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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第15章 湯煙と大地の石とビキニふたたび
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EPISODE282:パーフェクト・ガードナー


 健がコインを指で弾いてトスする。出るのは表か裏か? ――裏だ。裏が出れば亀夫の勝ち。

 続いて亀夫がコインをトスして、裏が出た。俺の勝ちだ、と、亀夫がほくそ笑み健たちは落胆した。


「ふへへへ! 俺の勝ちだなッ」

「ま、まだだ! もう一回!!」


 しかしは健はあきらめずに再戦を申し込み、もう一度コインをトス。出たのは裏だ。「またぁ!?」と、健は顔を歪める。

 続いて亀夫がコインをトスしたら、やはり表ではなく裏が出た。――どういう仕組みだ。もしやこのコインには表が無い(・・)のか?


「へっへっへ。ペレストロイカーっ」

「イカサマだ! こんなのイカサマだぁ!」


 拳を打ち付け、健は立ち上がって亀夫に抗議する。「イカサマぁ?」「なんのことやらわからんな?」と、亀夫とヴォルフガングはとぼけた顔をした。


「イカサマなんかじゃねえよ。俺は正々堂々勝負したつもりだっつうの。このゲームは恨みっこなしだぜ、はい引っ込んだ引っ込んだ」

「ぐぬぬ……!」


 苦虫を噛み潰した顔で、ほくそ笑んで余裕の態度を見せている亀夫とヴォルフガングに向き合う健たち。

 ――いまのゲームを見ていて疑問に思うことがあったか巫女の文が手を上げて、「あの!」


「あ゛ん?」

「そのコイン、見せていただけますか?」

「なんだよ。まだ疑ってんのかァ?」

「いいから貸せッ!」

「ちょっ!?」


 そこにアルヴィーが介入し悪態をつく亀夫からコインを奪い取る。文と神主に見せてみたところ――二人とも眉をひそめる。


「なんということだ! このコイン裏面しかないではないか……」

「表がないということは……イカサマでしょうか?」


 そう、このコインには表など無かった(・・・・)。最初から。これは紛れもないイカサマだ。

 つまるところ亀夫には健たちと正々堂々と勝負をする気など端からなかった。イカサマをしてでも勝利し、大地の石と栄光を掴みとる算段だったのだ。


「……卑怯者! やっぱりイカサマしてたんだな!!」

「許せねぇ!」

「うるせえッ!」

「うわッ」


 イカサマがバレた。亀夫は健と不破を蹴っ飛ばして、更に文にまで手を上げてコインを奪い取る。


「勝負に勝ったのは俺たちだ。命が惜しけりゃ石を出せ。いいな!?」

「っ……」


 ヴォルフガングが亀夫の前に出てそう宣言。しぶしぶ承諾した文と神主は神主の家から、表にある神社の境内へ行って戸を開ける。


「ほーう。これが大地の石か」

「旦那、あっしにはただの漬け物石にしか見えねーんですが?」


 神社に祀られていた大地の石、それは表面がツルツルしていて角がなく丸みを帯びていた。まるで漬け物石のようだ。


「……神主さん、本当にいいんですか。あいつらイカサマしたんですよ? それにあいつらに渡したりなんかしたら……」

「大丈夫です。今のところは」

「えっ……」


 その言葉はどういう意味なのか。疑問に思う健だったが、ついにヴォルフガングと亀夫が神社の中から大地の石を持ち出す。


「神主さんよォ、これが大地の石なんだろうな?」

「信じられませんか? 私は、ゲームに勝ったほうに石を渡すという約束は守りましたよ」


 飄々とした態度で接する神主・渋川の傍らで文が表情を曇らせている。大地の石を片手に鼻で笑い、ヴォルフガングは「まあいいぜ。どうせこの神社メチャクチャにするつもりだったんだからな」と鋭く巨大なツメを出す。


