘伝・五月雨の舞!!」
「う、うあっ、うぐ……グアアアアアアアアアアアアアァーーーーッ!!」
葛城の華麗な剣さばきに魅了され、ねじ伏せられたスタグロンは火花を撒き散らして、無惨にも爆発し塵芥となった。
腕を広げて剣を構えていた葛城は、怒りに震えるビートロンに視線を向けて、「次はお前だ」と言いたげに目付きを鋭くして剣を向けた。
「お、おのれ……! よくも俺の相棒を! 許さぁぁーんッ!」
怒号を上げるビートロンは、葛城めがけて走り大剣を振り下ろす。だが葛城は最小限の動きで眉ひとつ動かさず、大剣を避けた。
「なぜだかわからんが無性に突っ込まねばならぬ気がするッ! あれもそれも貴様が相棒を殺したせいだああ――ッ!!」
攻撃をかわされたビートロンの怒りはすぐには治まらず、地面に大剣を叩き付けて衝撃波を起こす。
「行きます! ……ヴァイオレントブロッサム!!」
衝撃波をジャンプでかわすと、葛城は空中でレイピアをクルクルと振り回し、そのまま地面へ着地……すると同時にレイピアを突き立てて、地中から無数の茨を出現させてビートロンを突き上げた。
「ぐわああああッ」
「えい! やぁーッ!」
跳躍し、バレーボールでアタックをする要領で葛城はビートロンを地べたへ叩き落とし激突させる。地面には窪みが出来て、ビートロンはその中でうめいている。彼が起き上がると、目の前には鬼めいた険しい形相で佇む葛城の姿があった。
「……終わりにしましょう。地獄でスタグロンが待っていますよ」
「か……葛城の、小娘ぇっ……!」
葛城はビートロンを倒すと、はっきりと宣言し、みたびレイピアを地面に突き立て――己がパートナーであるクリスタローズを召喚。周囲にバラの花びらを大量に撒き散らしビートロンを幻惑する。
「な……なにい? なんなのだこれは!」
「わたくしの必殺奥義、今一度その身に受けなさい!」
突きと斬撃が咲き乱れ、空中から突き下ろしてビートロンをぶっ飛ばす。更に研ぎ澄まされた突きがビートロンを一閃――その重厚なボディをいともたやすく貫いた。
「剣劇百花繚乱!!」
「ま、まさか……こんなはずでは! か……甲斐崎様ぁ〜〜〜〜ッ!!」
ビートロンの体が血液が、火花が激しく飛び散る。そして彼も――ライオグランデやスタグロンのあとを追った。
「……ビートロン、スタグロン。あなた方は敵ながらあっぱれだった。健さん、待っててください。必ず追い付きます!」
城へ続く階段を守る親衛隊は倒れた。葛城は、先へ進んだ健や不破、市村を追って走り出した。