EPISODE244:凶変の光
その頃、教会の外では葛城とまり子が力を合わせてヘビーロープやその手下と戦っていた。
「ヴァイオレントブロッサム!!」
「グラァァァァァッ!?」
葛城はレイピアをくるくると回してから地面に突き立てる。――その動作から繰り出されたのは大技だ。大量にいたグラスケルトンたちを地面から突き出た幾多もの巨大な草のトゲで突き刺し、一掃する。いつも使っている茨で相手を絡めとり或いは串刺しにする攻撃とは、また異なる技だ。
「ハァッ、フッ!」
まり子は斧や槍を掲げて襲いかかってきたグラスケルトンに回し蹴りを浴びせ、そのうちの一体にアッパーカットをかけて吹き飛ばす。その勢いでヘビーロープにも念動力で地面に落ちていた武器を浮かせてぶつけ、怯んだところに両足によるキックをお見舞いする。容赦のない攻撃を前に「つ、つええ……」と、ヘビーロープと残ったグラスケルトンたちの肩がすくみ上がる。
「すっかり腰が引いちゃったみたいね。わたしが女王様気取ってる女じゃないってこと、わかってもらえた?」
「う、うるせえ!」
後ずさりしたヘビーロープはヤケを起こし、ビームでムチを作り出してそれを叩きつける。火花を散らして、まり子と葛城に命中。
「おれの本当の恐ろしさを見せてやるっ! プルッシュワアアアアアア〜〜!!」
怒り狂ったヘビーロープは、背中から蛇の形をしたアームを伸ばして地中に潜らせる。そして二人の足下からアームが飛び出し絡み付いた。
「ニョロー! お前たちはおれさまを怒らせた! 苦しみながら死ねェ!」
「うっ、あああああああっ!?」
「いくら不死身の女王といえども、蛇に締め付けられる苦しみには耐えられまいっ!!」
「くぅっ……」
女王こと糸居まり子は不死身だ。何をしようが絶対に死ぬことはない。だが苦しめることは出来る。全身を締め付けられて喘ぐ二人だったが、まり子は突如としてクスクスと笑い始めた。
「何がおかしい? 貴様、もしかして苦しくもなんともないのか!?」
「フフフフッ」
不敵に笑うまり子の体から紫色の液体が流れ出す。――毒液だ。そしてまり子の体は一瞬のうちに液状化し宙を舞い始める。
「ニョロオオオオッ! お、おれのアームがぁ!?」
液状化したまり子に触れば、触った部分から一瞬で全身に猛毒が回り体が腐食して死んでいく。現に液状化したまり子にぶつかったグラスケルトンたちは一瞬で体が腐り落ちてしまい消滅していた。焦りから、ヘビーロープはまり子を締め付けていたアームを切り落とす。
「フフフフッ……あはははははははははッ!!」
「グラァァァァ!?」
逃げ惑うグラスケルトンたちに襲いかかって取り込み、吐き出して散らせる。更に体内に入り込んで、内側から破裂させた。これでヘビーロープが呼び寄せた大群の約半数が倒された。
「ひ……ひえええっ」
「フフッ、残念。あなたに毒は効き目がなかったみたいね。けど、遅かったらどのみち死んでたわよ」
「ニョロオオオオオ〜〜ッ!!」
笑うまり子を前にますます怒りのボルテージを上げて、ヘビーロープは口や残ったアームから光線を放って襲いかかる。まり子は微動だにせず、念動波で跳ね返しヘビーロープと手下を吹っ飛ばす。そして髪の毛を鋭い爪を生やした蜘蛛の脚に変えて、葛城を締め付けていたアームを切り裂いた。
「ニョロッ!? し、しまった!」
「さっきは良くも……!」
怯えるヘビーロープに解放された葛城がレイピアを構えて急接近。連続で突きを繰り出して相手を切り上げ、宙に浮き上がったところで切り払って仕上げだ。
「グラァッ!」
「失せろゴミクズども!!」
