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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第1章:バイト君と白龍
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EPISODE1:日常から非日常へ

※よいこのみんなへ

このおはなしには、えっちなばめんやすごくぼうりょくてきなばめんがときどきでてきます。

おとうさんや、おかあさんといっしょによんでね。じゅーすやおちゃをのみながらみちゃダメだよ。

おにいさんとのやくそくだぞ!


※12歳以上の方、保護者の方へ

この小説には頻度は低いですが、健全なエロや過剰な暴力が含まれています。

決して飲み物を口に含んだまま見ないで下さい。画面が唾や飲み物まみれになります!

 陰と隙間――『陰』はモノさえあればどこにも出来、人が光に当たればどこででも生み出される。いわば光があればどこででも生まれる闇のようなものだ。

 『隙間』もまた、建物を建てたり道を作ったりすれば自然と生じる。この一見どこにでもあるモノを通って現れ、人々を襲う人食いの怪物どもがいた。

 奴らの名は……『シェイド』。この世ではない異空間に棲み、陰と隙間を介して人の世へ現れる。その姿は、禍々しい獣や無機物を模ったものなど――実に多種多様であった。

 突如として現れた、人でもけだものでもない異形の怪物を前に、人々はただ恐怖に震えることしか出来なかった。



 だが、忘れてはいけないことがある。ヒトは英知を持った生命体。原始時代のときから道具や火を扱い、狩猟を続けて優位に立ってきた。やがてそこからじっくりと飛躍的な進化を重ねていき、現代に到っては高度な文明と知性を持つまでに成長した。

 そんなヒトが次に遂げた『進化』は――得体の知れぬ怪物・『シェイド』を力でねじ伏せて服従させ、契約(ディール)と呼ばれる行為を交わして常識を逸した特殊能力を得ること。

 そうやって特殊能力を得たものたちは皆、超能力者になぞられて――『エスパー』と呼ばれるようになった。

 平和をおびやかす怪物(かいぶつ)戦士(エスパー)も、一般に広く認知され、一時は敵討ちや幼少時代に憧れたヒーローになりたい、己の欲望を満たすため――等、様々な理由からエスパーを志願するものでごった返していた。



 やがて世界はエスパーを英雄視し、狂信的なまでに崇め敬うようになった。――8年前ほど前に惨劇が起きなければ、今もそうだったのかもしれない。

 強すぎる力を手にしたあまりに力に屈服し、人を襲うシェイドのように邪心に駆られ破壊活動や闘争を繰り返す邪悪なエスパーが現れ始めたのだ。

 更に、当時最も強く有能だったエスパーが闇に染まり、人類へ反旗を翻した。



「集え! 我が同胞たちよ! 機は熟した。今こそこの日本を――世界を闇に閉ざす時。邪魔するものはすべて……消し去れ! 殺せ! 砕いてしまえ!! 世界は我と共にあるのだァ!!」



 出生・素性・経歴――そのエスパーは全てが謎に包まれていた。善と悪とに別れたエスパー達は、やがて雌雄を決するため、世界を懸けた全面戦争を繰り広げた。

 両者共に多数の犠牲者を出し、死闘の果てに悪のエスパーたちの首魁は重傷を負い姿を消す。それに打ち勝った善のエスパーは――皆、死んでしまった。悪のエスパーたちも僅かな生き残りを除き、ほとんどが息絶えていた。

 ――後に『光魔大戦(こうまたいせん)』と呼ばれるこの戦争は善側の辛勝に終わり、後世へと語り継がれることとなった。なお、今では教科書や一部文献に載っており、人々の記憶にもしっかりと刻み付けられている。



「……んあ、うるさいなあ……今何時だ? ウソっ! もうこんな時間! バイトに遅れちゃうよ~!!」


 ――世間ではかつてそういうこともあったのだが、とりあえず彼にそんな物騒なことは関係ない。何故なら彼は特別頭が良くなければ運動神経がいいわけでもない、ルックスだけがとりえのどこにでもいるような平凡な男だからだ。

