EPISODE262:臨時採用されし二人の戦士
「フハハハハハ! ガスだ! ガスを漏らせぇ、火をつけろ!! 大東京を火の海にしてやるのだあ!!」
その頃、ヒュドラワインダー率いるシェイドの群れはとある工場を襲っていた。狙いはガスタンクだ。これを破壊してガスを漏出させ、引火して東京を火の海にし――ゆくゆくは水道を止め高速道路も破壊してライフラインを完全に断絶してやろうと企んでいた。
電気がなければガスもないし水も飲めない。更に灼熱地獄と化した東京から抜け出そうにも退路は絶たれている。そうなれば最後、死ぬしかない。――そういう考えるのも恐ろしいことを彼らは実行に移そうとしているのだ。
「ドリッ! おら、どけどけ! 邪魔すんな!!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
シェイドの群れは作業員を無差別に襲って殺戮を繰り広げる。邪魔者を一通り血祭りにあげたところで、さっそくガスタンクを破壊しようと――した、そのとき。突如として弾幕のシャワーがヒュドラワインダーを狙って降り注いだ。無論ガスタンクには当たらないように巧く射程から外している。
「そこまでだ、バケモノ!」
「なんだ、誰かと思えばまた君たちか」
威嚇射撃を仕掛けてきたのは警察のシェイド対策課に所属する、装着式強化外骨格をまとった戦闘部隊だ。ヒュドラワインダーが真ん中の頭のバイザー越しに彼らを睨み、光線を放つ。
「怯むな、撃て!!」
水色を基調としたバトルスーツをまとった戦闘部隊のリーダー格が部下たちに命じ、シェイドの群れに果敢に立ち向かう。更にピンクを基調としたバトルスーツを装着したもう一人のリーダー格が、「くれぐれもガスタンクに攻撃が当たらないようにしてください!」と女性の声で呼びかけながら敵陣の真っ只中に斬り込んでいく。
「ほう。性懲りもなくやられに来たというわけだな!」
ヒュドラワインダーの両肩の首が激しく燃え盛る火炎の息を吐き、アリのように自身にたかる戦闘部隊を薙ぎ払う。
「はあっ」
「む!」
上空から女の声がしたので見上げると、そこにはピンクを基調としたバトルスーツのリーダー格の姿が。細身の剣を真下へ向けて急降下するも、ヒュドラワインダーはそれを相殺した。
「よそ見しとる場合か!?」
次の瞬間、独特のイントネーションが入った掛け声とともにビームが連続で放たれた。ヒュドラワインダーは回避あるいは剣でガードするも、部下のグラスケルトンたちは一目散にやられてしまった。
「くっ……」
苦い顔をするヒュドラワインダー。ふと、彼は何かに感付く。――水色のバトルスーツを着たほうは男で、あの声には聞き覚えがある。ピンクのバトルスーツを着た女のほうの華麗な剣さばきは、初めて目にしたがまるで――。そうか、もしかすると奴らはブラックリストに載っていた!?
「辰巳さん、どうしたんスか?」
「……モグラ君、奴らには気を付けろ」
「ドリッ?」
「あのスーツを着ているのは、市村正史と――葛城あずみだからだ!」
――そう、宍戸が不破に言っていたいい人材とは彼ら二人のことだったのだ。その証拠に水色のスーツを着た市村は青い大型銃を携えており、ピンクのバトルスーツを着た葛城は愛用のレイピアとバラの紋章が刻まれたクリアパープルの盾を手にしている。
「なにぃッ!? てめえら、あのイナズマ野郎はどうしたんだ!!」
「そのイナズマ野郎がお前らにやられて出撃できひんかったから、わしらが臨時でスカウトされたっちゅうわけよ。たまにはこういう仕事も悪うないなあ!!」
「あなたたちの行いは絶対に許されることではないわ。不破さんに代わってあなた方を討ってみせます!」
「ドリィッ……!」
眉をしかめてあとずさりするモグドリラー。
「『光の矢』の残党の娘に『浪速の銃狂い』、か……相手にとって不足はない」
険しい顔をしながらも、ヒュドラワインダーは冷静さを保って二人に刃の切っ先を向ける。
「来い。諸君にはここで消えてもらう!」
「へっ! 消えるのはお前や、ウミヘビ野郎!! わしらの目が黒いうちはお前の好きにはさせへんで!!」
