EPISODE308:乱れに乱れて! 闇のオーブ
分厚い鉄の扉を抜けた先には長い階段があり、エリアYの地下へと繋がっていた。
鉄筋コンクリートや岩で出来たそこは人気がほとんどなく、薄暗くて不気味。得体の知れないバケモノか何かでも出てきそうだ。健は思わず唾を呑み込んで、息を殺して先頭についていく。
「着いた。見たまえ、これが最高機密『Y』こと闇のオーブだ」
「これが……闇のオーブ?」
ブラックライト、いや闇のエネルギーによるものか。黒く輝いている闇のオーブが入ったガラスケースの周囲には紫色に光るものがあった。恐らく闇のエネルギーが結晶化した暗黒物質というヤツだろう。
周囲は機械やチューブがむき出しで瓦礫が散らばっている。地上がエリアYという人工島の光の部分なら地下はまさに闇の部分――といったところか。
「まるで吸い込まれるようだ……」
ガラスケースに近寄った健とアルヴィーは、中に入っていた闇のオーブを覗き込む。その黒い輝きは見るものを惑わす妖しい輝きだ。
「待ちたまえ。私がボタンを押したらガラスケースが外れる。持っていくならそれからに――」
「ギレエエエエ!!」
「なんだ!?」
警視総監が壁のボタンを押してガラスケースを押そうとしたところだった。
「あいつは!?」
「ものすごい殺気を感じる……!」
突如壁をぶち破って後方からカマキリ型のシェイドが姿を現し、健と葛城は目が点になる。かと思えば、カマキリ型のシェイドは健たちを飛び越してガラスケースを鋭い鎌で両断。闇のオーブを手にしたではないか。
「貴様はシャドウマンティス!!」
「ひ、ひゃ、ヒャハハハハハ!! 闇のオーブは俺のものだぁ!!」
『Y』こと闇のオーブを狙って経歴・出生すべてを偽り警察に潜入していたシャドウマンティス。不破や村上以外ははじめて対峙する相手だ。
「返せっ!」
「ギレェェェ!!」
乱入してきた略奪者を見す見す逃すわけもなく健はシャドウマンティスに一太刀浴びせる。反撃に出ようとあがいたシャドウマンティスを盾で殴り、蹴り上げて更に剣で突いて斬る。
シャドウマンティスの体は吹っ飛ばされたが、体勢を直して華麗に着地。奇声を上げると眼から溶解光線を放った。光線は健の肩をかすり、背後にあった鉄骨をドロドロに溶かした。振り向いた健は「うそだろ……」と驚き冷や汗をかく。
「東條気を付けろ! 今のビームは当たったものを溶かしちまう」
「うちもそいつの攻撃でもう何人もやられている! 僕もそのひとりだ」
健に警告半分のアドバイスを授けながら、不破と村上は仲間を守るべくそれぞれの武器を握って戦いに挑まんとしていた。
「ギレエエエエ!!」
「でぇいッ! エアアアアアッ!!」
シャドウマンティスの鎌攻撃を盾で弾き返し、健は回転斬りをお見舞いする。
「ちぃッ! 東條健め、まずは貴様からブチ殺す!!」
「うッ!?」
後ずさりさせられたシャドウマンティスは歪んだ顔で舌打ちすると、両腕の鎌を投げつけて健を拘束。次に大鎌を取り出して両手に持った。
「まずい! 大鎌を出したってことは……撃てぇーッ!!」
以前シャドウマンティスが大鎌を持ち出したら何が起こるかを身をもって味わった不破は、そうはさせんと妨害するように戦闘班に指示を下す。マシンガンや電撃による援護射撃を受けるもシャドウマンティスは怯まずに健の首をはねに向かう。
「このままでは……健ッ!」
「邪魔だぁ!」
走って援護に向かおうとしたアルヴィーを、シャドウマンティスは溶解光線で攻撃し足止めする。そしてシャドウマンティスの凶刃はついに健に向けられた――。
「死ねえええぇぇぇい!! デスサイズクライ……」
「そうはさせない!」
「な、なにい!? うがぁッ!!」