「アオォォォーーン!!」

「ふへへへへ……」


 ヴォルフガングは黒い霧に包まれて雄叫びを上げ、その姿を大柄な銀色のオオカミのシェイドへと変える。変身を解いたようなものだ。

 亀夫も体を岩に変えてから内側からそれを破り、鎧を着込んだ黒いカメのシェイドとなった。


「吹き飛ばしてやる!」

「あぁっ……」


 バサルタスが背中に備えたバズーカ砲を神社へ向ける。神主は、怯える文をかばう。

 間もなくしてバズーカ砲が発射され、神主と文は神社ごと木っ端微塵に……ならなかった。

 目前で健が割って入りバズーカ砲を盾で受け止め、盾の前で爆風が広がる程度に抑えたのだ。


「健さん!」

「ケッ! 余計なマネしやがって」


 振り向いてにっこり笑っている健を見た神主と文は、安堵の表情を浮かべる。絶望の中で一筋の希望を見出だした笑顔だ。

 顔付きを険しくして、健はバサルタスとキングウルフェンと対面。言うまでもなく、卑劣な作戦をしかけてきた相手から大地の石を取り返すつもりだ。


「邪魔者に用はねぇんだよォーーッ!」


 得物のトゲ鉄球を持って迫るバサルタス、だが彼の前を稲妻をまとった――不破が横切る。バサルタスは驚いた拍子に鉄球を落とした。


「ここは神社だぜ。罰当たってもいいのかッ?」

「ぬぅ……」


 不破は余計な被害を出さないようにサンダーストライクを放ってバサルタスを神社から引き離し、山中へ。そこで殴り合いを始めた。

 部下の名を呟いて歯ぎしりしているキングウルフェンを、アルヴィーはキックをかまして怯ませる。アルヴィーの攻撃により大地の石がキングウルフェンの手元から離れた。すかさず健は石を拾う。


「貴様ァ、よこせ!!」

「ヤだ!」


 キングウルフェンのツメをかわして、盾で弾き返して隙を作り剣で切り上げて反撃。紫の血しぶきが宙を舞う。

 しかし直後に足払いをかけられ健は転倒。その間にキングウルフェンは健から石を奪い取る。


「このっ!」

「バカが! こいつは俺たちのもんだ!!」


 健の斬撃をツメで弾くとキングウルフェンは衝撃波を伴うけたたましい雄叫びを上げて反撃。

 健とアルヴィーを怯ませその隙に逃走を図るが、アルヴィーがすばやく前に立ち塞がってパンチを浴びせ奪還した。


「これは島の宝だ。お主らに悪用などさせん」

「てめえも同じ穴のムジナだろうがァ!!」


 左手に大地の石を握ったまま、アルヴィーはキングウルフェンとかち合う。しなやかな身のこなしからキックを繰り出し、パンチを容赦なく顔面に浴びせる。

 キングウルフェンも負けじと口から身も凍る冷気を吐き出し、更に両手に発生させた冷気を爆発させて氷の弾丸を飛ばす。アルヴィーは、必要最小限の動きでキングウルフェンが放った技のことごとくをかわした。


「このアマが!」

「隙ありっ!」


 隙を突いて健がキングウルフェンに背後からジャンプ斬りを浴びせて大ダメージを与えた。

 更に雷のオーブを柄にセットし雷の力を付加した斬撃を連続で繰り出す! キングウルフェンは黒焦げになりながら転倒した。


「ざけんなよ!」


 キングウルフェンは起き上がると加速してすれ違いざまに健とアルヴィーをツメで切り裂いて攻撃。切られた拍子にアルヴィーの手から大地の石が離れた。

 ヤツらに渡すわけには……! 目の前に落ちた大地の石を拾おうとするアルヴィーだが、その手をキングウルフェンが踏みにじる。神主と文は、思わず口を塞ぐ。


「クヒャハハハハ……!」

「っ……うわああああっ」


 アルヴィーを蹴っ飛ばして大地の石を拾い上げると、キングウルフェンは遠吠えして――卷属に当たるオオカミ型シェイド・ファングウルフェンの群れを呼び寄せた。ウルフェンの群れはあっという間に健たちの周囲を取り囲み、追い詰める。すごい数だ。それはもう二人とも眉をしかめるほどに。


