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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第13章 白き光は誰の手に!?
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EPISODE243:惑わす幻術師


「どこじゃあーッ、ファンタオレンジ!」

「ここにいるのはわかってるんだ! 姿を見せろッ!!」


 ヘビーロープの相手をまり子と駆けつけた葛城に任せ、教会の中に入った健と市村は声をだしながらとらわれたアルヴィーを、彼女をとらえたファンタスマゴリアを探す。どちらも表情険しく、とくに市村は怒り心頭で天井に発砲したほどだ。


「アルヴィーッ! ここにいるんだろ、いたら返事をしてくれぇっ!!」

「お、おい、あそこ……!」


 ひたすらにアルヴィーを探し求める二人。市村が何かを見つけ、彼が指差す方向を見つめた健の目に……磔にされたアルヴィーの姿が留まった。


「アルヴィーッ!!」

(あね)さん!!」

「! 健……たこ焼き屋……!」


 ひどい傷だった。白い髪は痛み、玉の肌と体は傷だらけ。しかしそれはファンタスマゴリアに決して屈しなかった証。早く助け出さねば――。うなだれていたアルヴィーに近寄り、健は彼女を縛っていた鎖を破壊しようとする。


「おっと! そこまでだ」

「うわァーーッ!?」


 老獪な壮年男性の声が聞こえたかと思えば鬼火がどこからともなく飛んできて、健と市村をアルヴィーから遠ざける。二人が体を起こして見上げると、鬼火を放った主――メガネをかけた壮年の神父の姿がそこにあった。髪は薄茶色で短め、神父風の服装。右手には黄金のドクロの杖を持ち、左手には聖書らしきものを持っていた。


「貴様ァ……ファンタスマゴリアだな!?」

「来おったか! てっきりあきらめて野垂れ死んだものだと思っていたが、まさか本当に来てしまうとはな。心臓が飛び出すかと思ったぞ?」

「能書きはいらん……早よ正体見せろや、バケモン!!」


 いきり立ち大型銃を構える市村。激しい怒りから冷静になれない健は、歯ぎしりしながら長剣を構えている。


「わかった、わかった。そんなに見たいなら見せてやろう……フンッ!」


 神父――ファンタスマゴリアが少し気合いをいれるとその姿は蜃気楼に包まれて揺らぎ、気品のある神父からガイコツの化け物へと変わっていく。古びたローブを着込んでいて右肩には目玉を模したプロテクター、左肩には上半分だけの鋭い糸車がついていた。


「バケモンが神父に成り済ますたぁ、趣味悪いんとちゃいますかァ!?」

「皮肉が効いていていいだろう? せめて高尚な趣味だと言ってほしかったが!」

「うがああああああッ!!」


 杖を振りかざし、ファンタスマゴリアは市村の足下から氷柱を出現させてそれで突き上げる。突き上げられて、市村は頭から床に叩きつけられた。


「ファハハハハ!!」

「市村さん!」

「次はお前だ!」

「許さんッ!!」


 肥大化した異形の左腕で名指しすると、ファンタスマゴリアは眼窩(がんか)の赤い眼を光らせて光線を放つ。火花が上がる中助走をつけながら、健は飛びかかる。ファンタスマゴリアに斬りかかろうとするも、何者かが剣で横槍を入れた。それは健にとって非常に馴染みの深い人物――。藤色の髪をサイドテールにしてまとめたひとりの少女だ。


「みゆき!?」

「……」


 ファンタスマゴリアに挑まんとする健を阻んだのは、風月みゆきだった。――おかしい。彼女は今、健たちの無事を祈りながら待っているはず。なのになぜみゆきはここにいるのだ。


「ふっふっふ、どうしたあ? 幾多ものシェイドを倒してきたさすがの貴様でもこの娘を斬ることはできないようだ」

「くっ、どういうことだ? どうしてみゆきが……」

「しかもお前にとって非常に親しい人物と来ればなおさら、なあ。さあどうするね?」


 みゆきが来るはずがない。彼女は一般人だ。非日常へと足を踏み入れた自分たちとは違う。隙間から通ずる異次元空間へ移動することや、長距離を瞬間移動することは出来ない。なのに、なぜ――驚き戸惑う健に、みゆきが容赦なく刃を振り下ろす。


「――はあっ!」

「ッ!」


 振り下ろされた刃を盾で受け止めた健は、足下を見てあることに気付く。――影がない。確かにそこにはみゆきの姿があったが、影はない。


「……」


 みゆきじゃない。こんな無機質で冷えきった目をした相手が、みゆきであるはずがない。少し距離を取って健は赤い炎のオーブをセットし、赤くなった長剣に紅蓮の炎をまとわせる。


