EPISODE280:争奪戦のはじまり PART3
風車の如く激しく振り回されたランスから稲妻が放たれ、交差する。ワイズファルコンは硬くしなやかな翼で身を守り、ヒュドラワインダーは左手に二の腕までを覆う手甲をつけて防ぐ。その間に健は弾き飛ばされた剣を拾い、身に付けた。
「空から援護します!」
「よし、頼むッ」
放電が止むとワイズファルコンは空へ飛び立ち、ヒュドラワインダーが深く息を吸い込む。何かの合図か? と、健たちは警戒する。そのうちヒュドラワインダーは左腕に黒みを帯びた水色のオーラをまとい地面に思い切り叩きつけた。
「レルネースワンプ!!」
「!?」
刹那、ヒュドラワインダーの周囲に猛毒の瘴気が広がっていく。
「この技は!?」
「いかん! 健、不破殿、離れろ!!」
このレルネースワンプに見覚えがあった不破は目を見開く。以前、ライフライン防衛戦の際にこの技に苦しめられたからだ。瘴気に当てられた二人の体から、徐々に体力が奪われていく。
「ふはははははッ! そうだ苦しめ、もっと苦しめェ!!」
高笑いを上げるヒュドラ。そうしている間にも二人の体力は猛烈な勢いで減少している。
「うううぅぅぅッ!?」
「離れろ、体力を奪われちまうぞ!」
瘴気のフィールドから離れようと試みる二人だが、そのときワイズファルコンは翼を大きく広げて――、空から羽根がスコールのように降り注ぐ。
「ファルコンフェザーストーム!!」
「「うわああああぁああ〜〜〜〜ッ」」
吹っ飛ばされ、転倒するも二人は立ち上がる。ヒュドラワインダーの周囲には猛毒の瘴気が立ち込めるフィールドが展開されたままだ。ワイズファルコンは空中を浮遊した状態で腕を組み、ヒュドラワインダーは右肩に魔剣ハイドラサーベルを担いで健を見下ろしている。
「いい加減負けを認めろ!」
「イヤだ、負けてたまるかぁ!」
負けろと言われて、「はいそうします」と言って負けるようなバカはいない。健はエーテルセイバーに緑色をした風のオーブと青い氷のオーブを装填。冷たい空気が勢いを増した潮風に乗って強く吹き荒れた。
「タアッ! とあああぁーッ!!」
「ぐ、うぐおおぉぉッッ」
腰を深く落として、健は加速。目にも留まらぬ速さで走り抜けながらヒュドラワインダーをすれちがいざまに何度も切り裂く。
「辰巳さん!」
空中から降り立ったワイズファルコンは辰巳を援護しに向かうが一筋の雷光がそれを阻む。不破だ。
「させるかよ! ちぇいっ!」
ランスを振りかぶるが、ワイズファルコンは神がかり的なスピードでそれを回避。不破の背後に回り込む。
「ッ!?」
「人間にしてはなかなかの動きですね。素晴らしい」
「そりゃどーもッ!!」
「はいッ!」
不破もワイズファルコンもスピードタイプだ。しかしワイズファルコンのほうが不破を遥かに上回っている。不破がどれだけ速く動き回っても追い付くことは不可能だ。
「ブリザードストームッ!!」
「ぐはあああああああっ!?」
エーテルセイバーに力を貯めて健は思い切り剣を振る。激しい吹雪を伴う竜巻が発生してヒュドラワインダーを切り刻み、凍らせる!
「せいやああああああッ!!」
「うぬおおおおお――――っ」
そこから更に連続で斬撃を繰り出し、凍結・粉砕。ヒュドラワインダーに膝を突かせた。「いいぞ!」とアルヴィーもエールを送る。
「うおおおおおぉおおッ!!」
「はあああああぁっ!!」
攻撃を弾き、あるいは弾かれ。超高速の戦士と神速の女戦士がぶつかり合う。不破は連続突きを、ワイズファルコンは弓を分割し双剣へ変えてから連続斬りを。両者一歩も譲ろうとはしない。
「はええッ」
「フッ……」
最終的に不破は押し負けてしまった。ニヤリと口の端を吊り上げるワイズファルコンだが、不破が次なる攻撃に備えていることに気付いていなかった。
「……おりゃあああああッ!!」
「なにっ!? ああああぁあああっ!!」
電気を帯びた衝撃波が、ワイズファルコンに炸裂。不意打ちだったために防ぎきれず、体が痺れて動けない。
「ハイレグ鳥女、受けてみろ! スパークルコンバイン!!」
「やあああああぁっ!!」
不破は雄叫びを上げてワイズファルコンを連続で斬り、あるいは突く。爆風とともにワイズファルコンは壁に叩きつけられた。
「アルヴィー、『白き光』を!!」
「あいわかった!」
属性を複合させた必殺技によって大ダメージを受けてもなお、立ち上がって身構えているヒュドラワインダーを前に健はあることを決意。
それは『白き光』こと光のオーブを用いて必殺奥義を繰り出すことだ。必殺奥義――破邪閃光斬りは凄まじい威力だ。並のものなら一撃で蒸発させるほどで、仮に倒せなくとも最悪撃退することは可能だ。
「受けとれっ」
アルヴィーの髪が黄金色に光り出し、目は碧色に変わる。黄金龍である彼女の力が白い光の球となって具現化し健の手元へとそれを投げ渡した。
