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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第2章 敵は非情のセンチネルズ
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EPISODE27:大脱走

今回予告!


 不破の見舞いに行った帰り、街にシェイドが出現。

 みゆきと別れた健はこれを退治するが、そのあとに謎の武装集団に捕まってしまう。

 謎の集団に連れてこられた先は、センチネルズの研究施設だった。健がそこで見たものとは――!?


 健とみゆきは、入院した不破の見舞いに行っていた。お見舞い品として、栄養満点のバナナと消化にやさしいリンゴ、ビタミンCが豊富なデコポンを持っていった。


「しっかし、不破さんったらケガ人とは思えないほど元気だったよね。相変わらずアグレッシブだし」


 頭のうしろで手を組みながら話している健と、彼の話にうなずいているみゆき。

 二人とも楽しそうだ。健は、白いサーファーシャツの上に赤のネルシャツを羽織っていた。

 その下は深緑のズボンだ。ずらないようにベルトを巻いている。


「こりゃ、退院も近いかもね」

「うんうん!」


 いつも髪をサイドテールにしているみゆきだが、今日は髪をとかしていた。

 藤色の長い髪が風に揺れて、あまりの可憐さに道行く人々も思わず見とれてしまう。気がした。

 服は赤いベストに山吹色のフレアスカートで、情熱的かつ活発な印象を周囲に与える。


「実は、ここだけの話なんだけど。話してもいいかい?」


 申し訳なさそうに健が訊ねた。みゆきが頷いたのを確認すると、彼女の耳元にそっと唇を寄せる。

 まさか、接吻をしようというのか? 公衆の面前で。


「肉は腐りかけが一番おいしいって言うじゃん。それにあやかってさ、バナナもどうせ持っていくなら腐る寸前が一番いいんじゃないかって思ったんだ。わかる?」


 接吻ではなかった。耳元でささやくように、しかも早口で健はそう言ったのだ。


「えっと、何の話かな」

「さっき不破さんにお見舞い品持ってったでしょ。あの中に腐りかけたバナナが……」

「えーっ!」


 と、みゆきが目を丸くして驚いた。近くにいた健も、突然大声を出されて驚き、

 ずっこけてしまった。慌てて起き上がると、健はお尻についたホコリを払った。


「アイタタ……いや、アレじゃん。栄養価の高いバナナをあげるなら、一番おいしくなる時期のをあげなきゃって思ってサ……」

「だけど、腐りかけはちょっと……」


 やはりまずかったか、と、健は後悔した。そっぽを向いてしまったみゆきに必死で謝ると、

 何とか許しをもらえたのでお詫びに昼食をおごることに。二人が向かったのは、

 もはや説明不要の大手ファーストフード店だ。ビッグハンバーガーセットをみゆきにおごってやり、自分はチーズバーガーセットを注文。金がかかったが仕方がない。野郎は下手に出張るより、女に貢いだ方がいいものだ。下手に出ればかえって事態を悪化させる。だから女に任せたり、貢いだりするのだ。


「ふぅ~。おいしかった。今日はありがとね!」

「う、うん。ああ、とうぶん生活が苦しくなるぞ……」


 喜色満面のみゆき。そんな彼女とは対照的に、健の気分はどんどん下降していく。

 このまま生活が苦しくなって落ちぶれるか、それとも巻き返して極楽浄土のごとく快適な生活か。自分の明日はどっちだ。


「……むっ! シェイドが出た! 僕、行ってくるよ!」

「行ってらっしゃい、気をつけてね……」


 そんな折、ウロコのお守りがシェイドを感知した。健はみゆきと別れ、急いで現場へと向かう。

 シェイドが現れたのは府庁前だった。ヒョウのようなシェイドが2体いた。先日倒したヤツの仲間だろうか?


「うぎゃあ~~!! 助けてくれー!!」


 ユキヒョウのような白い方の個体が、サラリーマンの中年男性を締め上げてその首をつかんでいた。

 それを許せない健は、白いヒョウ――ゲイルジャガーへと突撃。横から突き飛ばすと、男性を解放。


「た、助かったよ……」

「もう大丈夫です、早く逃げて!」


 怒った白ジャガーは健にその鋭く大きなツメを振りかざす。健はすかさず、盾で攻撃をガード。


「へへっ、こんなこともあろうかと。武器を持ち出しておいたのさ!」


 いったん間合いをとり、白ジャガーが走りながら飛びかかった。健はそれを迎撃し気絶させる。

 一気に追い込もうとする健だったが、背後から攻撃を受ける。そう、敵はもう一体いたのだ。

 クロヒョウのような黒い個体が、蛮刀で殴りかかってきていた。挟み撃ちにされるも、横に転がりその場から抜け出す。


「ちょ、ちょっと待ってくれ……2対1って、こっち明らかに不利だぞ。あっ、でも……いけるかも!」


 敵は2体。だが、こっちは一人。いかにしてこの状況を切り抜けるか?