――そのときだ! シャドウマンティスの大鎌を横から剣で突いて妨害したものがいた。葛城だ。葛城は連続で突きや斬撃を繰り出し、更にムーンサルトも放ってシャドウマンティスをぶっ飛ばす。
「葛城さん」
「あんまりひとりで無茶しなさらないで?」
凛とした佇まいの葛城は、すました笑顔で健に語りかけ彼を拘束していた鎌を外す。焦燥していたアルヴィーも落ち着いて安堵の息を吐いた。
鎌はシャドウマンティスの腕に戻り、シャドウマンティスは苛立って歯ぎしりした。息を吐く間もなく電撃が彼を襲う。不破が放ったものだ、その不破がランスを振りかざし斬りかかった。
「シャドウマンティス、オーブは返してもらう!」
「えぇ〜〜〜〜いうっとうしいッ!」
「ぐわっ! なんだこれはっ!」
「黒くて何も見えない!?」
不破の攻撃をかわしたり弾き返したりして、高い跳躍力を活かして距離をとったシャドウマンティスは口から黒い霧を吐いて逃亡。
「……しまった! 逃げられちまった!」
「宍戸ちゃん、シャドウマンティスが『Y』を持って地下から逃亡した。ヤツがどこにいるかわかるかい?」
周囲が戸惑う中で、村上は自分を見失わず冷静に応対。トレーラーで待機していた宍戸に連絡し、シャドウマンティスが逃げた場所をアナライズしてもらった。
「アナライズ終わりました! 敵は地上の搬入口から廃墟区画の辺りに逃げた模様……」
「わかった、ありがとう!」
「村上くん、敵はどこへ?」
「資材の搬入口から廃墟の辺りに逃げたようです。一刻も早く追わなくては……」
「……行こう!!」
村上は宍戸と通信を取り、アナライズの結果を警視総監に伝える。一方、シャドウマンティスを追って闇のオーブを取り返すべく健たちも動き出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「フヒャハハハハハハ! つ、ついに手に入れたぞ。闇のオーブ、これで僕の地位も……」
闇のオーブを奪って逃走中のシャドウマンティスは廃墟と化したエリアにまで移動していた。このまま行けば彼の地位も安泰――と、なるはずだったのだが。
「そうは問屋が卸さん」
「!? 不破か? ギレェェェッ!!」
どこからともなく不破の声が響いたと思われた瞬間、電撃光線と威嚇射撃がシャドウマンティスを襲う。
陽炎の向こうから姿を現したのは、機械的な外見をした二人組の――怪人。片方は藍色のボディで右腕にレールガンを備えた、Χの記号を思わせる四つの眼。背中には電極がついていて武骨だ。
もう片方はシルバーとグリーンを基調としたボディで、体の随所に三角形の水晶体や突起がついていて顔には逆三角形のバイザーがついており大型の銃を持っていた。
「暗黒エネルギー反応あり……。それが闇のオーブか!」
「貴様ら、終焉の使徒だな! これは僕のものだ、誰にも渡さん! ぶち壊してやる!」
闇のオーブからあふれでる暗黒エネルギーをキャッチしたデルタゴーレムは、闇のオーブを手中にすべく銃を乱射。
シャドウマンティスは銃弾をことごとく弾くが、相方のカイゴーレムは一瞬の隙を突いてレールガンを発射しシャドウマンティスを転倒させ、デルタゴーレムはその間にまんまと闇のオーブをちょうだいした。
「虫ケラに渡したところで手に余るだけだ。こいつは俺たちがいただく」
「ウギギギ……機械仕掛けの人形めぇ!!」
いきり立ったシャドウマンティスは闇のオーブを奪い返そうとデルタゴーレムに斬りかかる。バケモノ同士、略奪者同士の殺し合いが始まった。
「そこまでだシャドウマンティス!」
「わたくしたちに闇のオーブを返しなさい!」
ときを同じくして廃墟区画に健たちが駆け付けた。健の傍らには白い龍の姿となったアルヴィーが浮かんでいる。
