EPISODE326:勇者と龍は
市村と葛城の二人は、甲斐崎の親衛隊である白い鎧のビートロン、黒い鎧のスタグロンと戦っていた。
二人にとって、ビートロンとスタグロンのコンビネーション戦法は目を見張るものがあり、彼らは剣や槍を用いて巧みな攻撃を繰り出し市村と葛城を追い詰めんとする。
「食らえ!」
「それは! こっちのセリフや!!」
ビートロンが角からエネルギー弾を撃ち出す。葛城が盾で防御し、その間に市村はビートロンへビームを撃ち込む。しかしそちらも盾で防がれた上、接近してきたスタグロンに槍を叩きつけられたじろいでしまう。
「そりゃぁっ!」
「うわあっ!?」
次にスタグロンは葛城を槍で斬りつけた。肩が裂かれたが軽傷だし、服が破られた程度である。葛城は転がってスタグロンの攻撃をかわし、突きをピンポイントに命中させスタグロンにダメージを与える。市村もそれに便乗して追撃を加えたが、途中でビートロンが乱入しスタグロンをかばおうと盾でビームを防いだ。
「うりゃあ!」
「えいっ! たあっ!」
一体ずつ相手にしようと考えた葛城は、ビートロンを誘き寄せるとヒットアンドアウェイでビートロンと剣を交える。
葛城の考えを読み取った市村はニッと口の端を吊り上げ、銃で撃ったり叩いたりしながらスタグロンの相手を引き受ける。リーチはスタグロンのほうが長いし、ヤツには角からの電撃もある。しかし射程距離ならばこちらのほうが上だ。中距離から撃ったり、接近して銃で叩くかゼロ距離から撃ちまくるのが好ましいが、相手から離れて遠距離攻撃を仕掛けるのも効果的だろう。
市村はスタグロンの突きをかわして一発入れると、バック宙を繰り返しながら遠くへ離れてビームを連射。一発、二発、いや五発ほど命中したものの、それ以降はスタグロンが槍を風車のごとく激しい勢いで振り回したために反射されてしまいダメージを与えることはかなわなかった。
「スタグロン!」
「わっ!」
市村を狙って、ビートロンの角からエネルギー弾が撃ち出された。市村はエネルギー弾をかわし、ビートロンの関節を撃って怯ませる。葛城が少しでも有利に戦えるようにするための配慮だ。
「き、貴様ァ! てりゃぁ!」
「おらぁ!!」
槍で叩きつけてきたスタグロンの攻撃を銃で弾いて怯ませ、胸から腹部にかけての部位に何発も撃ち込む。たじろぎはしたものの、分厚い装甲のためか大してダメージは与えられていない。
「効かんな!」
「な、なんやて……グッ!?」
市村を刺すと、スタグロンは放物線を描いて地面に叩きつける。そのショックを受け、市村は体がスタンして動けない。
「ちぇーい!」
「えい! ヤァッ! とぉーっ!」
レイピアを握る葛城は、力で上回るビートロンにもめげず、大剣による攻撃をかわして突きや斬りで反撃。しかし盾で防がれ、大剣で反撃されて宙を舞う。更にビートロンは角からエネルギー弾を放って葛城を攻撃。葛城は地面へ打ち付けられたが服以外は無傷だ。どこが破れていたかは――とても言えない。
「愚か者どもめ! その程度で我らにかなうと思っていたのか!」
「実力の差は明白。おとなしく散れぃ」
余裕をこいたか、ビートロンとスタグロンは苦戦中の葛城と市村を鼻で笑った。心外そうに舌打ちした市村は、銃で彼らの関節など急所を狙い撃ち少しでも多くダメージを与えた。
「貴様らまだ楯突くのか!」
「いちびんなや……! 人間様をなめくさって、お前ら何様のつもりや。カイザーなんちゃらの腰ぎんちゃくにウダウダ言われる筋合いはあらへん! 早ようそこどけ!」
「ここであとに引くわけにはいきませんの。あなたたちを倒して道を開くまで、わたくしたちは倒れない!」
「ぬかせ虫ケラ。抵抗を続けたところでお前たちには何も出来はしない!」
