EPISODE327:獅子王vs電光石火の暴れ馬!
古城の内部は薄暗い。石造りの床や壁のところどころから機械が露出しており、暗さと相まってどことなく不気味だ。しかも外では雷鳴が轟き、甲斐崎への挑戦者である健とアルヴィーにプレッシャーを与えんとしていた。だが彼らはそう簡単には引き下がらないだろう。理由は言うまでもない、勝利をつかみとり地上に平和を取り戻すまでは――絶対に逃げたりなどしないからだ。
「どこだ甲斐崎――どこにいるんだッ!」
通路の曲がり角を曲がって、階段を見つけて上がろうとしたそのとき、唸り声がした。破けた絨毯の隙間や、壁や床の亀裂からクリーパーやグラスケルトンたちが姿を現したのだ。
「お前らみたいなザコに構ってる暇はないッ!」
階段や通路の向こう側から迫り来るザコを、健は剣や拳、キックで蹴散らし階段から叩き落とす。アルヴィーは口から青い炎や冷たく輝く吹雪を吐き出し、ザコを焼き尽くしあるいは凍結・粉砕させた。しかしザコはまだまだ沸いてくる。
「数が多すぎる。キリがない。……あっ!」
「シャンデリアがどうかしたかの? ……そうか! あれだ、あれを下に落とそう!」
どうすればいいか、敵を警戒しながら健は周りを見渡す。立派なシャンデリアが天井からぶら下がっていた。――二人が考え付いたことは同じだった。これを下の階に落とせば敵を一気に片付けられるはずだ。
「そうと決まればッ! ええええェいッ!」
健は壁を蹴り、三角に軌跡を描いてジャンプしながらシャンデリアの根元へ飛び乗った。やることはひとつ。これを叩いて叩いて叩きまくり、下に落とす!
「そりゃっ! うりゃっ! セイヤアアアアァァァッ!!」
剣で激しく斬りつけ、叩きつけ、シャンデリアを切断。下の階へシャンデリアを落とした。気付いて逃げ出そうとしたクリーパーやグラスケルトンたちだったがすでに遅く、勢いよく落下してきたシャンデリアに押し潰されお陀仏となった。
「よーし! 行くぞっ!」
階段を駆け上がり、健は城の中をどんどん突き進んでいく。もう行く手を阻むものは出ないだろう……そう思った矢先、曲がり角からまた敵が現れた。グラスケルトンの群れだ、サスマタと盾、剣と盾、斧やハンマーで武装している。数は全部で五〜八体ほどだ。
出来れば余力を残しておきたいところだが、ここはケチらず全力で相手をブッ飛ばしたほうがよさそうだ。健は深く息を吸い込むと、回転斬りを放った。
「僕たちいますっごく気が立ってるんだ! やってやってやりまくってやるぜぇぇッ!!」
武装から見ればわかるが今戦っているグラスケルトンたちは手練れのようで、普通のものより手強い。
健の攻撃がどこから飛んでくるか予測してものの見事に攻撃を防ぎ、一体を相手しているうちにもう一体が背後から襲いかかってくる。長引けばどんどん不利になる。気を抜けばリンチされて一巻の終わりだ。この場合はどうするか? それは――。
「……吹っ飛ばせえええっ!」
まずは風のオーブをセットし、真空波を伴う回転斬りを放ち周りのグラスケルトンを薙ぎ払う。吹っ飛ばされたうちの一体は高価そうな年季の入ったツボに叩きつけられ、白目をむいてこの世を去った。
「どおおおりゃっ!」
「グラァァァァッ!!」
次は一体ずつ確実に撃破していく。攻撃が弾かれるなら背後をとって斬りつけるまで。弾かれても、ある程度腕力があれば逆に押し返して叩き潰せる。
でもどうせなら確実に相手を倒したい。そこで健がとった方法は、剣に氷のオーブの力を付加し、相手を凍らせて動きを止めてから攻めることだ。これなら相手に攻撃を防がれないし、こっちのペースに持ち込むことが出来る。グラスケルトンたちを氷の彫刻に変えてから、健は剣を振るい、コブシや足を唸らせ、次から次にグラスケルトンたちを打ち砕いていく。これで、残るは一体だけとなった。
「グラッ!」
サスマタを振りかざして最後の一体が襲いかかる。健はバック宙でかわし、切り払って反撃。怯んだ隙にサスマタごと叩っ斬り、グラスケルトンを消し飛ばした。
これで烏合の衆は片付いた。もうそろそろ甲斐崎に近付いてきたはず。しかし、サーチャーを見ると大きな反応は出ているもののまだまだ遠いようだ。
にも関わらず、この城の内部には邪悪で強大な気が充満している――。健とアルヴィーは警戒しながら、先へと進んでいく。
「みんな今どうしてるんだろ。大丈夫かな」
ふと、健は自分を先に行かせてくれた仲間たちのことを気にかける。ここに来るまでに出会った敵はいずれも手強そうだった。もしかすると今頃苦戦を強いられて――?
