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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第16章 究極の選択!
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EPISODE299:譲れぬ思い! 荒ぶるハヤブサの爪


 両者の心境の表れか、空はどんよりと曇り雷鳴が轟きはじめた。立ち上る煙の中に突っ伏しているワイズファルコンの姿を見たまり子は、少し驚くも笑みを崩さなかった。


「すごーい。やっぱり生きてたんだ」

「な……なめるな、害虫……」


 うめき声を上げて立ち上がったワイズファルコンの鳥の仮面は破損しており、左目が晒されている状態だ。白目は黒く、瞳は金色。肌が青白いためより異質さと不気味さを引き立てていた。


「まだ勝負はこれからです。あなたは私の誇りを、いや……シェイドという(しゅ)の誇りに傷をつけた。シェイドという種の名を汚した!」

「わたしが種の穢れだってだっていうの。フフッ、バカね」

「なにぃっ」

「そもそもわたしはね、あんたたちのことなんて同胞どころか糸屑、いや脱いだ靴下くらいにしか思ってないの。わたしのこと憎いって言うんだったら同胞扱いするのやめてもらえないかな?」

「穢れは祓うべきもの。肉体までは滅ぼせなくても、せめて精神だけは」

「ズタズタに出来るの? あんたなんかにわたしの心を?」


 まり子は涼しい顔をしながら悪魔のごとく哄笑する。自分の言葉を、考えをここまで否定されてはワイズファルコンにとってはこれ以上ないほど屈辱的だ。ワイズファルコンは唇を噛み締めて拳を震わせた。


「残念ねぇ。わたしの心はとっくの昔にズタズタのボロボロになっちゃってました〜。そんなの慣れっこですよ~だ」

「くうう~~ッ」

「……はぁ。穢れってむしろあんたなんじゃないの。甲斐崎さんに従うのが、本当に正しいと思う?」

「言ったはずです。甲斐崎社長は私たちにとって唯一絶対の存在、神にも等しいと。そうだ、私は間違ってなどいない!」

「へぇー。じゃあ甲斐崎さんに対して一片の疑問も抱かなかったんだ? ただ従うだけが忠誠とは思えないんだけど」

「服従を誓わずして何があの方の秘書だ! 私は間違ってなどいないッ!」

「そう思い込むのが間違いなのよ!」


 二人の意見がぶつかり合う中でワイズファルコンはまり子を睨み、喉に爪をあてがう。腕を掴んだまり子はワイズファルコンを投げ飛ばした。


「ウェアアアアアアッ!」

「ッ! 神速で動き出したか!」


 雄叫びを上げ、ワイズファルコンは超高速を、いや音速・光速をも凌駕する――神速で動きハヤブサの爪で切りかかる。まり子は蜘蛛の爪で受け止めやり過ごす。

 通常の銃弾程度ならまったく通さないが防御に専念するならばバリアーでも張ったほうが安心できる。要するに攻撃はともかく防御はやや心許ないのだ。


「そのきれいな顔が醜く歪むまで切り刻んでやる! 食らえ、バルバリティレイヴ!!」


 両手を交差して、ハヤブサの爪を研ぎ澄ませたワイズファルコンは腕を広げて飛翔。神速で飛び回りながらすれ違いざまにまり子を切り裂く。


(っ、速い! それだけじゃない、威力も段違いだわ!)


 まり子は、神速で次から次へと襲い来る爪から身を守ることで精一杯だ。両腕で受け身の姿勢を取り巨大な蜘蛛の爪も防御に使っているがいよいよ限界だ。


「とどめええぇぇええッ!」

「うわあああああああッ!!」


 そして、フィニッシュがまり子に叩き込まれまり子の体は宙を舞った。切られた髪の毛と蜘蛛の爪も宙に舞い、まり子は頭から地面に落下して歯を食い縛る。

 いくら不老不死といえども肉体に痛みを感じないわけではない。多少我慢すれば受けたダメージは自然に回復するが、もし敵がその時間すら与えてくれないとしたら――?


「う、うう……っ、はああっ」

「うっとうしい髪の毛がバッサリ切れて清々しい気分でしょう。これで蜘蛛の爪は生成できまい」


 ニヤリ、と、地上に降り立ったワイズファルコンは口の右端を吊り上げる。背後には髪を切られてうなだれているまり子の姿がある。短く切られたことでさっぱりとした印象を周囲に与え顔にはかすり傷がつき、体の随所に切り裂かれた痕が出来ていた。


「くっ、よくも……女の命を!」

「さあ、顔か腕か、足か。次はどこがお望みです? どちらにせよあなたが二度と再生できなくなるまで私は手を休めない」


 苦痛に喘ぐまり子の前でワイズファルコンは目付きを鋭くして次に狙う部位を定めんとしていた。精神攻撃が基本なら、部位を破壊するのもまた基本。相手の持つ厄介な技や能力を封じられるかもしれないからだ。


「……フフッ、アハハハ、アハハハハハハハッ!! やるじゃない。どうせ本気なんだったらこれくらいやってくれなきゃ」

「ば……バカな!?」


 ところが苦痛に喘いでいたまり子は薄ら笑いを浮かべて、ゆっくりと地に足を着ける。切られた髪はまた生えて元の長さに戻り、傷も再生して元通りとなった。再生した際に髪は広がり体は躍動し、一瞬豊満なバストも揺れた。以上、瞬間的に起こった息を呑むような出来事である。


「賢い鷹梨ちゃんらしくないわね。これくらい予想ついてたんでしょ?」

(くうっ、やはりこの女底無しなのか。いったい彼女のどこにこの余裕の源があるというのだ)


