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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第16章 究極の選択!
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EPISODE302:切り裂き魔は影にひしめく


 警察における最高機密である『Y』。『Y』について知っているのはごく一部の人間だけだ。果たしてその『Y』とはいったいなんなのだろうか。一介の婦警に過ぎない宍戸がそんなこと知っているわけがない。上司の村上に聞けばすぐにわかるだろうが、斬夜捜査官が言っていたようにこれは極秘任務だ。誰にも知られてはならない。


(村上主任は会議に出席中……。まだ、会議やってたよね?)


 捜査一課にある村上のデスクに何か隠されているだろうと予測した宍戸は、周囲の目を盗んでデスクの引き出しの中を探り始める。

 『Y』に関するディスクかUSBメモリか、そういったものが引き出しの中に入っているはずだ。USBやディスクではなく書類という可能性もあるが、フロッピーディスクはまずないだろう。

 なにせ最高機密だ。宍戸にはフロッピー程度の容量に収まるようなちっぽけな内容とは思えなかった。


(……あった!)


 やがて『TOP SECRET “Y”』と書かれたUSBメモリを発見した。本当はこんなドロボウみたいなことはしたくない。だが斬夜のためだ。やむを得ない――。宍戸はUSBメモリを取り出して懐に仕舞い込むと村上のデスクをあとにした。

 ――彼女は最高機密のことも知らなければ、斬夜に騙されていることも知らない。愚かなことだ。その純粋な心につけ込まれ、もてあそばれたのだ。


「ふー。まったく、お偉いさんのご機嫌とるのも楽じゃないな」


 しばらくして村上が捜査一課の部屋に戻ってきた。短い青髪でメガネをかけたダブルスーツの男性だ。「アレ、どこにしまってたかな」と、引き出しの中を探るも――探しているものは無かった。怪訝な顔を浮かべた村上は、何かに感付いた様子でデスクをあとにした。


「……これは……!」


 警視庁地下にあるシェイド対策課のモニタールーム。宍戸はUSBメモリをコンピューターに差し込んで中に保存されていたデータを解析していた。やがて、データの内容を目の当たりにして息を呑んだ。

 ――そのデータをUSBメモリから別のUSBへとコピーして、宍戸はコピーしたほうのUSBを取り出す。あとは斬夜に渡すだけだ。データのコピーを行っている途中、そこに――村上が現れた。必死で走ってきたのか肩で息をしている。


「宍戸、何してる! 早く作業を中断するんだ!」

「村上主任!」

「宍戸ちゃん、自分がやってることが何なのかわかって……ウッ!?」


 辛そうな顔をして宍戸は村上の腹をパンチする。「よ、よせ……早まるな」と、警告しながら村上は気を失った。村上が気を失っているうちにと、宍戸はコピーが完了したのを確認するとUSBメモリを抜き、コピー元のUSBメモリを村上のポケットに入れてモニタールームから立ち去った。



 斬夜に『Y』の情報を手に入れたと連絡した宍戸は、待ち合わせ場所である――剣崎ビルという雑居ビルの跡地に向かった。十数年前までは賑わっていた剣崎ビルだが、経済上の都合から経営が困難になりあっという間に薄暗い廃墟となってしまった。

 全5F建てである剣崎ビルの最上階――斬夜はそこにいた。ノートパソコンを持参して。


「やあ、遅かったじゃないか」

「斬夜さん、お待たせしました。この中に『Y』に関するデータが入ってます」


 宍戸は斬夜に『Y』のデータをコピーしたUSBメモリを手渡す。「ヒュー」と口笛を吹いて、斬夜はノートパソコンにUSBメモリを接続。その内容に目を見張り、感激した。


「ひゃはははははッ、やったァァ〜〜〜〜ッ」


 感激するあまり声を裏返してまで高笑いを上げ、斬夜は宍戸のほうに振り向く。それまでの紳士的な態度から一転し、下卑た笑い顔で。


「き、斬夜さん?」

「ご苦労さん」


 宍戸の首筋に手刀をかけ這いつくばらせると斬夜は彼女に鎖を巻き付ける。それもすこぶるイヤらしい顔をしながら、だ。


「どういうことなの、NY市警から与えられた極秘任務って……」

「ウソに決まってんだろヴァ~~~~カ!! これで『Y』は僕たちのものだ!! ヒャハハハハハハハハハハ、アヒャーッハハハハハハハハ!! ゲホッゲホッ、ウヒャハハハハハハハハハハ!!」


