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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第16章 究極の選択!
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EPISODE300:折れた翼! ファルコンよどこへ向かう


 板倉陸橋下にて勃発したまり子とワイズファルコンの決闘はなおも続き、激しさを増すばかりだ。ワイズファルコンの掌から巻き起こされた真空波がまり子を襲い切り刻む。

 しかしこの程度の傷でやられるようなまり子ではなく、受け身の姿勢からのパンチで反撃に出て逆風の中を突き抜ける。次にワイズファルコンの下顎からアッパーカットを突き出し吹っ飛ばした。


「小癪な! ファルコンフェザーストーム!!」


 ワイズファルコンは空へ飛び立ち、羽根手裏剣を叩きつける雨のごとく激しい勢いで飛ばす。まり子は瞬間移動を繰り返してすべて回避し、念動力で自分の体を空中に浮かせた。


「そ、そんなバカな! なぜあなたが空を?」

「念動力にはこういう使い方もあるってことよ!」


 苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、ワイズファルコンはまり子を追う。念動力で肉体を浮遊させることは出来ても、やはりスピードではワイズファルコンがはるかに上回っている。

 空中をホームグラウンドとし神速を誇るワイズファルコンを相手にどう立ち回るか――? それが問題だ。


「糸居まり子、なぜ私が先程あなたに降伏を迫ったかわかりますか? 無益な殺生はしたくないからです」

「そう。悪いけど降伏してくださいって言われても、はいそうですかなんて言うつもりはない」

「なに?」

「わたしだってあんたほどの女がもがく姿をこれ以上見たくない! あんたこそ負けを認めなよ」

「……それだけは、それだけは絶対に出来ないッ!!」


 殴り合い、蹴り合いが続く中でみたび両者の意地がかち合って火花を散らす。

 ワイズファルコンは一瞬の隙を突いて翼を打ち付けまり子を引き離し、掌からの竜巻で彼女を吹き飛ばす。後頭部から地面に打ち付けられるも起き上がったまり子は空中に舞い戻り、ワイズファルコンに上段回し蹴りを叩き込んで地べたへ落とした。

 顔面から容赦なくである。まり子は地上に降りてワイズファルコンの周囲に出来たくぼみに近寄った。体を起こしたワイズファルコンはまり子を睨み歯を食い縛る。


「なぜだ。なぜお前はそこまでして人間に肩入れする? 優れた英知を持っていながら首の絞め合いを続けてきた人間を! なぜだ、なぜだあああああああッ!!」

「どうしてか知りたい? ……わたしが元々人間だったからよ」


 頭を抱え胸が張り裂けそうな調子でワイズファルコンは絶叫し、まり子に訴える。まり子は神妙な顔をして人間に肩入れしている理由を明かした。冷静なタイプであるワイズファルコンもこれには動揺を隠しきれず、瞳孔が開き言葉を失った。


「たとえシェイドになっても心は人間のままでいたかった。だからわたしは人に害をなすシェイドを葬っていったの。わたしが人間であり続けるために」

「……」

「神様もいじわるなことするよね〜、わたしは普通の女の子でいたかったのに」

「……そうか、そういうことか……。は、ははッ、あははははははははッ! あはははははははははッ!!」


 哀愁漂う笑みをこぼしながら語るまり子。ショックを受けたのが一周回って吹っ切れたか、ワイズファルコンは狂気じみた笑い声を上げた。


「心だけは人間であり続けることを証明するためにシェイドを殺し続けただと? ますます許せない!」

「ッ!」


 高笑いから一転して憤ったワイズファルコンは羽根手裏剣を飛ばしてまり子を牽制。翼をはためかせ空へ飛んだ。


「もはや情け無用だ!! 我が最大の奥義で貴様を存在ごと消してやる!!」

「ああもう……見苦しいわね!!」


 空中からまり子を見下ろしながらワイズファルコンは不死身であるまり子に死を宣告する。

 ほとほとあきれがついたまり子は疲れたような顔をしてワイズファルコンをなじった。


「これで終わりだッ! ウィングアナイアレーション!!」


 満身創痍のワイズファルコンは雄叫びを上げ、翼にくるまれて神速で回転。竜巻をまとって地上にいるまり子へ向けて突進していく。

 ――解せない。元々人間であったというあの女はシェイドになってから人間の欲深さと汚さに絶望しなかったのか。他者を糸で縛り付けて動けなくし、肥え膨れたところを喰らう蜘蛛であるあの女はなぜあそこまで自由奔放なのだ?

 空を自由に飛ぶファルコンである私が唯一絶対の存在たるクロノスに縛られていて自由に飛べなくて可哀想だ、とでも言いたいのか。それ以外に何もないのだと哀れんでいるのか?

 解せない。ますます解せない。だがそうやって思い悩むのも今日で終わりだ。不死身のバケモノであるあの女を二度と再生できなくなるまでズタズタに切り裂いてくれる!


