EPISODE318:ヒュドラの執念
執念で立ち上がるイプシロンゴーレムの左腕から、射出された拡散ミサイルを健はスライド移動ですべてかわす。
目から放たれた破壊光線もスタイリッシュにかわして、一回転してからの兜割りを叩き込んだ。斜めから横へ、そして縦に振り下ろしてフィニッシュ!
イプシロンゴーレムはよろめいた。心臓部であるデミスエンジンは先ほどのハーデスストライクで破壊された。にも関わらず動けるのは――仲間の無念を晴らすという執念が彼を突き動かしていたからだ。
「うおおおおおおおおおおお!!」
「ぬううううううんッ!!」
つばぜり合いに打ち勝つと、健は連続でイプシロンゴーレムを斬り、そして殴り合いへ持ち込む。
イプシロンゴーレムは生きながらにして死んでいる状態だ。健はなおさら容赦はしない。ここで因縁を、ヤツが抱く怒りと憎悪を断ち切るためにも。
「ギガボルトブレイク!!」
「剣劇百花繚乱ッ!!」
不破の稲妻をまとった必殺の一撃が轟き、追撃を加えようと葛城はパートナーである甲冑をまとったバラの女騎士の姿をしたシェイド――クリスタローズを呼び出す。
バラの花びらを周囲に撒き散らしてリザードマンダを幻惑し、連続ですばやく巧みな斬撃と突きを繰り出す。打ち上げて地面に落とし、そして閃光のように鋭く研ぎ澄まされた突きが一閃――リザードマンダを貫いた。紫の血を流し火花を散らして、リザードマンダはうめく。
「こ……ここまでかァァッ!!」
「リザードマンダッ!?」
リザードマンダは爆発し灰塵に帰した。表情を歪め痛々しく、イプシロンゴーレムは彼の名を叫ぶ。
「我々に降伏しろと言ったはずだ!」
「誰がするかいなそんなこと! お前こそみっともないやられ方はしとうないやろ。最期くらい華々しく散ったらどないやねん、なあ!!」
ライアスティングの懐柔を不屈の闘志ではねのけた市村は、鞭や左手のシールドから放たれるビームをかいくぐり、得意の射撃と格闘でライアスティングを追い詰めていく。
「これでしまいじゃ!」
市村はパートナーである全身が武器となった青く機械的な外見のイセエビのシェイド――ブルークラスターを呼び出す。尻尾まで回り込むと市村は、挿し込み口にブロックバスターを挿し込む。
ニヤリと笑い格好付けてからトリガーを引いた途端にブルークラスターの全身にある火器や砲塔が火を吹き、ミサイルやビームが嵐のごとく飛び交う! その名もファイナルフルブラスト。狙いはもちろんライアスティングだ。
反則的だとしか言いようがない弾幕のシャワーがライアスティングに降り注ぎ、全弾命中。「辰巳さん、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁああああァァッ!!」と、断末魔の叫びとともにライアスティングは吹き飛んだ。あれほどの弾薬やビームがぶちこまれたのだ、肉片ひとつ残されてはいない。
「ライアスティングッ!? おのれぇぇぇッ!」
リザードマンダに続いてライアスティングまでも倒されてしまった! 同胞を失うのはもう何度目になるだろうか? 沸き上がる怒りも、哀しみももはや抑えきれない。イプシロンゴーレムは怒りで拳を震わせ、健に殴りかかった。
「堪忍袋の緒が切れたッ! 貴様を叩き潰すまで俺の怒りが治まることはないッ!!」
「ッ!」
互いのパンチが、キックが、相殺しあう。実力は拮抗している。決め手はやはり――技の破壊力。いかに強力な技を出すか、気合いや絆の力で押しきるか……それだけだ!
「……みんな離れろ!」
暗黒の長剣に力を溜めて、必殺の奥義を繰り出さんとする健は葛城たち三人にそう呼び掛ける。三人が十分に離れたことを確認した健は溜め込んだ力を解き放ち、大地に叩きつける!