 しかし、落ち着いて考えてみて欲しい。健は機転が利く男だ。

 柔軟な発想を浮かべて、逆転することも十分に考えられる。この程度のことなど、今の彼には朝飯前だ。


「やーい、お前の母ちゃんデベソ~!」


 実に古典的でばからしい方法だった。それも、相手に通じるかどうかも分からないほどにマヌケ。

 だが、相手はそれ以上にバカだったらしくまんまと引っかかってくれた。

 バカにされて怒りだした白ジャガーが、こちらへ向けて全力で走り出してきたのだ。黒い方はどういうわけか、ショックを受けていた。


「しめた!」


 健は相手の攻撃を盾で弾き、ひるんだ隙に兜割りをお見舞いした。

 更にそこへ、ジャンプ斬りを浴びせる。


「よーし……」


 とどめに剣を氷属性へ変え、相手を斬り付けて凍結させる。

 更にそのまま、アイスブレイカーへと繋げていく。


「アイスブレイカぁ――――っ!!」


 凍った敵に急降下しながらの突きが炸裂! 白ジャガーはダメージに耐え切れず、爆散した。

 一瞬黒ジャガーが身構えたが、恐れをなしたのかすぐに逃げ出してしまった。

 一匹逃してしまったものの、とりあえず人々を襲うヤツらは去った。健は勝利の余韻にひたり、武器を仕舞ってベンチへ腰かける。

 金にはならないが、人々の助けにはなる。人を助けるのに理由はいらない。損得は関係ない。

 これでいいのだ。だが、もし自分が損得のみで動く人間なら今頃どうしているだろうか?

 ひょっとすれば、市役所での事務仕事を辞めてシェイドを討伐して報酬をもらう仕事をしていたかもしれない。どっちにしろ、未知の脅威と戦うだけ立派だ。

 ――と、少し考え事をしているところへ、多数の軍用トラックとともに武装した集団が現れた。いずれも屈強な男ばかりで、非常にむさ苦しく怖い。


「動くな。貴様は完全に包囲されている!!」


 突然銃を突きつけられてわけがわからなくなった健はあわてふためくが、

 ベンチから立ち去ろうとしたところを拘束されてしまう。


「残念だったな、我々からは逃げられない。おりゃ!」


 武装集団のリーダー格とおぼしき巨漢が両腕を縛られた健を殴って気絶させ、軍用トラックへと放り込む。


「へっへっへ。おとなしくついてきてもらおうか」


 健を乗せた車両が引率し、多数の軍用トラックがいずこへと向かって走り去ってゆく。

 どの車両にも、例のセンチネルズのマークがあった。例のヘビが剣にSの字を描いて巻き付いているアレだ。


◆◆◆


「……こ、ここは?」


 不思議でたまらなかった。なんで自分が何のために、こんなに暗くてジメジメした、

 得体のしれない変なところにいるのか。そしてなぜここに閉じ込められているのか。

 そこは独房だった。なぜか隣の牢の様子が見られるよう、小窓が部屋の隅に開いていた。


「おい、起きろ!」


 先ほどの武装集団のリーダー格の男が、乱暴に鉄格子を開けて独房に入ってきた。


「もう起きてますよぅ……」

「浪岡様がお呼びだ。すぐに所長室まで来い!」


 襟をつかまれ、独房から出されると巨漢のうしろに立たされた。

 ぞんざいに、乱暴に扱われ、健は正直まいっていた。だが、下手に抵抗すればどうなるか分からない。

 とりあえず、ここは相手の言いなりになるしかないだろう。頭を切り替え、健は武装集団のリーダーについていく。


「浪岡様、例のガキをお連れしました。オラ、入れ!」

「あぐっ!」


 男に蹴り飛ばされ、健は所長室へ。

 監視用のモニターがたくさん並んでいるこの部屋のデスクに〝浪岡〟と呼ばれた金髪に黒いロングコートの男がふんぞり返っていた。その隣には、カルテを持った緑髪の男がいた。この前、赤木を銃殺したヤツと同一人物だ。


