EPISODE315:ナイトメアが示すもの
黒い影と戦って敗れてから、健は漆黒の闇の中に浮かんでいた。彼は目を閉じて眠っている。
更なる力。大切な人々を守るにはどんどん力をつけて強くならなくてはならない。だが敵もまた、日増しにどんどん強くなっていく。
闇の力を身に付けたとしても守りきれるかどうかはわからない。きっと無我夢中で振り回す。そうやって気が付けばいつの間にか殲滅している。
いや、無我夢中ではダメだ。力に振り回されるのではなく完璧に使いこなさなくてはならない。だが闇の力は扱いきれないかもしれない。大切な人々を守りきれないかもしれない。それがたまらなく怖い。
――そうだ。守りきる自信がないのなら、大切な人を失うことが怖いのなら自分の手で大切な人を消してしまえばいいんだ。
闇ノチカラデ――消シテシマエバ。
◆◇◆◇◆◇
ある街の路地裏で素振りをしていた不破に何者かが歩み寄る。その姿は健だ。彼の気配を感じ取った不破は振り向いて、声をかけようとしたがどこか様子がおかしい。見た目はいつも通りなのに目付きは鋭く穏やかさがない。おぞましいほどの殺気に満ちている。
「東條……そんな怖い顔してどうしたんだ?」
目が据わっている健は闇のオーブを取り出すと不破に見せつけながら――取り出したエーテルセイバーにはめていく。
「お前、それは!?」
「……ハアアアアアアアア!!」
両手を広げ雄叫びを上げるとともに健の周囲から黒く禍々しい闇のオーラが吹き上がっていく。茶色い短髪は紫がかった黒に、瞳は赤黒く染まり、剣は青みがかった黒の禍々しい外見へ、盾も同じく青みがかった黒に染まった禍々しい外見へと変わっていった。
「これは……!?」
「う゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
すさまじい気迫だ。不破は健に威圧され身動きが取れない。攻撃に出られず、一方的に斬られ、蹴られ、殴られ、斬られ、打たれ、斬られて殴られ打たれ蹴られて――真っ向から両断。怒濤の攻撃を受け続けた不破の頭から血が流れ出す。
「食らえええええぇ〜〜〜〜ッ!」
「うぐうッ!?」
不破から離れた健は腰を落として右手に携えた暗黒の長剣を――不破めがけて投げつける。それは不破の左胸に突き立てられ不破は血を吐き出す。次に空高く飛び上がって健は咆哮とともにキックを繰り出して不破に刺さった剣ごと突貫した。キックをかます瞬間に自身の肉体を闇の粒子と化してすり抜け、不破の心臓を貫いた剣を拾って肩に担いだ。
「あと二人……」
「やめろ東條、やめるんだ。東條ぉ……」
無力なことにもはや虫の息だった不破には、心が歪んで暴走を始めた健を止めることなど不可能なことだった。
「うぎゃあああああああああああッ!!」
「一人、また一人……」
次に健が目をつけたのは市村だ。残酷にも出会い頭に一気に距離を詰めいきなり心臓を貫いて血を吐かせ、不破にも繰り出した剣を投げ付けて突き立ててからの必殺技――ハーデスストライクを容赦なく繰り出して貫通。血だまりの中に市村は仰向けとなった。
「しょ……正気かお前、仲間を手にかける気か? や、やめい……やめるんや……」
「あと一人」
健は市村への興味など既になく、その赤黒い瞳は次なる標的を探し出さんとしていた。
不穏な風が吹く夜の街。地上にはネオンが輝き、空には満天の星々。ビルの屋上に佇む彼女――葛城は不吉な予兆を感じ取っていた。同時に、その背後に忍び寄る影の存在も。
「ふふふふふ……やあ、葛城さん」
「東條さん?」
上ずった声で不気味に笑いながら現れたのは、黒くなった健だ。髪は漆を塗ったように黒く、瞳は赤黒く、服装まで黒くなっていた。剣や盾とて例外ではない。
「うおおおおおおお!!」
「ッ!」
健は目を赤く光らせ、見開いて斬りかかる。葛城はバラの紋章が刻まれたクリアパープルの盾でガードするが、闇に染まった健はすぐに切り崩し葛城をひたすらに斬って斬って斬りまくっていく。
「あはははははははッ!」
「ぁあああああああッ!?」
禍々しい紫色の衝撃波を連続で放ち、交差させて葛城を攻撃。更に葛城をビルから叩き落とし地面を凹ませた。
葛城は地面の窪みから飛び出して健と斬り合う。見た目や雰囲気だけではない、実力も桁外れ。今までの彼とは違う。まさか闇のオーブが彼をここまで変えてしまったというの? 健と戦い出してしばらくしてから、葛城は健が闇に取り込まれたために変貌を遂げたことを察する。
「うらああああああああぁぁぁぁッ!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
切り上げられて怯んだところに健は、力を溜めてから容赦ない必殺の一撃を繰り出し――闇の大爆発を起こす。その威力は小規模ながら地球を、いや、宇宙全体を震わせるほどのすさまじいものであった。事実、ビッグバンが起こった周囲は跡形もなく消し飛び、瓦礫の山が積み上げられた荒野と化した。
「僕のためだ。消えてくれぇ」
「やめて、健さん! やめて! やめてぇっ!!」
薄ら笑いしながら葛城に長剣を突き付けて、健は振り上げてとどめを刺そうとする。健の視界が葛城の血で真っ赤に染まったそのとき――。
「うわああああああああああああああッ!?」
――慟哭とともに健は目を覚ました。手には闇のオーブが握られている。周りにはパジャマを着てすやすやと眠っているアルヴィーとまり子の姿。