 ついに斬夜は本性を露にした。宍戸をあらんかぎりに罵って嘲笑い、むせるほどに狂気じみた高笑いを上げる。


「ど……どうして」

「おとなしくしてろぉ。君にはまだまだ働いてもらわなくちゃならないからね、クックック」


 鎖で縛り付けた宍戸を木箱に蹴飛ばして、斬夜はノートパソコンの回線を警視庁地下のシェイド対策課まで繋げた。またも放送禁止モノの下卑た笑いを浮かべて。



「警察の諸君聞こえるか!」


 その頃、シェイド対策課のモニタールーム一面に斬夜の下卑た顔が映し出された。オペレーターたちや起き上がった村上はそれを見て表情が凍り付いた。――ハラワタが煮えくり返るほど鬱陶しいドヤ顔だったことは言うまでもない。


「斬夜!?」

「宍戸小梅巡査は預かった。返して欲しければ代表者をひとりよこせ、そいつに『Y』を持たせて交換だ。もしおかしなマネをしたら宍戸巡査の命は無いと思え! ヒャハハハハハ!!」


 斬夜からの通信はそこで切れた。身代金として要求された、かけらも知らぬ『Y』の名を聞いた一同――村上以外は動揺する。


「村上さん、『Y』というのはいったい!?」

「現時点での警察の最高機密だ。僕を含めたごくわずかなものしか知らない。すまないがこれ以上は教えるわけにはいかない」


 苦い顔をして女性オペレーターの落合(おちあい)の質問に答える。もうひとりの女性オペレーター、(かなめ)は「誰を行かせますか?」と冷静に振る舞いつつも内心で焦りを感じながら村上に問うた。


「……僕が行こう。こうなったのも僕の責任だ」

「え? しかし、もし村上さんの身に何かあったら私たち……」

「大丈夫だ、必ず宍戸ちゃんを連れて戻ってくるさ」


 ネクタイの尾をしめて、村上は決心を固めた。不破は現在、強盗殺人犯を追っていて不在だ。戦闘班を出そうにも護衛をつければ宍戸が殺される。それについては斬夜に見つからないようにすればいい。

 不破については急に呼び出して捜査から外すわけにはいかない。よって自分が行くしかないのだと、村上はそう決断していた。


「あとのことは頼むよ」


 村上は清々しい顔で、オペレーターたちに一度だけ振り返った。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 しばらくして剣崎ビルへ一台の青を基調とした大型トレーラーが向かった。トレーラーから降りた村上はコンテナ内部にいる戦闘班に合図があるまで待機するように伝え、ビルの5Fまで向かった。もちろん『Y』を持って。


「待たせたな斬夜!」

「ん? これはこれは。村上主任じゃないですか。不破さんはどうしました?」

「あいにく彼は人気者でね、忙しいから代わりに僕が来たんだ。『Y』は持ってきた、宍戸ちゃんを返してもらおう」

「安心してください。あなたが哀しむだろうと思ってね、傷ひとつつけちゃあいない」


 斬夜がいる5Fまで上がった村上は、彼と対峙して宍戸を返すように要求する。トレンチコートの懐から取り出した闇のように黒く輝く珠――『Y』を取り出すと斬夜に近付く。斬夜の脇には鎖でがんじがらめにされた宍戸がいた。


「これが『Y』だ。さあ、宍戸ちゃんを」

「フッ。これが『Y』か……なるほどね」


 『Y』を見てにやついた斬夜は宍戸を解放する。と、同時に右腕から赤い鎌を出して村上を斬った。


「ウウッ!」

「きゃっ!?」


 鮮血が吹き出し村上がうめく。斬夜は不敵に笑い、全身を緑が混じった黒い霧で覆って本来の姿である骸骨のような顔をしたカマキリの上級シェイドへと変身した。緑と黒を基調としており両腕には鋭い鎌を生やし膝関節にはドクロが埋め込まれているなど全体的に禍々しい容姿だ。


「ククククッ……。宍戸巡査にはここまで耐え忍んだ褒美をあげたいと思ってね。ショーでも見せてあげたいところだ」

「ショーだと?」

「そうだ。囚われの姫君を助けに来た白馬の騎士様が目の前で無様に殺されるショーをな!!」

「っ!」


 宍戸をかばいつつ村上は斬夜ことカレエダカマキリのシェイド――シャドウマンティスの鎌をかわす。


「悪いがショーのシナリオは変更だ。白馬の騎士はお前を倒し、姫とともに帰るべき居場所へと戻る!」

「変更は出来んぞぉ!」


 啖呵を切った村上の言葉を鼻で笑うシャドウマンティスは、赤く光る巨大な複眼から溶解光線を発射。光線は村上の肩をかすり鉄骨を溶かした。振り返った村上は溶解光線の破壊力に冷や汗をかく。