「あとは任せた! そいつらのハラワタ引きずり出して食いちぎってやれ!」

「ま、待てッ! ヴォルフガング!!」

「貴様、逃げる気か!」

「あばよ東條! 仲間と一緒に食い殺されちまいな!!」


 キングウルフェンは木陰に潜ってその場から消え去る。健たちの奮闘もむなしく大地の石は持ち逃げされた。


「ガルルルルッ!」

「ゴルルルルッ!」

「アルヴィー、やれるかな? この数」

「さあ、な。やられた以上はやり返すしかない!」


 健たちを完全に包囲した血に飢えし野獣の群れ。もはや逃げ場などない。互いに背中を預けて、健とアルヴィーは敢然と立ち向かわんとしていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふんふんふんだああァァッ!!」

「おわああああぁぁぁ――ッ」


 その頃不破は神社から少し離れた山中でバサルタスと戦っていた。

 しかし状況は有利とは言いがたく、現に鎖付きのトゲ鉄球をぶつけられ木の幹に衝突している。


「ハッハハハハハ!! 俺を旦那から引き離して有利になったつもりのようだが、逆効果だったなあ!!」

「くっ!」


 立ち上がって顔面にパンチを見舞うもバサルタスは平気だ。不破を両手で掴んで持ち上げるとそのまま放り投げ血を吐かせた。


「無駄骨無駄骨。俺様の甲羅はシェイドでも最強クラスの硬度でね。お前のへなちょこパンチじゃ傷ひとつつかないんだな、これが!」

「やっぱり素手じゃ不利か……」


 バサルタスの甲羅はダイヤモンドにも匹敵するほどの硬度を持つ。鉄壁の防御力を誇る彼の前では、並みの武器や拳は役立たずと化してしまう。更にパワーも強い。よほどタフでなければバサルタスを倒すことは不可能だ。


「けどよ! 無駄かどうか、やってみなくちゃわかんねえだろ!」

「ん?」

「食らえええええええええええッ!!」


 起き上がった不破は空高く飛び上がって、バサルタスめがけて急降下。勢いはすさまじく、稲妻に加え摩擦熱も発生しているため当たれば大打撃となるだろう。当たれば大打撃を与えられるはず……だった。


「ハァッ!」

「なっ!?」


 だが、バサルタスは背中の甲羅で不破の必殺攻撃を弾き返したではないか。そのまま跳ね返って不破はまたも木の幹に衝突し血を吐いた。


「効かんなぁ〜」

「く……くそぅ」


 のっしのっしと、重たい足音を立ててバサルタスは近付く。不破は加速して反撃するが、やはりダイヤモンド並みの硬さを誇るバサルタスには効き目が薄い。


「そんなんでよくウサギに勝てたよな、ノロマぁ!」

「へっ、場数が違うんだよ! せっかち野郎とはなぁ!!」


 突いてかわして、突いてかわして、突いてかわして。ヒット&アウェイが繰り返され、戦いはますます白熱していく。


「ジャイアントスイングゥゥゥ!!」

「どわぁぁぁぁっ!?」


 トゲ鉄球を旋風のごとく振り回して大回転させ、バサルタスは不破をぶっ飛ばしてノックアウトする。

 薄ら笑いを浮かべ鉄球を持って不破に歩み寄るバサルタスの前に、突如としてキングウルフェンが姿を現す。


「おー、旦那ァ。やりやしたねえ」

「大地の石はもらった。これでこいつらもおしまいだ」

「ちゅうわけだ。おめえら地べたにでも這いつくばってな」

「クヒャハハハハ!!」


 不破を嘲笑したシェイド二体は、根っこの隙間に姿を消した。そこに残ったのは地べたに拳を叩きつけて己の無力さを恥じる不破の姿だけだ。

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