自分に近寄ってきたグラスケルトンたちをドスの利いた口調で罵り、まり子は回し蹴りをかまして一蹴する。
「ぐ、グラ……グララ」
「……でこぴんっ♪」
ひとりだけしぶといものもいたが、そいつには笑顔でデコピンを命中させて粉々にした。ただのデコピンと侮るなかれ。指先にパワーを集中してから放つデコピンは岩をもやすやすと打ち砕くからだ。
「……まり子さん、先程は助けていただいてありがとうございます」
「フフッ、お礼はいらないわ」
気絶したヘビーロープから離れて、葛城はまり子に近づいて礼を言う。
「でもまり子さん、もしかして遊んでませんか?」
「そうよ。だって本気出してないもの」
「相手を侮っていたら裏をかかれますわ」
「確かにそうね」
二人が会話している最中、すっかりボロボロにされたヘビーロープが立ち上がり声を裏返しながら叫ぶ。
「なめるなーッ! おれを誰だと思ってる、ヴァニティ・フェア最強の、ニョロッ」
「そうね、そっちがそうならわたしたちもマジで行く」
「手加減はしません。覚悟なさい、ヘビーロープ!」
ヘビーロープがしゃべっている最中にまり子が念動波で黙らせ、二人は威勢よく啖呵を切った。
「ち、チキショ〜〜ッ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
同時刻、教会の中では健と市村とファンタスマゴリアが蘇らせたシェイドたちとの死闘が続いていた。
「ゲソォォッ!」
「ぐはあああああッ!?」
バイキングラーケンが槍で市村を打ち上げ、頭から柱へと叩きつける。そのまま血を流しながら市村は床にずり落ちた。
「フン、ドリャアアアア!!」
「うっ、うわああああーッ!!」
アーマーライノスの重々しい両手同時のパンチが健を思い切り吹っ飛ばして宙へ浮き上がらせる。そのまま頭から落下して叩きつけられた。
「ギャワーッ、ギャワーッ!」
「ブークブクブクブクゥ!!」
「おほほほほほ」
「ど……どないせえっちゅうねん……」
「このまま……やられるわけには」
再生怪人たちが二人を嘲笑う。普通のヤツならまだしも、今回は相手が上級クラス。それが五体もいる。ファンタスマゴリアも含めれば六体も相手しなければならない。
「フハハハハハハハハハ!! 亡者どもがお前らの悲鳴を聞きたがっているぞぉ?」
「……ッ!」
高笑いを上げて、ファンタスマゴリアが余裕綽々で近づいてくる。――影がある。幻ではないのだから、再生怪人たちにも当然影は――。
「? ない……」
なかった。再生怪人たちには影がなかった。
「ないってお前……、何が?」
「市村さん、聞いてください。ファンタスマゴリア以外には影がない」
影がない? どういうことだ――と疑問に思いながら再生怪人たちを見てみると、確かに影がなかった。健は気付いた市村に、「影がないってことはこいつらは地獄から蘇った亡者なんかじゃありませんよ。幻だ!!」と告げた。
「むぅ……!」
気付かれたか、と、ファンタスマゴリアは苦虫を噛み潰した顔をする。ガイコツに表情など作れはしないが。
「うおおおおおおおお!!」
「しんどりゃあああああああァ〜〜!!」
幻だとわかればもう怖くはない。健と市村は手分けして、再生怪人――改め幻影シェイドたちを蹴散らしにかかる。片や長剣を激しく振り回し、片や銃からビームを荒々しく乱射して。
「ギャワーッ!?」
「ゼニイイイイイィ!?」
「ハァァァァァナアアアアアァ!!」
「グワアアアアアアアアァ!」
「ゲエエエッ、ソオオオオオッ!!」
