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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第15章 湯煙と大地の石とビキニふたたび
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EPISODE281:ここはカムイアイランド


 十一時過ぎ、健たちを乗せたフェリー・あかつき丸は神威島の船着き場に到着した。

 カモメの群れがそこら中を飛び交って鳴き声を上げている。まるで島を観光しに訪れた人々を歓迎するセレモニーのようだ。


「ここが神威島かー。なんだかのどかな感じだな」

「こういうまったりした場所は好きだぞ」

「おいおい、なにのんきなこと言ってんの。オレたち観光に来たんじゃねえんだぜ、わかってる?」

「それは重々承知だ。でも心にはゆとりを持たねばな」

「へいよー……」


 島に降り立ち、一同は港から歩いて町の中へお邪魔する。観光気分になっていた二人を不破は咎めたがうまく丸め込まれたようだ。

 獲りたての魚が叩き売りされている市場からはにぎやかな声が聴こえ、海沿いにあるためか波の音も聴こえてくる。

 家屋は屋根が瓦で出来たものが多く、町のほうへ行かないと近代的な建物はあまり見られない。下手をすると迷子になりかねないので、こういうときにはガイドブックが役に立つ。


「……む?」


 道路を歩いて島の景色を眺めている途中、ぐぅ〜、と、アルヴィーの腹の虫が鳴る。同時に健の腹の虫も鳴った。


「……みんな、メシにせんか?」

「さっきのバトルきつかったもんな。時間もちょうどいいしそうしよう」


 アルヴィーの提案に同意した一同は町中にある食堂へ行って昼食を取ることにした。健は肉うどんの大盛り七百円(元々六百五十円だが大盛りで+五十円)を頼み、アルヴィーは七百円の親子丼、不破は八百円のカツ丼を注文した。合計で二千二百円だ。


「なあ東條、もうちょい静かに食べられないか? あんまり音立てないでほしいんだが」


 すごい勢いでうどんをすすって食べている健に不破が注意する。が、「そういう説教臭いところ嫌いです! オッサンかっての!」と、健は食べるのを中断して不破にいちゃもんをつける。


「お前までオッサン呼ばわりか! じゃあ今度から白峯さんのことオバサン扱いしろよ。じゃなきゃ不公平だよ」

「……それとこれとは話が違うと思うんだが?」


 アルヴィーが健の首をホールドしながら不破を睨み付け、ドスの利いた声で問う。


「な、なんだよそんな怖い顔して。怒ってる?」

「私は別にかまわんが。とばり殿はどう思うか」

「わ、わかった。わかったから顔引っ込めてくれよ。心臓止まっちまう……」

「わかれば良い」


 不破に怖い顔を近づけていたアルヴィーが引っ込み、不破は安堵の息を吐く。健は痛そうに痕が残った首筋を押さえて、「イタい……」と弱音を吐いた。


「ごちそうさまーっ」


 あっという間に大盛りの肉うどんを食べ終えた健は食器を返す。そのとき彼は、ふと、考えた。自分たちはシェイドよりも先に大地の石を手に入れなければならない。だが地元の人なら岩亀神社への近道を知っているはずだ。そうすれば早く辿り着けるのでは? ――と。


「おばちゃん! 岩亀神社まで近道ある?」

「あるよー。バスで行けばすぐ」


 カウンター越しに食堂のおばちゃんに訊いてみたところ、どうやら岩亀神社までバスで行けるようだ。

 バス停は食堂を出てから五分ほどで着く。おばちゃんが言っていたようにそこから『岩亀神社前』行きのバスに乗れば、神社まであっという間だ。


「うひゃあ! 階段、ながっ!」

「すげえ……こんなの上がんのかよ」


 腹ごしらえに、バスに乗って神社前まで移動した健たちは目を見張るほど長い階段を見て驚く。


「こりゃいい運動になるぞ」

「よし……いちばん上まで競走だ!」


 風のオーブをエーテルセイバーの柄にはめて力を引き出すと健は加速して走り出す。「おい、待てよコラっ!」と、不破はあとを追う。


「やれやれ。私はゆっくり登ろう」


 別に競走しようなどとは思っていないアルヴィーはそう言って、階段を登り始めた。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲



 鳥居をくぐり果てしない階段を登った先には、大きくて立派な神社が建てられていた。先に着いていた二人はすでにフラフラでへたっており、あとから上がってきたアルヴィーはそれを見てきょとんとした顔に。


「あ、アルヴィー……お、遅かったね」

「は、入ろうぜ。はー、はーッ」


 一同、神社の境内へと入っていく。境内には立派な狛犬が置かれており、一人の巫女がホウキで落ち葉を掃いている。黒髪のストレートロングヘアーをツインテールにしてまとめている。くりくりしている瞳は茶色だ。

