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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第13章 白き光は誰の手に!?
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EPISODE248:黄金龍はかく語りき


 ――ところ変わって、とある研究所。雷鳴が轟く中、そこはかとなく怪しい雰囲気を漂わせている研究室の中で白衣を着た初老の男性が首をかしげていた。


「まさか白龍(アルビノドラグーン)が黄金龍だったとは――さすがの私も予想できなんだぞ」


 モニターに映し出された、高天原で起きた戦いの一部始終の映像。そこで明らかになった、白龍が黄金龍が記憶と力を失った姿だということ。確かに容姿は似ていたがまさか同一の存在だったとは予想だにしなかった。


「Φゴーレムよ!」

「オ呼ビデショウカ――我ガ 主ヨ」


 怪しいものや機械ばかりが並ぶ研究室の後方から、機械仕掛けの不気味な怪物――Φゴーレムが姿を現す。このΦゴーレムは白衣の男性の忠実なしもべであり、与えられたミッションを冷淡に、機械的にこなす。心を持たぬ冷徹なバケモノだ。


「黄金龍が復活し、東條健がその力を手にしようとしている。私は気が変わった、このまま泳がせておいては確実に我らの妨げとなる……早急にヤツを始末するのだ!」

「御意……」


 膝を突くΦゴーレムの前で白衣の男性は命令を下す。主から与えられた任務を遂行するべくΦゴーレムは床に溶けるようにして消えた。


「ヤツを消さねばならぬ……光と闇、どちらも受け入れてしまう前に」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 Φゴーレムがみたび命を狙いに来るとも知らず、健たちは葛城と別れた。一週間も囚われていたアルヴィーの体調のことを考慮し、喫茶店には行かずすぐ帰ることに決めた。「また今度遊びましょう!」「埋め合わせはそのときにしよう!」と葛城と約束して、健たちは風のオーブの力で京都まで戻った。気付けばすっかり空は茜色に染まっている。市村と二人でまだ眠っているアルヴィーの肩を持ちながら、健は空を見つめる。


「もう夕方か〜。カラスが鳴きよるさかい帰らなあかんな」

「そうですねっ! 今日はゆっくり休もうかな!」

「シロちゃん、もう少しの辛抱よ〜」

「……相当疲れてるもんな、早くしよっと」


 髪が黄金色になって目が(あお)くなってもアルヴィーはアルヴィーだ。いつもは凛としていて気丈な大人の女だが、寝顔がこれまた子どものようにかわいらしい。……一思いに帰ろうとした矢先、健の携帯電話から着信音が鳴り響いた。


「……ん、みゆきか……あいつも待ってたろうしな。どれどれ」


 電話をしてきたのは幼馴染みのみゆきだ。愛機であるガラパゴス携帯――略してガラケーのカバーを開き、健は電話に出る。


「もしもし健くん今どこッ!?」

「わあっ!? い、今京都に着いたとこだけど」


 電話に出るや否や、みゆきは急に健をまくし立て驚かせる。健と一緒に眠りこけているアルヴィーの肩を持っている市村や、そばを歩いていたまり子もこれには驚きを隠せない。


「どの辺!?」

「きょ、京都駅の辺りだよ。アルヴィー助けてきた!」

「だったら話は早いわ! あたし、白峯さん家で待ってるから!」

「し、白峯さん家!? 僕んち帰ろうと思ってたんだけど〜……」

「つべこべ言わないの。なるべく早めに来てよ!? じゃあね!」

「へーい……」


 みゆきは用件を簡潔に伝えて電話を切った。――白峯の家にいるなら会いに行かねば。みゆきも白峯もアルヴィーに会いたがっていたゆえ、行くならば早いほうがいい。健たちは再び風のオーブの力を使い、白峯の家がある西大路までテレポートした。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 テレポートすれば、影と隙間から行ける異次元空間など通らなくとも行きたいところに一瞬で行ける。もう何度も足を運んでいるがやはり白峯の家は健にとっても、いや全員にとっても相当広いし、大きい。家に上がると、待ちくたびれていたであろうと白峯とみゆきが一同を出迎えた。


