EPISODE264:GOD SPEED
不破を助けに行こうとした健とアルヴィーの前に立ちはだかった刺客――鷹梨ことワイズファルコン。翼を模した弓を携えたワイズファルコンは手を光らせてそれを引き絞り、矢の形をしたエネルギー弾を放つ。
矢は風を切りながら健へ迫り、健はひらりと身をかわすも背後にあった瓦礫は代わりに撃ち抜かれ粉々になった。振り返った健は、鉄筋コンクリートで出来たビルの壁だろうと岩だろうと一発で塵芥に変えてしまう矢の威力を前に瞳孔を開いて戦慄する。
「ご覧になりましたか? 今のがこのアクィラの威力。一発でも当たればあなたの体も木っ端微塵になりますよ」
「そ、それがなんだっ! こっちには何でも切り裂く伝説の剣がついてるぞ!!」
敵に弱みを見せたらおしまいだ。強がってそれを隠そうと図った健だが、虚勢を張っていたことは見抜かれていたようでワイズファルコンは冷たく微笑んでいた。
「それそれッ」
ワイズファルコンが持っている弓――アクィラから次々と矢が放たれる。それを斬って落としながら健は距離を詰めようとするが、ワイズファルコンは健を近付けさせまいと高速で空を飛んで場所を移動。健を引き離した。
「こっちですよー。捕まえてごらんなさい」
「くっ」
挑発して、ワイズファルコンは力を溜めてから天に向かって弓を引き絞る。すると矢の形をしたエネルギー弾が雨のように降り注ぎ健に襲いかかった。しかもおびただしい数で、だ。
「――加速ッ!!」
風のオーブの力を引き出した健は、矢が着弾し火花が飛び散る中を超高速で駆け抜けワイズファルコンのもとを目指す。矢はひっきりなしに降り注ぐ、そして健が超スピードで動き回れるのは――体に負担がかかる関係で、十秒間だけだ。十秒を過ぎれば体が著しく疲弊して大きな隙が出来てしまう。
「……うっ!」
「はっ!」
超高速移動の弱点を見抜いていたワイズファルコンは、それを待っていたのだ。想像を絶するすごい速さで健に急接近すると健を足の爪で力強く蹴って健を街灯に叩きつける。健がぶつかった衝撃で街灯は湾曲して使い物にならなくなった。
「なんて速さだ……!」
「スピードじゃ勝てない。ならパワーとテクニックで差をつけるしか……!!」
健とアルヴィー、二人に走る神速の衝撃。鋭い目で狙いをつけて爪で切り裂き、あるいは矢で撃ち抜くファルコンの脅威。この洗礼を乗り越えるには――これまでの戦いで培ってきたテクニックをフルに発揮するしかない。
「焼き鳥にしてやるッ!」
柄にはめていた風のオーブを取り出し、代わりに炎のオーブを装填。灼熱の炎の力を宿した剣は紅蓮に染まった。
「そこッ!」
「ッ!」
隙を突いたワイズファルコンは超スピードで健の背後に迫り頸動脈を切り裂こうとする。疲弊から既に立ち直っていた健は瞬時に振り向き攻撃を弾き、切り上げてぶっ飛ばした。ようやく一撃入った! 健には少しだけ、希望が見えてきたようだ。
「……そうこなくてはね!」
しかし一撃もらった程度で揺らぐほどワイズファルコンは甘くはなかった。
――東條健、彼はもともと素質があったこともあって強いが、逆境に立たされても不屈の闘志を燃やして自身を奮い起たせてより強さを発揮する。そんな彼の戦法は、ここまでデータにあった通り。しかしデータにはない行動もある。相手の行動パターンを見極めて、確実に相手を追い込む。それが自分流のやり方だ。
――ワイズファルコンは冷静沈着にして慎重だ。ゆえに手堅く手強い。
「行くぞォォォォッ!!」
健は跳躍して弓を構えるワイズファルコンに斬りかかる。弓で斬撃を弾いたワイズファルコンに健は、「この距離なら矢は放てないな!」と自信満々に言い放つ。