 平々凡々という言葉がよく似合うありふれた高卒のアルバイト。それがこの男、東條健(とうじょう たける)だ。高校を出てすぐに故郷の滋賀県を飛び出て、すぐ隣の京都で一人暮らしを始めた。

 何をやってもいつもと変わらぬ日常に辟易しながらも、彼は汗水垂らして頑張っていた。――しかし、ひとつだけいつもと違うところがあった。

 この時はまだ気づいてなかったのだが、『見えない何か』が健を見ていたということだ。物陰や隙間から、その鋭くも温かみのある眼を光らせて。



「はあ~~……元気でない」

「そう悲観的になってどうするのよ、東條くんっ♪」

「あ、浅田さん! な、何でもないです。お気になさらず……」


 昼休み、ため息をついているところへ先輩の浅田さんが声をかけてきてくれた。

 浅田こと――浅田ちあきは、面倒見のいい姉御肌。いつも元気で明るくて、バイト先では周りを明るく照らす太陽のような存在だ。それも、『元気があればなんでもできる!』を地で行くほどである。


「そ、そうですよ。東條くんは、男の子でしょ……? グズグズしてないで、元気出さなきゃ……」

「ででで、ですよね! こ、こんな情けない男なんて誰も見たくないですよね!! 今井さん!!」


 彼女は、そんな明るい浅田とは対照的に冷静――というか大人しい、同僚の今井(いまい)みはる。

 このご時世に瓶底メガネ、所謂『ぐるぐるメガネ』というやつをかけており、そのままでも可愛いが、メガネを外したらもっと可愛くなりそうだ。そんな感じの顔をしている。内気だが、その反面ネットでは明るくなれるそうだ。

 ――健には痛いほどその気持ちが分かる。そういう人も世の中にはいるからだ。彼もいってしまえば、あまり人と話すのは得意ではない。

 しかし、昔に比べればだいぶマシな方になった。だから、みはるには是非コミュニケーションが得意な人になって欲しいと彼は密かに願っていたのだ。


「ねえ、東條さん。そんなこと言わないで。もっと自分に自信を持ってみたらどうかしら〜♪」

「え? え、ええ……ま、まあ……そうしてみます! ハイ!」


 浅田と今井に続き金髪のロングへアーと碧い瞳に、色白の肌が美しい女性がへばっている健に声をかけた。彼女は、おっとりぽわぽわしていて優しい日系ハーフの美人OL、ジェシー・西條・エレノア。

 誰にでも優しく気配り上手で、健に対しても何かと親切にしてくれる。後輩や年下の職員の指導に自分から積極的に取り組んでもいるそうだ。たいへん素晴らしい人物である。こういう立派な人物に、健はなりたがっていた。――ついつい健の視線がジェシーの豊満な胸に向けられている気がしたが、恐らく見間違いだろう。(一応は)真面目そうな健がそんなふしだらな事をするはずがない。


「ヘイヘイ、東條サンは少々ネガティブすぎるんじゃないかな? ジェシーが言うように、もっと自信を持つとベリグーね!!」

「せ、センキューです! 係長!!」


 陽気な彼は、世界中のお城が大好きな係長のケニー藤野。英語の教師を髣髴させる外見と口調がトレードマークのお調子者だが、たいへん陽気で快活。場を盛り上げてくれるムードメーカーだ。噂によれば彼もまたハーフとのことだが、日本語が少しヘタである。英語混じりだからそう感じるのだろう。


「はっはっは! そう落ち込むな東條くん。君はまだ若いんだから、な?」

「は、は、はいっ!!」


 そして、この壮年の男性が副事務長の大杉。バイト先のチーフであり、みんなの頼れる相談役だ。彼もまた心配性でまだまだ不安が多い健を支える良き理解者である。



「くよくよしててもしゃあない。明日から頑張ろう……」


 そんなこんなで仕事を終えて帰路に着く。肌が乾いて張り付くような寒さをこらえて、疲れた足を引きずりながら前へ前へ進んでいく。ヘトヘトになってしまったが今日も平和な1日だった。――そう思いたかったのだが。



