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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第18章 聖夜の大決戦
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EPISODE322:決戦を前に ~健の場合~


 その翌日――。健はバイト先に「わけあってしばらく来れなくなる」と連絡を入れ、心を落ち着かせると次は実家にいる家族へ連絡を入れた。


「もしもし、母さん?」

「健か? どうしたん?」

「クリスマスやけど、今年は白峯さん家でパーティーすることになったし」

「白峯さん? みゆきちゃんの知り合いのお姉ちゃんやな、この前言うてた」

「そっちにはまたお正月に帰るしな! お姉にもそう言っといて!」

「はーい。みかんとお餅用意して待っとくしな〜、来てや〜」


 ニコニコ笑いながら、母と束の間の楽しい会話を楽しむと、健は愛用の携帯電話をしまう。


「よいのか? さとみ殿や綾子殿に会いに行かなくて」

「これでいいんだ。父さんみたいにもう帰ってこられないかもしれないって言っても母さんや姉さんを悲しませてしまうだけだし。あれ以上の悲しい思いをさせたくはないんだ」

「お兄ちゃんなりにお母さんとお姉さんを気遣ったのね。それも家族愛、ってやつなのかな」

「そう、だね。うん」


 健は今なら生前の父・明雄の気持ちがわかる気がした。アルヴィーや神田から聞いた限りでは、家族にも正体を隠して戦い続けた男だ。いずれ真実を話すつもりだったが家族に危害が及ぶことを恐れて、何も話すことは無かった。

 人は正直なだけで生きていけると思うか? 残念ながらそう都合良くはならない。ときには残酷な事実を告げず、あえて優しい嘘をつかねばならないこともある。たとえばの話だが、事実を告げれば相手を傷付けて絶望の淵へと追い込んでしまいかねないからだ。だから健は父と同じように、母と姉には優しい嘘をつき続けている。


「それでイブまでどうするの?」

「訓練して休んで、訓練して休む。そうする」

「うむ。余力はなるだけ残しておくほうが賢明だからの、お主の言う通りにしよう」

「……その前にー……」


 さあ訓練だ、と、意気込もうとした矢先に健は人差し指を顔の前に、口を細めて呟く。


「その前に?」

「……済ませておきたいことがあるんだけどいいかな?」

「別に構わんぞ?」

「いいよー。わたしたちテキトーに時間潰しとくし」


 健は二人の返答を聞いて大いに喜んだ。そして、たまたま休みだったみゆきに電話をして――。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「埋め合わせ?」

「うん、この前のね!」


 滋賀県・草津にある遊園地、帰帆島レイクパラダイス。元々湖岸沿いにある人工島であり、様々な遊具や資料館などが置いてあった場所を、三年ほど前に遊園地として建て直したものだ。個性豊かなアトラクションに加えてアウトレットもあり、実に賑やか。健はそこにみゆきを連れてきていた。


「でもちょっと早かったんじゃない?」

「いいから、遊んでこうよ!」


 にっこりと笑って呼びかけ、健はみゆきと一緒にレイクパラダイスの中に入る。ビワコオオナマズをモチーフにしたマスコットキャラクターの着ぐるみに見送られ、ジェットコースター、琵琶湖やその周辺の水域に生息している淡水魚などの生き物を展示しているちょっとした水族館、観覧車、コーヒーカップとアトラクションを転々として二人は楽しいひとときを過ごす。やがてアトラクションだけでなく、敷地内にあるアウトレットにも足を踏み入れた。


「こういうの似合うんじゃない?」

「えー、ちょっとフリフリしすぎててなんだかなあ」


 アウトレットで興味深い服屋を見つけ、その中で試着。まずはフリフリで可愛らしい衣装だ。健は親指を上に立てていい笑顔を浮かべている。


「じゃあカジュアルな感じ?」

「あ、これ結構いいかも!」


 カジュアルな感じの服と髪型のほかには、あえて髪を下ろしての清楚な格好、毛糸の帽子とセーター、ミニスカートなどの素朴ながら暖かいコーディネート、などなど――気分はちょっとしたファッションショーのようだった。アウトレットにある店をあちこち回り買い物を済ませた二人は、ほかにいい店がないか歩いて探索する。


「た、健くん……大丈夫? 半分持ってあげてもいいんだよ?」

「へーきへーき! こういうのはっ、男の仕事だから!」


 健の両手には山ほど紙袋が積まれていた。ユフィール、Reene(リーネ)、セルリアン、アルジェント、Sierra(シエラ)、プリムローゼ、|Dominator Companyドミネイター、ヘリックスなど――紙袋にはそれぞれブランド名が記されている。

 みゆきから心配されても健はめげず、両手いっぱいにの紙袋を持って歩く。途中でコケてしまったが、周りにいた人々に助けてもらい事なきを得た。


「……ねえ、なんで今日埋め合わせしようって思ったの?」

「聞きたい?」


 ショッピングも一段落したところで、二人はアウトレット内のベンチで休憩。みゆきは健に何故この帰帆島レイクパラダイスに誘ったのかを訊ねる。


「……テレビで、クリスマスイブにカイザークロノスが総攻撃を始めるって言ってたでしょ。だから僕たちはあいつを止めに行く。これで最後かもしれないだろ? だから今日くらいは君と一緒に遊びたかったんだ」

「健くん……」


 しんみりとした口調で健は理由を語る。彼は温和な顔ではあったが影があり、どこか哀愁を感じさせる。みゆきは無理をしてでも埋め合わせをしてくれた健の慈悲深さに、歯がゆさと感慨深さを感じた。


「大丈夫さ。必ず帰ってくる。だから何も心配しなくていい」

「ホント? 嘘じゃないよね?」

「ホント」

「……よかった」


 みゆきは溜飲が下がる思いで、穏やかに笑うと健に自分から顔を近付け――キスをした。


「…………!!」

「必ず、帰ってきてね」


 突然のキスに戸惑った健へ、みゆきは優しい言葉を強気にかける。自分を落ち着かせて、健もお返しのキスをした。ほんのりと、穏やかな笑顔で。


「ああ、約束する」

「待ってるんだからね……」


 夕方、帰帆島レイクパラダイスのアウトレット、ベンチにて。幼馴染み同士が接吻を交わし、男は決戦の場から必ず帰ってくることを誓った。




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