ここで倒れるような二人ではなく、凛々しい顔で道を切り開くまで戦い続けると啖呵を切った。しかし、行く手を阻むビートロンとスタグロンは手強くコンビネーションもばっちりである。それでも市村と葛城は戦う。勝利するまで生きて、戦いを続ける。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方不破はライオグランデを相手に粘りを見せ、人間の底力を見せつけんばかりにランスを叩きつけ、あるいは突きつけていた。ところが、剛の者であるライオグランデは一歩も譲ろうとはしない。
衝撃波を伴う身が竦み上がるほどの咆哮を上げ、または灼熱の炎を吐き出し、ハンマーで大地を揺るがし、重い打撃で不破を何度も吹き飛ばし――。強い、強すぎる。最も恐ろしいのは、これでも彼はカイザークロノスの親衛隊でしかないという事実だ。
「どうした、スタミナ切れか。貴様の言う人間の底力とやらはしょせんその程度か」
「……うりゃあああああああァァッ!!」
不破は気合いを溜めて急接近し、一回転してライオグランデへ轟く稲妻をまとった必殺の一撃を叩き込む。
「ギガボルトブレイク!!」
「ぬわァァッ! ぐぬぅ……」
ライオグランデはギガボルトブレイクを一度は片手で受け止めるも、パワーが強すぎたか押さえきれずに一歩たじろいだ。するとニヤリと笑った。
「まさか一撃入れられようとはな! だがそれはまぐれでしかない。獅子の前にうちひしがれよ若造オオオオぉ――――ッ!!」
「うわああああああああああああ!?」
ライオグランデは力を溜めてからけたたましい雄叫びを上げ、金色のオーラを立たせると全方位を衝撃波で攻撃。不破を宙に舞わすと、地面に叩きつけスタンさせた。
「な……なんだったんだ……今のは……?」
「はっはっはっはっは! この俺に金色のオーラを立ち上らせたこと、それについては賞賛に値する。しかしそれは同時に、お前の命運も今度こそ尽きるということでもあるのだ」
「!?」
金色の凄まじいオーラを発しながらライオグランデは語る。起き上がった不破を前にライオグランデは両手でハンマーを握り、目を閉じて深呼吸。カッと青く鋭い目を開くと不破に向かって猛ダッシュをはじめた。
「さあ覚悟するんだなッ!!」
「っ! うおおおおおーーッ!!」
ライオグランデが振るうハンマーが地面を揺るがす。不破はバック宙で回避して加速すると、雄叫びを上げて稲妻をまとったランスをライオグランデへと叩きつけんとした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
仲間たちが行く手を阻む強敵たちの相手を相手を一手に引き受けてくれているなか、健とアルヴィーは必死の思いで甲斐崎の城へ直通する階段を駆け上っていた。ひたすらに上り続け、頑丈な足も棒になろうとしていたところでようやく――城門についた。
「や、やっと着いた……ここに甲斐崎がいるんだよな……」
「ああ。ヤツ特有の禍々しい気配をイヤというほど感じる。ここまで来れば決戦は近い。本丸を叩くまでやられるでないぞ」
「わかってるさ!」
「では……参ろうか!」
遠くから見ても巨大に見えていた甲斐崎の城は、近くで見ればますます大きく邪悪に感じられる。城の全貌を見上げていた健は頼もしい顔でアルヴィーに振り向き、大扉へ歩み寄る。門の大扉は音を立ててゆっくりと開き、緊迫感から健とアルヴィーは息を殺して自分を落ち着かせる。
「門が開いた。甲斐崎のほうからわざわざ開けてくれたというのか……」
「むしろ好都合だ。健、中へ入ろう」
「オッケー!」
健とアルヴィーは、甲斐崎が待つ邪悪な古城の中へと足を踏み入れていった。