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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第14章 『光の矢』
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EPISODE263:神速の女戦士! ワイズファルコンの鋭い爪がうなる


 ところ変わって京都。京都駅付近にあるカフェにて、健とアルヴィーは白峯とみゆきと話し合っていた。白峯は藤色のリブ生地のセーターを着ていてその上にコートを着ている。健は青いダウンジャケットを着ていて、アルヴィーは白峯と同じくセーターを、みゆきはダッフルコートを着ていた。とにかく全員、暖かそうな服装で固めている。そして真剣な雰囲気から大事な話をしていることが伺える。


「――みんな、これ見て」


 白峯はカバンから資料を取り出し、自分以外の三人に配る。それにはこう記されていた。……『神威(かむい)島、岩亀(いわがめ)神社に眠る大地の石の神秘』と。


「……これは?」

「神威島っていう観光地があるんだけど、私の推測が正しければここの岩亀神社に祀られている『大地の石』っていうのが土のオーブだと思うの」


 コーヒーを傍らに置いて、健は「へぇー……一理あるかも」と、食い入るように資料を見つめる。


「でも神社に祀られてるんでしょ? 勝手に持ってったらまずいんじゃ……」

「するわけないじゃなーい、そんなドロボーみたいなこと!」


 「もうヤダ、みゆきちゃんったら!」と白峯が笑い飛ばす。


「なぁに、譲ってもらえるように話を付けてみたらきっと大丈夫よ」

「それより問題は、ヴァニティ・フェアの奴らが必ず狙ってくるということだな……。奴らにだけは絶対に渡してはならない」


 神社に祀られている土のオーブらしきその石を、何も盗むようなことはしなくていい。話をつければ譲ってくれるかもしれない。だが、そううまくはいかない。ヴァニティ・フェアは必ず土のオーブを狙ってくるだろうし、もし奴らも同じようにありかを知ったら現地で争奪戦が繰り広げられることは避けられない。そうならないためにも先に手に入れなくてはならないのだ。


「場所は福岡の近海、かー。どうやってそこまで行くの?」

「そんなの風のオーブを使えばひとっとびよ。そうでしょ?」


 神威島があるのは福岡県の周辺の海域だ。どうやって行くのか疑問を抱くみゆきだったが、そんな彼女に白峯が即答した。


「でもせっかくだし……船乗って行きたいな。福岡までは風のオーブ使えばいいし」

「ふむ……福岡まで遊びに行くわけではないのだが、まあいいだろう」

「土のオーブ手に入れたらさ、帰りにラーメン食べようぜっ!」

「おお、それはいいな」

「もちろん。あとキャナルシティも行きたいな!」


 すっかり遊びに行くのを前提で健は話を進めていく。キャナルシティといえば福岡にある大きなショッピングモールだ。とにかく広大でアウトレットもあるなど施設は充実している。ほかにも福岡タワーや福岡ドームなど観光するべき名所は多い。


「行こうと思えばいつでも行けるけど、なるべく早めに行ったほうがいいわね。そのときは応援するわ」

「はい!」


 ――ひとまず落ち着いたところで健たちはコーヒーを飲み、一息つく。そして健は白峯からもらった資料をサブリュックに仕舞い込んだ。


「……あ、そうだ白峯さん。今度の休み、葛城さんやみんなと一緒に和歌山のスパまで行く話が出てるんですけど、どうします?」

「スパ?」

「葛城さんがこの前のお礼がしたいらしくって。白峯さんもいかがですか? 今度は市村さんやアズサさんも一緒ですよ!」


 「スパかー……」と思案顔になり、しばし経つと白峯はいつもの明るい笑顔で「行く行く! 行くしかないじゃない!」と、返答。これで彼女も和歌山のスパまで遊びに行くこととなった。ちなみにそこは、葛城コンツェルンが経営しているという――。


