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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第15章 湯煙と大地の石とビキニふたたび
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EPISODE287:完全防御敗れたり! 大地よ、怒りを呼び覚ませ

 一方、神主の渋川と巫女の文を逃した不破は岬でキングウルフェンやバサルタスと激しい戦いを繰り広げていた。

 ダイヤモンドにも匹敵する鉄壁の防御を誇るバサルタスと、自分と互角の速さで戦場を駆けるキングウルフェンを前に不破は苦戦を強いられている。一体だけでも強いのにそれを二体同時に相手にしているというのだから、想像を絶する。

 ベテランのエスパーである彼でさえもひたすらにヒット&アウェイを繰り返して持ちこたえるのがやっとだ。


「ハッハハハ! 我が完全無欠の防御を打ち破る術はなーし!!」

「くうううっ!」


 バサルタスが振り回して叩きつけようとして来たトゲ鉄球をかわし、その瞬間に振り下ろされたキングウルフェンのツメをランスで弾き返し――。不破は必死に抵抗を続ける。


「バズーカぁーーーーッ」

「東條ぉーーーーっ! 早く来てくれ〜〜ッ!!」


 バズーカ砲が着弾して生じた爆風にあおられて吹っ飛びながら、不破は叫ぶ。こんな状況でも東條ならきっと助けに来てくれるはずだ。

 そう不破は信じている。だが敵の攻撃が止む気配はない。それどころか不破の助けを求める声を鼻で笑う始末だ。


「クヒャハハハハ! 助けなんか来ねえよ!!」

「安心しなぁ。お前の死体はこの島ごとブッ飛ばしてやるからよ」

「貴様ら、まさか神威島を地図から消そうというのか!?」

「ああそうよ」

「自分たちのためなら島の人々がどうなろうとかまわないというのか!?」

「んなこたぁどーだっていいんだよ!! こんな何にもねえ島守ったところでなんになる。宝島は宝を奪い尽くして破壊してこそだろうが!」

「なにィッ! 許せねぇ〜〜ッ!!」


 あまりの悪逆非道ぶりに憤った不破の一撃を片手で受け止めキングウルフェンは悪態をつく。そこからツメで切り裂いて宙へ放り投げた。


「貴様らぁぁああ!!」

「おんどりゃあ!」


 態勢を立て直して着地した不破はランスを携えキングウルフェンめがけて疾走。

 高速で連続突きを繰り出すが次々に手で受け止められ、挙句腹を思い切りパンチされて岩盤まで吹っ飛ばされた。

 邪魔者を始末する、またとないチャンスだ。「とどめは俺が!」とバサルタスは鉄球を振り回しながら不破に近付く。が、あと少しで届くところで手前を何者かが一閃しながら横切った。

 ――正体は他の誰でもない。健とアルヴィーだ。驚いたバサルタスの足がそこで止まり、キングウルフェンも同じく驚いて目を見張った。


「きぃっ、貴様は……! 社長に倒されてこの世を去ったんじゃなかったのかッ!」

「そんなこと僕が知るか!!」


 バサルタスの鉄球による攻撃を掻い潜り、健は隙を突いて攻撃。しかし相手はダイヤモンド並みの硬度を誇る甲羅の鎧でガッチリと身を固めている。生半可な攻撃では通じないし倒せる目処も立たない。


「カモが自分からネギ背負ってやって来ようとはな! オーブをよこせぇい!」

「渡すかよ! せやっ、おりゃあああぁっ!!」


 立ち上がった不破は健から土のオーブを奪おうとするキングウルフェンの行く手を阻み、稲妻をまとったランスで突きと斬撃を浴びせる。


「ファングブレイザー!」

「むぅんッ!」


 通常の打撃ではバサルタスには通じない。ならば必殺技で畳み掛けるしかあるまい。

 そう判断を下した健はエーテルセイバーに炎のオーブをセットして龍となったアルヴィーとともに必殺技のファングブレイザーを繰り出す。

 だがバサルタスは背中の甲羅でファングブレイザーを弾き返して健を怯ませた。


「効かねーな!」

「うぇええッ……これでどうだ!」


 今度はオーブを青い氷のオーブと交換し、エーテルセイバーに輝くほど冷たい冷気をまとわせて、健は切っ先から冷気を放ってバサルタスを氷塊に閉じ込める。


「砕け散れッ! アイスブレイカー!!」


 急接近してから何度も氷塊にエーテルセイバーを叩きつけ、粉砕。だがバサルタスはピンピンしていた。


「効きまっせーん!」

「なんだと!? ならば、こいつで!」


 続けて、健はまたまたオーブを交換し今度は雷のオーブをエーテルセイバーの柄にセット。

 雷の力を宿した刀身を唸らせ、跳躍すると健は思い切り稲妻の剣を振った。


「ライトニングフラッシュ!!」

「ハァァァン!」


 またか! と、健は目を見開いて驚いた。雷のオーブでもバサルタスには通用しなかった。ならばあとは風のオーブか光のオーブを使うしかない。

 しかし後者で行くと体が著しく疲弊して隙だらけになり、敵に袋叩きにされてあっという間にやられてしまう。ならば前者で行くか、あるいは……。いや考えている暇はない。今はバサルタスやキングウルフェンを倒し、この島と土のオーブを守ることが先決だ。