「うおおおおっ!」

「うあーっ」


 剣を振って炎を放つと、みゆきは炎の中に消えた。


「気付いたようだな。そう……今のは幻だ。質量を持っているがね。なかなか便利なのだよ、これが」

「ふざけた真似を!」

「笑止!」


 あのみゆきはファンタスマゴリアが作り出した質量を持つ幻だった。卑劣なやり口に怒った健は斬りかかるが、異形の左腕に弾かれ怯んでしまう。


「シルエットコンフュージョン!!」


 更にファンタスマゴリアは素早く動きながら分身し、何十体に分かれて健と市村を取り囲む。


「「「「「「「ハッハハハハハ!! 誰が本物か当ててみろ!!」」」」」」」

「いったい誰が本物なんだ……!?」


 高笑いしながら分身したファンタスマゴリアが健の周りをグルグルと回り出す。


「健、惑わされるな! 落ち着いて相手の動きをよく見るんだッ」

「せや、冷静になれ! 本物は動きになにかクセがあるはずや!」


 アルヴィーが、起き上がった市村がそれぞれ健にアドバイスを授ける。


「そうは言われても……」


 ファンタスマゴリアの狙いは健の目を回して混乱させることだ。そうなればあっという間にやられてしまう。健はここでやられてしまうわけにはいかない。やられたらアルヴィーに二度と顔向け出来なくなるからだ。考えている時間はあるのか。いや、ない。


「ええい面倒だッ! まとめて斬ってやる!!」


 冷静さを欠いたか健は回転斬りを繰り出して分身したファンタスマゴリアを薙ぎ払う。分身はすべて消えて本物はよろめいた。


「むう、このくらいでは通じぬか。だが我が幻術、まだまだこんなものではない!」

「なにぃ!?」

「ふううううんッ」


 ファンタスマゴリアが杖の先から薄青色の光線を放ち、健と市村に浴びせて転倒させる。起き上がると、そこには……カメレオンのような姿の怪人や植物とピエロを掛け合わせた姿の怪人、物騒な槍を持った海賊風の白いイカの怪人、オレンジ色をしたカニの怪人に黒くて筋骨隆々としたサイの怪人がいた。


「ギャワーッ!」

「ほほほほほ!」

「イィィィカアアアアアッ!!」

「グルオオオオオオッ!!」

「ブークブクブクブクゥッ!!」

「なんやて!?」

「! こ、こいつら……まさかっ!」


 二人は大いに驚いた。無理もない、やつらは――かつて健たちが倒したシェイドなのだから。それぞれ笑い声や唸り声を上げていた。


三谷(キャモレオン)花形(ナルキッソス)、アンドレに多良場(カルキノス)……!? そんなバカな、こいつらは以前に倒したはずだ!」

新藤(バイキングラーケン)のヤツまでおる! けど、こりゃああいつが作った幻ちゃうんか……!」


 倒したはずの強敵たちの姿を見て健と市村は戦慄を覚えた。


「ンフフフフ……夢か幻か、リアルかファンタジーかはまだわからんぞ?」


 宙を浮きながら不敵に笑うファンタスマゴリア。「殺れ。そいつらに思い切り怨みをぶつけろ!!」と、ファンタスマゴリアは蘇ったシェイドたちに指示を下す。


「ビロルォォォォーーン!!」

「わあっ!」


 キャモレオンが長い舌を伸ばして健を捕らえ、放り投げて椅子へ叩きつける。


「キィエエエエェッ!!」

「ううゥゥッ!」


 そこへナルキッソスが現れ蔓をムチにして何度も叩きつける。怯んだところへ花びらをカッターにして飛ばし、健を切り裂いた。


「くっ!」

「グルオオオオオオッッ!!」

「ぐっはあああああ!?」


 敵は、攻撃の手を休めない。今度はアーマーライノスが角を突き出してその巨体で突進。健は壁に叩きつけられその衝撃で大きなくぼみが出来た。


「イカ野郎にカニ野郎……もっぺん地獄に送ったる!!」


 バイキングラーケンとカルキノスを前にして啖呵を切り、市村はビームを連射。最初の三発は命中したものの、そのあとの数発はすべてバイキングラーケンが槍を激しく振り回して防いでしまった。


「ゲーッソッソッソ……」

「なんや、前より強くなっとらんか……?」


 再生怪人とは弱いのがお約束……だったはずだ。それなのになぜ、こいつらは強いのか。元々が上級クラスのシェイドだからなのか? 疑問を抱いた市村を嘲笑うようにバイキングラーケンはスミ爆弾を吐き出して市村を炎で囲う。


「あかん……こいつはホンマにあかん!」

「ブゥゥゥクゥーーッ!」


 カルキノスが雄叫びを上げて市村に右手の巨大なハサミを叩きつける。立て続けに左右のハサミで攻撃した末、転ばせて胸を踏みつけた。


「あ……あかん。今回ばっかりはさすがのわしも危ないかもしれん」

「まだだ……あきらめない、絶対に……ッ」


 踏みにじられて珍しく気弱になった市村、アルヴィーを助けたい一心で激しい闘志を燃やす健。今度ばかりは万事休すか?


「ファハハハハハ! さあ、かつてお前たちが葬った者どもから憎しみを食らいながら死ねえぇぇ〜〜い!!」


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