「さあ、どうでしょうね?」
「なっ!?」
ところがワイズファルコンは余裕を崩さず、それどころか翼を模した鋭利な弓――アクィラを分割して二振りの剣にしたではないか。
「はっ! はああああああっ!!」
「でぇぇぇりゃああああ――――ッ!!」
アクィラを弓から双剣に変形させたワイズファルコンは、双剣を激しく巧みに振り回す。負けじと健も連続で斬撃を繰り出しワイズファルコンの斬撃を相殺する。
「ッ……」
「もらった!!」
斬り合いの末にワイズファルコンは押し負け、健はその隙を突いて攻撃。斬って斬って斬りまくろうとするが、ワイズファルコンはとっさに翼を盾のようにして攻撃を防いだ。
「! この翼、まるで鉄みたいに……!!」
「お返しッ」
「があああああァァァァ!?」
ワイズファルコンは己の翼で、今度は健を切り裂いて吹き飛ばす。彼女の翼はしなやかながら鋼のように硬く、攻防一体だ。普通の銃弾は効かないし、分厚い鉄板だろうとたやすく切り裂いてしまうのだ。
「健!」
血だまりが出来るほど傷だらけになって這いつくばる健にアルヴィーが駆け寄る。アルヴィーの手を借りて健は剣を杖がわりにして立ち上がる。片目を瞑ったひどく辛そうな顔をして。
「――とどめッ!」
ワイズファルコンは微笑むとアクィラを双剣から弓へと変形させ、矢を射ろうとする。しかし、そこに思わぬ邪魔が――鉄の弾丸の雨が入ってきた。両者、それぞれの方法で身を守って弾幕をしのぐ。
「なんだ今のは!?」
「この気配は――」
両者の間に緊迫した空気が漂う。視線の先から歩いてきたのは、新手のシェイド……ではなく。機械的な外見をした人型の謎の生命体。平たく言えばメカ生命体だ。
「生体エネルギー反応アリ……排除! 排除! 排除!!」
片方は左手が指から弾丸を何発も撃てそうな物騒な構造で、顔はバイザーになっていた。その奥では鋭い目が鈍く輝いている。全身の各部にΔの記号を模したと思われる三角形の水晶体がついていて、その証拠に肩には三角定規を思わせる突起物がある。さらには片手に大型の銃を握っていおり右肩にはキャノン砲などという物騒なものを備え付けていた。その声は――市村に似ている。しかし彼に比べて粗野で残虐そうだ。ボディは細身で色は白銀とグリーンを基調としていた。
「見つけたぞ。我らが主に逆らう愚かなエスパーとシェイドよ」
もう片方は藍色を基調としたカラーリングで、ギリシャ文字のΧを模した顔には赤く光る四つの目がある。左手にはランスを握っており、右腕はレールガンとなっていた。背中からは電極と思われるパーツが突き出ていて、体の関節にはコイルの意匠が見られる。凶暴そうな相方に比べると、冷静沈着で真面目そうに見える。声や雰囲気は不破に似ていた。
「……シェイドじゃない!? まさかこの前破壊した――あの機械仕掛けのバケモノの仲間か!?」
健の脳裏に、以前倒した機械仕掛けのガイコツのような怪物――Φゴーレムの影がよぎった。Φゴーレムは健を『許されざるもの』と呼び、執拗に彼を追跡した。倒されても倒されても何度でもよみがえる……その不死身っぷりから彼に恐怖心を植え付けるまでに至ったが、最終的には立ち直った健によって破壊されたのである。しかしたった今現れた二体は――Φゴーレムに比べるとより機械的でなおかつロボットのようにしか見えない。
「貴様らのような虫ケラは排除する! 抹殺する! 破壊する!!」
「とくに東條健……貴様は目障りだ。その皮を剥いで肉をえぐり骨を砕いてやる!」
健とアルヴィー、ワイズファルコンが戦っている最中に突如姿を現した機械仕掛けの刺客――。その正体はいったい?