「え……ええっ……?! う、ウソだぁ……!! しぇ、シェイドが……ッ!! なんで……なんでェッ!?」


 どうも現実は非情だ。冷たい刃のように、残酷な運命が待ち受けていた。おぞましいうめき声を上げながら、化け物――シェイドが現れたのだ。やつらは、影や隙間がそこにあればいつでもどこでも現れて人を襲う。更にそいつらは、健にゆっくりと詰め寄ってくる。いくら頭の悪い彼でも、これからどうなってしまうかはすぐ予想がつく。捕食されようというのだ。この薄気味悪い怪物(バケモノ)どもに。


「ひぃっ、来るな……来るな、こっち来るなぁーーッ!!」


 今までこんなことは一度もなかった。街のチンピラやチーマーに絡まれたことは何度かあったが、怪物に襲われたことはまったくない。怖い、怖い、怖い――! 近寄るな。顔を向けるな。腕を伸ばすな、やめろ。やめろ。やめろ! 心底おびえながら、かないやしないのに手のひらを向けて健は抗う。


「嫌だ……いやだ」


 逃げようとしたが、路地裏の手前で足をくじいてしまった。嗚呼、なんて不幸なのだ。

 絶体絶命のこの緊急事態にすってんころりんとは情けない。死にたくない。だが足が痛くて、まともに歩けやしない。立つこともままならないときた。

 更に周りには薄気味悪いバケモノどもがうじゃうじゃしている。まさに極限状態だ、このままいけば死はまぬがれないだろう。

 でもやっぱり――まだ、死にたくなかった。彼はまだ十九歳、二十歳にすらなっていない。つまりまだ成人式に出ていない。人生を満喫できてすらいない。そう、彼の人生はまだまだこれからなのに――。


「……僕は終わるのか? こんなところで、気味の悪い怪物に踊り食いされて、骨も残さず食われて。みゆきにコクれずに終わるのか? 母さんや姉さんを残して死んじゃうのか? い、イヤだ。イヤだよそんなの……」


 とくに挫折を味わうことも無く、本気で死にそうな目に遭ったことも無く人生を歩んできた自分。今は本気で怖い目に遭っている。――もうダメだ。クネクネしたバケモノが集団で自分取り囲んでいる。イコール――逃げられない。


「イヤだ。イヤだ……イヤだあああああああ! 死にたくない! まだ死にたくないよお~!!」


 自分でもわかっていた。こんなこと叫んでもどうにもならない。これは運命だ。完全に諦めていた。現実は冷たい。

 こうやって叫べば、誰かが助けにやってくるのか? そんなはずはない。現実はいつだって辛く厳しい。歌や童謡のように優しくはない。

 今さら助けを呼んだって、誰にも届かない。スーパーマンでも彼の悲痛な叫びを聞くのは無理だ。何故なら彼はアメリカ人。

 日本から叫んだって聴こえやしないのだ、すごく遠いから。どうせならこのままミジメに死んでしまおう。カッコ悪くもがき苦しむぐらいなら、潔く死んでしまった方がマシだというものだ。



「ギャオオオオオオオオオッ!!」


 ――完全に諦めかけて悲嘆に暮れていると突然姿なき咆哮が上がり、天から化け物どもに青い炎が降り注いだ。氷の塊も飛んできた。健よりも遥かに大きい。それらが命中したバケモノどもは燃えたり寒さに凍えたり、もがき苦しんだ挙句に消滅した。


「……え? なんだよコレ、どうなってんの……」


 信じられない。まさに奇跡だ。炎や氷の結晶が飛んできたかと思えば、今度は空から白い龍が舞い降りてきた。何故だろうか? 普通なら絶望感を味わうところなのに――生きる希望が健の中でモコモコとわきあがった。


「うわああああああ!!」


 ――しかし健が抱いた淡い希望もすぐ果てしない絶望へと変わってしまった。健を食らおうと白龍が急接近してきたのだ。神様は自分を何だと思っている。さっきから不幸の連続――やっぱり死ねっていうのか?!

