EPISODE288:満月がエスパーを殺す!
吠えるキングウルフェンは氷のツメを振り回し凍てついた斬撃を放つ。最強クラスの硬度を誇っていたバサルタスとの戦いで疲弊していた健と不破だが、今や彼らにとってこの程度の攻撃をかわすことは造作もないことだ。
「ガルルルルルッ!」
「でえぇぇえい!」
ツメで大きく薙ぎ払ってきたキングウルフェンを不破がランスで迎え撃ち、相殺。怯んだところに健が氷と相反する炎のオーブを宿した剣を叩きつけた。
きりもみ回転しながらキングウルフェンは吹っ飛ぶが、雄叫びを上げるとともに態勢を立て直し地上へと突撃する。二人は寸でのところで回避し、次の攻撃に備える。
「食らえ!」
「おわっ! と……」
キングウルフェンは氷のツメを飛ばして健と不破を攻撃。健は剣でそれを打ち消し、不破はランスを風車のごとく回転させ稲妻を発生させながら打ち消した。
「アウォーーン」
攻撃を避けられたキングウルフェンは口から冷気を吐き出して二人を攻撃。健が盾で冷気を防いでいる最中に、不破は背後から連続突きを浴びせてキングウルフェンに大打撃を与える。
「えぇぇいッ! でやああぁ!!」
「おりゃあぁああああぁッ」
「ぬんっ! だらああぁ!!」
二人の攻撃を同時に受けて怯むキングウルフェン。不破は力を溜めてから必殺技のサンダーストライクを繰り出し、突進。キングウルフェンを大きく後ずさりさせる。
「ガルルルル……ここまで俺を後ずさりさせるとは、だがッ!」
唸り声を上げ、キングウルフェンは肩から生えた鋭い刃を抜く。それは光り出すと瞬く間に形を変えて三日月状の刀身を持った剣となった。
「俺に武器を抜かせるとは大したものだ! ただでは、殺さんッ」
武器を持った状態でキングウルフェンは加速し、すれちがいざまに何度も健と不破を斬りつける。
「う゛ううぅッ」
「ブルークレッセント!!」
剣に邪悪な力をこめキングウルフェンは青い大きな三日月型の衝撃波を放った。爆風にあおられ健と不破は悲痛な叫びを上げて宙へと打ち上げられ、頭からそのまま地面へ落下して突き刺さるように衝突する。
「くっ……」
「さあ先に死にたいのはどいつだ!?」
「もう寝かせてやれ」と言われんばかりの状態だが、健と不破は立ち上がって武器を持ち直す。指名を受けたがここで死ぬつもりなどさらさら無い。むしろ生きて、生きて勝つのだ。
「ハッ、しぶといやつらめ。ラッシングブルークレッセント!!」
「ぬぅわあああぁ〜〜ッ」
「おわあああぁーーッ!?」
キングウルフェンは連続で剣を振るい、いくつもの青い三日月型をした衝撃波を放って二人を更に追い込む。
ヤツは、好戦的な性格でただでさえ高い戦闘能力を持っているのに、怒りに駆られて恐ろしいまでに強化されもはや手の打ちようがない。更に時刻は戦っているうちにどんどん過ぎていき、陽は沈み空には星が瞬き始めた。月も昇ってくる頃だ。
(……暗くなってきたな。夜、月、オオカミ……はっ!?)
戦いを見ていたアルヴィーは、あることに気付いて顔をより一層険しくする。
「くっくっく、今宵は満月か」
「なにが言いたい?」
夜空を見上げ、キングウルフェンはキバをむいて凶悪に、不敵に笑う。
「口で言うより、体で教えたほうがわかんだろうッ! そこで見ていろ!!」
「がああああああッ」
キングウルフェンは二人を衝撃波で攻撃し、引き離す。蒼い満月の光を浴びたことにより、キングウルフェンの全身に生えた毛には活力があふれ目は鋭く尖る。
「蒼い月の光を浴びたとき、俺の全身は無敵にして最強の肉体へと変わるのだ!! アウォオオオオオォオオオォォォ〜〜〜〜ン!!」
満月の光がキングウルフェンに力を与えてより凶悪な姿へと変える。全身に生えた鋭い刃は禍々しくいびつな形状に変わり、両目には赤い紋様が入った。
冷気によって氷をまとったツメは硬度と切れ味を増して、おまけに力を持て余したからかふさふさの白銀の毛皮は発光している。勝てる気がしない。
「う! な、なんてパワーだ……」
「まるでオオカミ男、いや人狼の言い伝えみたいだ! これが満月の力が!?」
「健、不破殿! 決して気を抜いてはならぬぞ!!」
健たちが震撼するほどの威圧感とパワーを発して、キングウルフェンは衝撃波を伴うけたたましい雄叫びを上げて健と不破をすくみ上がらせる。
――月の光を浴びてパワーを得た自分の前では、いくらこいつらといえども太刀打ちできまい。こうなったらもう前ほど優しくは出来ない。それにオーブを奪われてバサルタスまでやられたのだ。こちらもただで引き下がるわけにはいかない。やつらの体をズタズタに引き裂いて骨の髄まで噛みちぎるまでは!
「アウォーーン!!」
「く! 速い!」
想像を絶するパワーアップを果たしたキングウルフェンのスピードについていけず、健は突き飛ばされる。
「野郎ぉぉおお!!」
「ふん! はっ! ぬぅぅん!!」
不破は連続突きを繰り出して応戦するが、キングウルフェンにほとんど手で受け止められた挙句穂先を掴まれ、投げ飛ばされる。
「食らえ、ブリザードウルフェンクロー!!」
「「うわああああああああああああああああああ!!」」
冷たい空気をツメにまとわせ氷のツメを作り出して攻撃する必殺技、ブリザードウルフェンクロー。常時ツメを凍らせていることにより、連発できるようになった上に威力も上がっているようだ。
氷のツメで何度も切り裂かれた健と不破は、爆発で吹っ飛んで頭から岩壁や地面に衝突した。
「クハハハハ……!」
「二人とも、気をしっかり!」
倒れた二人に駆け寄ってアルヴィーは体を揺り起こす。ほんの一瞬だけたわわに実った彼女の胸も揺れ動いた。
「あ、アルヴィー?」
「ヤツは無敵だが、勝機は必ずあるはずだ。それまで持ちこたえられるか?」
「んなこと言われてももうギリギリだぜ。あともう一発もらったら死んじまうかもしれん……」
不破が言うように、実際二人の体は限界寸前にまで達している。もし、キングウルフェンからあと一発か二発攻撃を受ければ死んでしまうだろう。事態は彼らが考えている以上に深刻で重たくてどうしようもない。
「まぁ〜〜〜〜だまだ。そう簡単にくたばってもらっちゃ困る。せっかくフルパワー発揮したのにすぐにぶっ殺しちまっちゃあつまらんからな」
低く唸りながら、キングウルフェンは健たちに接近。
「せめて、バラバラに引き裂かれて心臓をえぐり出されるまでは生き延びてもらわなきゃなぁ! でなきゃお前らにやられたモグドリラーとバサルタスが浮かばれねぇ!!」
「っ……」
不敵に笑っていたキングウルフェンだが、ここへ来て抑えきれなくなった怒りを露にする。鋭い目は憎しみでギラギラと禍々しく光っていた。
「覚悟はいいかァ!? 哀れな子羊どもぉ!!」
――今、蒼い満月が、夜に吠えるオオカミが追い詰められたエスパーたちを殺さんとしていた。