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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第14章 『光の矢』
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EPISODE252:父の戦友


 週末……未だすやすやと眠っているアルヴィーのことをまり子に任せ、健は実家がある滋賀県大津市へと帰省した。住宅街の中にあるそれなりに大きくて広い家、そこが彼の実家だ。玄関に上がって、健はブザーを鳴らす。すると扉を開けて、健の母――さとみが姿を見せた。長い黒髪で、スタイルは抜群。既に四十代ながら若々しく美しい女性だ。


「ただいまー!」

「おかえり、今日はひとりなん?」

「うん。白石さんとまり子ちゃんは、訳あってお休みや」

「そう。どうぞ上がって〜」


 にっこりと笑いながら、さとみは健を家に上げる。上がってすぐに、「今日はお客さん来てんねんで〜」と、さとみは息子に告げる。


「お客さんって?」


 居間に入ると、ソファーにはサングラスをかけた壮年の男性が座っていた。空色のジャケットを着ていて、アゴヒゲを生やしている。――見慣れない男性ではない。むしろ健は彼に見覚えがあった。幼い頃に会ったきりだが。


「! 神田さん!」

「よう、タケぼう。久しぶりだな!」


 神田と呼ばれた男性が気さくに右手の指を二本上げてあいさつする。


「神田さん来とったんやったら、先連絡してよぉ」

「いや、私も会ったの久々やから〜。でもあんた驚かそうって思ってな〜」

「ビックリしたろー?」

「しましたよ、おかげでー」


 神田ニシキ――かつて光魔大戦で闇のエスパー率いる軍勢と戦って果てた東條明雄の戦友ともいえる人物だ。どうやら久々に神田ニシキと会ったさとみは、せっかくだからと帰ってくる健を驚かせようとサプライズを用意していたようだ。その結果はいま出た。


「しかし神田さんもなんでまた〜」

「別にいいじゃんか、遊びに来るぐらいいつだってー」

「うちのお母さんとらないでくださいよ! お願いですから」

「しねえってそんなこと! なあ、さとみちゃん?」

「しいひん、しいひん」


 おやつを食べながら談笑して過ごす三人。が、健はあることに気付く。そう、姉の綾子がいないということだ。


「ところで、姉さんどこ?」

「綾子、今日仕事や。せっかくニシキさん来たのに、残念やな〜」

「本当に残念だ。オレも、綾子ちゃんが見てみたかったぜ」

「もったないことしたなー」


 雑談はまだまだ続く。何気ない世間話に、最近調子はどうか、などなど――。


「――あっ」


 その途中で、ふと神田はなにか大事な用事を思い出したような顔をする。不思議がった健が、「神田さん?」


「さとみちゃん、ちょっと外出ても大丈夫かな? タケぼうと二人きりで話がしたいんだ」

「えっ!?」

「私はええけど〜、どこまで行くん?」

「なーに、すぐ戻るよ。んじゃ、そういうことで」


 用件を告げた神田は半ば無理矢理健と手を繋いで家の外に出た。「わあっ! か、神田さん、どこへ!?」とうろたえた健だが、神田の手で口を塞がれておとなしくなった。


「暗くならんうちに帰ってきてや〜」


 おっとりとしたペースを崩さず、さとみはにっこり微笑んで外に出ていく二人を見送った。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 健の実家から徒歩十分、そこにある湖岸沿いの道路。青空と太陽に照らされて光る水面を柵から見つめながら、二人は話をしようとしていた。


「神田さん、僕に話って?」

「すごく大事な話だ。さとみちゃんには言えないくらいにな」

「え?」

「タケぼう、お前の父さんはエスパーだったよな? オレもそうなんだよ」


 父の明雄と同じように彼もまたエスパーだというのか。健はきょとんとした顔で衝撃を受ける。


「か、神田さんも――」

「そんなに驚かなくたっていいだろー? あ、そうだ。タケぼうもエスパーになったそうだな」

「どこでそれを!?」

「気にすんなって。それよりパートナーがどんなヤツなのか、ちょっと見せてもらおうかね」


 どこで知ったか、神田は健がエスパーだということを知っていた。おもむろにサングラスを外して、神田は動揺している健を見つめる。彼の瞳には、健と契約したシェイド――アルビノドラグーンが、いや黄金色に輝く龍が映った。神田もまた、そのことに驚いた。


「やー、まさかあの白いのと契約していたとは……しかも、伝説の黄金龍ときた」

「か、神田さん……僕なにもお話ししてませんよ!?」

「千里眼ってやつだ。オレの眼に見通せないものはない。すげえだろ?」

「千里眼……」

「でもいいことばかりじゃないぜ。見たくないものまで見えちまう」


 千里眼とは異常なほどに優れた透視する力――これがあればどんなものも透視できる。つまりはそういうことだ。軽い口調で己の能力について語る神田だったが、彼の言動からはその能力によって苦労してきたことが窺えた。


「……問題はオレがエスパーだってことじゃない。それよりもっと大事なことがあるんだ。タケぼう、お前の敵はヴァニティ・フェアだけじゃない」

「え?」

「かつて、オレは明雄たちと一緒に『光の矢』と呼ばれた勢力に属していた。それで、闇のエスパー率いる世界を滅ぼそうとした『終焉(デミス)の使徒』と戦ったんだ。結果、両者ともほとんど倒れて生き残ったのはわずかだけだ。オレも含めてな」

「光の矢? 終焉の使徒?」

「なんだ、学校で習わなかったのか?」

「いえ……その、だいぶ昔のことですから全然覚えてないです」


 「えーーっ!?」と、神田はアゴが外れるほど驚いた。


「覚えてねえっておまっ、それはおじさん困っちゃうなぁ……」

「す、すみませんでした」

「いやいいんだ。とりあえず終焉の使徒が悪い奴らだったってことは覚えといてほしい」

「その終焉の使徒って、どうして世界を滅ぼそうとしてたんですか?」


 アゴに指を当ててしばし考えた末、神田は「オレにも連中の考えてることはわかりかねん……」と複雑な表情で答える。


「……詳しいことはいずれ話すときが来る。今はヴァニティ・フェアとの戦いに集中してくれ。それに……」

「それに?」

「せっかく会えたんだ。今はゆーっくりしてこうや」


 気さくに笑って神田は健にそう呼びかける。健は首を縦に振って、「そうですね。あんまり母さん待たせちゃ悪いですし!」と呼びかけに応じた。愛と平和のために戦った光の矢と、世界を滅ぼそうとした終焉の使徒。その生き残りはほかに誰がいるのか? なぜ終焉の使徒は世界を滅ぼそうとしていたのか? そしてそれを率いる闇のエスパーの正体とは? 多くの謎を抱えながら、健は神田とともに実家へと戻っていった。


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