EPISODE268:大逆襲! 稲妻の槍が不死身のヒュドラを貫く
その頃、東京都内のとある工場ではシェイド対策課とヒュドラワインダーらの戦いが続いていた。戦いが長引いたために市村と葛城は消耗が著しく、危険な状態になっていた。一方でヒュドラワインダーはその高い再生能力からまだピンピンしておりその逆転してしまうことは容易に想像できる。
「ずあっ!」
「きゃああああああああああああッ!!」
ヒュドラワインダーが三つの口から放ったヘビのような形の光線により爆炎とともに吹き飛ばされた市村と葛城はそのまま鉄骨や壁へと衝突。地面に落下する。
「まったく君たちの執念深さには恐れ入るよ。しつこい生き物はヘビだけでいいというのに」
「うっさい……逆に聞きたいわ、なんでここまで来てわしらがあきらめなあかんねんってな!」
ビームを連射してヒュドラワインダーを牽制する市村。しかし相手は平然としており、真ん中の首の眼から放たれたビームにやられて再び吹っ飛ぶ。
「市村さん!?」
「そこで這いつくばっていろ!」
ヒュドラワインダーは左腕に手甲を装着し、両手を思い切り地面に叩き付けて衝撃波を巻き起こす。市村と葛城、そしてシェイド対策課の戦闘部隊をいっぺんにぶっ飛ばした。
「辰巳さんの言うとおりだぜぇ! そもそもお前らみたいなザコどもが俺たちに抗おうなんざ思い上がりもはだはだしいってんだよ!!」
両腕を鳴らしながら市村たちを蔑むのはモグドリラー。全身に力を溜めると身構えて拡散ドリルミサイルを放つ準備に入る。
「イっちまいな!!」
「く……」
もはやシェイド側の勝利は確定したも同然。モグドリラーが笑いながら拡散ドリルミサイルを放とうとしたその瞬間――。稲妻が落ちるとともに突如として漆黒のバイクにまたがった紺色のバトルスーツの男が姿を現した。落雷により爆発が起きて攻撃は中断されヒュドラワインダーらはよろめいた。バイクから飛び降りた紺色のバトルスーツの男は左手にランスを握り激しく振り回した。周囲には稲妻をいくつも落ちて敵をかく乱した。
「貴様は……!」
「待たせたな!!」
紺色のバトルスーツ……もしや! 緊迫するシェイドたちや一筋の希望を見出したシェイド対策課のメンバーの前でバトルスーツの男はメットパーツを外した。その下にあったのは、見慣れた頼もしい男の顔。あるいは倒したはずの男の顔。そう――不破ライだ。
「刑事のおっさん!」
「おっさんじゃない!」
「不破さん!」
「よっ、葛城さん!」
「隊長だ! 隊長が来てくれた!」
「これで怖いものなしだー!!」
不破が来てくれた! これで勝てる! 彼は見事に市村たちが抱いていた絶望を希望に変えてみせた。あとは――全力でシェイドたちを討伐して侵攻を食い止めるだけだ。
「まさか生きていたとはな――。しかし滑稽だね。せっかく助かった命を自ら散らしに来るとは」
「散らしに来た? 違うな……オレはお前たちをぶっ潰すために来たんだ」
両雄、互いに武器を向け相手を切り裂きそうなほど鋭い目つきで威圧する。その背後で葛城は手をかざし花の香りを漂わせて仲間の傷を回復させた。
「みんな、援護頼むぜ! 市村と葛城さんも!」
「殺っちまえい!!」
不破は市村と葛城と戦闘部隊の面々に、モグドリラーはグラスケルトンたちに指示を下してついに決戦の火ぶたが切って落とされた。不破はいきなり高速移動で走り出して次々にグラスケルトンたちを攻撃。クリーパーから進化したといえども戦闘能力はさほど高くはなく、瞬く間に消滅させた。
「くっ、よくも私の部下を!」
怒りに震えるヒュドラワインダーは中央の首を素早く下げて口から灼熱の炎を吐き出す。間一髪かわしたところにモグドリラーが突っ込んで奇襲攻撃をしかけた。
「ドリイイイイイィ!!」
「邪魔すんな!! サンダーストライク!!」
奇襲を仕掛けてきたモグドリラーをランスで切り上げてひるませ、その間にランスを前方に構えてエネルギーを穂先に収束させる。最大限まで溜めたところで、不破は溜めたエネルギーを一気に解放して突進。モグドリラーをその場から吹き飛ばし大きく引き離した。
「葛城さん、市村! ウミヘビ野郎は任せた! オレはモグラを倒す!」
「了解しました!」
「任しときぃ!」
「A班は市村と葛城さんの援護を、B班は俺の援護を頼む!」
「ラジャー!!」
仲間たちに指示を下し、不破はモグドリラーの相手をすることに専念する。「何ごちゃごちゃ言ってやがる!」といきり立ったモグドリラーに後方からの援護射撃が放たれ、モグドリラーは唸り声を上げながら弾丸を弾く。
「防御貫通・コアドリル!!」
「おわっ……とッ」