「ウェアアアアアアッ!!」

「防げッ」


 ワイズファルコン最大の奥義・ウィングアナイアレーション。まり子はそれをバリアーで防ごうとするが、逆にバリアーを破壊された。だが、まり子はバリアーを突き破ってきたウィングアナイアレーションをなんと片手で受け止めた。


「うううう〜〜ッ」


 手がねじ切れそうなほどの振動と衝撃が伝わる。耐えがたい激痛だがこのまま手を離せば自分の体は貫かれ五体をバラバラにされるだろう。

 バラバラにされるくらいならこんなものは――打ち消す! まり子は、黒い糸を巻き付けて変化させた右腕でワイズファルコンが放ったウィングアナイアレーションを――打ち消した。


「はっ!?」

「うおりゃあああああああああああ!!」


 最大の奥義を打ち消され、動揺して隙を見せたワイズファルコンにまり子は容赦ない一撃を加える。更に髪の毛を巨大な禍々しい蜘蛛の爪に変化させ何度も突き刺した。


「はあっ、はあっ……」

「とどめよ! レストレスヴェノム!!」


 四つの蜘蛛の爪からサイコパワーがまり子の両手に収束。最大限まで溜まったそのとき、極太レーザーとなってワイズファルコンを貫いた。


「うっ……うわああああああああ〜〜〜〜ッ」


 レーザーが収まり、断末魔の叫びとともにワイズファルコンは大爆発した。炎の中には、人間態になって満身創痍で横たわるワイズファルコンこと鷹梨の姿があった。

 ――戦いは終わった。まり子の顔からは蜘蛛の巣の紋様が消え、右腕も元に戻った。インナーはそのままだ。

 剣呑な表情も穏やかに、まり子は横たわる鷹梨に近付いて手を差し伸べる。


「さわるな!」

「痛っ!」


 だが、鷹梨はその手を取らずに叩いた。


「なぜ私にとどめを刺さなかった?」

「さあね。気まぐれな風が吹いたってところかな」

「私に生き恥をかかせようっていうの……? 殺せ! 殺して、早く殺して! みんなに顔向け出来ない!!」

「誰もそんなこと言ってないじゃない」


 敗北したからには生き恥を晒すわけにはいかない。潔く死ぬつもりでいた鷹梨を諌め、まり子は鷹梨の肩に手を乗せた。――かつて己の信念と矜持をかけて健に敢然と挑み、散っていったひとりの勇士のことを思い出していた。


「あなたみたいなことを言って死んだヤツをひとりだけ知ってるの。そいつと同じ目にあわせたくはない」

「え?」

「アンドレよ」

「……アンドレさんが? まさか私が出張で留守にしていた間に……」


 アンドレ。スキンヘッドの屈強な黒人男性の姿に化身していたクロサイの上級シェイドだ。

 シェイドでありながらターゲット以外は殺さず、高潔で誇り高い人物だった。やるせなさと哀しさが混じった複雑な顔をして鷹梨はうつむく。口には出さなかったがまり子もこのことについてはまり子なりに気にかけていた。


「わたしもさ、話せばわかりあえそうなヤツまでやっつけちゃうほどバカじゃない。あなたは生きて、鷹梨ちゃん。甲斐崎さんなんてほっといてあなたの好きに生きてみなさい」

「……好きに生きてみなさい、か……」


 誤解していた。冷酷でつかみどころのない女王は、本当は無邪気で明るく優しかった。かつて人間だったからこそ持っていた温かさもあった。険しくて悲しみに満ちていた鷹梨の顔はだんだん穏やかなものへと変わっていく。


「! 伏せて!」


 そのとき、金属音が混じった足音が聞こえてきた。更に銃声が響き、まり子は鷹梨を銃撃からかばった。紫の血がまり子の背中から飛び散る。


「生体エネルギー反応あり! 抹殺! 虐殺! 減殺!」


 逆三角形のバイザーを光らせながら現れたシルバーとグリーンを基調としたボディのメカ生命体――デルタゴーレムは決まり文句を言いながら手にした大型銃を向ける。

 傍らには藍色を基調とした顔にΧ(カイ)の記号の意匠があるメカ生命体――カイゴーレムの姿もあった。


「敵ながら友情が芽生えるとは、泣かせるねえ。だがそこまでだ。お前たちのような危険分子は抹殺する!」

「死ね!!」


 デルタゴーレムは大型銃を向け、カイゴーレムは右腕のレールガンを二人に向けた。傷を再生させたまり子は目付きを鋭くしてメカ生命体に振り向き、鷹梨の前に立つ。次の瞬間、瞳を紫に輝かせ念動波を放ってゴーレム二体の動きを止めた。システムを狂わされたゴーレム二体は悶え苦しむ。


「いいところに水差さないで!!」

「「グワアアアアアアァ」」


 空気を読まずに現れたゴーレム二体を青紫のエネルギー弾で彼方まで吹っ飛ばすと、まり子は肩の力を抜いて一息ついた。


「さ、わたしの気が変わらないうちに帰りなさい」

「……礼なら言いませんからね! さよなら!」


 強がりを言うと鷹梨は背中に翼を生やして飛び去った。羽根が舞い散り地面に落ちる。


「フフッ。強がっちゃって」


 鷹梨を見送ったまり子は、その場でコートを作り直して自身も健たちが待っているアパートへ帰ることにした。どんより曇っていた空には光が射し込み、晴天となった。


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