EPISODE269:スパを前に
ヴァニティ・フェア本部、その会議場にて――。失態続きの部下に対して怒りに震えている甲斐崎はその怒りを今回の作戦を立案した辰巳とヴォルフガングに制裁を下していた。
「ライフラインを断絶するどころかエスパーひとりも倒せずに帰って来おって!!」
「ぬわぁーーーーッ!?」
大勢の名もなき社員たちに見られている中で電撃光線による制裁を受けて、二人は骨が見えるほどしびれた。そして怯えた。
「お、お待ちください……今回の作戦についてはヴォルフガングから部下を借りておいて死なせてしまった私に責任があります」
「だ、だが……」
「責任は私が取る!」
「辰巳、スマン」
ヴォルフガングをかばい立てする言動を取った辰巳を見た甲斐崎は、青筋を立てて「失敗したもの同士でかばい合いか」
「だがお前ほどの人材はすぐに捨ててしまうにはもったいない。辰巳、ヴォルフガング、処刑は延期だ」
「ハハッ! ありがとうございます」
「だが!!」
「なっ!?」
自分に感謝する二人に対して凄んで、甲斐崎は眼光鋭く二人を指差す。
「もし次もしくじるというのならそのときはお前たちを牢獄に閉じ込める! そこで永遠に苦しんでもらうぞ!!」
寿命が長いシェイドにとって牢獄に閉じ込められて永遠に苦しむことは死ぬことよりも辛く、最大の屈辱だ。本来ならば甲斐崎の前で惨殺されるか、城の外にある断崖絶壁または甲斐崎が経営する会社のビルの屋上から飛び降りることになっていた。
だがしかし、甲斐崎は有能な人材が失敗したからといってすぐに切り捨てるほど非情ではない。どうせ捨てるなら利用するだけ利用してから捨てる――。それが、彼のやり方だ。
(……エスパーどもめ……!)
甲斐崎に頭を下げている辰巳は拳をぷるぷると震わせ、その内心でまたしても部下を失ったこととその部下を葬り去ってきたエスパーたちに対して怒りをたぎらせていた。それには、自分の不甲斐なさへの怒りも含まれていた。
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――健は気が付くと見慣れた部屋にいた。自分が住んでいるアパートだ。なぜ自分はここにいるのだ? 自分はデルタゴーレムとカイゴーレムの攻撃を受けて川に落とされたはずなのに。
「気がついた?」
戸惑っている健に優しく声をかけたのはみゆきだった。近くにはアルヴィーとまり子の姿も。ふと手を見て、次に体を見たらあちこちに包帯が巻かれガーゼも貼られていた。そうか、みゆきが治療してくれたのか……と、健は納得が行った。
「私が川に落ちたお主を拾ってここまで連れ帰ってきたんだ。川の中が冷たいものだから大変だったぞ」
「そっか、アルヴィーが……ありがとう。ところでゴーレムたちは?」
「あいつらならいつの間にか姿を消してしまいおったぞ」
「よかった、追ってこなくて……」
アルヴィーによると彼女が川に落ちて気を失った自分を拾ってアパートまで戻ったのだという。また命を救ってくれたことを感謝して、健はにっこり笑った。
「それより今度の休みにみんなでスパ行くんでしょ? 楽しみー!」
「へへっ、水着の女の子見放だ……」
健がまり子と話をしている最中、そうはさせまいと、みゆきがギロッ! と、健を睨んだ。すぐに健は余計なことを言ってみゆきを怒らせないよう口にチャックをした。
「そ、そうだ。みんなは水着は用意してある?」
そうだ、和歌山のスパまで遊びに行くのに備えて水着を用意してあるかどうかを訊いておこう。それなら余計なことではないから大丈夫なはず。そう思った健は他の三人に準備できたか否かを訊ねてみる。直後、三人からは「もう出来たよー」「今回はきわどいの着るから〜!」「私はオーダーメイドでないとキツいな」とそれぞれ答えが帰ってきた。
「むーん。ま、大丈夫っしょ……なんとかなるよ、うん」
他はなんとかなるとして問題はアルヴィーの水着である。いろいろと豊かなので着れるものが少なそうだが――。少し苦しい表情を浮かべるもすぐに笑って、健は「ところでまり子ちゃんはどんなの着るの?」
「うんとねー、でっかくなってから……これ」
どこに仕舞っていたのか、まり子は懐から水着を取り出して健に見せる。それはスリングショットといってVの字のような形をした非常にきわどいデザインをした水着であり、健は鼻から血を流しながら固まった。「うそうそ。ホントはこっち」と、まり子がスリングショットを仕舞って割と無難なデザインの水着を取り出すも、時間差を置いて鼻血を吹き出して気絶。健は気持ち良さそうな顔をしながら再び気を失った。
「……あー……」
「ほっとこほっとこ。あ、ティッシュある?」
「あるぞ。突っ込んでおこうか」
「もー、健くんったらホントどうしようもないんだから……」
倒れた健をよそにあきれる三人。アルヴィーが彼の鼻に適当にねじったティッシュを突っ込んでやると、彼を放置してすぐに別の話題で盛り上がった。