EPISODE317:光と闇を受け入れし勇者の一撃!
コンビナートからとある谷間にある採石場に場所を移して、今ここに更なる死闘が展開されようとしていた。
「ここなら余計な被害は及ばない」
「フッ、そうだな。確かに……お前の死に場所にはふさわしかろうよ!!」
「来いよイプシロン。お前との因縁は、この場で断ち切るッ!!」
戦いを先制したのはイプシロンだ。健は転がってかわし、背面に回り込んで回転しつつ切り上げる。そこから袈裟斬りと横斬り、縦斬り、鋭い突きと繰り出して、盾で殴り空中に飛び上がってからの回転斬りを炸裂させた。イプシロンは地面をえぐりながら吹っ飛ばされ崖に叩きつけられた。
しかしイプシロンはすぐに立ち上がり、回転・突進しながら反撃を繰り出す。盾で跳ね返すと、健は弧を描いた軌跡の斬撃によるカウンターをお見舞いした。
「オラァッ!」
「やぁぁぁぁッ!」
一方不破と葛城は、二人でリザードマンダの相手をしていた。まず不破が加速してから出す超スピードで撹乱し、その隙に葛城がリザードマンダを斬る。
対するリザードマンダは高速移動しながら攻撃してくる不破の攻撃を盾で弾いては反撃している。身体能力の高い彼でも加速をされては追い付けない。
「闇のオーブなんざ使ったところで結果は見えてる。辰巳さんが勝って東條は死ぬんだ」
「いいえ、勝つのは健さんです!」
「優しさを捨てて怒りや憎しみだけで戦っているお前らが、正義と平和のために戦い続けてきたオレたちに勝てるわけがない!」
「笑止な! そんなものが何の役に立つ!?」
「かつてのオレと同じような過ちは二度と繰り返させんッ! 力ずくでもお前たちを止めてみせる!」
火を吹き剣や尻尾を叩きつけるように振り回すリザードマンダと戦いながら、二人は問答を繰り広げる。
不破もかつては生涯を添い遂げるはずだった女性を失い、激しい怒りと憎悪に囚われた。恋人を奪ったエスパー……浪岡十蔵に復讐するためにエスパーとなった。
そして不破は復讐を遂げた。だが浪岡に勝てたのは怒りと憎しみを抱いていたからではない。健との幾度に渡るぶつかり合いと交友を経て優しさを知り、己が信ずる正義を見出だしたからだ。
「うるさいハエめ、消し炭にしてやる! グランドファイヤー!」
憤るリザードマンダは、息を大きく吸い込んで灼熱のファイアブレスを吐き出す。葛城は盾で防ぎ、不破は空高く跳躍するとランスを真下に向けるとそこから急降下。すさまじい勢いで落下したことにより稲妻と摩擦熱を帯びており、威力は抜群だ。衝撃波を起こすとともにリザードマンダを吹き飛ばした。
「うごご……く、クソガキどもがぁ!」
「わたくしたちは負けない! ハアアアアッ!」
立ち上がったリザードマンダは葛城の突きを盾で受け止めた。一発だけでは通じないのなら――と、葛城は突きを連打して盾を攻撃する。そして閃光のように鋭い突きがリザードマンダの盾を貫いた。
「な、なにッ!? オレの盾が……!」
「五月雨の舞!」
踊るような鮮やかな軌跡を描いて、葛城はリザードマンダを切り裂く。華麗な動きに翻弄されるリザードマンダになす術は無い。
「うらぁぁぁッ!」
電流ほとばしる鞭を振るうライアスティングとひとり戦っているのは、市村だ。近距離から中距離で射撃と打撃を使い分けて、ライアスティングの鞭を避けてはビームや拳を打ち込んでいる。足払いもかけて怯ませた。
「無駄な抵抗はやめて今すぐ降伏したまえ! そうすれば仲間として受け入れないこともないぞ。我々も無益な殺生はしたくないからね!」
「口先だけの懐柔やったらお断りでっせ」
上から目線で降伏を迫ったライアスティングの懐柔をはねのけた市村は銃で殴ってから腹に膝蹴りを入れた。
更に掴みかかってからのヘッドバットもお見舞いしライアスティングを岩盤まで吹き飛ばす。眉をひそめたライアスティングは滑空しながら市村へ急接近し、左腕に装着した盾からピンク色のビームを放つ。
「君たちは愚かだ。人間だけの力でカイザークロノスに勝てると思うのか?」
「いちびんなや! 俺はな、そういうこと言うからお前らが気に食わん!!」
「ヌオッ!?」
市村はビームを連射して滑空していたライアスティングを撃ち落とし、歩いて近付きながらビームを連射。更に武器をバーニングランチャーに持ち替えて情け無用の一発を放つ。ライアスティングは耳をつんざくほどやかましい声を上げて吹っ飛ばされ、地面に落下した。
「くたばれぇ!」
「嫌だね!」