「よし来た!」

「白峯さん、そのときはパーッと遊びましょ!」

「私、緊急でバトルスーツ二着作ったからねー。疲れてたからちょうどよかったわ!」

「スパで遊ぶのが楽しみだの!」


 心配なことや不安なことなんて吹き飛ばしてしまえばいい。土のオーブを先に手に入れなくてはならないと考えながらも、健たちはスパで好きなように遊んで戦いの疲れを癒すことを楽しみにしていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから健とアルヴィーは白峯とみゆきと別れ、喫茶店から出た。鼻歌混じりに歩いていたその最中、不意に懐に仕舞っていた携帯電話が鳴り響く。


「――はいっ、健ですが」

「不破だ! お前いまどこにいる?」


 突然電話をかけてきたのは不破だった。「不破さん!?」「不破殿からか!?」と、二人は目を丸くする。


「どうしたんですか?」

「シェイドの群れが発電所やら工場やら襲ってるのは知ってるか?」

「知ってます! 最近ニュースがそれで持ちっきりですよね」

「群れを率いてるのは……頭が三つあるヤツだっ!」

「なんだって、三つの頭!?」


 ――頭が三つ? まさか、奴が――ヒュドラワインダーがシェイドの群れを率いて各地を襲っていたというのか。緊迫していた健とアルヴィーの表情はますます険しいものになっていった。


「オレたちだけじゃどうにもならないッ……。至急来てくれ!!」

「わかりましたっ、マッハで行きます!!」


 そこで電話は切れた。「急ごう!」とアルヴィーに声をかけ長剣を取り出すと、健は風のオーブを柄にセットしようとしたが――そこへ羽が手裏剣のごとく飛んできた。寸でのところで二人は身をかわし、身構える。


「行かせませんよ」

「!」


 一瞬ひとつの影が目にも留まらぬ速さで太陽をよぎったかと思えば、それは二人をすれ違いざまに切り裂いた。しかし身を守っていたため火花が散るだけで済んだ。若い女の声を発していた影は建物の屋上に着地し、羽を休める。――影の正体は髪を束ね、眼鏡をかけていてスーツを着ている秘書風の女性だ。それだけなら普通だが奇怪なことに立派な翼を生やしていた。


「誰だ!?」

「はじめまして。私は鷹梨夕夏(たかなしゆうか)こと、ワイズファルコンと申します。以後お見知りおきを」


 名乗りを上げた鷹梨は、そのままの姿勢で二人を見据える。


「上級のシェイドだな……。お主、目的はなんだ?」

「我らが主甲斐崎社長の命令です。あなたたちを東京へ行かせはしません」


 すました様子でニッと笑うと、鷹梨は右手でメガネを外す。瞳が金色に輝くと手が人のものから鋭いハヤブサの爪へと変わり、背中に生えた大きな翼に鷹梨の姿が覆われるとつむじ風が周囲に巻き起こる。風が収まると鷹梨の姿は口元だけが露出した鳥の意匠がある仮面をつけ、広げれば二メートル近くはある翼を生やしたハイレグ姿の女怪人となっていた。両手両足はどちらも鋭いハヤブサの爪となっており切れ味は抜群だ。


「――覚悟しなさい!」


 ハヤブサの女怪人――ワイズファルコンが翼を広げて高速で飛び回る。いきなりその爪で健を鷲掴みにすると捕らえた状態で飛び、京都駅のコンコースへ移動。あまりの速さからソニックブームが発生して周囲のガラスが割れた。


「だあああああッ!?」


 ワイズファルコンは長くて険しい階段をあっという間に飛び越え京都駅の屋上にある広場に辿り着く。そして健を地面に叩きつけて自身も着地した。


「っぐ……」


 頭を押さえながら健が立ち上がる。最初に彼の目に留まったのは、相手の――太もも。これはけしからん! 戦う前に抗議しなくては。


「き……きわどいぞ! そんなに太もも出しちゃって! 恥ずかしくないのかっ!?」

「失礼な! あなたが自分の狭い価値観で見ているからそう感じただけです」


 ワイズファルコンを指差して健は彼女の格好について抗議する。ハイレグなど着られてはどうしても太ももに目が行ってしまう。それが相手の狙いであることは確定的に明らかだ。――というのは、健の推測に過ぎないが。