戦いの火蓋が切って落とされた! 啖呵を切った市村は大型銃からビームを連続で放って相手を足止めし、モグドリラーに銃で殴りかかる。しかしドリルがついた腕で弾かれて怯んだ。
「援護頼むわ!」
「ラジャー!」
「モグラはわしがやる! あずみちゃん、あんたはウミヘビのほう相手してくれ!」
「わかりました!」
葛城と戦闘部隊のメンバーに指示を出して市村はモグドリラーとの戦いに専念する。ヒュドラワインダーの相手をするように任された葛城はそれを引き受け、ヒュドラワインダーに攻撃をしかける。
「笑止な! お前ひとりで私に勝つつもりか?」
「いいえ、わたくしには皆さんがついています!」
剣の使い手同士の戦いが始まった。斬り合う二人はお互いに付け入る隙を与えない。しばらくしてつばぜり合いに持ち込むも、やはり両者ともに一歩も譲ろうとはしない。
「でぇぇぇい!」
「ッ!」
つばぜり合いに敗れたのは葛城だった。怯んだところに一太刀浴びせられるが、間一髪盾で弾き返す。
「拡散ドリルミサイルッ!!」
「おわっ! とおっ!」
一方の市村はモグドリラーを相手にそこそこ優位に立ち回っていた。脳ミソまで筋肉で出来ていそうに見えるモグドリラーだが、攻撃が遠近とバランスが取れておりなかなかに手強い。とはいえ市村は遠距離戦においては頂点に立つ男だ。
放たれたドリルがいくつもの数に分裂して襲ってこようが怖くもなんともない。そんなものはすべて撃ち落とせばいいだけの話だ。――しかし、彼はドリルミサイルを撃ち落とすことに夢中で気が付かなかった。モグドリラーが拡散ドリルミサイルを放ったあと地中に潜ったことに。
「へっ、どないや……」
やったぜ、と、口の端を吊り上げたその瞬間にモグドリラーが市村の足元から姿を現した。
「なにっ!」
「防御貫通・コアドリルッ!!」
「うわあああああああああああァァァァ!?」
モグドリラーは力を溜めて両腕のドリルを市村に叩きつけて打ち上げた。これぞ防御貫通・コアドリル、その威力は動きやすさと頑丈さを両立させたバトルスーツをいとも容易く破損させるほどだ。市村は顔から地面に落下した。
「市村さん!?」
「もらったぁっ!」
「あああああぁぁぁッ!!」
葛城にヒュドラワインダーの魔剣が襲いかかり彼女を吹っ飛ばす! 更にヒュドラワインダーはうしろにいた戦闘部隊メンバーへ高圧水流を放って押し流した。
――果たして、この勝負の行方は?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、病院から脱け出した不破は自宅マンションで戦う準備を整えてバイクに乗り、シェイドサーチャーを頼りにしながら街の中を突っ走っていた。目指すはシェイド対策課が所有する大型トレーラーだ。きっとそこに村上や宍戸、それに自分の代わりとなる『いい人材』がいるはずだ。
「こいつはひでぇ……奴ら、思ってたよりずっと派手にやりやがったな。許せねえ!」
各地の発電所や工場が破壊されていく過程で街も破壊されており、瓦礫が散乱し火の手が上がっていた。人々が泣き叫ぶ声やサイレンの音も聴こえてくる――。こんな非道なことを平然とやってのける怪物どもを許しはしない。見つけ次第必ず息の根を止めてやる。――不破はこの惨状を前に残忍なシェイドへ対する怒りと激しい闘志を燃やした。
トレーラー目指して走っている途中、とある埠頭に差し掛かると不破は何を思ったか急にバイクを停めた。
(いい人材がいるって聞いたが、本当にそれで大丈夫なのか……? 相手はかなりの手練れだ。オレとそいつらだけで勝てるかどうか)
――このまま、無策で突っ込めばヒュドラワインダーに返り討ちにされるだけだ。今度こそ助からないかもしれない。どうすればいい? どうすれば奴に勝てるのだ? 不破は誰もいない港でひとり思い悩んだ。そしてひとつだけ解決策を見出だせた。
(それでもあいつなら――あいつがいればきっとなんとか出来るはずだ)
不破は、上から着ていたネイビーのジャケットの懐から携帯電話を取り出した。電話をかけようとしている相手は――。
(頼むぜ……東條!)
――東條健だ。
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