「ん〜〜?」

「ストライドハリケーン!!」

「な、なにい! のおおお〜〜ッ」


 完全にこちらをなめきった目で見ているバサルタスを睨む健は、腰を落として剣に気合いを溜めてから突撃。

 斬りつけると同時に竜巻を発生させバサルタスを宙へと吹き上げて自身も空中へと跳躍した。


「うおおおおお!!」

「や、やられる……なんつってな!」

「!?」

「やっほーい!!」


 空中へ吹き上げられたにも関わらずバサルタスは甲羅に頭や手足を引っ込めて、高速で回転しながら健に突撃。

 グシャァ! と、痛々しい音が鳴り健は血ヘドを吐いた直後頭から地上に落下して地面に衝突した。その弾みでずっと握っていた土のオーブは手元を離れていく。


「と、東條!!」

「フヘヘへ……」


 不破をツメではねのけたキングウルフェンは悪鬼のごとき表情を浮かべて、土のオーブを拾いに向かう。


「ヴォルフガング、そうはさせんぞ!」

「アガッッッッ!?」


 だが寸前でアルヴィーが止めに入り、キングウルフェンはアルヴィーに腹を思いっきり蹴飛ばされ悶絶した。

 褐色に輝く土のオーブを拾い上げたアルヴィーは健に渡しに行こうと踵を返すが、その前にしぶとくもキングウルフェンが立ち塞がる。


「土のオーブは俺たちのものだ!! お前らごときが持っていていいものではなーい!!」

「ええい!」


 しぶといキングウルフェンのアゴを蹴り上げ、怯ませるとアルヴィーは倒れている健に駆け寄ってその体を起こす。


「あ、アルヴィー」

「健、無事か? 今こそこれを使うときかもしれん」

「また、いちかバチかってわけ? でも今度は生き延びられるかどうか、う……」

「だが他に選択肢はないのだぞ。……どうだ、いけそうか?」


 満身創痍ながらも、健はニッと笑いアルヴィーの問いに対して首を縦に振った。アルヴィーから土のオーブを受け取った健は、柄から風のオーブを外して柄をまじまじと見つめる。


 ――風のオーブが天を司るというのなら、土のオーブは大地を司る力であろう。対極的な位置にある二つの力を持ち合わせ使いこなすということは、ハンパな覚悟では成し遂げることは出来ない。

 吉と出るか、凶と出るか? この力は周囲を破壊するためではなく――人々を、平和を守るために使わなくてはならない。力に振り回されず力を使いこなせる勇気はあるか? その覚悟なら――健は既に出来ていた。


「東條、オレが時間を稼ぐ! 早くそれを使えーッ!」

「生意気な野郎だぁ!」


 不破が自分のために体を張って戦ってくれている。アルヴィーが自分がどこまで己の意志を貫き通せるか見守ってくれている。

 迷いは――ない。今こそ、大地の力を呼び覚ますときだ!



「神威島に眠りし土のオーブよ! 僕に力をぉぉーーッ」



 健は柄に土のオーブをはめた。褐色の輝きは剣全体を包み込み、研ぎ澄まされたシルバーの剣は橙色と褐色を基調とした重厚で土のぬくもりを感じさせる剣へと変わっていく。

 同時に健の周囲の地面が盛り上がって爆発して岩が次々に飛び出すと、叩きつけるように鋭く降り注いだ。


「なにい!?」

「あいつ大地の石を使いやがった!!」

「おおっ……温かい。力がモコモコ沸いてくるようだッ!」

「まだ希望は残っておったということだな!」

「いける、いけるぜ! その力があればっ!」



 驚愕し顔を歪めるキングウルフェンとバサルタスを前に、健は夕陽と仲間の声援を背に受けて大地を踏みしめる。

 その顔は力強さと頼もしさ、希望に満ちていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆



「勝負だ! キングウルフェン、バサルタス!」

「調子こきやがって!」


 いきり立ったバサルタスはバズーカ砲を発射。健はすかさず、本能的に左手を当てて地面から岩を飛び上がらせて壁とする。その岩は砲弾を防ぎ、健の身代わりとなって崩れ落ちた。


