EPISODE273:決めろ必殺連携
男性陣が寒中の砂浜でペンスライダンと戦っていたその頃、女性陣はサウナに入って汗を流していた。サウナと聞けば狭いところを想像するものもいるだろうが、ここは違う。六人程度なら余裕で入れる広いサウナだ。
「健くんたち大丈夫かな?」
「大丈夫だ、あいつらは強い。今までどんな困難も乗り越えてきたからな」
「せやし、ウチらが心配することはなんにもあらへん」
「今は楽しみましょう♪」
皆がサウナを楽しんでいる中でみゆきは男三人を心配していた。アルヴィーやアズサ、葛城からそこまで心配しなくていいと声をかけられ、みゆきは気を改めてスパを楽しむことにする。
「むーん……あ、あついよぉ。クラクラしてきた」
体が火照ってきたか、白峯の近くに座っていたまり子が唐突にふらつく。そして、白峯の膝元に倒れかかりそのまま抱き付いた。
「まっまり子ちゃん!?」
「わたし……食べ頃よぉ……シロちゃんもいいけど、白峯さんのも気持ちい~……♪」
火照ったまり子に急に抱き付かれさすがの白峯も目を見開き、赤面。まり子が舌足らずな声で危ないことをさりげなく口走ったので、緊急事態を回避すべくサウナを十分に満喫できた女性陣はまた別のところへ行くことに決めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
女性陣が楽しんでいる一方、男たちは冬の海岸でペンスライダンと激しい戦いを繰り広げていた。寒さに強いペンスライダンのほうが若干リードしており、容易には勝たせてもらえない状況だった。
「グワーッ」
息を吸い込み、ペンスライダンは口から氷の弾丸を吐き出す。それは三つに分裂して三人へホーミング、攻撃して打ち消すがもう一発飛んできて今度は命中してしまう。
「凍レグワーッ!」
「「「わあああああああぁッ!?」」」
大きく息を吸い込んで今度は口から吹雪を吐き出し、ペンスライダンは三人を圧倒。火花を散らしながら吹っ飛ばされ、三人は転倒した。
「その調子です、ペンスライダン。一気にとどめを!」
「ペーンペンペンペン! オ安イゴ用グワッ!」
人の神経を逆撫でするような口調とは裏腹に、ペンスライダンの強さはなかなかのものだ。彼を見込んだ鷹梨の目に狂いはなかった。万事休すか? いや、あきらめない。あの三人はこれしきのことですぐにあきらめてしまうような――所謂ヘタレではない。
「負けてたまるかァ!」
拳を叩きつけ、立ち上がる不破はランスを風車のごとく振り回しながら疾走。すれ違いざまに連続で斬撃や突きを叩き込む。
「こっちはな、お前なんぞにいつまでも構ってられるほど暇やないねん!」
「ペーン!?」
不破のあとに続いて市村も立ち上がり、銃からビームを連射して反撃。ことごとくビームと氷のミサイルを相殺し合い、市村は武器をとっさにランチャー砲――バーニングランチャーに持ち替えて、大きなビームを撃ち込みペンスライダンをぶっ飛ばした。その反動で市村の体は大きく後ずさりする。
「僕たちにはアツアツの温泉とみんなが待ってるんだ! お前なんかには負けなーい!!」
健も起き上がって、エーテルセイバーの柄に黄色い雷のオーブをはめこむ。これで剣に炎の力だけでなく雷の力も加わり――健の周囲に激しい稲妻が降り注いだ。
「ナン……ダト!?」
「食らえ! ブレイジングサンダー!!」
「ぺ、ペンッ!? ペンペン、ペェーンッ!!」
剣を両手で握って天に掲げ、健は激しい稲妻を呼び寄せる。それは炎を伴って地上に降り注ぎ、稲妻によって生じた激しく波打つ炎がペンスライダンを飲み込み……焼き尽くす!