力を溜めて両腕についたドリルを突き出し必殺技で不破に風穴を開けようとしたモグドリラーだが、紙一重で避けられた上に「お返しだ!」と電気を帯びたランスを投げつけられ体が痺れる。ランスを拾うと不破は電気を穂先に集め、研ぎ澄ませた突きで一閃。モグドリラーの防御を貫き大ダメージを与えた。
「モグラ君!?」
「隙ありっ!」
モグドリラーを心配して振り向くもその隙を突かれ、ヒュドラワインダーは片目をビームで撃たれてしまう。更に葛城の接近を許してしまい彼女が放った連続突きが全弾命中。潰された目から紫の血がどくどくと溢れながらもすぐに再生させ、銃撃してきた市村と突きを浴びせてきた葛城を振り払うと左腕に装着していた手甲を右腕に装着しなおす。
「レルネースワンプ!!」
そして右腕に黒ずんだ水色のオーラをまとうとそれをえぐるような勢いで地面に叩き付けて自分の周囲にどす黒い沼地のようなフィールドを発生させた。そのフィールドからは怨霊のような禍々しい瘴気が立ち上っており、いかにも近付いてはいけない雰囲気を漂わせている。
「なんやこれ!?」
「これはおそらく毒沼のようなもの……迂闊に入ったら体力を根こそぎ奪われそうです!」
「どうした、臆病風にでも吹かれたか?」
「毒沼ぁ? そんなもん入らんかったらええだけの話ちゃうの!」
葛城から警告を受けても彼がその程度のものを恐れるはずがなかった。なぜなら彼は血気盛んで、怖いもの知らずで向こう見ずだからだ。市村は恐れずに銃からビームを連射する。
「では、私が近付いてきたらどうするね!?」
「っ!?」
「たったそれだけの話だッ」
ところがヒュドラワインダーは足元に猛毒のフィールドを発生させたまま市村の懐に踏み込みラリアットをかます。更にアッパーカットを浴びせて打ち上げ、はるか上空から顔が下を向いた状態で地面に叩き付けた。
「レルネースワンプッ!!」
「うわああああああああああああああああ――――ッ!!」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
「ぐ、ぐわあああああああああああああああァッ」
葛城に接近するとヒュドラワインダーは再びレルネースワンプを繰り出し、広範囲に猛毒の瘴気を発生させる。葛城や市村、そして戦闘部隊のメンバーたちは瘴気の中で悶え苦しみ悲痛な叫びを上げた。
「このぉ!」
「やられるわけには!」
体力がすさまじい勢いで奪われていく。もたもたしていればあっという間に意識を失い死に至るだろう。そんな状況でも市村たちはくじけず、斬撃や銃でヒュドラワインダーへ精一杯抵抗した。
「わたくしたちはまだ負けません!」
「笑止!!」
斬りかかってきた葛城に対してヒュドラワインダーは手甲を解除し、武器をウミヘビの牙を模した魔剣――ハイドラサーベルに持ち替えて猛毒の瘴気の中で葛城と斬り合う。市村と戦闘部隊メンバーは毒に臆せず、怯まずに援護射撃を行った。射撃でヒュドラワインダーが怯んだ隙に葛城は連続突きとそこからの突き上げ攻撃を繰り出し、更に剣を両手で持って目を研ぎ澄ませると迅速な動きでヒュドラワインダーに斬りかかる。
「葛城家秘伝・五月雨の舞!!」
「ぐぬおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」
そこから更に流麗に舞うような動きで踊るように、ヒュドラワインダーを連続で斬りつけていった。その美しくも激しい斬撃はまるで五月雨のようだ。ゆえに葛城家に伝わるこの奥義は、『五月雨の舞』と呼ばれている。吹き飛ばされるほどの大ダメージを負ったため、ヒュドラワインダーが発生させた猛毒の瘴気はきれいさっぱり消え去った。
「ドリドリドリドリイイイイイイイィッ!」
一方で不破とモグドリラーの戦いもますます激しさを増しており、それは白熱したものとなっていた。腕のドリルを轟かせてモグドリラーはそれを不破に突きつけるも不破はひらりと身をかわす。硬いコンクリートどころか分厚い鉄板にさえも穴をうがつほどのパワーだ。もし避けていなければ目も当てられないこととなっていただろう。
「ドリドリうるさい!!」
「ドリッ!」
ランスを激しく振り回してから突きを繰り出して不破は反撃に出る。更に地面にランスを突き刺すことで周囲に稲妻を走らせてモグドリラーを感電させ真っ黒焦げにする。
「行くぞおおおおお!!」
それだけに留まらず再び必殺・サンダーストライクを放つ姿勢を取ると突進。一度だけでなく、二度、いや、三度も。連続で突進を繰り返した末に五発目でフィニッシュを決めるとモグドリラーを大きく吹っ飛ばしてヒュドラワインダーにぶつけ共倒れさせた。