「――実のところそんなことはどうでもいいですけどねッ」


 気を取り直して、ワイズファルコンは健に狙いを定め腕を振って真空刃を放つ。健も真剣な顔になって回避し、ワイズファルコンに急降下しながらの突きを繰り出す。


「うおおおおおおぉぉぉぉ――――ッ!!」

「ハッ!」


 だがワイズファルコンは爪で攻撃を弾き返し、翼を広げて無数の羽を手裏剣のように飛ばす。ことごとく健に突き刺さり、彼の体には絶叫とともに激痛が走った。


「くっ、このおっ!!」


 めげずに立ち上がって斬りかかるが、ワイズファルコンは健の斬撃を片手で受け止め弾き返す。更にもう片方の手でつむじ風を巻き起こして健を吹き飛ばしてベンチに激突させた。後頭部からぶつかるも立ち上がり、剣を携え疾走。


「らあっ!」

「ふっ」


 しかし斬撃はひらりとかわされ、ワイズファルコンは両手両足の爪を駆使して連打攻撃をしかける。とどめに回し蹴りを叩き込んで健を植え込みに叩きつける。


「くそっ……速い」

「健、スピードにはスピードで対抗だ!」


 いつの間にか姿を現したアルヴィーはワイズファルコンに苦戦を強いられている健にアドバイスを授ける。それを理解した健は、凛々しく笑って剣に風のオーブをセット。剣に風の力が宿り周囲に強風が吹き荒れた。ワイズファルコンは眉ひとつ動かさず敵を見据えている。


「これで対等だあ!」


 加速して健は地面から壁へと突っ走る。実力は拮抗している。いや、スピードでは相手のほうが上かもしれない。だがこっちも加速すればハンデは埋められる。そうすれば勝ち目はある。いや、もう勝ったも同然だ。


 ――そう健は思い込んだ。しかし現実は甘くはない。



「遅い!」


「!?」


 ――速かった。ワイズファルコンのほうが圧倒的に。以前戦った烏丸と同等、いやそれ以上の速さだ。奴との戦いでは加速してようやく対等になれた。しかし、今回は違う。加速しても相手のスピードには追いつけなかったのだ。したがって、ハンデを埋めることは出来なかった。あまりにも差が大きすぎる――。二人が絶望あるいは驚愕した表情を浮かべた瞬間、ワイズファルコンは健の腹部を正拳でどつき京都駅屋上から叩き落とした。


「……ファルコンフェザーストーム!!」

「らああああああああ!?」


 落下した健を追っている最中、ワイズファルコンは翼を広げ無数の羽を手裏剣あるいは弾丸のように打ち出す。そして羽の暴風雨の餌食となった健は地上に激突。周囲にはくぼみが出来た。ワイズファルコンはその近くに降下、アルヴィーも健を助けるべくいつの間にか移動する。


「く……くそ、負けるもんか」


 傷だらけになりながらもくじけずに窪みから這い上がった健は、片腕を押さえながら背を向けて佇んでいるワイズファルコンに近付く。


「お前なんかさっさとやっつけて……不破さんを、助けに行くんだ!」

「ふ……勝てるとお思いなんですか?」


 闘志を燃やす健を冷笑するワイズファルコン。振り向くと、自分を睨んでいる健とアルヴィーを指差して挑発。


「あなた方に勝ち目はありません。負けを認めなさい」

「イヤだね!!」

「そうだ、私たちはお前などには負けぬ!」


 力強く叫ぶ健とアルヴィー。ワイズファルコンは、ため息混じりに「あきらめの悪い人たちね……」と呟く。翼から羽を一枚抜くとそれは光って、翼を模した弓に変わった。


「いやに自信たっぷりですね。ではその鼻をへし折って差し上げましょう」


 ――甲斐崎社長専属の秘書、鷹梨夕夏ことワイズファルコン。彼女の実力はまだまだこんなものではない。

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