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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第14章 『光の矢』
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EPISODE261:ジッとするのが嫌い


 その晩、東京――とあるビルの屋上でのことだった。辰巳はiphoneらしきデバイスを使い、甲斐崎と会話をしていた。


「……それで作戦は進んでいるのか?」

「ハッ。おかげさまで順調そのものです。ヴォルフガングのところのモグラ君は、本当に出来る子ですよ」

「そうか、なら言うことはない。必ず成功させろ」

「ハッ。……ところで社長、近頃『終焉の使徒』の生き残りと思われる連中が動いているようですが、どう致しましょう?」

「放っておけ。関わるだけ時間の無駄だ」

「ですが、やつらは八年前に『光の矢』と戦った者たちですよ。いずれ『光の矢』の生き残りだけではなく我々にも狙いを定めてくるはず……今までのどのエスパーどもよりも大きな脅威となりますよ」

「奴らには手を出すな。いろいろと面倒なことになりかねんからな。わかったか?」

「……はっ!」


 ――甲斐崎との重要な会話を済ませた後、「本当にそれでいいのか?」と疑問を抱きながらも辰巳はモグドリラーらと夜空に浮かぶ満月を見ながら酒を飲み交わす。彼らが飲んでいるこの酒は、人間から奪い取ったものである。

 彼らの手によって普段なら他のビルの明かりやネオンが輝いている夜景からは、夜の都会の輝きが失われていた。それは暗に、近いうちに希望の光も消える――ということを示してもいた。


「ぷはぁ〜〜ッ」


 酒を次から次へとラッパ飲みして、精悍な彼もすっかりべろんべろんに酔っぱらった。部下のグラスケルトンに絡んで缶ビールを横取りしたり、同じく酔っぱらったモグドリラーと一緒に踊ったりする始末だ。躍り疲れてふらりと座り込んでも、「酒だ! もっと酒もってこーい!!」とまだ酒をねだろうとしている。


「お前らァ〜〜〜〜、今日は前祝いだァァァァ〜〜! たくさん飲んでぇ、明日からまたたくさんブッ壊してやろうやぁ〜〜」

「グゥーラァー!」


 ――彼らが住まう異次元空間は、人間が住む世界と違って暗くねじれている。酒を浴びるような勢いで飲み干していたのは士気を高めるだけでなく、体を暖める目的もあった。


「人間界はァ〜いずれ俺たちがいただくんだぁ〜、どんどん飲もうやァ〜〜」


 酔いつぶれて、辰巳の頭には眠気が回りそのまま就寝。黄色くがっしりしたビールケースを枕がわりにした。


「発電所はもういい〜〜、次はガスだぁ……ぐごぉー、ぐごぉ」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから三日が経った――。都内の相川総合病院、405号室。そこには――ベッドに眠っている不破の姿があった。彼は辰巳との戦いに敗れて海に沈むも、運良く東京湾の付近に流れ着いていたところを発見されすぐに搬送されていた。そして彼はようやく意識を取り戻し、閉じていた目を開こうとしている。


「……ハッ!?」

「やっと目が覚めたか。お前、もう三日も眠ってたんだぞ」


 そこは病室で、シェイド対策課の主任であり同僚の村上や若い婦警で後輩の宍戸が自分を心配していた。更に棚にはお見舞いの品まで置いてある。


「三日も……?」

「ああ。その間にずいぶんとやられたよ。しかも連中、発電所だけじゃなくて工場も襲ってる」

「狙いは多分、ガスです。不破さん不在の間、私たちだけでなるだけ頑張ったんですが……」

「そうだったのか」


 自分が意識を失っている間に、そんなことが。不破は何も出来なかった自分の無力さを恥じた。そしてなんとしてでもヒュドラワインダーたちを止めなくてはならないと誓った。


「ま、今回の件で浪費家な一般市民のみなさんも身に染みたでしょう。エネルギーの無駄遣いはいけないってね」

「斬夜! お前も来てたのか」


 病室の隅で現状を皮肉った言葉を呟いていたのは、右目に片眼鏡(モノクル)をつけた斬夜だ。彼も村上から言われて、しぶしぶ見舞いに来ていたのだ。ベッドに近寄って、斬夜は嫌味ったらしく笑う。直後、真顔になって顎に指を当てた。


「――電気のみならずガスまで狙ってきたということは、最終的に水道か高速道路に手を出してくる可能性が考えられますね」

「それってまさか……」

「なかなか察しがいい。そうです、僕の推測が正しければ奴らの目的は恐らく、いや確実に我々のライフラインを断絶することだと思われます」

「行かせてくれ!」


 斬夜の推測を聞いていたら、いても立ってもいられなくなってきた。不破は無理矢理にでもベッドから乗り出して部屋を出ていこうとするも、村上と宍戸に取り押さえられた。斬夜がそんな不破に、「ハァ?」とギョロ目で睨みを利かせる。


「おめでたい人だ。病み上がりのあなたが現場に向かったところでどうにかなるとお思いなんですか? 病人は病人らしくベッドで安静にしておけばいいんですよ。自分から死にに行くなんて、バカの極致だ」

「お前、わざわざそれ言いに来たのかァ!」


 いきり立って食い付いてきた不破を見て斬夜は鼻で嫌味に笑う。「落ち着けって!」「不破さん!」と、村上と宍戸は猛る不破をなだめる。


「……ともかく、その体で無理をされては困る。今は体を休めておいてくれ」

「あとはあたしたちで何とかしてみます」

「けど、オレの代わりは誰が?」

「それならご安心ください、いい人材が見つかりましたので」


 そう言って村上と宍戸は病室を出た。不破をひとりにして、ゆっくり休ませてやろうと気遣ったのだ。「じゃ、そーゆーことですので」と、斬夜もすぐに出ていった。


「……なにもするなってのか……? オレは嫌だね!!」


 このまま、街が残虐非道なバケモノどもに破壊され蹂躙されていく様をここで黙って見ていろというのか。……ふざけるな! そんなことが出来るわけがない。黙って見ているぐらいなら、オレは力ずくでも奴らを止めに行く。――不破の決意は揺るがなかった。ベッドから出て窓を開けると不破は飛び降りた。そして超高速で病院から去っていった。


「不破さーん、体の調子はいかがですかー?」


 そうとは知らない若い女性看護士が病室に入ってきた。しかし、そこに不破の姿はもうなかった。まさか脱け出したのか――? 呆気にとられた顔で、看護士は不破が脱け出した痕跡――風になびく窓際のカーテンを見つめていた。


「どこ行っちゃったのかしら……」

最近更新遅れててごめんなさい^^;

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