EPISODE285:最凶の敵! クロノスの威光の前にすべてがひれ伏せる
カイザークロノスは腕を組んだまま、その場から微動だにしない。それどころか左手で挑発までしており相当な余裕を感じさせる。
「どうした。来ないのか?」
「誰がッ!」
ムキになって斬りかかった健だがその攻撃は片手で受け止められ、クロノスに膝で腹部を蹴られた。
「っぐ」
起き上がった健は、身構えてカイザークロノスをよく見る。
――ヤツは重厚でいかにも強そうだが、でも、動きは鈍そうだし攻撃もホントは大振りかもしれないじゃないか。だったら落ち着いて戦えば楽勝だ。彼はそう信じて、エーテルセイバーを携え再び斬りかかろうとする。
「でやああああァァァッ!!」
「フッ……」
「なにい!?」
今度は、斬りかかる寸前でクロノスの姿が消えた。いったいどこに消えたのだ? 戸惑っていた健の右肩を突如として衝撃が襲い、血が吹き出した。健の背後にはカイザークロノスが立っており、驚いている隙に健にフックをかましてぶっ飛ばす。
「うッ! まさかあいつ……超スピードで僕の肩を!」
「見た目で相手を判断しないことだな」
わかりやすく言うとカイザークロノスは圧倒的スピードをもって一瞬で健との距離を縮め、圧倒的パワーでぶん殴ったのだ。
「だけど、土のオーブは渡さん!」
「粋がるなよボウヤ。上には上がいることを身をもって教えてあげよう」
助走をつけてから放たれた健の斬撃を無駄のない動きでかわすと、カイザークロノスはエルボーで反撃。更に青黒いオーラをまとった右腕で殴り、爆風を起こして上空へ吹き飛ばす。
健は顔面から地面に突き刺さるように落下した。
(まずいことになった。クロノスの強さは並大抵ではない。頼む、健……無茶はしないでくれ!)
戦いを見守るアルヴィーの眼に映るは、必死に立ち向かうもほぼ一方的に相手から攻められいいように蹂躙されている健の姿。さすがの彼女も表情に焦りが見え始めていた。
とにかくアルヴィー心配だったのだ。彼がカイザークロノスに敗れて命を落とさないか、帝王の剣と今所持しているオーブをすべてクロノスに奪われないかが。
「剣がダメなら、コブシでェッ!!」
エーテルセイバーで斬ろうとしてもダメなら素手で殴ればいい。そう思い、肩の痛みを堪えて雄叫びとともに渾身の右ストレートを繰り出したが、クロノスはピンピンしている。それどころか眉ひとつ動かしていない。
「効かぬわ!! カイザーナックルッ!!」
「うわああああぁぁぁあああぁああぁッ」
カイザークロノスは健を殴り飛ばして、右手に青黒いオーラをまとって地面を叩く。ドーム状の大爆発が起きてクロノスごと周囲を飲み込んだ。
「健、無事か!? 健ぅー!!」
アルヴィーが叫ぶ。先程起きた大爆発によって地面は大きくえぐれてクレーターが出来ていた。健はその中で倒れており、カイザークロノスは鋭く青い眼で彼を見下している。
「ほう。意地でもオーブを手放したくないと見える。だが放してしまったほうが身のためだぞ」
「嫌だね……誰がお前らなんかに!」
「フンッ!」
立ち上がった健は左手に土のオーブを握ったまま手放さず、カイザークロノスから距離を取る。クロノスは掌から電撃や赤黒いエネルギー弾を放ち、更に一気に距離を詰めて至近距離で地面を殴る。赤黒い衝撃波が起きてまたも健を吹き飛ばした。
「やっぱり強い、強すぎる……。ここは一気にやるしか!」
口から血を流しながら健は決断を下す。そしてアルヴィーに、「アルヴィー、力貸してくれ!」と呼び掛けた。
「しょうがない……」
「一か八か、やるしかないっ!」
健はエーテルセイバーに炎のオーブをセットして、龍の姿となったアルヴィーとともに跳躍。天に舞い上がったアルヴィーの吐く青い炎に押されて、剣を地上にいるカイザークロノスに向け――突進!
