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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第2章 敵は非情のセンチネルズ
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EPISODE29:お世話になりました

 昨日から初めてのことだらけだ。たった数時間数日ふれあった程度の付き合いである、

 赤の他人の見舞いへ行き、幼馴染みのガールフレンドには昼食をおごる。

 そのあと怪しい組織に捕まり、もはやこれまでかと思ったが無事に脱出できた。

 逃走者として奈良県の中を駆け回り、つぶれたホテルで一緒に脱走してきたお姉さんと二人きり。

 そして、本来ならシェイドだけが通れる影や隙間を通り抜け、こうしてアパートの自室へ戻ってきた。一緒にいた女性――とばりさんを介抱することになったが。

 壮絶だ。実に壮絶極まりない出来事が、この2日間で起こっていたのだ。

 普通ならどう考えてもありえない。だが、不思議かな、体験した。数奇な出来事を味わってしまったのだ。アルヴィーに電話を入れたあと、健は彼女が来るのをひたむきに待ち続けていた。

 長いこと留守にしていた上にそばに女性がいるから、

 アルヴィーは嫉妬なり心配していたなりできっと怒るだろう。だが、彼女は何も悪くない。

 自分が悪い。元はといえば簡単に捕まってしまった、度胸なし、勇気なし、気力なしの自分が悪かったのだ。

 憤怒した彼女のほとぼりが冷めるまで、付き合おう。いかなる罵声も甘んじて受けよう。どんなに暗い夜でも、夜明けが訪れるまで。


「ね、ねえ。アルヴィー……まだ、怒ってる?」

「さよう、どうも機嫌が直らん。乙女心というのは複雑なものよ。フェミニストのお主はそれを一番良く知っておるはずだが?」


 眉をひそめ、腕を組んでそっぽを向いている。これは当分スネたままだろう。

 シェイドにしては『人間臭い』彼女らしいといえば彼女らしいが。恐らく、主が戻ってきたことを、

 素直に喜べないのだろう。なにせ、その戻ってきた主人はすでに幼馴染みの女と付き合っているのにも関わらず、別の女を連れて戻ってきたのだから。

 お互いに気持ちのズレが生じたのだろう。それでアルヴィーは『健が女遊びが好きだったとは、見損なった』と、勘違いを起こしてしまいヘソを曲げているのだろう。


「のう、健よ。どう落とし前をつけてくれるというんだ?」


 そんな折、アルヴィーがようやくこちらを向いた。怒っている――というか、呆れたというか、悲しそうな顔だった。


「え、えーと……明日の朝、あの人を家に送るから。それで、許してくれる……かな?」


 そう言い終えたとき、またそっぽを向かれた。どうやら、思ったより事態は深刻だったようだ。


「上がったわよぉー」


 少し緊迫した空気を和らげるように、気の抜けるような甘酸っぱい声が浴室から聴こえてきた。

 とばりが風呂から上がったのだ。現在、彼女が元々着ていた服は洗濯中。その代わりに、

 着替えとしてワイシャツを用意した。男性用の丈が大きいものだ、彼女にあうかは分からない――。


「健くん、シャワーとか着替えとか貸してくれてありがとう♪」

「え……あッ……あ……っ」


 目が点になった。いや、目からウロコか? 予想は的中だ。丈があわず、袖に手が隠れて指がなんとか出ている状態だ。すそからは下半身が見えたり見えなかったりしている。太ももと腰の辺りや、股の辺りが気になって仕方がない。そういえば、この人は下着をつけていただろうか。いや、それらはすべて洗濯中だ。明日には乾くが、今日中は無理だ。

