EPISODE260:許すまじ! 影山に必殺剣を叩き込め
突如として現れた謎の刺客――影山栗丸。その影山によって影を斬られた健たちは身動きを封じられ、葛城は影山にいいようにいたぶられていた。
「うきょきょ……」
「ッ!」
異様に長い舌で葛城の顔につけた傷を何度もなめまわし、更に服を裂こうとする。
「君はおいらのものだん。まず君のお母さんがどこにいるか、教えてもらおうかいん」
「嫌よ……誰があなたなんかに」
「強情なヤツだなん! これでもかんッ!」
「ぁあああああッ!!」
いきり立った影山は葛城の顔をひっぱたく。「こうなりゃん、××しておいらに服従させるしかなさそうだねん!」と、血走った目で葛城を睨み付けて葛城の股間にクナイを突きつけた。
「なにが『教えません』だよん……、しゃべって楽になっちまえよオラアアアアアァァァんッ!!」
(もうダメだ……あずみ殿ぉ!)
クナイが振り下ろされようとしたそのとき――健がうめきながら立ち上がった。
「やめろ……」
「あ゛ん?」
「……に、触れるな……」
「お前、生意気だねん。あんまりおいらをイライラさせないほうがいいぞん」
目を伏せて、影山を睨み付けながら健が影山へ接近する。
「葛城さんに触れるなあああああああああぁぁぁぁあああああぁぁぁぁ――――!!」
「うざいなーん。もういいよん、君から先にブッ殺して…………!?」
雄叫びを上げる健。その目は激しい闘志と怒りに満ちていた。うんざりした顔で刀を手に持った影山だったが――義憤がこもった刃をぶつけられぶっ飛んだ。壁に衝突し、顔から地面に落下した。
「健!」
「……あぁっ……」
絶望で曇っていた二人の顔に希望の光がもたらされ、明るくなっていく。対する影山は、形成が逆転しようとしていることを認められず焦っていた。
「な、なんだん? なんで動けるんだん!? まさか、おいらの力をはねのけたっていうのかん!?」
「……うおおおおおおぉぉぉおおおおおォォォ!!」
ここであきらめるほど彼は弱くない。――健は、強靭な精神力で影山の能力をはねのけ一撃を加えたのだ。再び雄叫びを上げ、健は影山の顔面に拳を叩きつける。更に腹部を膝で蹴り上げ、掴みかかるとその石頭で思い切り頭突きをかました。頭突きの衝撃で、影山は鼻が潰れて前歯が欠けた。
「うぎぎ……思い上がんじゃねえええええん!!」
顔を傷つけられ発狂した影山は唸り声を上げながら、分身。健の周囲を囲んで撹乱しようとする。
「うきょおおおん! シャドースライサー・影山のホントの怖さ教えちゃるんッ!!」
「分身の術かッ……まどろっこしいなッ!!」
健は剣に風のオーブと氷のオーブを装填し、吹き荒れる風の力と冷たく輝く冷気の力を剣に宿した。その結果周囲に今にも肌が凍てつかんばかりの凄まじい吹雪が吹き荒れる。
「はああああああああああああッ!!」
「のわああああああ!!」
竜巻を伴う回転斬りを繰り出して、影山を分身ごと薙ぎ払う。影山を突き放した健は、力を溜めて思い切り剣を振るった。……凍てつく冷気をまとった鋭い竜巻が発生し、影山を切り裂く!
「ブリザードストーム!!」
「んぎゃああああああおおおおおおおおおん!?」
空中へ打ち上げられた影山は氷漬けとなって地上に落下していく。健は瞬時に飛び上がって落下途中の影山を叩き落とし、粉砕。着地すると氷と風のオーブを外し、炎の力を宿した赤いオーブを装填した。
「アルヴィー!」
「うむっ!!」
健の呼び声に応じてアルヴィーはその姿を本来の姿――白い龍へと変えた。真の力を解き放ち黄金龍となって健に光の力を貸し与えるかどうかは任意だ。よって髪と瞳の色を変えるかどうかも任意である。
「うおおおおおおッ! 久々のぉッ、ファングブレイザー!!」
「ぎょっぴょおおおおおおおおん!!」
アルヴィーは口から青い炎を吐き、剣を斜め下に構えた健を後押しする。赤と青、ふたつの炎をまとって突進――影山を突き飛ばし、大爆発させた。爆炎が上がるなか、満身創痍の影山が無様に地面を転がる。沸き上がる怒りを抑えきれぬ健は、拳を振るわせ息を荒くしながら影山に接近する。影山の頭を掴み上げ、壁に思い切りぶつけた。
「らあああああッ!!」
「ぎぃぃぃぃんっ!!」
血が豪快に噴出し、影山は激痛に悶え苦しむ。それだけに留まらず、健は苦痛に喘ぐ影山の胸を踏みつけ、更に馬乗りになって顔面を執拗に猛打する。血しぶきと叫び声を上げる影山だったが、怒り狂っている健は影山の叫びに耳を貸さなかった。そのまま殴り続けた末に影山の体から飛び降りると、剣で切り上げて吹っ飛ばした。
「た、健さん……!?」
「いつになく怒っておる……いかん! このままでは!!」
