EPISODE325:人間の底力
スコルペンド・ミレニアムの毒針は狙った獲物を逃さない。一度や二度に限らず、健が身をかわすたび執拗に襲いかかった。この猛襲を掻い潜り健は炎の剣を叩きつけて反撃。灼熱の炎に当てられて、スコルペンド・ミレニアムは奇声を上げて悶える。
「シュワシュワシュワシュワシュワ!!」
「ッ!」
スコルペンド・ミレニアムはハサミを叩きつけて反撃。かわして、健はまずはハサミから切り落とそうと切りかかる。アルヴィーも口から青い炎を吐いて援護し、スコルペンド・ミレニアムを焼いた。健はもう一度ハサミを切り落とそうと切ってかかる、しかしスコルペンドはもう片方のハサミで健を掴み上げて身動きを封じた。
「シュワシュワシュワシュワ!!」
「ッ!? うおーっ! 離せぇッ!」
まるでギロチンで責められているような苦痛だ。振りほどこうともがいてみる健だが眼前に尻尾の毒針が迫ってきている――。
「健ぅッ!」
「シュワ!?」
そのときアルヴィーが巨体を活かしてスコルペンド・ミレニアムに体当たりし吹き飛ばす。その弾みで健はハサミから解放され華麗に着地した。
「まったく世話の焼ける!」
「ご、ごめん」
「慎重に行きたいところだがここは一気に行こうぞ。凍らせて動きを止めるか……」
「土のオーブ、あるいは光のオーブの力で粉砕するか、でしょ!」
「そうだ。お主わかっておるなぁ!」
健は土のオーブをセットして、力を溜めてから地面に剣を突き刺す。地中から大爆発が起きて岩盤とともにスコルペンド・ミレニアムの巨体を宙へ打ち上げ、そこから地面へ叩きつける。これで敵はひっくり返って動けなくなった。あとは起き上がるまでに攻撃をありったけ打ち込むだけ。
「今だ!」
「うおおおおーっ! アースフューリー!!」
飛び上がってから地面に剣を叩きつけて地中からいくつもの岩を出して突き上げ、宙へ舞うスコルペンド・ミレニアムを岩山ごとぶったぎる! この荒業こそアースフューリーだ。二発も必殺技を受けたスコルペンド・ミレニアムはダメージに耐えきれれなくなり、「シュワシュワアアアアァァ!!」と断末魔の叫びを上げて大爆発。健の勇敢さと強い意志、不屈の闘志の前に塵となって消えた。
「急ごう、アルヴィー!」
「うむ!」
行く手を阻むものはいなくなった。健とアルヴィーは気を引き締め、甲斐崎の城へ続く長い階段を駆け上がっていく。
その頃、不破はライオグランデと激しくぶつかり合っていた。圧倒的なパワーに加えスピードもかなりのもの。スピードならばまだしもパワーは完全にライオグランデのほうが上だ。
「ガオッ!」
「わっ……と!」
ライオグランデが吐き出した灼熱のファイアブレスを避けて、不破は壁に足を着けバネのようにして、ランスを前方に構えライオグランデへ突撃。穂先には稲妻を帯びていた。しかしライオグランデはそれを指一本で受け止める。
「俺もなめられたものだな、若造が」
「クッ!」
「食らえ!」
ライオグランデは回し蹴りを不破の腹に叩き込みたじろがせる。更にハンマーを地面に叩きつけ、衝撃波で不破を吹っ飛ばし柱へ衝突させた。何本もの柱をぶち抜いた末に壁へ強く打ち付けられ、苦痛に歪んだ顔で不破は血ヘドを吐いた。
「く、くそ……なんてバカ力なんだ」
「ガオオオォォッ!!」
ライオグランデは衝撃波を伴う雄叫びを上げて不破にダメージを与えると同時に怯ませ、猛スピードで接近してハンマーを叩きつける。不破を横たわらせると、地へ沈めようと頭を踏みつけた。
「う……ぐああああッ」
「あれほど打撃を与えてもまだ倒れぬとは、しぶといヤツよ。我らに逆らうことがいかに愚かであるか、その身をもって味わうがいい」
ライオグランデは不破の頭を何度も踏みつけ、地へ沈めていく。やがてうめき声すら上げなくなったことを確認すると、鼻を鳴らしてライオグランデは踵を返す。
――ライ……――
不破の脳裏に優しい女性の声が響く。包み込むような慈愛と心地よさ。不破ライには聞き覚えがあり、身に覚えもあった。
「よ……美枝さん……? オレ、死んだのか……?」
「違うわ。あなたの意識は今、生と死のはざまをさまよっているの」
そう、倉田美枝――不破のかつての恋人だ。髪は青みがかった黒のウェーブヘアーで、均整のとれた体つき。彼女の魂が傷付き、倒れた不破に語りかけてきたのだ。そこは真っ黒な空間であり、美枝は天に立ち、不破は地上に当たる位置にうつむいていた。
「生と死のはざまを? そうだ、ライオグランデに……」
「ライ、一瞬こっちに来ようと思わなかった?」
指摘され不破は口をつぐむ。