 頭がどうにかなってしまいそうなくらい美しかった。鼻血が出るくらいドキドキしてきた。なにせ大人の女性が二人も――。


「……どうしたの?」

「い、いや、な、なんでもないで……す」

「さては興奮してるでしょ? あなたエッチなのねぇ」


 図星だ。否定できるわけがない。いや、否定しない。自分はハッキリ言ってしまえばスケベだ。

 そもそも、男が女に欲情してしまうのは自然の摂理。しょせん男は、そういうだらしない生き物なのだ。学生時代によくそう教えられてきた。今さら、この事実を否定するわけには行くまい。


「ふふっ」


そんな二人の姿を見て憤っている自分がバカらしくなってきたか、アルヴィーが微笑んだ。


「私も大人げなかったな。見ていてばかばかしくなってきた。この落とし前は、また今度つけていただくとしよう」

「えっ、許してくれるの!?」

「もちろんだとも」

「ホント? ぃやったーッ!!」


健が嬉しさのあまり、年甲斐にもなく大はしゃぎした。とばりもアルヴィーも、

 そんな彼につられて大いに笑った。先ほどまでそこに漂っていたギスギスした空気は洗浄され、マイナスイオンを含んだなごやかなものへと変わっていた。


「まあ、ごはんまで。本当になんてお礼言ったらいいのか……」


頬を染めながらとばりが微笑む。出された食事は、肉野菜炒めと味噌汁、

 そして白ごはんという簡素なものだった。だが、今のこの状況ではわがままなど言えない。

 腹が減っていれば、何もかもご馳走と思えるものだ。健に助けてもらってシャワーや着替えもさせてもらい、こうして料理まで振る舞ってもらっては、申し訳が立たないというもの。何かお礼がしたい。そんな気分だった。


「そんな、滅相もない。まだまだ素人ですって」

「……ふふふ、一番乗りだ! いただきますっ」


アルヴィーが先にハシをつけた。慌てて健もハシをつけようとするが、とばりに先を越されてしまう。


「食事とは弱肉強食、早い者勝ちだ。料理を作ったお主が出遅れるとは、笑ってしまうのぅ」


アルヴィーの小皿には既にたくさん具が盛られれていた。全体の3分の1くらいか。とばりの小皿も同様だ。このままでは、自分の分がなくなってしまう。アルヴィーにすがりつくと泣きじゃくるように、


「僕の分残しといてよぉ~!」

「そう慌てるでない。ちゃんとお主の分はとっといてあるぞ?」


いらない心配だった。アルヴィーがそう言うように、

 大きな皿には健の分の具がちゃんと残されていた。先ほどまで半べそかいていたのが嘘のように健は立ち直り、具と白ごはんとをかっ込んだ。そして、翌日。乾いた下着や白衣をとばりに返し、着させた。


「昨日はありがとう。あたし、あなたたちに世話になってばっかりね。なにかお礼しなきゃ……」

「いやいや、礼には及ばんよ。それに困ったときはお互い様ではないかの」


 家まで同行しようと申し出たが、彼女はひとりで帰れるというのでこうして見送ることとなった。とばりはにっこりと笑っていたが、どこか寂しそうだ。


「ところで、健くんは?」

「すまない、あやつは今おねむの時間だ。そなたを助けた上での敵地からの脱出と、自宅への帰還を最低2日はかけてやったからの」


それなら仕方がない、と、とばりは返した。


「あ、そうだ。メモ帳かなんかないかしら?」


 メモ用紙がほしいという、彼女からの最後の要求。受話器の横にあったメモ帳から一枚破ると、

 それをとばりへと渡す。とばりはそれに何かを書き込むと、アルヴィーへと手渡した。何が書いてあるのだろう。


「これは?」

「あたしのアドレスと住所よ。何かあったら、また連絡ちょうだいね。それから、あとであたしの家に来てもらえないかしら? 何か予定があったらそっちを優先してくれてもいいから」

「承知した。健にそう伝えておこう。では、さらばだ」

「バイバーイ、またね♪」


 笑顔で手を振り、とばりはアパートをあとにした。メモによれば、彼女は京都の西大路に住んでいるという。

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