「ば、バカな。だがまだこんなもんじゃねえぞ!」

「エイヤッ!」

「ゲエッ」

「な……なにい、バサルタス!」

「すげえぞ! そのままやっちまえ東條!」


 バサルタスが投げつけたモーニングスターを回避して、健は剣を振り上げて叩きつける。

 土とんが勢いよく地を走り、バサルタスを打ち上げて転倒させた。


「たあああああッ!」

「おがァ!?」


 助走をつけて、跳躍した健は力強く土の力を宿した剣でバサルタスの腹部を叩きつける。バサルタスは激痛により悶絶し口から紫の血ヘドを吐き出した。


「か、カメが……起き上がれないと思ってェ〜〜!」


 起き上がったバサルタスは手足を引っ込め凄まじい速さで回転しながら、健に体当たりをかます。

 健はそれを軽く、力強く振り払いバサルタスを制止。後ずさりし岩に激突したバサルタスはあきらめず起き上がり、今度は回転しながら宙に飛び上がった。


「押し潰してやるぅーーッ」

「わっ、と!」


 バウンドしながら押し潰そうとするバサルタスの猛攻をかわし続け、バサルタスが息切れしたところを背後から攻撃。

 ――ダイヤモンド並みの硬度を誇る彼の甲羅でもさすがに今の一撃は堪えたようで、腹の底まで激痛と気持ちいい音が響いた。


「どうだ!」

「ぐう゛〜〜ッ、なかなかやるじゃねえか。しかぁし! こんな攻撃ではやられない!」


 それでもバサルタスは平気だった。仕返しと言わんばかりに彼はトゲ鉄球を振り回し健に叩きつける。叩きつけて、叩きつけて、とにかく叩きつける。


「グフフフフ〜〜ッ。俺が優れているのはガードだけじゃあない。腕力もこの甲羅の硬度と同等なのだァ」

「なに!」


 確かにバサルタスは防御力だけではなく攻撃力も相当なものだ。重量感のあるあのトゲ鉄球をブンブン振り回しているし、甲羅にこもってから繰り出す体当たりもかなりの破壊力。

 まるで最強の矛と最強の盾を同時に手にしているようなもの。これでは勝ち目が――。土の力を手にしたにも関わらず健がバサルタスに苦戦している一方、あることを思い付いたアルヴィーはフッと笑い口元を緩ませる。


「……なるほど。そういうことか」

「アルヴィー、なにが?」

「こういうときは、だ。相手の力を利用するのもいいかもしれんぞ」

「よ〜〜〜し、わかった。今度こそ行ける気がしてきたぞ」

「し、しまった。しゃべるんじゃなかった!」


 健たちの胸に再び希望が沸き上がる。一方でキングウルフェンは図らずも逆転のチャンスを与えるキッカケを作ってしまったバサルタスを、「バカ野郎! 余計なことをッ!」と叱責した。


「死ねぇーーッ!」

「ほっ!」


 バサルタスはトゲ鉄球を振り回して健を叩き潰そうとするが、健は盾を構えてそれをぴったりのタイミングで弾き返す。弾き返された鉄球はバサルタスの背中に激突し、衝撃で背中から甲羅全体に亀裂が入った。


「うげえっ、こ、甲羅が!」

「よっしゃ! これで攻撃が通じるぜ!」

「はいっ!」


 不破は電気を帯びた衝撃波を放ってバサルタスをしびれさせ動きを止める。懐に飛び込んで連続で突きや斬撃を繰り出し、稲妻の形に切り裂いてバサルタスをぶっ飛ばした。


「グウウウウウウッ」

「今度はこっちの番だ! おおおおおおッ」


 腰を据えて地面にしっかりと足を着け、健は土の力を付加した剣に力を溜める。


「アースフューリー!!」

「なにい!? おごおおおおおおぉぉお!」


 空高く飛び上がって、剣を叩きつけるとバサルタスの足元からいくつもの岩が突き出て打ち上げる。健は打ち上げられたバサルタスにジャンプしながらの唐竹割りを浴びせ、突き出た岩ごと叩き潰した。それにより衝撃波も発生して少し離れている位置にいたキングウルフェンも吹っ飛ばした。

 敵も突き出た岩も豪快に吹っ飛び、宙には岩の破片が舞い飛ぶ。これぞ土の力を宿した必殺技――アースフューリーだ。あまりの荒業を前にアルヴィーも、不破も、いや全員が驚いた。


「げっ、げふう〜〜っ。なんてヤツだぁ、まさか俺の完全防御を打ち破るとは」

「当たり前だ! この剣は、あらゆる物質を切り裂くことが出来る……帝王の剣なんだからな!!」

「そりゃないぜぇぇえええ〜〜〜〜ッ!!」


 起き上がったバサルタスだったが健の力強く、勇気あふれる言葉を聞き届けるとそのまま背中から倒れ込んで大爆発した。ご自慢の鎧も一緒に砕け散った。

 ――ダイヤモンドは確かに世界で最も硬い鉱物である。しかし、その実衝撃には弱くトンカチで叩けば砕けるという報告もあるようだ。


「やった! 残るは大将ひとりだ!」

「覚悟しなオオカミ男!」

「お、おのれえい! よくもバサルタスを……許さん!」


 バサルタスを倒されたキングウルフェンは怒り心頭となり、青筋立てて健たちの前で雄叫びを上げる。

 目は光り、ツメが冷気によって巨大化し鋭い氷のツメへと変化した。


「貴様ら八つ裂きにしてハラワタを食らい尽くしてやるッ!!」


 キングウルフェンが怒りの咆哮を上げたそのとき、陽はだんだんと沈み――夜が近付きつつあった。


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