仲間を手にかけた光景は――あれは悪夢だった。そう、闇に呑まれてしまうかもしれないという闇の力への恐怖が産み出した悪夢。心の底から安心感を覚えた健は胸を撫で下ろした。
「……むーん。健、一体どうしたんだ」
「アルヴィー、まりちゃん、起きてたのか……」
アルヴィーは健の慟哭を聞いて目を覚ましていた。まり子も目をゴシゴシとこすって、健に近寄る。
「……夢を見たんだ。それも、とびきり怖い夢を」
「どんな……夢だったの?」
「それは明日、みんなに話そうと思う」
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悪夢から目を覚ました健は、二人の同居人と眠れぬ一夜を明かした。とばりの屋敷を訪れると、中に入ってそこにみゆきや不破、市村に葛城も呼んだ。
「昨日見た嫌な夢っていうのは?」
「自分とアルヴィーの影が現れて、僕をねじ伏せてこう言ってきたんです。『おまえは、俺になる』って。それから僕は闇に呑まれたように黒くなって、だんだん自分が自分じゃなくなっていって……不破さんや市村さんを手にかけて、あまつさえ葛城さんまで……!」
紫のタートルネックのセーターを着たとばりから問われて、健はどのような夢を見ていたのかを全員に話す。騒然となったのは言うまでもなかった。
「健さんが夢の中でわたくしたちを? にわかには信じられませんわ」
「葛城さんを斬ろうとしたところで目が覚めたけどもしあのまま覚めなかったら、家族や友達まで……!」
心がざわめいている健は、頭を抱え恐怖心を抱いていることを吐露する。今まで戦ってきた中で新しい力を使うことに躊躇したことは何度もあった。今回はこれまでとはまったくわけが違う。あのような悪夢を見てしまったあとでは躊躇してしまうのも無理はない。
「今までそうだったように闇の力も使いこなさなくてはならないのはわかってる。でも怖いんだ。闇に取り込まれて大好きなみんなにまで手をかけてしまわないか」
再び不安な思いを吐露する健。だが、そのときエスパーたちが持っていたシェイドサーチャーが反応し出した。スクリーンに映し出されたものは共通して大きな点がふたつ。
「シェイド反応だ! 場所は三重のコンビナート、結構遠いぞ」
「多分この前と同じヤツらやろうな。どや、行けそうか? 東條はん」
「決心がついてからでもいいですか」
市村からの問いに健は首を縦に振る。相手はきっとイプシロンゴーレムだ。彼とはゴーレムとなる前から何度も刃を交えてきたが、ゴーレムとなってパワーアップを果たした彼にはどんな技もことごとく弾かれ通用しなかった。闇のオーブか光のオーブ――どちらかで行くしかないだろう。
「……それなら、あなたに代わってわたくしたちのほうで相手を引きつけます。闇の力を使う決心がつくそのときまで」
「葛城さん、みんな。ごめん、頼りなくて」
「いえ、わたくしたちもあなたには恩がありますから。これくらいお安いご用ですわ」
健に考える猶予を与えて、葛城たち三人は健の代わりにシェイドの相手を引き受けることとなった。それぞれとばりの屋敷から飛び出して影や隙間から異次元空間に入り、勇壮たる姿勢で三重のコンビナートへと向かっていく。
「……みんな戦いに向かったっていうのに僕はいったい何やってるんだよ。何をためらってるんだよ……」
「とばり殿、まり子。健と二人きりになっても良いだろうか?」
この緊急事態に迷う自分を責める健。アルヴィーはそんな彼と今一度真剣に話し合おうと思い、ほかの二人に確認を取る。二人は頷き、アルヴィーは「かたじけない」と、笑顔で礼を言って健を外に連れ出した。
「シロちゃんもお兄ちゃんも真剣だもの。わたしたちは邪魔になるから今は間に入っちゃいけない」
「それでいいと思うわ。二人とも私たちより付き合い長いんだしね」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
三重県のとあるコンビナート。辰巳たちは作業員たちを襲いコンビナートを破壊していた。狙いはガスタンクへの引火により周囲を爆発炎上させること、と、思われる。
「ハッハッハッハ! 早く来い東條健!」
「来ないのならば、オレたちは破壊を続けるまでよ!」
逃げようとした作業員にも辰巳と萬田は容赦なくキバをむく。ただの人間など正体を現さなくとも十分だ。
「そこまでよ!」
「なにい!」
凛々しい少女の声とともに、風に乗って鋭い花びらや木の葉が舞い散り辰巳たちを切り刻む。すぐさま技を放った葛城たち三人が現れて、作業員を逃してやるとシェイドどもに武器を向けた。
「葛城あずみに不破ライに、市村正史! ネズミの三銃士が勢ぞろいか!」
「東條健はどうした?」
「健さんならここにはいない。あなた方の相手はわたくしたちよ」
「そうだ。三対三でちょうどいいだろ」
萬田とエイジからの問いに葛城と不破はハッキリ答えた。三人とも身構えていて準備万端だ。
「ふっ、笑止な。今のお前たちなど我々の敵ではないわ。行くぞリザードマンダ、ライアスティング!!」
「「「うおおおおおお!!」」」
辰巳たちも一斉に正体を現した。萬田は火トカゲの上級シェイドに、エイジはイトマキエイの上級シェイドへ。辰巳はイプシロンゴーレムへと変身した。ちなみに辰巳のみシェイドサーチャーに感知されなかったのは、シェイドから改造されてゴーレムとなったからだ。シェイドサーチャーは人工的に生み出されたメカ生命体であるために感知されないのだ。
「来いッ! エスパーども!」
「望むところッ!」