 神社を訪れた一同を見かけたツインテールの巫女はホウキを持ったまま近寄り、「ようこそお越しくださいました。ご参拝ですか?」と清楚かつかわいらしい声で訊ねた。


「いえ、お参りじゃなくて。その……大地の石っていうのがあるって聞いたのでそれを見せてもらいに」

「……大地の石を? あれは御神体でして、見るのはともかく触るのはちょっと」

「そこをなんとかッ!」

「うーん……」


 健たち三人、手を合わせて巫女に頼み込む。少し首を傾げて、巫女は「神主と話をしてきます。少々お待ちください」と神主を呼びに行く。

 ほどなくして神主がやってきた。精悍で真面目そうな顔付きをした壮年の男性だ。


(あや)、この方々が大地の石を見せてほしいと?」

「はい、神主」


 巫女こと文から話を聞いていた神主は、健たちを見て眉をしかめる。


「はじめまして、東條健って言います……」

「不破です」

「アルヴィーと呼んでください」

「私は神主の渋川と申します。ここで立ち話も難ですし、どうぞ中へ」


 神主と巫女の文に案内され、一同は神社の裏にある神主の家へ。そこで茶でも飲みながら話し合いをすることとなった。


「……大地の石をシェイドが狙っていると?」

「そうなんです。奴らの手に渡すわけにはいかない。ぶしつけで恐縮なんですけど、その……大地の石を僕たちにお譲りいただけないでしょうか?」


 健から大地の石を譲るように頼まれるも、そう簡単には渡すわけにはいかない渋川と文は難しい顔を浮かべる。


「さっきも言いましたけどあれは御神体ですから、そう簡単にはお渡しできません」

「というのも大昔、この島はペンペン草ひとつ生えていない石ころのような島だったのだそうですが、あるとききれいな石が流れ着いてきて……それがこの神威島に恵みをもたらしたそうなのです。やがてそれはこの島に祀られ、大地の石と呼ばれるようになりました」

「そうか、それでか!」

「ですから、渡せと言われてもすぐには渡せないものなのです。大地の石は島の宝、島の守り神……どうかもう一度考え直してみてください」


 この島の過去について、大地の石が大地の石と呼ばれる所以について神主の口から語られる。本当に持っていってしまっていいのか? 健たちの心が揺らぎ始める。


「よぉ神主さん! 邪魔するぜェ!」

「やっと辿り着いたあ……」


 そこへ招かれざる客がふすまを開けてやってきた。軍服姿のヴォルフガングとギャンブラー風のイカしたコスチュームに身を包んだ亀夫だ。

 先ほどゴーレムたちと交戦して負傷したためか、頭や腕に包帯を巻いていて顔にはばんそうこうを貼っている。


「ヴォルフガング!? と、知らない人!?」

「貴様ら、なぜここに!」


 座布団から立ち上がって身構える一同。神主と文の前に立ち、二人を守る形だ。


「そうカッカしなさんな。今日は戦いに来たんじゃねえ、ちょっくら俺たちがいかに知的か証明してやろうと思ってな」

「「「はぁ!?」」」


 眉をしかめて口をあんぐり開けて、やや面白味のある呆れた顔をする一同。


「黒岩亀夫っていうんだが、俺とゲームをやらないか?」

「ゲーム?」


 黒岩亀夫と、フルネームで名乗った亀夫は健たちにゲームを持ちかける。その手に握られているのは一枚のコインだ。亀夫は健たちにコインを見せながら、「コイントスでもやろうぜ。二回はじいて二回とも表が出たらお前らが大地の石を手に入れて、二回とも裏が出たら俺たちが大地の石をもらう。世界の命運を賭けたゲームだ。ゾクゾクするだろう?」


「……やるしかないのか?」


 健は迷う。これは罠に決まってる。しかも負けてしまったら大地の石はヤツらの手に渡ってしまう。この誘い、本当に乗るべきなのか? 一抹の不安を抱えて視線を神主と巫女に向けながら、そんなことを考えていた。


 そうしていたらいやに自信たっぷりな顔でヴォルフガングが、「どうした、やらんのか? 言っておくがキャンセルは出来んぞ」と健たちを挑発。


「……こうなれば仕方ありません。健さん、勝負を受けてください」

「皆様が勝てるようにお祈りします!」


 開き直ったか、渋川と文は健たちを励ます。決心が着いた健は、「はい。必ず!」と力強い返事をしてから顔をヴォルフガングと亀夫に向けた。


「この勝負必ず勝つ! お前らに大地の石は渡さない!」

「ふん。それはどうかな」


 かくして、世界の命運を賭けた(?)コイントス対決が始まろうとしていた。


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