「ドゥームスデイ・ビッグバン!!」
「なッ……!?」
解き放たれた闇の力は瞬間的に大爆発を起こし、健の周囲を跡形もなく吹き飛ばした。宇宙全体を震わせるほどの闇の大爆発。名付けてこれ、ドゥームスデイビッグバンと呼ぶ。
あまりにも強力すぎる技を放った反動で健は膝を突く。闇のオーブは剣から外れて、健も剣も元の姿に戻った。剣を杖がわりに立ち上がった健は疲弊したのか、肩で息をしていた。
「……やったか!?」
胸のモヤモヤが取れた顔で不破が叫ぶ。しかし――。
「いえ、まだです!」
険しい顔の葛城が見つめる先には、もはや首の皮一枚で繋がった状態になりながらも立ち上がるイプシロンゴーレムの姿が。心臓が消滅し全身の骨も砕けたというのに何が彼を動かすのか。紛れもなく、打倒エスパー、打倒カイザークロノスへと燃やしているその『執念』だ。
「まだだ。まだ……終わってない! 終わってないいいィイイイイ!!」
「そんなバカな! まだ、立ち上がろうというのか!?」
今のイプシロンゴーレムは全身の骨が砕け、装甲がひび割れ、体がスパークしていようとお構い無しだ。
かりそめの命が燃え尽きようと地獄の亡者のごとき執念は、そう簡単には消えない。
「……アルヴィー! 光のオーブをッ!!」
とっさに、ある判断を下した健はアルヴィーを呼ぶ。雲の隙間から白い龍の姿をしたアルヴィーが現れ、白い体を黄金色に輝かせると白金色に輝く光のオーブを健へ渡す。
「健さん、その体で光のオーブを? そんなの無茶よ!」
「無茶なことあるもんか。僕なら大丈夫、必ず……勝つとも!!」
光のオーブを使い、エーテルセイバーに眠るパワーを呼び覚ませば真の姿である『帝王の剣』となる。
しかし使用後には著しく体力を消耗し、約二時間以内は疲弊により戦えなくなる。消耗が激しいのは闇のオーブも同じだ。それでも今は、やるしかない。やるしかないのだ。今やれることをやるのみ。
「そんな体で『白き光』を使う気か? 面白い! やれるものならやってみろ!!」
「相手にとって不足はないか……! 光よ、眠れる力を呼び覚ませッ!!」
イプシロンの挑発に乗せられるまでもなく健は光のオーブをエーテルセイバーにセットする。
剣全体が神々しいほどの光に包まれ――それだけではなく健の周りに黄金色に光る装甲が浮かび上がり勢いよく健の体に装着されていった。黄金の鎧の完成だ。髪も鋭い性質を持った黄金色へと変わっており――たいへんカッコいい。
「な、なにこれ黄金聖衣!?」
「健よ、それはエンペラーアーマー……帝王の剣に認められしものだけがまとえる最強の鎧だ。光と闇を受け入れたことによりお主にはふさわしい。あ、そうそう。髪の色はサービスだ」
「か……カッコよすぎる!!」
無我夢中になっていた健が変化に気が付いたのは鎧を装着してからだ。鎧なのに体が重くならない。むしろ軽くて動きの邪魔にはならない。
誰もが「エンペラーアーマーだと!?」「なんて強そうなの……負ける気がしない!!」「しかも金ぴかだぜ……!!」「カッコええやんかぁ、なあみんな!!」と、それぞれ驚いている。笑っているアルヴィーはどこか誇らしげだ。
「ッ……お前はどこまで進化し成長を続けようというのだ!」
「行くぞ辰巳! 覚悟はいいか!?」
「貴様こそッ!!」
光のオーブによって覚醒し真の姿を現した『帝王の剣』と『月鏡の盾』を携え、健は果敢にイプシロンゴーレムへ斬りかかる。
実力は拮抗していた二人だが――いまや、健のほうがイプシロンを遥かに上回っていた。
「ぬうううおおおおおおおおッ!!」
「セイヤァァァァッ!!」
左手で斬撃を受け止めたイプシロンだが、健はそれをものともせずイプシロンに拳やキックを何発もぶちかます。続けて連続で斬り付けると、衝撃波を伴うフィニッシュでイプシロンを岩壁までぶっ飛ばした。
「し、信じられん……これが、エンペラーアーマーの……!?」
