EPISODE255:厳しくてなんぼ
ところ変わって京都。不破たちが大変な目に遭っているとも知らず、健は土手で一週間もの長い眠りから目を覚ましたアルヴィーと一緒に特訓をしていた。早朝から、ずっと。
「たあっ!」
「ふっ!」
最初は素手でパンチやキックを出し合い、しばらくしてから互いに武器を持ってのチャンバラに発展。健が長剣・エーテルセイバーを手にしたのに対しアルヴィーが握っているのはただの棒切れ。
たとえるなら、伝説の剣に体を慣らそうとする勇者のためにパーティー内でもとくに実力が高いものが桧の棒を装備して勇者の実力を試すようなものだ。
「やっ!」
「ハアッ!!」
「うおおっ!?」
「隙あり!」
アルヴィーに斬りかかるもかわされ、動揺する健の隙を突いてアルヴィーは健の右肩に棒切れを叩きつける。なかなか威力が高く、健は右肩を押さえながらよろめいた。
「どうした健、そんなことでは帝王の剣の真の力は引き出せんぞ!」
「ぐぬぬ〜っ」
炎、氷、雷、風、土、光、闇――といった属性の力を凝縮した宝珠。それらの力を引き出す長剣・エーテルセイバー。その真の姿が、あらゆるものを切り裂くといわれる伝説の剣・エンペラーソードだ。世界を支配するにふさわしいものだけが手にすることを許されるのだという。
「アルヴィーさん張り切ってるなー」
「そりゃそうよ〜。一週間も寝てたら疲れなんか吹っ飛んじゃうわ」
「一週間? まりちゃん、それホント?」
「ホントホント、付きっきりで様子見てたんだ〜」
「そう。でもあの様子じゃ東條くんヘタっちゃうんじゃ……」
「大丈夫よ〜、たぶん。健お兄ちゃんタフガイだしさ」
少し離れたところで、風月みゆき、まり子、白峯とばりの三人が座りながら雑談を繰り広げていた。白峯とばりは科学者でしかも若くして博士になったほどの天才だが、今は外出していて研究もしていないのでリブ生地の黒っぽいセーターを着て下にはジーパンを穿いていた。
「健、もうヘトヘトになったか。私が一週間寝ている間何をしとった?」
「ず、ずっとアルヴィーのことを気にかけてたさ」
チャンバラの最中、唐突に何をしていたのか問われた健がそう答える。「ほう。そうだったか」と、感心したアルヴィーは嬉しそうに笑って攻撃の手を緩め――はせず、むしろより強くして健に棒切れを振りかぶった。微笑ましい光景に見えるが、これは鬼畜の所業だ。頭を抱えて痛がっている健を見ればそれがよくわかる。
「気遣ってもらえて私は嬉しいぞ。おかげで、元気バリバリだー!」
「ひっ!!」
笑顔で棒切れを自分に思い切り叩きつけてくるアルヴィーを見て健は顔がひきつった。半ばヤケクソ気味にエーテルセイバーを振るい、ときには盾――ヘッダーシールドで攻撃を防いだりするも、結局押し切られてチャンバラは健の負けとなった。
「あちゃー、健くん負けちゃったか」
「アルヴィーさんったら、元気バリバリにもほどがあるんじゃないのー」
なんともいえない表情で、うしろにいた三人はその結果を見届けていた。
「いでで……もうちょい手加減してくれたっていいでしょ」
「ならん! 幹部をひとり倒した以上、今後敵は手加減などしてはくれないぞ! 甘ったれている場合ではない!!」
のびていた健が起き上がりアルヴィーに抗議するも厳しく一蹴され、落胆。そんなことは自分でもわかっているのだが、それにしたってアルヴィーのあのスパルタぶりは少々やりすぎなように思える。そう思って頼み込んだらこのザマだ――と、考えていたそのとき、健から腹の虫が鳴った。
「……みゆき殿ー、今何時だ?」
アルヴィーがみゆきに現在の時刻を問うた。みゆきはすぐさま腕時計を見て時刻を確認する。
「十二時前みたーい」
「いい時間だしそろそろお昼にしようよ。朝からぶっ通しでやってたから、僕ヘトヘトだよー」
そう、健とアルヴィーは朝八時に起きてずっと特訓していたのである。みゆきら三人はそのときから二人に付き添っていたのだ。
「そうだな、言われてみれば私も腹が減ってきた。みんなでメシにしよう!」
「やったー!」と、健が手を上げて喜ぶ。腹が減っては戦は出来ない。このタイミングで昼食をとらせてもらえることは素直に嬉しい。
「あ、食べ終わってしばらくしたら続きやるからな。よいな?」
「えーーーーっ!!」
頭を抱えて健が絶叫する。一瞬慈悲深い女神みたいなお姉さんに見えたと思ったらすぐこれだ。鬼畜にもほどがある、と、健は唇を噛み締めた。
「ねーねー、どこにする?」
「あたし、どこでもいいわよー。まりちゃんは?」
「中華料理食べた〜い!」
「私はビビンバがいいな……」
女子四人が盛り上がっているなかで、テンションが下がってため息混じりの健はとぼとぼとあとをついていった。