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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第2章 敵は非情のセンチネルズ
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EPISODE28:早くおうちに帰りたい

 命からがらセンチネルズが所有する研究施設を抜け出した健は、隣の独房で捕まっていた女性を連れて逃亡を続けていた。追っ手は今のところは来ていない。野山を抜けたらそこは取り付け道路だった。お互い名乗りあったりしながら、とりあえず寝泊まりができそうなところを探す。


「ここまで来たら大丈夫なはず……」


「きれいね~」


  辺りは、すっかり真っ暗だ。満月が天に輝き、星々が夜の空を飾っていた。今の状況が呑めていないのか定かではないが、研究員の女性がのんきに空を見上げて目を輝かせていた。


「とばりさん、今はそんなこと言ってる場合じゃ……」


とばりと――そう呼ばれた研究員の女性は、冷静沈着で知的な雰囲気を漂わせていた。おまけに美しい。青みを帯びた美しい黒髪は満月に照らされ、透き通るようなその肌もいちだんと艶やかに照らされていた。更に、白衣とその下に着た藤色のシャツに開いた胸元から、豊満な乳房がのぞいている。ベルベットスカートもスリットが深く、一瞬下に何も穿いていないのでは、と、相手に錯覚させてしまうほどだ。


「もしかしてここから先、どうするか不安なの?」


健がとばりに抱いていた『少し子どもっぽいな』という印象はこの時あっけなく覆された。彼女は、ものの見事に言い当てていたのだ。健が本心で何を考えていたかを。


「それなら大丈夫よ。別に野宿することになっても、文句なんか言わないわ」


「ですけど、もし見つかったら……」


「そのときはそのときよ。匿ってもらえそうなところ、探したらいっぱいあるんじゃないかしら? みんながみんな、必ず匿ってくれるってわけじゃないけど」


 不安なあまり少しぐずっていた健を諭すように、彼女はそう言った。


「……ありがとうございます。よく考えたら、ぐずるより行動したほうがいいですよね」


 健もようやく落ち着き、安堵の息をして少し微笑んだ。気持ちに整理がついたところで、二人は再び寝泊まりできそうなところを探しはじめた。この際、掘っ立て小屋でも僻地のボロ屋でも、プレハブ小屋でも誰にも使われていないようなあばら家でも、最悪電灯の下や公園のベンチでもいい。少しくらい寒くても我慢だ。


「見てください、とばりさん。いい物件がありましたよ!」


「ホントね。おんぼろだけど良さそう!」


 やがて、道のはずれに廃棄されたホテルを見つけた。見た目はボロボロで中は汚いが、ベッドから少しホコリを払えば寝られる。とりあえずロビーへ入り、ロウソクにマッチで火を点けて暖をとる。


「やったね! ここなら寒くないわよ」


「そうですね! ところで、ここってどこなんでしょう?」


 そういえば、ここが日本のどこに当たるのかまだ知らなかった。健は、頭の中でひとりでに考察をはじめる。が、思い付かない。なので、とばりと一緒に考えることにする。


「僕たち、センチネルズの研究施設に捕まってたんですよね? この前浪岡っていう怪しい人からもらった名刺に……」


「……ねぇ、ちょっと待って」


 それまでお気楽そうにしていたとばりが、突然眉をしかめた。


「いま、なんて言ったの?」


「えっ、だから浪岡さんって人が名刺を……」


「そうじゃなくて。名刺にはどこに何があるって書いてあったの?」


 あの時浪岡から渡された名刺には、果たしてなんと書いてあったのか? おぼろげな記憶を確かに、複雑な迷路を右手の壁からたどるように過去の出来事をさかのぼっていく。とはいうものの、それほど遠い昔の出来事ではない。むしろつい最近の出来事だ。やろうと思えば、すぐにでも思い出せるだろう。やる気の問題だ。


「あっ、そうだ。確か……、奈良県って書いてありましたよ。って、なっ奈良県!? めちゃくちゃ遠いじゃんかぁ~!」


思い出したはいいが、不覚にも彼は取り乱してしまった。この奈良から自分が住んでいる京都までは、距離が著しく離れているからだ。


「奈良はセンチネルズの本部がある場所……っていうか、あそこが本部ってことになるわね」


「うわーんッ! おうちに帰れないよーッ!!」


「って、どうしたの!? この子ったら退行しちゃってるし!」


あまりの出来事にパニックを起こし、健は子どもっぽくなっていた。車はない。金はある。しかし、奈良の地理にはあまり詳しくない。東大寺に奈良の大仏があることや、お寺がたくさん建っていることぐらいは知っている。ケータイも今は大丈夫だが、充電が切れるとヤバい。だが、一番心配なことは、帰りの電車で迷ってしまうかもしれないということだ。とりあえず健を落ち着かせ、二人は就寝。行き先が不安な夜を過ごした――。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 その頃、健のアパートでは。昨日みゆきと一緒に不破の見舞いに行ったはずの健が帰ってきていなかったため、心配になったアルヴィーは、みゆきと一緒にアパートで帰ってこない健を待っていた。


