EPISODE324:激闘・ボスのところへたどり着け!
どこまでも続く荒涼とした大地。あちこちに散らばる異形の骸。切り立った崖。稲光が走る薄暗い空。そこに生命の息吹は感じられなかった。
「ここって死後の世界みたいなもんなのか? いや、そんな生やさしいもんじゃない。まるで魔界かなんかだ」
「どちらも似たようなものでは……」
闇に満ちたネザーワールドを歩いている中で、不破と葛城は不安を煽るような言葉を漏らす。健と市村は警戒して身構えており、前者は炎のオーブを松明がわりにして辺りを照らしている。
唐突に地面から手が出て、クリーパーたちが地面から這い上がる。防衛本能・闘争本能からかシェイドとしての使命からか、彼らの行く手を阻むつもりだ。
「出たなッ!」
「容赦はせん!」
健は炎をまとった長剣で回転斬りを放ちクリーパーたちを薙ぎ払う。市村は銃を連射しクリーパーたちを一体ずつ確実に撃破する。
「こいつらに構っている暇はない、突っ切るぞ!」
「喜んで!」
アルヴィーは全員に呼びかけ、白い龍に姿を変えて全員を乗せると突進。シェイドの群れを突っ切り、全員が背から降り立った際には背後で一斉に爆散した。
「みんな振り返っちゃダメだ! とにかく前に進もう!」
「おうよ!」
「ここまで来たらとことん付き合うしかあらへんな!」
「わたくしたち、どこまでもあなたについていく所存です!」
前進あるのみ! 甲斐崎のところに辿り着くまで一同はひたすら走り続ける。彼らは最後の一人になるまで戦うつもりだ。誰にも止めることは出来ないだろう。
「見えた……見えたぞ!」
「あそこか!?」
やがて一同が目にしたもの、それは鋭くどす黒い岩山の中にそびえ立つ――機械仕掛けの古城だ。古城に至るまでは長い階段が続いている。地面も土から石造り、或いは鋼鉄といった人工的なものに変わりつつあった。これ、すなわち、甲斐崎の息がかかっているということ。
「ああ。私たちの推測が正しいのなら、間違いない。ここが甲斐崎たちの根城だ」
「よーし、待ってろよ甲斐崎。総攻撃なんか絶対に止めてやるからな!」
「行こう!」と、健は他のメンバーを激励して前進を続ける。次々に現れるグラスケルトンやクリーパーといった最下級のシェイドたちを蹴散らし、階段を上る。上っているうち広場へ出た。四角形で柱がいくつか点在しており、足下には大きな悪魔の顔のような禍々しい紋様が描かれている――。
「サーチャーが強い反応を示している。なにかとんでもねえパワーを感じられ……はッ!」
不破を含め、全員のシェイドサーチャーが強い反応を示した。刹那、何者かが地面に強い衝撃を加え震撼させた。一同は宙に吹っ飛ばされるも体勢を整え、見事に着地する。
大地を揺るがしたのは――筋骨隆々としていて大柄なライオンのシェイドだ。隻眼で片目に眼帯をつけており、古代ローマの闘士を彷彿させる鎧をつけている。黄金色に輝くその姿はここ、ネザーワールドの闇の中では一際目立つ。
――ひと目でわかった。あのライオンは手練れだ。ヤツから感じ取れる『気』はその辺にいるシェイドたちとはわけが違う。恐らく甲斐崎以外のシェイドの中でも一、二を争う……剛の者だ。
「ハッハハハハ! 人間にしては上出来だ! まさかここまで来ようとはな。だがここから先へはこのライオグランデが通さぬ」
ライオグランデと名乗ったライオンの上級シェイドはその場から微動だにせず、ハンマーを片手に堂々と佇んでいる。
「だったら力ずくでも通らせてもらうぜ! うおりゃあああ!」
口の右端を吊り上げ、不破は加速してライオグランデを突き下ろす。市村は彼がジャンプしたのを見計らってチャージショットを放つ。
しかしライオグランデは同時に放たれた二つの攻撃を両手で同時に遮った。
「なにいッ!!」
「こんな子供だましが通じると思うな! 俺は黄金の獅子王、ライオグランデだ!!」
驚く不破と市村を、ライオグランデは口から灼熱の炎を吐き出して吹っ飛ばし壁や地面に叩きつける。とくに市村は石畳がえぐれるほどの力で飛ばされひどくやられていた。
「そこをどけッ!」
「はあああああっ!」
「フンッ! ドリャアアッ!!」
「「うわあああああああああああああぁぁぁぁ!?」」
続けてライオグランデは果敢に立ち向かってきた健と葛城にハンマーを叩きつけ、突き飛ばす。両者、後頭部から地面に衝突するも立ち上がり、ライオグランデを睨んだ。
「つ、強い……」
「わたくしたちの攻撃をほとんど遮るなんて……!」
負傷した健たちを見て、ライオグランデは不敵に笑う。パワーはもちろん健たちの攻撃に即座に対応できるあたりスピードもありそうだ。それにタフネスも並大抵ではないと見られる。
本拠地へ通じる道へ彼のような剛の者を配置したことから、甲斐崎……カイザークロノスが本気であることは想像に難くない。
「もう降参か? 立て! 勝負はまだついてはおらぬぞ!」
「……うおおおおォォッ! サンダーストライク!」
不破は余裕をこいているライオグランデへサンダーストライクを繰り出して突貫。ライオグランデは唸り声を上げながら片手でサンダーストライクを受け止めた。
「こいつはオレに任せろ! お前らは先に行け!」
「かたじけない……」