「ダメよ。戦うんでしょ、カイザークロノスを倒して平和をつかみとるまで」
「! 確かに……でもいいのか? オレが生きて戦いを続ける道を選べば、君は二度とオレとは……」
「それでもいいの。本当はわかってるんでしょ、私があなたの心の中で生き続けてること」
「美枝さん……」
戦わなければ地上に平和は訪れない。でも、せっかく魂だけでも再会できたというのに……と、複雑そうに不破は目を背ける。それで愛しい人が喜ぶのだろうか、と。しかし愛しき美枝は、にっこりと微笑んだ。無垢な天使のようだった。
「目を覚まして。私、ライに会うときは……ライがおじいちゃんになってからでもいいから」
「……わかったよ、美枝さん」
魂と魂の交信が終わり、不破は開眼し体をたぎらせながら立ち上がった。不破が息を吹き返したことを察したライオグランデは、怪訝な顔をして「む?」
「貴様、まだ俺に戦いを挑むつもりか!」
「当たり前だ! オレは、オレたちは、お前らに勝つ! 勝って平和を取り戻すまで負けるわけにはいかねえんだよ!!」
不破は舌打ちするライオグランデに突撃し、稲妻を帯びた突きを一発繰り出す。しかしライオグランデは片手で遮り、不破を宙に放り投げるとハンマーを叩きつけホームランの要領で飛ばした。
しかし不破は柱に足を着けて切り返し、勢いを利用して稲妻を帯びた槍を突き出して突進する。目を見開いたライオグランデは片手で受け止め、押し返そうとする。
「勝てると思っているのか!? その程度でこのライオグランデに勝とうなど笑止!」
「ただの人間なめんなよッ!」
勢いは止まるどころか激しさを増していき、ライオグランデは押しきられて石畳が削れるほどにたじろいだ。
「俺をここまでたじろがせるとは、やはり侮れんな……。だが! ここから先へは一歩も通さんぞ!!」
「じゃあ力ずくでも通してもらうぜ! タテガミ野郎ッ!」
ライオグランデは灼熱の炎を吐くが、不破は加速しながら回避。ライオグランデとハイスピードのぶつかり合いを繰り広げ、火花を散らす。
「よかろうッ! 人間の力がどこまで通じるか、このライオグランデが見定めてやるッ」
ライオグランデは衝撃波を伴う雄叫びを上げ、不破の身をすくませた。しかし不破はショックを強靭な精神力ではねのけ、ランスを前方に構えて力を溜めた。そして一気に解き放ちライオグランデへ突進する。
「サンダーストライク!!」
「むんッ!」
連続でサンダーストライクを繰り出す不破だが、ライオグランデはひらりとかわしていく。
「当たれえええええぇッ!!」
四回連続でかわされた。しかし今度は、外さない! 不破はライオグランデへ最後の一発をかまそうとする。しかしライオグランデは指先ひとつでサンダーストライクを受け止め、ハンマーを振って強風を起こしそこから地面に叩きつけて衝撃波で不破を宙へ吹き飛ばした。
「ハアッハッハッ! そんなものか若造ッ!」
「負けるかよおっ!」
不破は空中で体勢を立て直すと、斜め上から狙いを定め急降下。稲妻と摩擦熱をまといライオグランデへ突撃する。
「フォーリングサンダー!!」
「ぬううううッ」
ライオグランデにようやく大打撃が入った。しかしうめいていたライオグランデは唐突に笑い出す。
「なにい!?」
「その程度かァ!!」
ライオグランデは左手で正拳突きを繰り出し、不破を勢い良く吹っ飛ばし壁に叩きつけた。不破は頭から血を流しうなだれる。が、歯を食い縛って身構えた。
「シェイドではなく同じ戦士として言わせてもらう。無駄なあがきはやめろ、お前は自分からプライドに傷をつけているのだぞ」
「嫌だね……!」
「なにぃ。無駄だと言っているのがわからんのか」
「てめえで勝手に決めつけんじゃねえよ!」
不破が忠告してきたライオグランデへ叫ぶ。
「オレは今やってることが無駄だとは思わねえ。みんな仲間を信じて、平和のために戦ってるからだ。オレも含めてな」
「ほう……」
「笑いたきゃ笑えよ。けどな、お前らに勝つまではオレたちは絶対にあきらめないからな! あきらめが肝心とは言うが今はそのときじゃない、そんだけだッ!!」
「若造があ!!」
ライオグランデは地面を揺るがし衝撃波を走らせる。不破はジャンプしてかわし、きりもみ回転しながらライオグランデへ突撃した。弾かれたがあきらめず、電撃で牽制しながら接近戦に持ち込んだ。
「ライオグランデ! 人間の底力ってもんを見せてやるぜ!!」
不破の全身に流れる正義の血潮は今、限界まで燃えたぎらんとしていた。
現在、スーパーハイテンションです。
誰か俺を……誰か俺を止めてくれ~!(笑)