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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第14章 『光の矢』
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EPISODE254:魔剣炸裂! 海辺の大激戦


 人間は、ほかの生き物に比べたら泳ぐのが下手な(しゅ)だ。たとえ水泳で金メダルを取ったアスリートであっても魚のように自由自在に泳ぐことは出来ない。半端な気持ちで水に入ったら最後、溺れ死にするかサメに食われて死んでしまうのがオチだ。

 幸い不破は一般人より遥かに身体能力が高いエスパーであり、しかもバトルスーツを身にまとっている。それなら水中でも多少は動けるし逃げに徹すれば水上まで上がることも出来る。――ただ、相手は水中をホームグラウンドとしている海蛇(ヒュドラ)だ。よほどの運と高い実力、水中でも自在に動ける運動能力が無ければ――勝ち目は無い。


(くっ……まさか巨大化するなんて)

「「「グオオオオォォォ!!」」」


 不破がまとっているバトルスーツ、そのバイザーの向こうに映っているのはもちろん巨大化したヒュドラワインダーだ。三つの首に六つの目。細かいことに首の色が三つとも異なるなら目の色も違う。右の紫の首は目が浅葱色で、左の緑色の首は赤い目をしている。真ん中の水色の首――本体の目はオレンジ色のゴーグルのようなものがついていて、その下に目が二つある。芸が細かいなどと感心している場合ではない。


「ゴボッ……」


 いったん逃げて地上に誘き出してから戦おうと思った不破は地上を目指して泳ぐ。だが巨大ヒュドラワインダーは、その巨体に似合わない速さで動いてあっという間に不破に追い付いた。

 ――速い。速すぎる! 目にも留まらぬその速さはまさしく水を得た魚のようだった。そして巨大ヒュドラワインダーはその大きな口を開けて不破に迫る。鋭いキバに噛み砕かれたら一巻の終わりだ。もし噛み砕かれてなお生き残っても猛毒に冒されて全身を蝕まれ、やがて死に到るだろう。とにかく逃げなくてはならない。


「「「逃がさんぞ!」」」


 三つの首からいっせいに声が響き不破を威圧する。噛みつきや目からの破壊光線、尻尾を振り回すといった巨大ヒュドラワインダーの追撃にめげずに地上を目指す不破だが――ついに体がバテて追い付かれてしまう。


「「「ギュロロロオオオオォォォンッ!!」」」

(まずい……!)


 巨大ヒュドラワインダーの真ん中の首に噛み付かれた不破は、口にくわえられてそのまま浮上。岸辺へ上がるも地面へと叩きつけられ血だまりが出来るほどの大ダメージを受けた。体を起こして立ち上がると、当然目の前には陸に上がった巨大ヒュドラワインダーの姿が。


「うっ……お前のほうから地上に引き揚げてくれるとはな」

「「「私が貴様にチャンスを与えた、とでも思ったか? それは間違いだ」」」

「っ……」

「「「ギュロロロオオオオンッ!!」」」


 巨大ヒュドラワインダーの三つの首が口を開け、不破を噛み砕こうと交互に襲いかかる。右手に装備したバックラーで攻撃を防ぐが、直後に巨大ヒュドラワインダーは尻尾を振り回して不破を薙ぎ払う。吹っ飛ばされたその衝撃でバックラーは粉々になった。


「くそっ、バックラーが!!」


 尻尾の攻撃をかわし、更に噛みつき攻撃もかわしながら不破はランスを振り回して放電し、巨大ヒュドラワインダーを攻撃する。


「……だが盾なんかなくたって平気だ。オレにはスピードがあるッ!」

「「「ふん」」」


 不破は啖呵を切ると加速し、超高速で動き回って巨大ヒュドラワインダーを撹乱。目にも留まらぬ速さで攻撃も加えるが、あまり効いていない。というのもダメージを与えてもすぐに傷が再生してしまうからだ。


「「「強がるのもそこまでにしておけッ」」」

「ッ……うおああああああああああぁっ!!」


 超高速で動き回る不破の動きを見切った巨大ヒュドラワインダーは不破が来る位置を予測し、そこに口から破壊光線を吐き出して攻撃。不破をぶっ飛ばして岩礁に叩き付けた。


「「「ギュロロロオオオオォォォンッ!!」」」


 巨大ヒュドラワインダーは不破が激突した岩礁まで、跳躍して移動。着地と同時に周囲に粉塵や水しぶきを豪快に巻き上げた。再び咆哮すると体が黒いオーラに包まれ、みるみる縮んで元の等身大の姿になった。


「へっ……オレにハンデをくれるなんて意外とフェアだなッ、お前ッ」

「貴様にハンデを与えただと? 笑止!」


 ヒュドラワインダーは左腕に手甲・ハイドラアームを装着。地面に拳を叩きつけて衝撃波を起こし不破をぶっ飛ばす。体勢を立て直した不破はランスを斜め下に構えて突き下ろすが、鋼鉄のごとき硬さを誇るハイドラアームの前にあっさり弾かれた。