 確かに予想はついていた。それでも今の光景には驚くしかなかった。焦燥を覚えたワイズファルコンの額から汗が流れる。


「……髪は女の命と言いましたね。何度でも再生できるのになぜ一回切られたくらいでそう言い切る? 単に生まれてから一度も切っていないというだけでしょう?」

「半分正解。けど半分違う」

「では、なんなのです?」

「この体は生みの母にもらった大切なもの。髪を生まれてから一度も切ってないのは、命の次に大切なものだから」

「フッ、笑止な。あなたはバカな女だ。伸ばしすぎてもかえってうっとうしいだけではないのですか」


 憎い相手の言い分が正しいわけがない。ワイズファルコンはまり子の言葉を鼻で笑った。


「あなた自身も大して怒っていないことからそんなものはうわごとだ! くだらないうわごとを言っている暇があったら今すぐ降伏して負けを認めなさい!」


 ワイズファルコンはまり子を指差して降伏を迫る。いくら不死身だろうと二度と再生できなくなるまで切り刻めば死ぬだろう。不死鳥でもない限り肉片ひとつから、ましてや髪の毛一本から蘇生することなどまずありえない。


「フフッ、そう見えるの? 心の中はね、あなたに対する怒りで煮えたぎっているんだけど」

「どういう意味です?」


 微笑していたまり子の表情が冷徹なものへと切り替わり、タレ目ながらも威圧的で近寄りがたいオーラが漂う。


「わたしの顔が醜く歪むまで切り刻むって? なら、わたしはあんたの翼もぎ取って二度と空を翔べなくしてあげる」

「なんだと?」

「身を持って蜘蛛の女王の恐ろしさを味わうがいい!」

「害虫め、まだそんなことを!」


 ワイズファルコンは飛翔し、まり子はワイズファルコンを見据えて左手から念動波を放つ。フライトを邪魔されたワイズファルコンは険しい顔で羽根手裏剣をまり子へ飛ばす。

 まり子は自分へ向けて放たれた羽根手裏剣を瞬間移動でかわし右手から青紫のエネルギー弾を発射。ワイズファルコンは翼で打ち消し、手から竜巻を放ってまり子を吹き飛ばした。受け身を取ったまり子は体勢を整えて、地にしっかりと足を着けた。


「お前こそ図に乗るなよ害鳥! 今にも縛り付けて翔べなくしてやるわ!」

「愚かな。蜘蛛ごときの糸で身動きが出来なくなるほどハヤブサが軟弱な生き物だと思うか!」


 空を飛ぶワイズファルコンを見上げてまり子は冷酷に挑発。ワイズファルコンは挑発を軽くあしらい羽根手裏剣を飛ばして牽制する。


「ちぇぇぇぇい!」

「~~~~~~~~ッ」


 行き先に羽根手裏剣を放って身動きを封じたところでワイズファルコンは足を突き出して急降下。まり子の右肩を鷲掴みして悶絶させる。まり子が感じたものは激痛のみならず傷つけられたことから来る刺激と――快楽だった。


「はあっ!」

「ううっ、クッ!」


 左手でワイズファルコンの足に手刀をかましてまり子はホールドから逃れ、髪の毛を翻してワイズファルコンにサマーソルトキックをお見舞いする。右肩から血が流れ出ようと関係ない。吹っ飛ばされたワイズファルコンは体勢を立て直し爪を研ぎ澄ましてダイビングする。狙いはまり子の右腕、それの切断だ。


「ウェアアアアアア!!」

「あ゛あああああああぁぁッッ!?」


 そして、まり子の右腕がハヤブサの爪によって切り落とされた! 赤みを帯びた紫の血が豪勢に吹き出し、まり子は天を仰ぐほどの痛烈な悲鳴を上げてもがいた。


「次は左だ! 間もなく両足と頭も切り落とす!」

「フフッ、いいの……ここまでやっちゃって」

「まさか怖じ気付いたわけではないだろうな!?」

「何が起こるか、今に見てなさいな」


 まり子は左手で右肩を押さえつけて体を震わせる。にゅるにゅると生々しい音を立てて右腕が再生したが、手の甲を勢いよく突き破って鋭く長い蜘蛛の爪が飛び出した。


「そんなこけおどしにはかからんぞ!」

「フッ!」


 まり子はコートを脱ぎ捨ててワイズファルコンに投げつけて視界を封じる。糸で取り繕ったインナーだけになるとスパイダーウィップでワイズファルコンを薙ぎ払い転倒させた。


「貴様、ポールダンスでも踊るつもりか?」

「バカね。そんなわけないでしょ」


 今のまり子は黒い糸で作られたインナーを一枚着ている状態だ。防御面では心許ない。

 爪が飛び出した右腕は黒く染まり、まり子の美しい外見に似合わぬ禍々しい印象を与える。左腕はそのままだ。感情が極限まで高ぶった状態を維持している影響か、もろい素肌を守るために体の随所に黒い糸が巻き付いているのが見られる。どっちにしろ露出度は高い。


「どうするの? 恐ろしい魔女を殺して英雄になるか、魔女に殺されて名誉の死を遂げるか。選びなさい」

「名誉は望まない。あなたを打ち倒し同胞の無念を晴らす、それだけだ!」

「そうよね。魔女狩りも魔女裁判もとっくに終わってるもんね!」


 舌戦を繰り広げる二人は互いに突進して拳を交わし、エネルギーがぶつかり合って――大爆発が起きた。


「フッ」

「はっ!」


 対岸に立った二人はにらみ合い、出方を伺う。いったい誰がために戦うのだ? まり子は、己のために、愛する人間を守るために。ワイズファルコンは、同胞の無念を晴らすために。

 たとえ間違っていようとも、二人にはそれぞれの正義と信念、誇りがあったことは確かだ。



「行くぞおおぉぉッ!!」

「うおおおおおお〜〜ッ!!」


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