「みんな無事だったのね! って、アルヴィーさんにまり子ちゃん、急にどうしちゃったの?」

「あー、これはね、その……二人ともいろいろあったんですよ、うん」

「うげえ、あたしよりデカいのが二人も……」


 まり子とアルヴィーの姿が変わっていることに白峯もみゆきもかなり驚いた様子で、まり子は「キャラ被っちゃったかな――」と、子どもの姿になってみた。再会を喜びつつも、ここまでの経緯を説明するべく一同はリビングに移動した。


「えっ!? アルヴィーさんは黄金龍だったの!?」

「し、白峯さん、声大きいですよ。アルヴィーが起きちゃうっ」

「そ……それは失敬」


 案の定白峯もみゆきもこれには仰天した。とはいえにわかには信じがたい話だ。アルヴィーが失っていた記憶を取り戻したと思えば、その彼女自身が伝説の黄金龍だったということは。


「それで髪の色も変わったのね〜」

「しっかし、よお考えたらこれって歴史的大発見ちゃうのん? (あね)さんが黄金龍やったっちゅうだけでものぉ」

「ハハッ、言えてる言えてる! バラエティー番組で話題に挙がるかもしれないわね」

「そんな大げさなー、確かにビックリしましたけどねっ!」

「もしそうなったら、あたし録画しようかなっ」


 一同盛り上がっていたが、うるさかったためかアルヴィーがおぼろげに目を覚ます。起きてから開口一番に、「どこだ、ここは……とばり殿の家だな」と目をごしごし拭きながら呟いた。


「あー、ダメだよ。まだ起きちゃ! 寝てないと」

「だが、他人の家で勝手に寝るというのもちょっとなあ……」


 アルヴィーを寝かせようと気遣う健。やはりアルヴィーは、ゆっくり眠るのは家に帰ってからにしたいようだ。一同、笑いがこみ上げてきた。とくに健と市村は人一倍明るく笑っており、しまいにははしゃいだほどだ。やはりというか、性格は違えど根は似た者同士なのだろう。


「……ところで東條くん、黄金龍がアルヴィーさんってことはわかったけど『帝王の剣』は見つかった?」

「いえ、それがまだなんです。『月鏡の盾』のほうも……」

「伝承には黄金龍が英雄に授けたって書いてあったから、何かわかるかなって思ったんだけど〜……」


 首をかしげる白峯と健。――帝王の剣と月鏡の盾とは、かつて黄金龍が試練を乗り越えた英雄に授けたと伝えられている伝説の武具だ。帝王の剣はエーテルセイバーに似た形状で金色の装飾が施されており、あらゆるものを切り裂くほどの力を秘めていたとのこと。

 月鏡の盾は三日月の紋章が刻まれており、軽さと頑丈さをあわせ持つ不思議な金属で作られたといわれている。鏡のように美しく磨き上げられており魔術の類いはすべて反射してしまったそうだ。


「帝王の剣? 月鏡の盾? なんやそれ」

「わたし聞いたことはあるけど、あんまり知らないわ〜」

「実はね、あたしも前に一回説明受けたっきりなんだけど……ゴニョゴニョ」


 伝説の武具についてあまり知らない市村とまり子の耳元でみゆきが、簡単にそれがなんなのか分かりやすく説明する。二人の表情は腫れ物でも取れたように明るくなり、納得した。


「いったい、どこにあるんだろう……」



「……それなら心配はいらない。その二つなら、お主がすでに持っておるだろう?」

「「「「「えッ!?」」」」」


 健はすでに伝説の武具を手にしていると、アルヴィーは確かにそう言った。


「つ、つまりどういうことだってばよぅ! 僕がすでに帝王の剣と月鏡の盾を持っているっていうのは!」

「とばり殿、これだけは先に言わせてくれ」

「な、なにかしら?」

「今まで頑張って調べてもらっておいて、こんなことはあまり言いたくないのだが……お主が調べていた伝承はいくつか間違っておる」

「えっ? そんな……間違ってたの」


 黄金龍自身の口から自分があんなに熱心になって調べていた伝承は間違っていたと聞かされ、白峯はきょとんとなった。そしてガックリと肩を落とした。かくいうアルヴィーもどこか申し訳なさそうだ。


「――私は、のちに英雄となった戦士にはすでに会っていた。最初に会ったときにエーテルセイバーとヘッダーシールドを授けた。彼が幾多の試練を乗り越えた末に、剣は帝王の剣へ、盾は月鏡の盾へと……進化した(・・・・)