「この昆虫野郎!」

「ギレェェェエッ!!」


 村上が拳銃から撃った銃弾を、シャドウマンティスは鳴き声を上げながら鎌で切り刻む。


「くっ、さすがに上級のシェイドだけあるな……」

「『Y』をいただいたついでだ。あなたには今まで世話になりましたが、まずはじめに死んでいただきましょうかねえ!」


 下品に笑いながら鎌を鳴らすシャドウマンティス。メガネ越しに彼を睨んだ村上は、「宍戸ちゃん下がれ!」と宍戸に指示を出す。


「あ゛?」

「貴様に渡すくらいなら……」


 剣呑な表情で村上が取り出したのは、赤く浮き出たスイッチ。何のためらいもなく村上はそのスイッチを押した。同時に……黒い輝きを放っていた『Y』が点滅を始めた。シャドウマンティスは赤い眼を見開いて苦い顔をする。


「な、なにい……」

「伏せろ!」


 村上が叫んだ瞬間にカウントダウンは終わり『Y』は大爆発を起こした。村上は怯える宍戸を身を挺して爆風から守る。この行動が表しているように村上は大事な部下を見捨てるようなことはしない。たとえ秘密を漏らしてしまおうとも――。


「やったか……」

「ギレエエエエエェェ!!」


 やっていなかった。シャドウマンティスは奇声を上げながら炎の中を抜け出し、鎌から衝撃波を放って村上の肩を切り裂く。悲痛な叫びとともに村上の血が周囲に飛び散った。


「貴様ぁ、機密事項より自分の部下のほうが大事だというのかぁ! 情報を外部に漏らしたメスブタのどこがいいんだあ!!」

「そりゃ大事さ。でもね、天秤にかけたら部下のほうが重たかった! 見捨てるわけにはいかないんだ!」

「じゃあ一緒に死ね!!」


 宍戸をかばいながらシャドウマンティスが振り下ろした鎌を避けて、村上は無線を取り出すと、「戦闘班突入せよ!」


「なにい?」

「悪いな、元々怪しかったお前がシェイドだとわかってますます信用できなくなったんでね!」


 村上の合図とともに待機していた戦闘班がフロアに突入した。黒いバトルスーツをまとった戦闘班はマシンガンでシャドウマンティスを迎撃。だがシャドウマンティスは弾幕を切り刻んで、迎撃してきた戦闘班に衝撃波を放ち惨殺した。


「ギレエエエエエェェ!!」

「うわああああぁ〜〜!?」


 奇声を上げたシャドウマンティスは次々に溶解光線や斬撃を放ち、戦闘班を虐殺していく。このままいけば剣崎ビルは血の海となってしまうだろう――。


「ギレギレエエエェ!!」

「み、みんな……ぐはっ!?」


 シャドウマンティスの凶刃は村上にも振り下ろされまたも鮮血が飛び散る。大勢いた戦闘班はあっという間に数人を残すだけとなり、村上もたったいまシャドウマンティスによっていたぶられはじめた。鋭い鎌を叩きつけられ、足で何度も踏まれ――。黙って見ていることしか出来ない宍戸の心はひどく痛んだ。


「ヒャハハハハハ! クズどもが何人束になろうと結果は同じだぁ! このシャドウマンティスの鎌に切り刻まれるだけなんだからなあ!!」

「うっ! く、うわあああああああぁぁぁ!!」

「ヒャハハハハハ! ウヒャハハハハハハ!!」

「ぐわああああああ!!」


 シャドウマンティスの残忍かつ執拗な攻撃はなおも続く。宍戸の目からは涙がこぼれ、いても立ってもいられなくなり――。


「や、やめて! もうやめて!!」

「やめろと言われてやめるバカがどこにいる!? お前のようなバカで出来損ないの女を助けに来たばっかりにこいつは殺されるはめになったんだぞぉ!!」

「やめて……お願い、やめて!!」

「ま、怨むんなら自分を怨むんだね。騙されるほうが悪いんだよ! ヒャーッハッハッハッハッハ!!」


 宍戸の涙を嘲笑いながらシャドウマンティスは攻撃を続ける。村上は全身から血を流しており満身創痍だ。

 オペレーターでありただの人間でしかない宍戸には戦う力などない。戦闘班も役には立たない。もはやこれまでだ。



 ――かに、思えた。



「フォーリングサンダー!!」

「え? う、うぎゃあああああああああッ!」


 低音の男性の叫び声が響くと、摩擦熱と稲妻を帯びた声の主が天井をぶち破り着地。シャドウマンティスをぶっ飛ばした。


「ふ、不破!」

「不破さん、来てくれたんですね!!」


 ――その男、不破ライ。捜査一課の刑事であり、シェイド対策課のエースだ。


「き、貴様……!」

「騙されるほうが悪いって? バカ野郎、――騙すほうが悪いに決まってんだろッ!!」


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