「あれは!」
「『白き光』……!」
二体の上級シェイドは驚きを隠しきれない。意を決して健は光のオーブをセットし、エーテルセイバーとヘッダーシールドに眠る真の力を解放。エーテルセイバーは白と金を基調とした神々しい装飾が施された『帝王の剣』へ、ヘッダーシールドは表面が鏡のように磨き上げられた銀色に輝く『月鏡の盾』へと形を変えた。不破や二体の上級シェイドの眼に映った伝説の武具はあまりにも――眩しかった。
「くっ、あれが帝王の剣かッ!」
「行くぞぉおおッ!!」
腰を深く落として剣に力を貯めて、黄金色の光を刃にまとわせ疾走。ヒュドラワインダーを光の長剣でぶったぎった。
「破邪閃光斬りッッ!!」
「ぬぐおおおおおおおおおおおっ!?」
健が精悍な顔で帝王の剣を携えている背後でヒュドラワインダーは大爆発。人間の姿となって甲板の上に横たわった。
ただちに、ワイズファルコンも人間体に戻ってヒュドラのそばに駆け寄った。「なんてパワーだ……ヒュドラを倒しちまいやがった」と、不破には戦慄が走っていた。
「くっ、貴様ら。いつの間にか強くなりおって……」
「……不覚を取りました。いったん引きましょう」
「待てッ! 辰巳、鷹梨ッ!!」
撤退しようとする二体の上級シェイドを逃がすまいと迫る不破だったが、余力を残していた鷹梨は突風を巻き起こし退散。
こうして二体の上級シェイドが甲板から去っていった。雑兵タイプのシェイドたちは、すでにアルヴィーが全滅させている。
「や、やった……」
「東條しっかりしろっ」
光のオーブはアルヴィーの体に戻り、伝説の武具は今再び眠りに就く。安堵の息を吐いた一同だったがそのとき、健の体がふらついて倒れてしまう。すぐさま不破とアルヴィーが肩を担いでやった。
「すみませーん! どなたか、お医者さんいませんかー!」
「急病なんです、お願いしまーすッ!」
医者を探して不破とアルヴィーは健を担ぎながら、安全になった船内をさまよう。――邪魔物は退けた。これで、あとは神威島で大地の石を探すだけだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
一方、神威島の採石場跡ではヴォルフガングたちとメカ生命体による激闘が熾烈を極めていた。高速で動き回りながらキングウルフェンとカイゴーレムがぶつかり合い、バサルタスとデルタゴーレムがぶつかり合う。
もはや単なるバケモノ同士の戦いではない。殺しあいだ。エスパーどもより先に大地の石を手に入れる権利を賭けた壮絶な殺しあいだ。
「その加速能力、貴様不破ライか!」
「そうだ、オレは不破の細胞から作られた!!」
飛び散る氷のかけら、とどろく稲妻。血に飢えた野獣と冷血な戦闘マシーンはとどまるところを知らない。
「死ねェーーッ」
「どわああああァッ」
バサルタスのバズーカ砲がデルタゴーレムに炸裂し、吹っ飛ばされる。火花を散らしながらうめくデルタだが、すぐに立ち直りバサルタスの右腕へショルダーキャノンを発射。怯ませた隙にキングウルフェンに迫り、ショルダーキャノンを発射するが爪で打ち消された。
「なかなかやるじゃねぇか、ほめてやるよ」
「ふん。ポンコツが」
「だが、しょせん貴様らなど俺たちの敵ではなーい!」
パカッ! と、デルタゴーレムのバイザーが展開しその下に隠されていた半月状のモノアイから破壊光線が放たれキングウルフェンを吹っ飛ばした。
「だ、旦那ぁ!」と、バサルタスは駆け付けるがカイゴーレムの電撃光線を食らって彼も吹っ飛ばされた。ちょうどキングウルフェンの近くだ。
「他愛もない連中だぜ。覚悟は出来たか?」
「大地の石をいただくのはお前らじゃない。オレたちだ」
「これより先に貴様らが出る幕はない! 排除だ!」
「あばよ!」
キングウルフェンとバサルタスを追い詰めたデルタとカイは武器を突きつけてトドメを刺そうとする。
しかし――その寸前でキングウルフェンはけたたましい雄叫びを上げてカイとデルタを圧倒。更に冷たい空気を爪にまとわせ、巨大な氷の爪を作り出した。
「な、なんだ!?」
「ブリザードウルフェンクローッ!!」
キングウルフェンは、その巨大な氷の爪でカイとデルタを何度も切り裂き、爆発させてぶっ飛ばす。二体が気絶している間にキングウルフェンはバサルタスとともに採石場から去っていった。
「く、くそ……やられたぜ」
「コンディションさえ万全ならば……!」
キングウルフェンらとの戦闘で受けたダメージを自己修復システムを作動させて再生し、立ち上がったカイとデルタは悔しさを噛み締める。
「……まあいい。次は逃がしゃしねえよ」
リベンジを誓うデルタゴーレムは地面の亀裂に溶けるようにして消えていく。カイゴーレムもそのあとに続いてそこから去った。