「し、進化したって!?」

「そうだ。エーテルセイバーとヘッダーシールドは持ち主の成長にあわせて強くなっていく。その真の力を発現させるための鍵となるのが『白き光』こと光のオーブ……。そう、帝王の剣とはエーテルセイバーのことで、月鏡の盾とはヘッダーシールドのことだったのだ」

「「「「「えーーーーっ!?」」」」」


 いともたやすくアルヴィーの口から語られた事実――。最初から健が帝王の剣と月鏡の盾を持っていたことに、一同は驚かざるを得なかった。


「ま、待ってよ。剣も盾も世界を支配する資格がある人しか持てないんだったよね? ってことは――」

「お主が剣と盾を使うことができたのは――そういうことだ」

「そんな……僕は、世界を支配するつもりなんかない!」

「安心せい。お主が信じる道を行って、正しいことのためだけにその力を使うと約束できるのならお主は力に溺れたりはしないだろう」

「そう……かな」


 複雑な思いを胸に表情を曇らせていく健。彼に白峯が、「これまで通りに戦えばいいってことよ、きっと」とフォローを入れた。


「とばり殿が申した通りだ。心と技と体……今のお主にはその三つがある。かつての持ち主には技と体はあっても……『心』が欠けていたからの。ゆえに彼は……自分には行き過ぎた力を手にして変わってしまった。私にとって最大の過ちだったかもしれぬな」

「行き過ぎた力、か……」


 ――人は過ぎた力を手にすれば変わってしまう。世界を手にしようとして不破の恋人をはじめ罪無き人々を焼き尽くしてきた浪岡、この世の悪に対する怒りと憎しみをたぎらせたあまり自身も悪に染まってしまった烏丸――。自分もまた彼らのように変わってしまうのではという不安が、健の中には残っていた。


「……とばり殿、事実と異なっていたのは剣と盾に関することだけだ。あとはだいたいあっておる。それに伝承を調べて私の記憶を取り戻すための手がかりを見つけようとしてくれたことは決して無駄ではなかった」

「あ、ありがとう……頑張ってよかったわ!」

「そうだアルヴィー、オーブってあと何と何があるの?」

「雷を除いて、ほかの属性のオーブはだいたい戻った。残るは……土と闇のふたつかの」

「土と闇かー、暗そうなものばっかりだなあ」

「ほかに私に聞きたいことはなかったかの?」


 一同は首を縦に振った。起きたところで無理に質問に答えてもらったことを申し訳なく思ったのだ。アルヴィーは自分を気遣ってくれたことへ感謝の気持ちを抱いた。



 お茶を飲みながらの話は終わった。アルヴィーを早く休ませようと思い、健たちは白峯の家を出る。無論みゆきも一緒だ。


「無理に引き留めちゃってごめんねー」

「いえいえ、お邪魔しましたー!」

「また来てねー」


 夕焼けの下、白峯が手を振って見送る中で健たちは帰路に着く。市村はこれから商売の続きをしなければならないらしく、すぐさま京都駅に停めてある屋台へ向けて猛ダッシュした。それからゆっくりとおしゃべりしながら健たちは歩く。

 ――アルヴィーは血が赤いからシェイドではないのかどうかや、そもそもいったい何者なのかを聞き損なったが、一同は「龍は龍だからしょーがない」と考えてそれ以上は考えないことにした。それに彼女は次元を移動する力を持っている。記憶を失っていた彼女が、その能力や人ならざる容姿から自分をシェイドだと思い込んだのは自然なことだったのかもしれない。


 ――そこに金属音が混じった不吉な足音が響く。穏やかだった健の表情は急激に険しいものへと変わった。


「!? この足音は、あいつか!?」

「健さん、心当たりがあるの?」

「間違いない、この前みんなに教えたヤツだ……」


 警戒して辺りを見渡す健、一同に張り詰めた空気が漂いはじめる。「健……そいつはどんなヤツなんだ」と訊ねたアルヴィーに、健は「不気味なサイボーグか、ロボットみたいなヤツだ……」と答える。そして――足音を立てた主が健の前に姿を現す。


「こいつは、烏丸を殺したヤツではないか!?」

「貴様ぁ……!」


 機械仕掛けのガイコツのような不気味なバケモノ――Φゴーレム。その冷えきった目に健の生体データが映し出される。



「東條健、オマエハ許サレナイ。絶対ニナ……」


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