EPISODE26:強くなれ
アクシデントこそあったものの、なんとかスーパーから戻った健は買ってきたものをひととおり冷蔵庫に入れ、またはざるに置くとテーブルでくつろぎはじめた。
「もらっちゃったけど、どうしよう」
ちょっとした問題を抱えて。
「この名刺かの? ふむ、センチネルズのものか。健、不破殿を呼んでみられよ。何かわかるかもしれん」
「りょーかーい!」
道端で出くわした明らかに怪しい男ともめた挙句受け取ってしまった、この名刺。もしかすれば不破の助けになるかもしれないと、不破を呼び出してみる。
名刺を見せたはいいが、不破は血相を変えて飛び出していってしまった。彼は名刺に書かれていた"浪岡〟という名前、ならびにセンチネルズの本部の場所に強く反応した様子だったが――。
なぜ彼が急に怒って飛び出したのかを考察していると、アルヴィーが 「もしやその浪岡というのは、この前言っておった恋人の仇のことだったのではないか?」
「そうかぁ、なるほど。それなら不破さんが血相変えて出ていくのも納得が行く」
「しかし、何の策もなしで突撃するのは無謀というものだ。不破殿は強いが、相手はそれ以上に強いかもしれん」
同行すればよかったか、と、健は眉をしかめた。センチネルズの本部は奈良県、この京都より本の少し遠くにある。自分が行けるかどうかはわからない。この状況で自分ができるのは、不破に加勢できるくらい強くなるために特訓することぐらい。今できることをやるのみだ。
「アルヴィー、トレーニングメニュー増やしてもいい?」
「ほう、よい心がけだが……まさかお主、限界ギリギリまでやるつもりではあるまいな?」
「そうなってもいい。不破さんひとりじゃやられるかもしれない。だから俺も不破さんと同じくらい強くなって、不破さんを助けなきゃ!」
「……うむ。意気込むのは結構だが、ほどほどにしておけよ。体を壊しては元も子もないからの」
アルヴィーから承諾を得た健は、強くなるために特訓を始めることにした。内容はこうだ。まずは早朝にアパート周辺をジョギング、次に武器を素振り、その次はアルヴィーに稽古をつけてもらい、最後は寝る前に腹筋と背筋を20回。というパターンだ。
とてつもなくハードだ。だが、不破はこれを上回るほど厳しい鍛練を何度も積んできた。自分も彼に遠慮している場合ではない。先輩を支える一年生も、強くならなくてはならないのだ。
「あ、アルヴィー……今日はこの辺にしよう」
「何を言っておる! お主、このままではプルシェンコに勝てんぞ!」
「いや、オリンピックじゃねーし! っていうか、今日はもう限界なんだけど……」
「まだ終わっていない。もっと気合い入れて特訓せんか!」
ときには倒れることもあった。へこたれることもあった。だが、あきらめない。不破と同じくらい強くなるという、目標を達成するまでは。積み重ねがすべてなのだ。
「不破さんは孤独な戦いを続けている……一年生の僕が支えてあげなきゃ!」
雨の日も、風の日も。健は鍛練に励み続けた。ひとりで突っ走ってばかりいる、ちょっとばかり乱暴な先輩の助けになるために。
人々を守るために。トレーニングの結果、健はもっと速く走れるようになり、筋力も著しく上がった。戦闘センスにも磨きがかかり、これにはアルヴィーも一目瞭然だ。
「ぜぇ……ぜぇ……」
それから数日後。飛び出していった不破が、健のもとを訪ねてきた。
「あ、不破さん。どうぞ、上がって……って、どうしたんですか!? そのケガは!」
不破は傷だらけだった。ひどく負傷しており、とくにやけどの痕が目立っていた。応急措置で包帯を巻いてやり、横に寝かせる。
「と、東條」
「無理にしゃべらないでください!」
「あのあと、ヤツらのアジトへ殴り込んだがこのザマだ。お前が行ったらどうなることやら」
不破が悔しそうに拳を震わせる。
「悪いことは言わねえ、死にたくないならセンチネルズには関わるな。連中は残忍冷酷なヤツしかいない。それにヤツらは手段を選ばない……何をしでかすか、わかんねーんだぞ」
「ですけど、敵討ちはどうするんですか!?」
「……東條、これだけは言っとくぞ。浪岡は……、敵のボスは、今度はお前に目をつけている」
「何のために……?」
「お前の……いや、お前だけじゃない。アルヴィーの特殊能力を利用して新しいエネルギーを作るつもりだ……うっ!」
病院に電話し、不破を病院へ送る。先ほど不破に言われたことをまとめると、センチネルズは新エネルギー開発のために健、およびアルヴィーの特殊能力を利用するつもりのようだ。
そして、その為なら、いかなる手段でも使うだろう……と。今度は健がセンチネルズ本部へ乗り込む番だろうか?
敵が本拠を構える奈良はここよりさほど離れてはいない。その気になればいつでも行ける。健もアルヴィーも、未知なる敵と戦う覚悟を決めていた。次は自分たちの番だ。