普段の温厚な彼からは想像もつかないようなその姿に、葛城といつの間にか人の姿に戻ったアルヴィーは衝撃を受けていた。殺気立ったするどい目付き、乱れている呼吸――。今の健はまるで無慈悲で容赦のない鬼神のようだ。
「お前……いままでで一番ムカつくヤツだッ!!」
「ひいいいいいいんッ!!」
健は怯える影山の喉に剣の切っ先を向ける。その目は親の仇でも見るような殺気に満ちていた。それだけ、影山が葛城を執拗にいたぶったことに憤りを感じていたのだ。優しさゆえに激しい怒りに目覚めてしまったということだ。
「影山、許さんッ!!」
剣を振り上げて、こともあろうか影山を殺そうとしたその瞬間――葛城が、「健さん、ダメッ!」
「!? なぜだ、こいつは君を!」
「ですけど、彼を殺したらあなたは彼と同じになってしまいます!」
そのとき、怒りに震えていた健が我に返った。残忍なシェイドならともかく、彼は人間だ。許しがたい相手だったが命まで奪ってしまったら、その時点で――自分が自分で無くなってしまう。
「……」
「健さん……」
そのことに気付いた健は、影山に向けていた刃を納めた。鬼神のごとき表情も穏やかになっていった。安堵の息を吐くアルヴィーと葛城だが、次の瞬間――。
「うきょ……死ねえええぇぇぇええん!!」
これを好機と見た影山が巨大手裏剣を手に健に襲いかかる! 健は瞬時に攻撃をかわし剣を抜く。そして巨大手裏剣を弾き、影山を斬る。
「ウザいんだよお前ええええェェェん! 正義のヒーロー気取りやがってさあああアァん!!」
逆上した影山は口笛を吹いて、シノビエイプの群れを統率するボスを呼ぶ。刀を構え突撃してきたボスザルを、健は、「邪魔だ!」と一撃で斬殺した。
「そんなぁん!?」
「いい加減にしろおおおおおおおおッ!!」
「びゃああああああああああああぁぁぁァァァァァ!!」
巨大手裏剣ごと叩き斬り、健は影山をぶっ飛ばした。もはや再起不能だ、二度と悪さは出来ない。まだ生きているが、健から凄まじい反撃を受けて顔はぐちゃぐちゃだ。――相応の罰を受けたのだ。戦いは終わった。剣と盾を仕舞い、健は安堵の息を吐く。
「……大丈夫?」
やや申し訳なさそうにしながら健は二人にそう訊ねる。健が影山を倒したことにより二人の肌には生気が戻っており、体も自由に動かせるようになっていた。二人とも笑顔を浮かべている。こっちも辛い顔をするわけにはいかない――と、健も笑った。
「――健、よく我慢したの。もしお主があそこで影山を手にかけていたら私はお主と縁を切るつもりだった」
「アルヴィー……」
あのとき健は激しい怒りに駆られていたが、仲間の言葉を聞いて思いとどまれるだけの心は残っていた。あと一歩遅かったら健は道を踏み外していただろう――。
「はっ!」
いつの間にか光合成を行い、葛城は傷を回復していた。その証拠にお肌がツルツルだ。健とアルヴィーが受けた傷も、葛城は治癒効果がある花の香りで治してやった。
「これで一件落着ですわね。さ、行きましょう」
「喫茶店行くんだったよね。一緒にコーヒーでも飲もうぜっ!」
――気を取り直して三人は肩を組み合ったりして喜びながら、葛城がすすめてきた喫茶店へ向かって歩き出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――三人が去ったのち、無惨な状態になった影山の前に仮面をつけた男女が姿を現す。男のほうは髪は金色の長髪で叫ぶ仮面をつけていて黄色と黒を基調としたジャケットを着ており、女のほうは紺色の長髪をポニーテールにして束ね悲しむ仮面をつけていた。白と青色を基調としたコートを着ている。
「た、たしゅけて……」
――自分に組織に入らないかと持ちかけてきた二人組だ。入る条件は、『光の矢』の生き残りとその家族の抹殺。彼は他人の幸福を妬み、不幸に陥れようと日頃から考えていた。そう、他人の不幸は蜜の味だと思っていたのだ。不幸な過去があったわけではない、ただの嫉妬だ。彼は元からどうしようもない男だったのだ。
「……助けてほしいのかしら? 無理な相談ね」
くすくす、と悲しむ表情の仮面をつけた女が笑う。
「あいにくだが、弱者にかける情けはない」
「ひ、ひぎぃっ……」
叫ぶ仮面をつけた男はその手をかざし、鋭いカギ爪を装着。怯えた影山の胸に突き刺した。
「あ……ががが……ァァァァ」
――体が熱い! 急激に乾燥していく。血も肉も、皮も骨もすべて。そのうち身体中に亀裂が走り出した。
「嫌だ……こんなの嫌だあああああぁぁぁん!!」
絶望に満ちた叫び声が響く。哀れにもカラカラに乾上がった影山の体は、そのまま砂になって崩れ落ちた。……これで役立たずはいなくなった。影山を切り捨てた仮面の男女は、砂嵐あるいは水柱に包まれてその場から姿を消した。