 そんなに自分が嫌いなのか? なにか嫌なことでもあったのか!? というか、誰だ。目の前のホワイトドラゴンさんは何者ですか。

 もしかしてあいつらのボス? ボスなの? 使えない部下は殺してしまう、残忍なシェイドのボスなのか?

 嗚呼、やっぱり何かがおかしい。さっき生きる希望がわいてきたって思ったそばからこれだ。もういい、どうにでもなれ。暗くなれ、目の前が真っ黒になってしまえ――。あまりの出来事に健は混乱し、今にもおかしくなってしまいそうだ。頭の中がメチャクチャになってしまっている。


「食うなら食えよおおお! 僕は脂が乗ってないから、おいしくないぞー!! ……ん?」


 だが――世の中、何が起きるかわからない。颯爽と現れて邪悪なバケモノを一掃し、天から舞い降り眼前に迫ってきた白いドラゴンはその大きな口を――開けなかった。それどころか、『なでなでしてください』と言わんばかりに頭を下げてきたのだ。


「ひ、人懐っこいのな。見た目はめちゃくちゃおっかないのに」


 ――不思議だった。そのミステリアスな見た目と愛嬌のある仕草がつりあわない。

 雪のように真っ白な体に、ルビーのような赤い瞳という、一見すれば不気味極まりない姿。見るものすべてを畏怖(いふ)させ或いは(うやま)わせる、見上げるような巨体。さっきの小物臭い連中とはわけが違う風格。

 威厳と高貴さ漂うそのオーラ。いろいろ怖いけどいいやつなんだな、と健はそう感じた。仕草も妙に人懐っこいし、人間臭さすら感じさせる。

 何より、怖いと思っていたその姿は神々しくもあったのだ。とても神秘的で美しい。まるで、人間の男でいうなら神秘的で男前のお兄さん、女でいうなら凛々しくてきれいなお姉さんのようだ――。


「うぉわっ! こ、この光は……!?」


 その時だ、ドラゴンの額に鮮やかな緑色に光る幾何学的(きかがくてき)な紋章が現れた。そして全身から青白い光を放ち――。何があったんだ。

 白い光に包まれた空間はあまりにまぶしくて、何も目に映らなかった。そしてドラゴンはいない。もしや、消えたのか? 恐れをなして。いや、そんなはずはない。

 何故なら健は一般人(しょうしみん)のうちの一人、それも飛びぬけて平凡な方に入る奴だ。そんなに恐ろしいチカラなど持っているわけがない。

 もしそのチカラがあったら、バイトなどやっていない。恐らくシェイド相手に天下無双のチカラを振りかざして派手に暴れている。

 ――とかなんとかあほらしいことを考えていると、まぶしい光は収まった。目を開けてみると、何も見えなかった。今度は白い煙が辺り一面を覆っていたのだ。

 健は、「ふざけるな! いったい何がしたいんだ? こんなの、絶対におかしいよ。気でも狂ってるのか!? もし目の前に神様がいたら、一発ぶん殴ってやりたいよ!!」と、そう憤っていた。


「……ふざけて悪かったな」

「えっ? 今の声は……?」

「焦るでない。今から姿を見せてやろう」


 だが、このあと起きた出来事を見ていたらどうでもよくなった。煮えたぎっていたアドレナリンも静まった。



「……ふふふ、驚いたか? これにて契約(ディール)完了だ」

「でぃ、でぃーる? なにそれ」

「知らんのか? エスパーがシェイドを服従させて力を得るときに行う行為のことだ」

「……あ、あーっ! そういう意味ね。シェイドってなんだっけ」

「影や隙間より現れ、人を食らう化け物どもの総称だ……って、そのシェイドである私にそんなことを聞くなーっ!」

「ご、ごめんなさーい」


 健が心の中である疑問を浮かべる。――神様、本当にいるなら答えてください。これも奇跡なんですか? と。


 さっきまで白いドラゴンだったそれは、妖艶な裸の美女に姿を変えていた。鮮やかな純白の長髪は膝丈か太ももの辺りまできれいにまっすぐ伸びていて、凛々しくグラデーションが美しい緋色の瞳とが織り成すコントラストは絶品の一言。