「ファングブレイザー!!」
クロノスは防御態勢を取らず棒立ちしている。今がチャンスだ。ファングブレイザーを放ってクロノスに当てたが、まるで通じず――逆に弾き返された。
「ハハハ……こんなもの痛くもかゆくもないわッ!!」
「そんな! ファングブレイザーが効かないなんてッ」
バリアーも貼らず身も守らず、技を真正面から受けきった上でカイザークロノスはそう言っている。
よってカイザークロノスはいかなる岩石や金属だろうと素手で破壊できる圧倒的パワーと、トップアスリートでも最速を自称するものでもそうやすやすとは追い付けない圧倒的スピード、そして並の剣や拳では歯が立たないほどの強靭な防御力を備えていることとなる。
これでは健が絶望を覚え、恐怖におののくのも無理はない。シェイドの頂点に立つ最凶のシェイドは、それほどまでに強く恐ろしいのだから。
「これが……恐怖の帝王……!?」
――……幹部は全員、俺たち社員より遥かに強い。だが、社長はその幹部を上回る。俺からすれば雲の上の存在だ――
――お前は強い。もっと強くなれ……誰より強くなって、恐怖の帝王を打ち破ってみせろ! そっ……そのくらいの覚悟がなければ、人を守ることなどできんぞ――
健の脳裏に、以前死闘を繰り広げたクロサイのシェイド――アンドレことアーマーライノスが遺した言葉がよみがえった。
――ヤツが言っていた通りだった。『恐怖の帝王』カイザークロノスは、その呼び名に恥じず恐ろしいほどの強さで自分を追い詰めてきた。勝てない。今の自分では勝てる気がしない。だが逃げるわけにはいかない。
「とああああッ!!」
「ぬおっ、ぐわああああああああああ!!」
怯えはじめた健に、カイザークロノスは容赦なくキバをむく。超スピードで健に接近して健を青黒い光を宿した右手で殴り、突き放したところをショルダータックルで追い討ちして岩に激突させ豪快に血を吐かせる。
常人ならとっくに二、三回は死んでいるところを、健はなんとか生き延びている。不幸中の幸いか、それとも……なまじエスパーになってしまったばかりに味わうことになった不幸か。
「かはッ……」
「これでおしまいか? それでは面白くない。立ち上がれ! 圧倒的実力差による絶望と苦しみをもっと味わいたくはないのか!」
強者特有の余裕か、カイザークロノスは健から離れて挑発。
アルヴィーは人の姿に戻って、健を心配そうに見つめている。助けるべきか? いや、健の手で出来るところまでやらせてやるべきか? この緊急事態だというのに、なぜ自分は迷っているのだ――。
「黙れええぇえええぇぇぇ!!」
腹の底に響くような熱い叫び声とともに、健は復活。目付きも本気になっており、カイザークロノスが放つエネルギー弾を風のオーブの力を借りて切り抜ける。
「食らえぇええぇえええ――ッ」
「……見切った! 死ね!!」
「ふおおおおおおっ!?」
健が加速しながら放った渾身の一撃を、カイザークロノスは片手で受け止めもう片方の手で健の腹にパンチを叩き込んだ。
更に口から破壊光線を吐き出して、健を転倒させる。健が一方的に攻められて追い詰められている姿を見て、さしものアルヴィーも動揺するのはもう何度目だろうか。
「フハハハハハ! 黄金龍よ、とくと目に焼きつけろ。お前が最も信頼していた男が無様に敗れる姿をな」
「っ……」
カイザークロノスは両手をかざし、光らせて二振りの青を基調とした剣を召喚する。
片方は長くて見るからに切れ味鋭そうで、もう片方は防御用なのか短い。どちらも禍々しい外見をしており、この世に一本ずつしかない名剣であると思われる。
「ハァァァ!!」
クロノスは起き上がった健を狙い、斬撃と同時に半月状の衝撃波を放つ。横に転がってやり過ごすが、その斬撃は健の背後にそびえていた岩山を一瞬で切り崩して崩壊させた。当然轟音が聴こえて振り向いた健とアルヴィーは、その光景に唖然とする。
「どうなってるんだ!? 岩山を破壊するなんて……!!」
「今日がお前の最期の日だ! 覚悟するがいい!」
地獄が――はじまる。