EPISODE256:麗しく、時に鋭く!
翌日、高天原市にある天宮学園高校にて――ここの生徒でありフェンシング部の部長である、バラ色の髪の葛城あずみがすぐ隣の席にいる友人と雑談を楽しんでいた。今は放課後だ。しばらくしたら二人は部室がある体育館へ行くつもりをしている。
葛城が部長でエースならその友人である妃みどりは副将だ。明るくマイペースな性格に反して、みどりの実力は筋金入り。縁の下の力持ちというやつだ。
「あずみん、そろそろ行かな〜い?」
「そうね。あんまり待たせていては皆さんに失礼ですもの」
腰を上げて立ち上がった二人は部室へ行こうとしたが、そのとき――奇声とともに何者かが窓ガラスをぶち破って教室の中へと入ってきた。乱入者の正体は、軽めの武装をしたサルのシェイドだ。それも一体だけではなく、何体も現れている。
「うわーーーーッ! 誰か、助けてくれーーーーッ!!」
「シェイド怖いよおおおお!!」
教室の中だけではない、外からも悲鳴が聴こえる。――このままではいられない! 穏やかな表情から一転して険しい目付きになると、葛城は教室の中に入ってきたサルのシェイドをすばやく巧みな身のこなしで叩きのめし、恐怖に震える皆を落ち着かせる。
「みどりさん、皆さんを安全なところへ!」
「う、うん。でも部活は?」
「わたくし抜きでやってください!」
みどりに用件を告げた葛城は教室を飛び出し、レイピアを抜いて外に蔓延るサルのシェイドを蹴散らしに向かう。
クラスメイトや教師たちを襲うシェイド――許すわけにはいかない。葛城は激しい闘志を燃やして、眼前に飛び出してきたサルのシェイド一体を頭から真っ二つに切り裂いて先へ、先へ進む。そしてようやく校庭に出た。
「葛城、来てくれたんだな!」
「よかった! もうダメかと思った……」
「皆さん、早く逃げてください!」
サルのシェイドの群れの前に立ち塞がった葛城は、襲われていた生徒や教師たちに避難を呼びかけて逃がし、レイピアの切っ先をサルのシェイドたちに向ける。
白い毛皮に真っ赤な肌、黄色い目。身に付けたハチガネに装束、刀や手裏剣、はたまた鉄砲まで――。軽装ながらも戦い慣れた雰囲気はまるで忍者のようだ。身のこなしも早くて軽そうなのは一目でわかる。
「ウキッ! ウキィーッ!!」
「ウキャアアアッ!!」
群れの中でもリーダー格にあたるらしい他より上等な装備を身に付けたサルのシェイドが、仲間のサルに指示を下す。指示を聞いた格下のサルのシェイドたちは、刀や鉄砲を持ち出していっせいに葛城へ襲いかかる。
「ハアアアアアアッ!!」
葛城は目を閉じて感覚を研ぎ澄まし、カッと見開くとレイピアをくるりと一回転させ地面に突き刺す。地中から無数の巨大な草のトゲが突き出てサルのシェイドたちを串刺しにした。
群れの大半を片付けるも、ボスザルが角笛を吹いて増援を呼ぶ。鉄砲や手裏剣といった飛び道具が葛城を襲う。左手をかざしてバラの紋章が描かれたクリアパープルの盾を手に、飛び道具を防いだ。
「えぇーーーーいッ!!」
「ウキャアアアーーーーッ!?」
突いて、斬って、突いて、また斬って、また突いて、何度も何度も突きと斬撃を繰り返してサルの群れを蹴散らしていく。焦ったボスザルは再び角笛を吹いて手下を呼ぼうとするがそうはさせまいと葛城にレイピアで突かれて角笛を落としてしまう。とどめに、葛城は角笛を踏み潰した。忍者みたいな格好なのになぜ角笛なのだ――と、疑問に思いながら。
「ウキィィイイイィ!!」
激怒したボスザルは刀を抜いて葛城に斬りかかる。頬をかすって透き通るような肌から血が吹き出た。
――しかし葛城は顔を傷つけられて怒り狂うような矮小な女ではなかった。気にも留めずにボスザルの攻撃を盾で弾いて隙を作り、そこへ連続で突きをお見舞いする。すばやく狙いは正確で。
「う、ウキ……」
「覚悟なさい!」
一瞬でボコボコに蹂躙されたボスザルが怯えて後ずさりする。葛城は一切容赦せずに、ゆっくりと歩み寄って相手の懐へ潜り込み――至近距離から渾身の一撃を繰り出してボスザルを吹っ飛ばす。遠くまで吹っ飛んだボスザルは体から火花を散らしながら、大爆発した。葛城は安堵の息をついてレイピアをしまうが――。
「……あれは、丸太?」
残り火が燃えている中で見えたのはボスザルの灰ではなく丸太。まさか身代わりの術を使ったというのか? 野蛮であまり知能がなさそうな雰囲気に反して、あのボスザルはなかなか賢いらしい。とはいえ、これで一安心だ。ようやくリラックスできると思った――その矢先、懐に仕舞っていた携帯電話から着信音が鳴った。
「はい! ……えっ? わかりました、すぐ伝えます」
取り出してカバーを開くと、葛城は電話に出る。相手は女性で、葛城より年上。優雅で美しい声色からは、気品のよさとやさしさが感じられる。いつもは凛々しく、大人びている葛城だが、このときは表情が年相応になっていていつも以上に明るかった。
「部活どころじゃなくなったわね……」
ひとことだけ呟いて、葛城は荷物を取りに教室へ戻った。そんな彼女の姿を物陰から何者かが見つめていた。薄気味悪い笑いを浮かべながら。
「うきょきょきょきょきょ……」