「当たらんよ!」

「野郎おおおおォォォ――――ッ!!」


 いきり立った不破は連続で突きを繰り出し、無理矢理押し切って防御を崩そうと試みる。しかしことごとく弾き返され、腹部へ反撃を食らいよろめく。


「ふんっ!」

「どおおおおおおッ」


 左手をかざしてヒュドラワインダーは地中から水柱を噴き上げて不破を宙へ飛ばし、落ちてきたところで回し蹴りを浴びせた。


「くッ、つええ。強すぎる……」


 消耗が著しい不破は、片腕を押さえて立っているのがやっとの状態だ。相手のように傷が再生できるわけではない。勝てる保証はどこにもない。それでも戦うしかないのだ。

 不敵に笑い強者の余裕を見せつけるヒュドラワインダーは、手甲を解除して顔の横についたキバを抜く。海蛇のキバを模した魔剣ハイドラサーベルへと変化させ、切っ先を向けて不破を挑発した。


「跡形もなく噛み砕くのもいいが、我がハイドラサーベルの錆にするのも悪くはない」

「……なめんじゃねえッ!!」


 ランスで斬りかかってきた不破の攻撃を巧みに防ぎ、弾いて怯んだ隙を突いてヒュドラワインダーは不破を斬る。追撃で左肩を切り裂き血を噴出させた。


「うぐうううゥゥゥ!?」


 苦悶の表情で叫びながら、不破は右腕で左肩を押さえる。片目をつぶりながらバイザー越しに睨み、不破は余裕の表情で構えているヒュドラワインダーに反撃。薙ぎ払いからの突きで防御を崩し、切り上げて更に連続突きを浴びせた。悶えるヒュドラワインダーだったがすぐに傷を再生させ、「勝てると思っているのかァ!」


「そうだ、このまま引き下がれるかよ!!」

「首根っこにしがみつくまでそうするつもりか!」

「ああ、オレは負けない!」

「上出来だァ!!」


 斬り合う二人。やがてつばぜり合いに持ち込まれ、戦いはますます白熱していく。


「だが勝つのは私たちだ!」

「いや、オレたちだ!!」

「あきらめるんだな!! 貴様という指揮官を失った戦闘部隊など烏合の衆でしかない!!」

「そうはさせねえ、あきらめが悪いんでなァ!!」

「愚かな、ならば死ね!」

「ウワアアアア!?」


 つばぜり合いに打ち勝ったのはヒュドラワインダーだった。連続で斬りつけて不破を怯ませ、左腕で殴った。


「誰が、お前なんかに!!」

「うぬううううッ」


 立ち上がった不破はランスを振り回して電撃を放ち、ヒュドラワインダーをしびれさせる。その間に穂先にエネルギーを充填させ――最大まで溜まったところで不破は稲妻をまといながら突進した。


「サンダーストラァァァァァイクッ!!」

「ぬおああああああああああッ!!」


 稲妻をまとう不破はヒュドラワインダーの体を貫き大爆発させた。背後で炎が燃え上がるなかで不破はランスを仕舞い、歩き出そうとするが――ふと禍々しい気配を察知して振り向く。

 火花が弾ける煙幕の中にゆらゆらと影が見え、煙が晴れるとそこにはヒュドラワインダーが佇んでいた。あろうことか無傷で。


「フフフッ……フハハハハハハッ、ハーッハッハッハッハ!!」

「な……なんだと!?」


 声高々と笑い声を上げると、生きていたヒュドラワインダーは目から破壊光線を放つ。左右の首からは火炎の息や高圧の水流も吐き出して一気に畳み掛けた。


「なぜ生きてる、倒したはずだぞ!!」

「見くびってもらっては困るね」


 うろたえる不破を斬りつけ、よろめかせるとヒュドラワインダーは気合いを溜めてヒュドラサーベルの刀身にオーラをまとわせる。黒が混じった水色だ。


「君は人間にしては素晴らしい実力だった。だが、まだまだだな。これなら東條(たける)や市村正史のほうが優れていた」

「なにッ……」

「彼らより経歴が長いエスパーがこのザマとは、笑い話にもならないよ」

「黙れ……オレたちを侮辱するな!!」

「ふっ。年下より劣っていると言われるのがそんなに腹立たしいか」


 ヒュドラワインダーは、オーラを魔剣を構えて「そんな君に引導を渡してやろう。華々しく散れ!」と叫んで横一文字に不破を切り裂き、更に頭上から切り裂いて波を巻き起こした。


海蛇(かいじゃ)両断!!」

「うわああああああああああああああ!!」


 必殺技である海蛇両断が炸裂し、不破が装着しているバトルスーツのヘルメットが割れた。バイザーから傷つき頭から血を流している不破の顔が見える。うつ伏せになった不破の首を左手で掴み、持ち上げるとヒュドラワインダーは魔剣の切っ先を向けた。


「我々が発電所を破壊したことで夜の街から明かりが消える。今夜は星がきれいだぞー?」

「そ、そんなこと、これ以上……させるか……」

「部下のもとに戻るのもいいが、海の底から星空を見上げるのも一興だ」

「き、貴様……!」


 ふざけた態度を取っているように見えるが、ヒュドラワインダーは苦痛に喘ぐ不破に対して皮肉を言っているのだ。それ以外のなにものでもない。あまりにも冷酷すぎる。


「じゃあな、おまわりさん」

「ウグアアアァッ」


 体を切り裂かれた不破は、そのまま汚いボロクズのように海へと投げ捨てられて沈んでいた。このまま海の藻屑になってしまうのだろうか。


「さてと。モグドリラー君たちと合流しなければな……」


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