ほかのメンバーに勝るとも劣らぬ勢いで、イプシロンゴーレムと健――この二人も激しいぶつかり合いを繰り広げていた。闇を帯びた斬撃が一閃、そこからキックや盾による打撃を織り混ぜた連続攻撃へと繋げる。イプシロンゴーレムの魔剣はそれを押し退け、あるいは身をかわし続けた末に左腕を展開――二の腕までを覆う手甲を装着して大地を殴ると健をぶっ飛ばした。
しかし、健は空中で体勢を立て直し、闇のオーラをまとって回転しながらイプシロンゴーレムに突撃する。耐えきらんとするイプシロンゴーレムだが、防ぎきれず今度は自分がぶっ飛んだ。
「す、すさまじい剣圧だ。パンチ力やキック力も並大抵ではない。これが闇の力か……!」
左腕に手甲を装着したまま立ち上がると、イプシロンゴーレムは闇のオーブを受け入れた健の強さに戦慄を抱く。
「違う! 僕の力だ! 光も闇も受け入れたことで手に入れた僕自身の力なんだ!」
「……うぬぼれるな小僧ッ!」
向かってきた健に手甲――ネオハイドラアームを叩きつけるイプシロンゴーレム。健は暗黒の盾でパンチを受け止め、地面をえぐりながら後ずさりする。
片目を瞑り歯を食い縛っていることからかなり堪えていそうだがそうでもない。暗黒の盾――ダークネスシールドへと変化した盾はダメージを受けた瞬間に小型のブラックホールのようなものを作り出し、そこに衝撃を吸い込んで健が受けるダメージを軽減する。そういうカラクリとなっているのだ。更にその小型のブラックホールと同じ作用を持つバリアを展開することも可能だ。
しかし、剣を振るときにも言えることだがあまりにも強力すぎるためほかのオーブとの併用はできない。残念なことだがこれは事実だ。
「お遊びはここまでだ! ここを貴様の墓場にしてやる!」
雄叫びを上げて、取り込んだフリーエネルギーを変換して右の首から高圧の水流を吐き出して牽制すると、イプシロンゴーレムは力を溜め始めた。
必殺技――真・海蛇両断を出そうというのか? そのことを警戒した健は、険しい顔をして自分自身も必殺技を繰り出す準備に入る。
「地獄へ逝け東條! 真・海蛇両断!」
「はぁぁぁぁぁぁ〜〜ッ!!」
波打つ高圧の水流が、荒れ狂う水の竜巻が健を呑み込む! 「終わったな……」と、ようやく宿敵を討ち取った気分でイプシロンゴーレムは勝ち誇る。
「残念でしたー!」
「なんだと!?」
だが、荒波に呑まれたはずの健は軽口を叩く余裕を見せながら姿を現した。
「バカな、お前は真・海蛇両断をまともに受けたはず……。なぜ生きているのだ!?」
「さあ! こっちだって負けるわけにはいかないからね!!」
力を溜めて暗黒の剣の刀身を光らせると、健はそれをイプシロンゴーレムに投げつけた。胸に暗黒の剣が突き刺さりイプシロンゴーレムは悶絶、健は跳躍し突き立てられた剣をめがけてキックを繰り出した。
「ハーデスストライクッ!!」
「ドゥアアアアアアアアッ!?」
イプシロンゴーレムの体をキックで貫き、暗黒の粒子と化した健は剣を抜いてポーズを決める。彼の背後で火花を散らしながら、イプシロンゴーレムは大爆発した。同胞を目の前で失ったリザードマンダとライアスティングは動揺し、二体そろって「辰巳さん!?」「そんなバカな……!」と悲痛な叫びを上げる。
「やったか!?」
不破がそう叫び、葛城も喜ぶ。健も明るく笑った。直後……その笑顔は潰えた。イプシロンゴーレムの唸り声とともに爆炎が吸い込まれるように逆流して、その中から人間態に戻ったイプシロンゴーレムが姿を現した。
血まみれでハーデスストライクで貫かれた胸には風穴が開いている。心臓があった場所だ。なのに生きている。イプシロンゴーレムは狂気じみた高笑いを上げると、「東條、まだだ! まだ終わってない!!」
「な……なにい!? 心臓を失ったのに生きているなんて!!」
「何度も言わせるな俺は不死身だ! 自前のなら生まれ変わったときに無くしたよ! ……埋め込まれた心臓もハーデスストライクとやらで貫かれてなァ!!」
健たちが衝撃を受けるなかで、辰巳は狂気じみた笑いを浮かべながら語る。彼が生きていたことを知ってリザードマンダとライアスティングは安堵した。
「聞け、リザードマンダ、ライアスティング!」
「「はいっ!!」」
「たとえ俺が倒れても後ろには振り返るな。俺たちをもてあそんだ甲斐崎を討ち取るまでは、最後のひとりとなるまで戦い続けろ!」
「「わかりましたっ」」
同胞を激励し、辰巳は健に振り向いて指を差す。
「内蔵のひとつやふたつくれてやる。たとえ全身の骨が砕けようが貴様を倒し同胞たちの怨みを晴らすまでは、俺は死なんぞ!!」
そう宣言した辰巳は、気合いを入れて再びイプシロンゴーレムへと変身。険しい顔で剣を構える健は、生まれ変わっても執念深いイプシロンゴーレムにみたび立ち向かおうとしていた。