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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第17章 Black Diamond
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EPISODE316:悪夢は現実に

 煙突やガスタンクが建ち並び、パイプラインが複雑に絡み合うコンビナート。今ここに、三匹の破壊者と三人のエスパーが対峙し、戦いの火蓋は切られた。

 先に攻撃をしかけたのはリザードマンダだ。口から勢い激しく炎を吐き出し、エスパーたちを焼き払わんとする。葛城がシールドで炎のブレスを防ぎ遮ると、市村が飛び出してリザードマンダにビームを放ち、不破はランスですれ違いざまにリザードマンダとライアスティングをまとめて斬る。


「カァッ!」

「みんな避けろ!」


 そのときイプシロンゴーレムの左の首が口から高熱の破壊光線を吐き出す。呼びかけた不破と葛城は紙一重で避けるも回避が間に合わず、市村は破壊光線が引き起こした爆発に巻き込まれてぶっ飛ばされる。


「市村さん!?」

「どこを見ている!」


 動揺する葛城へ、ライアスティングが容赦なく鞭を振るう。電気を帯びた鞭を打ち付けられた葛城の体には電流が走り、葛城は激痛に喘いだ。


「あッ、あずみ!?」

「がら空きだぜ!」

「おわっ! ぐわああああああああ!!」


 葛城の身を案じた不破にはリザードマンダが襲いかかった。まず鋭い剣を振りかざして不破を切り裂き、反撃で突きを繰り出されたら盾で跳ね返して剣で斬ってから体をひねって尻尾を叩きつける。

 吹っ飛ばされた不破の体は配管をぶち抜きガスが漏れ出す中で、片目を瞑りながらも立ち上がってイプシロンゴーレムたちに睨みを利かせた。市村は武器をブロックバスターからバズーカ砲……バーニングランチャーに交換し、リザードマンダに狙いを定める。葛城がレイピアを向けているのはライアスティングだ。


「おいトカゲ野郎! いくらお前の盾でもこのバーニングランチャーの弾は防げんやろ?」

「やれるもんならやってみな!」


 挑発に乗らずとも、市村はリザードマンダにバーニングランチャーから極太のビームを放つ。火トカゲのエンブレムが描かれた立派な盾だが、さすがにバーニングランチャーの砲撃は堪えたらしくリザードマンダはたじろいだ。しかし、リザードマンダはニヤリと笑う。


「オレをたじろがせたこと、それだけは褒めてやる。だがお前はここで終わりだ!」

「なんやてぇ……?」


 余裕たっぷりに言い放つリザードマンダに、市村は眉をひそめる。息を大きく吸い込むと、リザードマンダは勢い良く口から灼熱の炎を吐き出した。


「グランドファイヤー!!」

「うわあああああああ!!」


 市村が灼熱の炎に焼き払われる中、葛城は不破とともにライアスティングとイプシロンゴーレムを同時に相手していた。葛城が突きを弾かれ、不破が斬撃を繰り出したところをライアスティングは回避。水中を泳ぐように空中を浮遊するとそのまま滑空をはじめる。


「この〜、エイが飛ぶな!」

「間もなくその大口を聞けなくしてあげよう!」


 滑空しながら、憤る不破へ自信満々に語りかけるライアスティングは右腕を前に突き出して高速で辺りを飛び交う。


「グライディングベノン!!」


 雷を帯びたピンク色のオーラをまとっての突進攻撃が、不破と葛城に炸裂。二人は転倒し、市村もリザードマンダから一方的に攻められてほかの二人と同じところへ放り出された。


「どうした。そろそろ東條に助けを求めたほうがいいんじゃないのか? ん?」

「くっ……!」


 葛城に魔剣をあてがい、イプシロンゴーレムは不敵に笑う。三人の現在の状況は、葛城は頬と足に傷を負い、不破は頭から血を流していて口や肩、膝からも血を流している。市村は顔や腕に傷を負い、ほかにも体の随所に傷を負わされている。勇猛果敢に戦ってきた三人のエスパーの命運も、これにて尽きようというのだろうか。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ちょっとアルヴィー、どこまで行くの。もうとばりさん家からだいぶ離れちゃったよ」

「いいから来い!」


 アルヴィーが健と話し合いをしようと連れ込んだのは、とばりの屋敷から離れた場所にある地下道の中だった。薄明かりに照らされる中でアルヴィーは地べたに座り込み、健も隣に座らせてから咳払いをする。


「……お主、ここまで来て何を恐れている? 闇の力に呑まれてしまうことか? お主が見たという悪夢と同じように仲間を手にかけてしまうことか? 今まで、新しい力を手に入れては正しいことのために使ってきたではないか。要は今までと同じだ。それが出来ぬというのか?」

「アルヴィーはそう思ってても、闇の力を使えば僕自身はどうなるか……!」

「……悪夢を現実にする気か?」


 闇の力を使うべきか迷う健に、アルヴィーはフォローを入れながら優しく諭していく。躊躇している自分に怒っていることは確かだ。だが、そこから先の闇を受け入れるという段階へは――まだ行けない。心の奥――深層心理に闇へ対する恐怖、苦手意識。それがわずかに残っているからだ。


「きっとお主が闇のオーブの使い道を誤らぬための警告だったのだ。躊躇っていれば余計に……力に呑まれかねんぞ」

「僕への警告?」

「臆病になるな。前にも言ったろう? 帝王の剣の真の力を引き出したいのならば、光も闇も、どちらも受け入れよ、とな」

「……光と闇、どちらも受け入れる、か」


 力そのものに善悪の概念はない、使うもの次第だ。それは健にも判っていた。判っていながら躊躇したのは力に溺れて、己の力を我欲を満たすためだけに使ってきたエスパーを何人も見てきたからだ。

 加えて、あのような悪夢を見せられては――。だがもはやそんな甘えが許される状況ではなかった。光も闇も、まっすぐに受け入れる時が来たのだ。帝王の剣に選ばれた世界を支配する資格を持つもの――否、悪を討ち世界を、人々を守る資格を持つヒーローとして。


(そうだ、力自体に善悪は無いんだ。闇が悪とは限らない。だけど無意識のうちに闇を悪だと決め付けてた。闇を恐れちゃいけないんだ。僕が信じる正義のために……使うべきなんだ!)