「む? やはり来ていやがったか、エスパーども。まさか共倒れでも狙っているつもりかぁ?」
「大変だ、ゴーレムたちまでいる……!」
シャドウマンティスと闇のオーブの奪い合いをしていたゴーレムたちは健たちに気付き、攻撃の手を休めて振り向く。当然武器を構えて、だ。シャドウマンティスは歯ぎしりしながら身構えている。
「オレや市村の声でしゃべってやがる。こいつらはいったい?」
「オレはカイゴーレム。お前のデータとシェイドの細胞から作られた」
「このデルタゴーレムは同じくシェイドの細胞と市村正史のデータより組み上げられた」
「……OK、要するにオレたちの海賊版ってわけだ!!」
不破に自分たちの生い立ちを説明してやるとゴーレムたちは攻撃を再開し健たちやシャドウマンティスを狙った。
健はデルタゴーレムの機銃掃射を回避しシャドウマンティスに斬りかかる。シャドウマンティスは健をはねのけ、不破めがけて跳躍し鎌を振りかざす。
「オーブを返せ!」
「僕じゃない、あいつらに盗られた! ブラッディウィンドミル!!」
「ッ!」
シャドウマンティスは風車の如く回転する衝撃波を放ち、不破を退けゴーレムたちに襲いかかる。しかし、「虫ケラめ!」と、カイゴーレムにレールガンを撃ち込まれ一蹴された。
「カイ、デルタ! 闇のオーブはどこだ!!」
「それならオレたちがいただいた。お前たちなどにやるものか」
「なにっ!」
「レーザー砲でも食らえ!!」
「うわああああぁぁぁぁ――――っ」
カイゴーレムはレールガンで健を牽制。更に背中を向けて、高出力の電撃レーザー砲を発射して健を吹き飛ばした。瓦礫の山に叩き付けられ健は転倒。
「健さん!」
「次はお前だ葛城あずみ!」
「よくも健さんを! えいっ!」
「ショルダーキャノン! ヒャァッハァァァ!!」
葛城の攻撃をかわしたデルタゴーレムは、肩からキャノン砲を出してエネルギー弾を発射。しかし葛城はバラの紋章が描かれたクリアパープルのシールドを召喚して防いだ。
「その程度ですか?」
「なめるなよ!」
デルタゴーレムのバイザーが展開し、その下に隠れていた半月状のモノアイからビームを発射。葛城は転がってかわし突き下ろしを繰り出して反撃した。
「ませガキめ……抹殺してやる!!」
葛城の能力を瞬時に分析し、危険視したデルタゴーレムは銃を乱射し更にショルダーキャノンやマイクロミサイルも放って葛城の抹殺を試みた、だが――。
「葛城さんお待たせ!」
「キャッ!」
健が駆けつけ、土のオーブの力を借りて地中から土の防御壁を作り出した。これで攻撃はシャットアウトされ葛城は守られた。
「間に合った?」
「は、はい!」
ジョークを飛ばした健に照れ臭く笑いながら葛城は返事をした。立ち上がって二人は再び身構える。
「どうするカイ。このままでは埒が明かんぞ」
「シャドウマンティスもエスパーどもも、両方に構ってたら骨が折れる。ひとまず引き上げだ」
「ああ、闇のオーブを主に献上しなくてはな!」
「待て!」
ゴーレムたちは逃亡を図った。健は土のオーブと交換で風のオーブをエーテルセイバーにセットし、ゴーレムたちを追う。
「不破さん、わたくしと健さんでゴーレムから闇のオーブを取り返します。そちらはシャドウマンティスを」
「オッケー、『Y』のことは頼んだぜ!」
葛城は不破にこちらでゴーレムの相手をすることを伝え、健のあとを追った。
これでシャドウマンティスを倒すことに専念できる。絆や信頼を嘲笑い己の欲望のために宍戸を裏切り陥れた悪党だ。容赦はしない!
「お前のせいだぁ……、お前さえいなければ俺はぁぁぁ!!」
「カマキリ野郎、お前だけはオレの手で倒す!」
戦場は二つに分かれ戦いはますます激しさを増していく。闇のオーブは誰の手に渡るのか。