「心配なのか?」
「……いや、なにを考えてるんだ僕は。あのきっと三人なら大丈夫だ。後ろを振り返っちゃいけない」
「そうだ、あやつらなら大丈夫だ。いらぬ心配だったの」
「まあね! 行こう!」
仲間を信じて、健は城内を進む。決戦へ赴かんとしている彼の横顔はたいへん頼もしいものだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ガオオオオッ!」
「でぇいああああ――――っ!!」
オーラをまとうライオグランデが繰り出してきた攻撃は、これまで以上に激しく重いものだった。加速やジャンプを駆使して、不破はライオグランデの攻撃をかわしていく。
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」
不破は突きの五月雨を繰り出す。しかしライオグランデすべて片手で遮り、更にはすばやい動きで背後に回り込んだ。
「後ろががら空きだぞ!」
「!?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしても既に遅かった。ハンマーで殴られた上に、エルボーを食らって地面に叩きつけられた。一瞬だけ横たわるも、すぐに起き上がって身構える。
「いい加減に覚えろ。お前の実力では俺には勝てん。いかに努力をしようと差は歴然。お前と俺との差を埋めることは、かなわぬ夢だ」
「な……なにぃ……! へ、へへへ……ははは、ははははははっ!!」
悔しがる……かに見えたが、不破は薄ら笑いを浮かべた。そこから大笑いへ繋げ、ライオグランデの眉をぴくつかせる。
「何がおかしい!?」
「オレがお前に勝つのは不可能なことじゃねえ。たった今ここで不可能を可能にしてやる! それまで何度でも立ち上がってみせる!」
不遜な態度で挑発するように、不破は力強い口調でライオグランデに勝利を宣告する。
「世迷言を! おとなしく負けを認めて降伏しろ。そうすれば命だけは助けてやる」
「嫌だと言ったら!?」
「ならば死ね!」
ライオグランデは灼熱の炎を吐き出して不破を攻撃。不破は炎を回避し、空高く飛び上がりランスを激しく振り回しながらダイブ。
ライオグランデに命中するもあまり通用してはいなかった。笑ってから、ライオグランデはハンマーを地面に叩きつけて衝撃波を走らせる。
連続で放たれた衝撃波をジャンプでかわして、不破はライオグランデに反撃。一発だけでは通じないのはわかっている。よって、突いて斬って叩いて突いて斬って叩いて突いて斬って叩いて突いて斬って叩いて突いて斬って叩いて突いて斬って叩いて突いて斬って叩いて突いて斬って叩いて突いて斬って叩いて突いて斬って叩いて突いて斬って叩いて突いて斬って叩いて突いて斬って叩く!
「ハァッ!」
「う!」
連続攻撃を加えたもののライオグランデはまだピンピンしている。ハンマーが炸裂し、不破は吹っ飛び地面に落下した。体勢を立て直して、不破はあることに感付く。一撃入れるたびに違う部位を狙っていてはダメージが分散してしまう。分散させるよりは――!
「りゃあああああッ!」
「ふん!」
不破は真正面からライオグランデに突っ込み、足を狙って攻撃。ライオグランデの攻撃を受け、体が傷付こうが、血ヘドを吐こうがお構い無しだ。
「どこを狙っている?」
「うるせえ!」
やはりタフだ。しかし一ヶ所へ集中攻撃を加えれば……? 不破は何度もライオグランデの右足を狙って突きや斬撃を浴びせた。
「笑止な。敗北を前に焦り出したというわけか」
「どうかなッ!」
会心の一撃! ライオグランデの右足に雷をまとったランスが炸裂した。ライオグランデは笑ったが、じきに右足から激痛とともに紫色の血しぶきと火花が散り、苦悶の表情を浮かべた。
「くっ……腰に力が入らん! これが貴様の狙いだったのか!」
「ダメージを分散させちまうよりは、一ヶ所へ集中させたほうが効果的だろうよ!」
「一本取られたわあッ!」
右足に負った傷にもめげずライオグランデはハンマーを携えて、助走をつけて不破へ接近する。しかし途中で傷が疼き、悶え苦しみはじめた。
勝機が見えた! ライオグランデを相手に散々手こずった不破がこの勝機を見逃すはずはない。
「うおおおおーっ! スパークルコンバイン!!」
「ぬうううおおおおおお!!」
イクスランサーを振り上げ電撃を帯びた衝撃波を浴びせ、ライオグランデの動きを止める。何度も突きと斬撃を浴びせ、ライオグランデの巨体を突き飛ばす!
「こいつでフィナーレだッ! サンダーストライク!」
更に不破は、イクスランサーの穂先に力を溜めて、不破は一気に突進。サンダーストライクでライオグランデを貫いた。ライオグランデの腹には風穴が開き、金色のオーラは消えていく。百獣の王の命も間もなく、この場で尽きようとしていた。
「むううううっ。こ……これが……人間の底力……! 強い、強すぎるぞをおおおおッ!」
人間にしては上出来。その程度の認識だったが、最期のときになってライオグランデは確信した。不破ライという男は一流の戦士であり、ただの人間であり同時に剛の者であると。そして、ヤツは爆発して塵に帰った。不破はただ、イクスランサーを構えて背を向けたまま佇むのみ。その姿はまことにいぶし銀であった。
「……お前もな、ライオン野郎」
一言だけ相手を認めた言葉を残し、不破もまた甲斐崎の城を目指して走り始めた。