「不破さん、ありがとうございます!」
「オレはどうなったっていい。勝利を掴むまではあきらめんな、最後の一人になっても戦い続けろ! それがエスパーってもんだろ!!」
「はい!」
不破の思いを聞き届け、一同は前進を再開する。計らずも敵を通してしまったライオグランデは、「一対一で戦おうというのだな……良かろう! 貴様だけでも葬ってみせよう!」
不破にライオグランデとの戦いを任せ、健たちは階段を駆け上がって目の前に見える古城を目指す。また広場へと躍り出たところで、一同を電撃が襲う。とっさに健が盾でガードしてやり過ごしたが、彼らの前に新手のシェイドが現れる。
大剣と盾で武装した白いカブトムシのようなシェイドと、槍を手にした黒いクワガタムシのようなシェイドの二人組だ。
「ら、ライオンの次はカブトとクワガタか!?」
「社長に逆らうとは愚かな人たちだ! ここから先へは我らが通さぬ!」
「このビートロンと!」
「スタグロンがな!!」
黒い鎧のスタグロンが角――一般のクワガタムシでいうから顎に当たる部位から電撃を放つ。健と葛城は盾で防ぎ市村は避ける、しかし間髪入れずにビートロンは大剣を地面に叩きつけ衝撃波を走らせた。市村は吹っ飛ばされ、他のものはたじろいだ。
「ううッ……」
「健さん、ここはわたくしが」
焦りを覚えた健のそばで葛城が凛とした顔をして名乗り出る。自分の身を投げ出してでも健を前に行かせようとしているのだろう。
「か……葛城さん」
「待ちぃな。あんたが戦うんやったら俺も戦う。女の子一人で戦うには危なすぎるで」
「市村さんまで!」
「心配せんと、早よ行き! 必ず追い付くさかい!」
「でも……」
「わたくしたちのことはいいから先へ行って!」
葛城だけでなく、市村も志を同じとしていた。躊躇した健とアルヴィーだが、二人から後押しされ先へ進む決心をする。当然ビートロンとスタグロンはそれを良しとせず健とアルヴィーの行く手を阻んだ。
「誰が通すものか! ここから先へは命に換えても通さない!!」
「お前たちはここで終わりだッ!」
彼らにも意地がある。しかしビートロンへ何発もビームが撃ち込まれ、無数の刺々しい茨がスタグロンを足下から宙へ突き上げた。
「葛城さん、市村さん!」
「モタモタすんなや、あとから追い付く言うたやろ!」
「さあ早く!」
「二人とも、かたじけない!」
二人に礼を言い健とアルヴィーは階段を駆け上がる。ビートロンとスタグロンはうめき声とともに立ち上がり、武器を振り回して体勢を立て直す。
「き……きさまら……小癪なマネを!」
「あいにくやけどな、こちとら世界の命運かかっとんねん。お前らのしょうもない野望なんかこっちから願い下げや」
「家族や友達はなおさらのこと、健さんのためにも地上をあなたたちに渡すわけにはいかない……。勝利を手にするまでわたくしたちは精一杯抵抗しますッ!!」
勇壮たる口上を述べ葛城と市村はカイザークロノスには屈しないという決意を見せる。苛立つビートロンとスタグロンは武器を打ち鳴らして威圧する。
「ええーーいッ! うるさいヤツらめ!!」
「お前たちの快進撃もここまでだ! 二度と生意気な口を叩けぬよう捻り潰してやるわ!!」
アルヴィーと自分だけになってもめげずに、健は階段を上り続ける。ようやく目の前に見える城が大きくなってきた。ボスのもとに近付いてきたということだ。そして古城へ続く長い階段を臨む広場へと辿り着いた――。
「やった、見えたぞ!」
「甲斐崎のところまでもう少しだ!」
余裕が生まれたか、切羽詰まったこの状況なのに健とアルヴィーに笑顔が見えてきた。周りはどんどん暗く機械がむき出しになり、禍々しい気配も強まっていく。
「……これが甲斐崎の城。近くで見れば見るほど邪悪な気が漂ってくる……」
「健、わかっておると思うがゆっくりしている場合ではないぞ」
「ああ!」
甲斐崎の城を見上げた健は、笑顔から一転して戦々恐々とした様子で唾を飲んで先へ進もうとする。しかしそのとき背後で、地面が爆発して何者かが唸り声を上げて飛び出してきた。
「シュワシュワアアアアァァ!!」
「まずいうしろだッ!」
「ハッ!?」
健は振り向きざまに攻撃を紙一重でかわし、もう一発を盾で防ぐ。相手の全貌が見えた。
錆び付いたような黒い体をした巨大なサソリだ。人間の胴回りほどもあるハサミ、先端に猛毒を秘めたこれまた巨大な尻尾。極めつけに刺々しい甲冑をまとったような外見の人型の上半身がついており、異様な雰囲気とデジャヴを感じさせる。
「またサソリかッ!?」
「私と明雄が契約したときの相手も、お主がエスパーとして最初に戦ったときの相手も……どうも私たちは何かとサソリに縁があるらしい!」
「冗談言ってる場合じゃないって! 早く何とかしないと……!!」
突如姿を現した巨大な黒いサソリのシェイド――スコルペンド・ミレニアムは全身に開いた穴から針を飛ばしたり、尻尾で何度も突いたりして健を襲う。
攻撃の手が緩んだ隙を見計らい健は、スコルペンド・ミレニアムに飛びかかって斬りつけた。弾き飛ばされたが切り返して抵抗し、のけぞらせることに成功する。
「シュワシュワシュワシュワ!!」
「このぉぉぉぉッ!!」
世界の命運は、彼らエスパーに懸かっている。