「なんてパワーなの。ペンスライダンが丸焼きに!」
ペンスライダンを信じてすべてを任せ、見守っていた鷹梨もブレイジングサンダーの威力を前にしてさすがに緊迫した顔となった。彼女が呟いた通りペンスライダンは丸焼きとなり、満身創痍だ。よちよち歩きなのは元からだが。
「何シヤガル、グワ……ッ」
「とどめだ!」
健はエーテルセイバーの柄から炎のオーブを外し、雷のオーブだけはめた状態にする。刀身が電気を帯びた金色へと変化し、黄色のラインは紫色に変化。灼熱の炎を宿した剣は敵をビリビリしびれさせ打ち砕く雷の剣となった。健の傍らに他の二人も集まり、身構えて敵を片付けてやろうという意気込みを見せる。
「よし、ここはダブルサンダーと行こうぜ!」
「合体技ですね!」
「敵さんをさっさと殺らなあかんからな。遠慮する必要はあらへん。せや、合体技出すんやんな?」
「そうですけど、もしかして僕と不破さんに時間稼ぎを?」
「当たり」と、健に対して市村は首を縦に振る。
「サッキカラ、ナニヲ ゴチャゴチャト」
「しぶといなペンスライダン! オレたちのコンビネーションを、とくと見せてやる!」
クチバシに隠された鋭い歯をむき出しにして怒るペンスライダンに対し、不破は余裕の表情でランスを前方に構え力を溜める。穂先には電気が集中していた。健も腰を落として気合いを溜め、全身に力をみなぎらせていく。
「行くぞ!」
健は斬撃で×の字を描き、衝撃波を放つ。そこに剣を逆手に持ってからの切り上げとともに地を走る衝撃波をあとを追うように放った。
鷹梨はこの技をデータで見たことがあった。以前、大阪を侵略しようとした新藤ことバイキングラーケンにとどめを刺した必殺技のひとつ――クロスブリッツだ。恐れをなして逃げようとしたところにあの技を放たれ、彼は爆殺された。
「おりゃああああああッ、クロスサンダーブレイク!!」
――ところが×字の衝撃波を追うように不破はサンダーストライクを放ち、突撃! ×字の衝撃波を前方にまとってそのままペンスライダンに突っ込み派手に吹き飛ばした。
「待たせたな、マキシマムキャノン発射ァァァ!!」
そしてとっさに市村が、エネルギーを最大限までチャージした銃から極太のビーム――マキシマムキャノンを発射。ペンスライダンを見事海の向こうまで吹っ飛ばし、大爆発。海の藻屑へと変えた。
「そんな、やられてしまうだなんて。やはりエスパー侮りがたし……」
奴らを倒してくれると信じていた仲間がやられてしまった。やはり見込み違いだったというのか? 悔しさを噛み締めながら鷹梨は退散した。
「いよっしゃあああああい!! 倒したぞぉーっ!!」
「早く温泉入ろうぜッ」
気が付けば戦いに夢中で感じなくなっていたが、長時間冬の海辺で戦い続けていた三人の体は非常に冷たくなっていた。早めに温泉に入らなくては危険な状態だ。現に市村は今にも凍り付きそうなほど体が震えていた。
「は……早よ……温泉行こうな? わし寒くて死にそうやねん……」
「よし、風の力で!」
健は、炎のオーブを剣の柄から外して代わりに風のオーブをセット。剣は美しいエメラルドグリーンに染まり、周囲に風が吹き荒ぶ。健は「手、貸してください」と他の二人に声をかけて手を差し出す。手を乗せてもらうと、健は風のオーブに念じてスパまで転移した。あとは着替えを持っていって入浴するだけだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「社長、申し訳ございませんでした……ペンスライダンなら出来ると思っていたのですが、私の見込み違いでしたッ」
「うむむ……」
その頃、退散した鷹梨は水着からスーツに着替え、ヴァニティ・フェア本部である古城にて甲斐崎に結果を報告。頭を下げて必死に謝った。甲斐崎は冷静ながらも怒りを抑えており、いつ爆発するかわからない。
「鷹梨の手さえもわずらわせるとは、エスパーどもは日増しに強くなりつつあるな……。やはり早急に始末するべきだったか」
苦い表情で首を横に振る、甲斐崎。そこに扉を開けて顔に包帯を巻き何枚も上着を重ね着した男が入ってきて、「社長、鷹梨! 土のオーブらしきもののありかがわかりました!!」
「辰巳か! 今のは本当なのだろうな?」
「ハッ、終焉の使徒と思われるメカメカしい奴らの話を盗み聞きして参りまして。そこからサーチをかけた次第です」
辰巳はコートの懐から、資料を取り出して甲斐崎と鷹梨に手渡す。それは、福岡県近海に浮かぶ神威島とそこにある神社について記されていた。
「『大地の石』……なるほど、そういうことか」
「……辰巳さん、神威島には誰か向かっていますか?」
「既にヴォルフガングが部下たちとともに島に向かう手はずを立てている。だが、東條たちが島に行くのを何としてでも止めなければならん」
東條たちに島に行かれては大変困る。奴らは風のオーブを手にしているためやろうと思えば島に直接転移して来る可能性も高い。しかしひょっとしたらフェリーか何かに乗ってくるかもしれない。もし船に乗って来るとしたら――そのときは同じ船に乗り合わせて全力で妨害してやる。辰巳はそのように考えていた。
「そこでだ。鷹梨、君に協力してもらいたい。東條健の足止めをするのを」
鷹梨の肩に手を乗せて辰巳は真摯な目で頼み込む。
「――奴らが船に乗ってこない可能性もあるが」
「その場合は私どもが島に直接赴くまででございます。――鷹梨、俺に手を貸してくれるか」
一瞬首を傾げて思案顔になったが、鷹梨は快く、「承知しました」と答えを出す。
「それでこれからどうするのだ」
「作戦を確実性のあるものにすべく、奴らの様子を探りに行きたいと思っております」
「……右に同じです」
「では、行け」
返事をしたあと、鷹梨と辰巳は偵察に向かうため部屋を去った。