「申し訳ない。だが、我々も急いでいてね。強行手段に出させていただいたというわけだ。この場を借りて謝らせてほしい」


 その言葉から反省の気持ちは感じられなかった。むしろ、見下されていた。更に不快な気分になった。


「さて、と。君のパートナーはここにはいないようだが、どこにいるのかな」

「悪いですけど、あんたたちに教える義務はありません。早くこの変なところから出してください!」

「気持ちは分かるがね、そうはいかないんだよ」


 浪岡がはずれたサングラスをかけ直す。

 誰が見ても明らかに分かるくらい、見下した目つきで健に視線を向けていた。


「新エネルギーの開発には、君と君のパートナーの能力が必要なのだ」

「その新エネルギー使って、何をしようっていうんだ?」

「太古に禁忌として封じられた、錬金術の復活だ。そうやって全世界の文明レベルを上げるのだ」


 浪岡が地球儀を出し、地球をかたどった球体を外す。

 くるくると回し、自身の野望を自慢げに語り出す。


「これは、我ら人類の進化に貢献することにもつながる。とても有意義なことだ。だが、進化についていけないものはどうなると思う?」


 まさかの問いかけ。こんなトチ狂った質問に答えてやる気はないが、ここは仕方がない。

 眉をひそめた顔で、健が


「時代遅れだからいらない、一掃される」

「そう、その通りだ。そして私は進化を遂げた人類の支配者となる!!」


 声高々に浪岡が叫んだ。うんざりした健は、部屋を出ていこうとするが、細長い炎が一瞬横切る。


「おっと、逃げようとしても無駄だ。この研究施設には各所に監視カメラが設置されている。貴様の行動は筒抜けだ。よって、逃げることはできない。あきらめるのだな!」


 嘲笑された挙句、自分を拉致した巨漢にどつき回され独房へ戻されてしまう。


◆◆◆◆


「あいたた……うん?」


 ふと外の廊下を見てみると、武装した男たちに連れてこさせられた誰かの姿が。

 白衣を着ていたように見えたが、研究員だろうか?そしてその研究員らしき人物は、健の隣へとぶちこまれた。


「もしかして、僕以外にも捕まった人が!?」

「……あら、お隣に誰かいるの?」


 隣の独房から、妙齢の女性の声が聴こえてきた。声の主が小窓に近づく。


「あらあら。あなたも捕まっちゃったの? 可哀想……」

「そうなんですよー。シェイドやっつけて休憩してたら、さっきの武装した男の人たちが僕を拉致したみたいで」

「そっか。……ってことは、あなたはエスパーね? あの男がさらってくるのは、たいていがエスパーかエスパーの素質を持った人だから」


 隣の独房の女性は、センチネルズをあまり知らない健にその目的とねらいを親切に教えてくれた。

 そして、彼女が元々はセンチネルズに所属していた博士であり、センチネルズのやり方に嫌気が差して逃げようとしたところを捕まったということも知った。


「そうですか、そんなことが……どちらにせよ、許せない!」

「けど、このまま待っていても始まらないわ。まずはどうにかして、ここから抜け出さなきゃ……」


 何かできることはないだろうか?

 健は部屋の中を探り出した。しかし、目ぼしいものは見つからない。ゴザの下にも何もない。何もできないこの状況にイライラしだした健が、鉄格子を引っ張ると――。


 (あれ?)


 お分かりいただけただろうか?

 ガタが来ていたためか、少し力を入れて引っ張っただけで鉄格子が外れてしまったのだ。


「よっしゃあ!」


 堪え忍んできた苦労が報われた瞬間だった。さすがの健もガッツポーズ。


「ねえ、キミ。喜ぶのはいいけど、見張りがいない今がチャンスよ。あたしのところもガタが来てるわ。ぶっ壊しちゃって。そうすればあたしも出られるから!」


 脱出できた嬉しさのあまり気が狂ったか、

 女性に言われるがままに健は鉄格子に体当たりをかました。

 何度も重ねるうちに錆び付いていた鉄格子は次第にぐらつき始め、遂には破壊された!


「やったあ!」

「出られたぁ!」


 堪え忍んできた苦労が再び報われた瞬間だった。さすがの健もガッツポーズ。つられて、白衣のお姉さんもガッツポーズ。


「さっ、早くここから逃げましょ!」

「はいっ!」


 取り上げられていた武器も取り戻し、かくして、健は名も知らぬ白衣の女性と一緒に逃亡することとなった。

 サイレンが辺りに鳴り響く。女性から逃亡するためのルートを教わり、その通り健は逃げてゆく。最終的には非常口から飛び降り、地面へ着地。


「おっと、このまま逃げられると思っているのか。そうはいかないぜ! かかれーッ!」

「下がってください、こいつらは僕が引き受けます!」


 しかし、先回りした武装集団が立ちはだかる。女性を後ろへ下げると、

 健はエーテルセイバーを手に襲い来る武装兵たちを蹴散らす。ちぎっては投げ、ちぎっては投げる勢いで。大勢いた武装兵は、いつの間にかリーダー格の男だけになっていた。


「よし、邪魔者はいない。あとは本丸を叩くだけッ!」

「さあ来い小僧オオオオオオッ!!」


 健はその見上げるほどの巨漢の懐へもぐりこみ、ラッシュを浴びせる。

 そして、とどめにこの巨漢を上空へと打ち上げる!


「せいやーッ!」

「あびば!」


 リーダー格の男は倒れた。見るもぶざまな格好で。


「さあ、いきましょう!」


 女性を連れて、再び健は逃亡を開始。全力で走って、センチネルズの研究施設が遠くに見える場所まで行った。


「ぐぬぬ……!」

「波岡様、いかがいたしましょう?」

「こうなれば奥の手だ。我々の秘密を知ったものは始末せねばならん。〝ヤツ〟を投入しろ!」

「しかし、アレはまだ実戦に投入できる段階では……」

「かまわん出せッ!」


 モニターに映った映像を見て歯ぎしりする浪岡を、緑川がなだめた。

 事態を重く見た浪岡は、緑川に実験体のシェイドを解放するよう指示を下す。

 放たれたシェイドは、山をぴょんぴょん跳ねながらくだっていった――。

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