「やるじゃないか……ッ」
「ドリィィィィ~~っ」
膝を突いてうめき声を上げるヒュドラワインダーとモグドリラーの前に並び立つ、不破や市村に葛城たち。
「だが我々もあとには引けん。諸君らを闇に葬り、この地上を破壊と混乱で満たすまでは!」
「そうだ、俺たちゃ引かねえぞ!!」
それは不屈の闘志か、人間に代わって地上を支配することへかけた執念か? すぐには再生しきれないほどのダメージを負いながらもヒュドラワインダーは不破たちに刃を向けている。
「おんどりゃあああああああああああああああああああ――――ッ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――ッ!!」
ヒュドラワインダーは魔剣に黒が混じった水色のオーラをまとわせ、不破はランスの穂先にまばゆいほどの稲光を宿して相手に突進。それぞれ必殺技を放とうとしているのだ。
「海蛇両断!!」
「ギガボルトブレイク!!」
片方は激流の力をまとう斬撃とともに荒波を巻き起こし、もう片方は激しい稲妻をまとった斬撃を振りおろし――相殺! よろめいた一瞬の隙を突いて、不破は再び怒りの雷光をまとった必殺奥義・ギガボルトブレイクをヒュドラワインダーに叩き込んだ。雄叫びを上げながら吹っ飛ばされ、ヒュドラワインダーはその体から白煙を上げ火花を散らした。しかしなおも彼は立ち上がり戦おうとする。
「お……おのれ……」
「辰巳さん、俺がやるッ! あんたは本部へ帰ってくだせえ!」
ヒュドラワインダーの前に立つと、モグドリラーは懐から得体の知れない紫色の液体が入った注射器のようなものを取り出した。摂取すると寿命を縮める代わりに三倍ものパワーを引き出せる劇薬にしてヴァニティ・フェア構成員の最後の切り札――ネクロエキスだ。
「よせ、モグドリラー! 命を無駄にするんじゃない!!」
「でも俺やりますよ!」
これからネクロエキスを使って敵に特攻して散ろうというのか? そんなことはさせたくない。いや、絶対にさせたくない。これ以上仲間を失うのはたくさんだ! モグドリラーを止めようとするが既に遅く、彼はネクロエキスを摂取しようとした。しかしその瞬間、容器が割れて中に入っていた紫の液体が飛び散った。
「ッ!?」
「そないけったいなもん使わせまへんでー!」
そう、モグドリラーがネクロエキスを使おうとした瞬間に市村がビームで破壊したのだ。
焦燥に駆られ自分だけでなくヒュドラワインダーまで死なせてしまうことを恐れたモグドリラーは腕を振り上げてヒュドラワインダーを自分から引き離す。
「も、モグドリラー! まさかお前……!!」
もはやあとは無くなった。モグドリラーは両腕を広げて咆哮を上げると敵陣に突っ込んでいくが、打倒シェイドへの執念を燃やす不破の連続攻撃をまともに受けて手も足も出せずに転倒。
「スパークルコンバイン!!」
「ドリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィ!!」
不破は容赦なく電撃波を放ってモグドリラーを痺れさせ、その隙に連続で突きや斬撃を浴びせる。とどめに稲妻の形に相手を斬り、ぶっ飛ばした。
「も、もっといろんなものに、穴……開けたかったぜえええええええええええええええええ――――ッ!!」
無念の叫びを上げるとともに、穴を穿つ削岩鬼――モグドリラーは爆炎の中へと消えていった。
「モグドリラー……仇は必ず取ってやるからな」
またも部下を失ってしまった。自分の直属ではないが、同僚の部下はわが部下も同じ。悔しいことに変わりはない。己の無力さを恥じながらヒュドラワインダーは柱の影へと消えていった。
「よっしゃ、これでもう街は大丈夫だ。みんな、ご苦労だった、な……」
メットパーツを外して安堵の息を吐く、不破。その直後彼はふらついて、その場に倒れこんだ。入院中の身分にもかかわらず無理して飛び出してきて全力で戦ったのだから無理もない。倒れて気を失った彼の体は、とっさに動いた市村と隊員によって支えられた。
「まったく無茶しよる。あずみちゃん、こいつ治せるか?」
「出来ますが、今のところはゆっくりと体を休ませてあげた方がよいのでは」
「へへっ、せやな。ベッドまで運ばなあかんなんて、ホンマ世話焼かせよるおっさんやで」
冗談を飛ばして笑い合いながら、市村や葛城たちは工場から去って行った。かくして悪夢のライフライン断絶作戦は阻止され、これにて戦いは終わったのであった。オレンジ色の空に浮かぶ夕陽が戦士たちを暖かく、やさしく見守っていた。