 肌は透き通るようにきれいで、更に――片腕では隠しきれないほど豊満な乳房が、何よりも先に健の目に留まった。悲しいかな。彼はエッチな男だ。これも男のサガゆえ仕方が無い――。

 背も高くて出るとこ出ていて、それでいてスレンダーな美人。あまりにも高身長なものだから、肩がぶつかりそうだ。そして下半身はむっちりした太ももと、カモシカの様にほっそりとしていてきれいなおみ足のバランスが絶妙。

 髪の毛で局部が隠れているのも好印象だ。彼は髪の長い人が好きである。とにかく――ハダカだが、凛々しくて美しい絶世の美女だ! 最後に、コスプレというべきか。それとも、本来の姿の意匠というべきか? 頭からはツノを生やし、背には一対の大きな翼を広げ、そしてしっぽを生やしていた。


「し……しかし、エクセレぇ〜ント」

「もしや褒めてくれたのか? いやらしい目つきが少々気になるが、そう言ってくれて嬉しいぞ。――さて、お主は東條(たける)、だな?」

「な、なんで僕の名前を……」

「さて……な?」


 目の前のドラゴンは、腕組みしながらそうはぐらかす。片目を瞑りながらの微笑みは垂れ気味の前髪と相まって妖艶さを漂わせていた。


「……まあいっか。さっき契約完了って言ったよね。それで服従がどうとかって……えっ、僕エスパーになっちゃったの?」

「そうだ。お主も今日から、晴れてエスパーの仲間入りだ。……どうしたんだ、嬉しくないのか? 何やら、浮かない顔をしているようだが」

「エスパーって怪物と戦う戦士のことでしょ? 僕はそういうガラじゃないよ」


 エスパーとは――シェイド服従させて契約(ディール)を交わし、彼らから特殊能力を得て戦うものたちの総称。

 その力を以って人々をシェイドの脅威から守り、戦い抜く勇敢な戦士だ。これはある大学教授の理論だが、毒をもって毒を制す。シェイドが『毒』なら、自分たちはもうひとつの『毒』。

 強い毒は、ときには薬にもなる。だが、その力を持て余して悪事を働く者もいるらしい。どうしてそんなことをするんだろう――健はそのことが信じられなかった。


「それにエスパーになるための訓練なんかしたことない。学生時代もケンカなんかしたことなかった、よわっちいヤツだったのに。不思議だなぁ……」


 エスパーになるのは決して簡単なことではない。訓練に訓練を重ね、肉体・精神ともに強くなったものだけがエスパーになれる。ところがどっこい、健は完全に例外だ。仮に訓練したところで途中ですぐ投げ出してあきらめてしまうだろう。そのぐらい精神が未熟。


「そう悲観的になるな、お主には特別な才能がある。天賦(てんぷ)の戦いの才がな。お主がそれを知らずに生きてきただけでの……」

「天賦の、才? 戦いの……?」

「ああ。私には分かる。だがお主……戦士として覚醒した以上は、シェイドと戦わねばならぬ。ろくに訓練もせずにエスパーとなった分も戦ってもらうぞ」


 ドラゴンは、真剣な眼差しでそう語った。要するに健は特別らしくて、素質もあった。だから訓練を積まずともシェイドである彼女と契約(ディール)できたというわけだ。

 ただし、訓練しなかった分も戦わなければならない。そうなって当然だ。創作には苦労せずに強くなろうとする、または何の苦労も無く最初から神にも等しい無敵のチカラを振るうような主人公が良く出てくるが――断言しよう。そんなものは甘い。書き手が楽をしたいからそんな方針で書いているだけに過ぎない。そのような作品に意味など無い。


「これからはトレーニングを欠かさずにな。ところで……」

「なんだい?」

「服、持ってないかの?」


 少し困ったような笑顔を浮かべながら、ドラゴンの女性はそう訪ねてきた。


(ヌードに気を取られて忘れてた、この人は素っ裸だったんだ。とりあえず、アパートまで案内しよう――)

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