「あやつ、一向に帰ってこんな……。昨日、健はみゆき殿と一緒だったのよな?」


「はい、そうです。けど、お昼おごってもらったあとでシェイドが出たみたいで、健くんがシェイドを退治しに行ってからは見てないんです」


「そうかー……。携帯にも出なかったからの。迷子になって電波の届かないところへ行ってしまったか、それとも……」


いったん言葉を切り上げ、アルヴィーが眉をしかめる。


「それとも……?」


 不安げにみゆきが、アルヴィーを見つめる。


「誰かに連れ去られてしまったか、だ」


 言葉につまったか、軽いショックを受けたか。みゆきは信じられなさそうに黙り込んでいた。


「まあ、そう暗い顔をしなさるな。あくまでこれは推測だ。またひょっこり帰ってくるかもしれぬぞ」


「ですけど、やっぱり心配だわ。悪い人たちからボコボコにやられてなきゃいいんだけど……」


心配でしょうがないみゆき。そんな彼女に寄り添い、アルヴィーは優しげに彼女を見つめてこう言う。


「何も心配することはない。健を信じるんだ。あやつならきっと帰ってきてくれる」


「……はい!」


落ち込んでいたみゆきに光が戻った。暗かったみゆきから、元の太陽のように明るいみゆきへと戻ったのだ。


「さて、もう日も暮れておる。お主はご家族のもとへ帰られよ。あとは私に任せてくれ」


「わかりました。健くんのこと、お願いします!」


 夕陽を背に受けながら、みゆきは帰っていった。健が必ず戻ってくると信じて――。アルヴィーもみゆきを見送ると、運を天にゆだね、健を待ち続けることにした。テレビを点けて、チャンネルをニュース番組へ回す。迷子の健がニュースで取り上げられるかもしれないからだ。だが、目ぼしい情報はなし。


「ううむ。仕方ない、風呂でも沸かすか」


風呂に湯を張り、沸き上がるまで待つ。ニュースを見ながら。自分の携帯からも目を離さない、着信するかもしれないからだ。――しかし、着信なし。懸命に待ち続けているアルヴィーも、さすがに退屈してきた。どれだけ人を待たせれば、気がすむのだろう。あやつが帰ってきたら、たっぷりと叱りつけねばなるまい。シャワーをくぐり、寝間着に着替えてみたび着信を待つ。チャンネル回してテレビを観ながら、おやつを食べる。そうやって待ってもダメなら、寝て待つ。


「まったく。心配で眠れんではないか……」


 適当に夜食をすませ、不満を吐露しつつも、アルヴィーは健を寝て待つことにした。『果報は寝て待て』の理論だ。ふとんに入ってすやすやと寝息を立て、アルヴィーは眠った。


「っ……うーん……」


次の日の朝。いつも強気な彼女も、この時は穏やかな寝顔を浮かべていた。まばゆいばかりの朝日を浴びながら。そして、何よりも心待ちにしていた。健が無事に帰ってきて、自分やみゆきの前に姿を見せることを――。そして、枕元の携帯電話が鳴り響いた。まだ眠たそうにアルヴィーが目を覚まし、パカッと携帯を開く。アラーム機能だろうか、と、思ったが……違った。それは着信の知らせだった、それも健からのだ。起床したアルヴィーは電話に出る。


「もしもし、健か!?」


「ああっ、やっとつながった! アルヴィー、いま奈良にいるんだけど……」


「奈良だと!? お主、なぜそのような遠い場所におる!」


「センチネルズに捕まって……あっ、それから……」


通話中、健が申し訳なさそうに言葉を切る。


「なんだ? どうかしたのか?」


「今、女の人と一緒なんだ」


そう聞いた瞬間。アルヴィーの眉がつり上がり、目つきも悪くなった。


「おぬし、いったいどういうことだ。旅先で女をたぶらかしたのか?」


「そ、それはあとで話すよ。だから、迎えに来て!」


「……やれやれ。仕方ないヤツだの。わかった、迎えに行こう」


「奈良のどっかの古いホテルにいるから。お願い!」


健がそう告げたあと、電話は切られた。アルヴィーは寝間着からワイシャツとミニスカに着替え、その上にベージュのコートを羽織ってゆく。


「待っておれよ、健」


 準備を終え、アルヴィーは隙間へと飛び込んだ。シェイドである彼女ならではの芸当だ。行き先は――奈良。

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