 闇のオーブを手のひらに乗せて見つめる健の瞳は、闇のオーブに魅せられたように赤黒く染ま――らなかった。


「ありがとう。やっと決心がついたよ」


 立ち上がって肩の荷が降りた笑みをこぼしながら、健はアルヴィーに感謝と決意の言葉を告げる。


「遅いぞ健! その言葉を待っていたんだ!」

「行こう! みんなが待ってる!!」

「なら話は早い! ともに悪い奴らをぶっ潰してやろうぞ!」

「っしゃあ!!」


 立ち直った健はアルヴィーとタッチをして、武器を構えてシェイドサーチャーが示す場所へと向かう。人のため、仲間のため。



 そして、自分のために。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



「真・海蛇両断ッ!」

「うわああああああああああああああ!?」


 健が決意を固めた一方で、三重のコンビナートでイプシロンゴーレムたちと戦っていた三人のエスパーは苦戦を強いられていた。

 イプシロンゴーレムが放った必殺奥義を受けて吹っ飛ばされた葛城は地面に、不破は壁に、市村は鉄骨に容赦なく叩きつけられた。


「ふっ、他愛もない」

「辰巳さん、そろそろこのクソガキどもにとどめを!」

「そうだな。だが、待て。東條が来てからだ」

「え?」

「ヤツにも私が味わった仲間を失う苦しみ……それをを味わわせてやりたくてな」

「それはいいアイディアですね」


 イプシロンゴーレムは、口の端を吊り上げながらまだとどめを刺すには早いとリザードマンダとライアスティングに語る。賛同した二体ではあったが短気なリザードマンダはもはや待ちきれない。


「だが待つのも面倒だと言うのならお前たちがとどめを刺してしまってもかまわんぞ」

「へっへっへ。ヤツに死体を見せて絶望させるのも悪くねぇですよね……」

「ありがたき幸せ!」

「ッ……」

「死んで……花実が咲くものか」


 東條が来る前にエスパー三人を殺してもいいという許可が降りたリザードマンダとライアスティングは、刃を研ぎ澄ませあるいは鞭を引き絞りながら葛城たち三人に近付く。


「殺してやる!!」


 リザードマンダが剣を、ライアスティングが鞭を振り上げた。だがそのとき、黒い斬撃とともに二体の攻撃は切り崩され二体の上級シェイドは吹っ飛ばされた。


「なにぃ!?」


 禍々しい黒いオーラをまとう、紫がかった黒く鋭い髪の青年。瞳は赤黒く、剣は青みがかった黒で禍々しい装飾が施されている。盾も同様だ。だが――彼にあったのは禍々しさだけではない。三人のエスパーは彼から優しさと暖かさ、正義のために血をたぎらせている姿勢を感じ取った。


「健さん……!」

「間に合った?」


 悪夢に出たときと同じような姿だ。だが心は歪まず、いつもの健のまま。葛城たち三人に笑顔が戻った。どうやら悪夢は現実にならなかったようだ。


「貴様、その姿は!」

「そうだ、闇のオーブを使った。闇を受け入れて自分のものにしたんだ」


 余裕のある落ち着いた口調で健はイプシロンゴーレムに説明する。背後にいる三人も含まれていた。


「己の欲望のため、破壊のためではない。この力、正義のために使う。いかなる事情があろうと大切な仲間を傷付けたお前たちに容赦はしない!!」


 自分に酔いしれている正義のヒーロー気取り。今の健をたとえるならそうなるだろう。だが彼はそんなちっぽけなものとはまったく違う。

 仲間のために、人々を守るためにイプシロンゴーレムの前に立ちはだかるその姿は絵に描いたような――正義のヒーローだ。わざわざ彼から言われなくとも背中を見ればわかる。葛城たち三人がそうだ。


「身の程知らずのクソガキが……。辰巳さんの手を汚させるわけにはいかねえ、オレが貴様に引導を渡してやる!」

「東條健、覚悟!」

「やめろリザードマンダ、ライアスティング!!」


 健の言葉に憤慨したリザードマンダとライアスティングを、イプシロンゴーレムは制止する。


「気が変わった、お前たちは下がれ。こいつとは一対一(サシ)で決着を着ける」

「しかし……」



「俺は東條とだけは俺自身の手で決着を着けたいのだ!!」



 うろたえる部下を鬼の形相で一喝して黙らせたイプシロンゴーレムは、魔剣を健へ向ける。


「ここじゃあ被害が及ぶ。場所を変えてもいいか」

「いいだろう。お前の心意気に免じて……」


 コンビナートにはガスタンクがある。戦いの中でガスに引火してしまえば大爆発が起きて周りは廃墟と化す。イプシロンゴーレムは健の要求を呑んで、二人は場所を移動した。葛城たち三人と、リザードマンダとライアスティングもあとに続いてコンビナートを去った。

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