幻影シェイドたちはそれぞれ奇声を上げながら儚く消滅。まるでどこぞの悪の秘密結社の怪人を彷彿させる光景だ。実際似ているのだが。
「ば、バカな……我が幻術を破るなどありえん!」
「ヘッ! やっぱり再生怪人は弱いな。お約束やしな。さて!」
「ファンタスマゴリアッ!」
健がファンタスマゴリアに剣の切っ先を向け、市村は銃口を向ける。
「お前がいくら幻術で僕たちを惑わそうと、僕たちは何度だって打ち破る!」
「もう騙されへんぞ、エセ神父! 蜂の巣にしたるから覚悟せい!!」
「うぬぬ……おのれ虫ケラどもオオオオ!!」
ファンタスマゴリアは眼窩から光線を放って辺りを爆発させるが、健はその中を掻い潜りファンタスマゴリアに一太刀浴びせる。怯んだところに市村がランチャー砲を撃ち込んでぶっ飛ばした。
「うぐぐぐぐぐッ!」
「とどめだ――!!」
健は長剣の柄に開いた三つの穴に、赤、青、黄色――三色のオーブを装填。凄まじいパワーがほとばしり健に流れ込むが、それを耐えて健は跳躍。
「うおおおおおおおおッ! トリニティスラァァァァァッシュッ!!」
トリニティスラッシュとは三位一体の必殺奥義だ。第一撃は灼熱の炎、第二撃は輝くほど冷たい吹雪、そしてとどめの第三撃は轟く稲妻。この怒濤の連続攻撃を受けると相手は――死ぬ。
「ごびええええええぇっ!!」
トリニティスラッシュを受けたファンタスマゴリアは、雄叫びを上げながら爆発した。爆炎が収まり残り火がくすぶる中で健は立ち尽くす。
「やったか!?」
「いや、まだや!」
ファンタスマゴリアを倒したかに見えたが――彼はまだ生きていた。呼吸を乱し、血ヘドを吐きながらファンタスマゴリアは立ち上がる。
「ま、まだだ。こいつを見ろォ!!」
ファンタスマゴリアは懐から、白っぽい金色に輝く宝玉を取り出す。サイズはビー玉からピンポン玉くらいだ。
「! それはオーブか!?」
「これなるは、『白き光』……私の切り札だあ!!」
ひどく興奮した様子で説明を終えると、ファンタスマゴリアは『白き光』を無理矢理胸に押し付ける。紫の血がどくどくと溢れ始め、常識を逸した行動に二人は表情を凍らせた。
「お前、何する気や!」
「『白き光』よ、私に力をヲオオオオ!!」
そして『白き光』は、ファンタスマゴリアの体内へと埋め込まれた。ファンタスマゴリアの全身に激痛が走り、火花が飛び散る。ファンタスマゴリアは苦しみながら狂気じみた笑い声を上げた。
「ウガアアアアアアア!!」
火花が収まったかと思えばファンタスマゴリアは衝撃波を発生させて二人を吹っ飛ばす。――白き光を体内に埋め込んだことでファンタスマゴリアは更なる異形の姿へと変貌を遂げていた。顔はより凶悪になって頭から曲がりくねった二本の角を生やし、禍々しい形状をした金色の装甲が体の各部についていた。更に背部には、歯車のような形の後光まで。本体だけでなく杖もパワーアップし、コウモリの羽根を生やし禍々しい装飾も施されていた。
「な、なんだ……このおぞましい姿は!?」
「ヤバい……ほ、本格的なバケモンになってまいおった」
追い詰めたと思ったものの、ファンタスマゴリアは土壇場でまさかのパワーアップを遂げてしまった。全身から禍々しいオーラを漂わせ、二人を威圧する――。
「ついにこの私を本気で怒らせてしまったようだな……。クソガキどもめ、こうなればもう容赦はせんぞ!」
重々しいエコーがかかった声を発しながらファンタスマゴリアが二人に詰め寄る。足下からは黒いオーラが昇っており、より不気味さを引き立てていた。――もはや絶望するしかないのか。
「二度とうろちょろ出来んよう、八つ裂きにしてくれるわアアアアア!!」