「力がみなぎる……!」
エンペラーアーマーを装着したことによって健のパワーは倍増し、全身がみなぎっている。月鏡の盾に帝王の剣を映してみれば盾は光り輝いて形を変え――なんと、エーテルセイバーになった。
「まさか、二刀流!?」
「すっげー、ミラーシールドが剣をコピーしたぞ!」
これには両者も驚いた。だがすぐに健は凛とした顔でふたふりの剣を構え、イプシロンゴーレムは魔剣ネオハイドラサーベルを握って対峙する。
「ぬおおおりゃああああ!!」
「ハアアアアッ!!」
トランスしたような気分で、健の体はがむしゃらに、かつ巧みに動く。ひたすら斬って斬って斬りまくってイプシロンゴーレムの攻撃をはねのけ、攻撃を受け止めようとしたイプシロンゴーレムの左腕を切り落とす。
「やるな! だが今更腕の一本失ったところで何も惜しくはない!」
「上等っ!」
右腕一本となってもイプシロンゴーレムは執念で健との斬り合いに挑む。しかし、手数が増えた健に押しきられ、健が放った回転斬りが炸裂。イプシロンゴーレムは倒れた。
それでも「まだだァァッ!」と雄叫びを上げ、健に鋭い突きを繰り出す。それを回避した健は空中に舞い上がり、地上のイプシロンめがけ急降下。イプシロンもネオハイドラサーベルを構えて空中へ突きを放ち、相殺。空中で爆発が起き、イプシロンの身は投げ出され健はスタイリッシュに着地した。
「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!」
「よっしゃ行け! 行ったれ!」
「ああ、この機を逃す手はない!」
「健さん!」
コピーした剣を盾に戻すと健は己の力を、その身に流れる正義の血をたぎらせる。仲間たちからの声援を受けるとより一層燃え上がった。
「これで終わりだ辰巳! シャイニングオデッセェェェェイッ!!」
まっすぐに突進する光の刃がイプシロンゴーレムの体を貫く! ポーズを決める健のうしろで、体を貫かれたイプシロンゴーレムは悶えながら火花を散らす。
「うぐ……俺は、俺はここまでだというのか……ウグアアアアアアアアアアァ!!」
そしてイプシロンゴーレムは怒り、憎しみ、無念――などが入り交じった複雑な感情を含んだ叫びとともに大爆発を起こした。
「やったわ!」「っしゃあ!!」と喜ぶ一同だが、爆炎の中には、人間態に戻り心臓と片腕を失って既に息絶え絶えの辰巳の姿があった。
「ッ!」
「お、俺の負けだ……お前と戦って気付いたことがある」
「気付いたこと?」
「俺が捨てた優しさや思いやり、そ、そして絆――それらすべてがお前の力の源だということだ。結局はお前が言う通りだったのかもしれん……」
「辰巳、お前……」
「だがこれでいい、これでよかったんだ……」
右腕で失った左腕を押さえ、苦痛に喘ぎながらも辰巳は語る。しみじみと、やるせない顔をして健たちは戦いに負けた理由を悟った彼の言葉に耳を傾けた。
「東條、お前はいい仲間を持ったな。俺のようにはなるな。その優しさを捨てずに、仲間とともに平和を守ってみせろ。どこまで守り続けられるかあの世から見届けてやる……」
「辰巳……」
辰巳は自分を打ち破った敵を怨むどころか、潔く負けを認めてむしろ褒め称えている。だがかりそめの命は長くは続かない。辰巳の体から火花が散る。それは今にも命の灯火が消えようとしているということだ。
「みんな……今行くぞおおおおおッ!!」
そして、辰巳の体は再び爆発し、仲間たちが待つあの世へと旅立った。思うことはいろいろある。紛れもなく悪だった。許されないことも数えきれないほどやってきた。しかし同情の余地が無かったわけではない。執念深く戦いを続けたのは――それだけ誇り高く、仲間を思っていたということだ。
「辰巳、敵ながらあっぱれだった……」
健が敬礼したことを皮切りに、一同も倒れた辰巳へ向けて敬意を払った。
……さらば、辰巳。
あの世でも達者でな。