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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第12章 東條健は許されない
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EPISODE238:波乱の予感


 それから二日が経った。雨が降りしきる夜の京都府内、とある喫茶店。そこでは雨宿りがてら、健のバイト先で働いているOL三人が話をしていた。天井でファンが回りのどかなBGMが店内で流れている中、三人は盛り上がっている。


「はー、明日また雨だってさぁ。ここんとこ急に天気が荒れてばっかだよね、あたしやんなっちゃうわ」


 ため息混じりに天気のことでボヤく、浅田。


「私もー。天気が悪いだけじゃなくて、係長もなんだか最近増長してるし、帰ったらネットで思いっきり毒吐いてやります」


 浅田に同感して頬を膨らませる、ぐりぐり眼鏡をかけた今井。どちらかといえば気弱な彼女もネットでは強気である。内弁慶というやつだろうか。そんな今井の頬を、隣に座っていた金髪碧眼のジェシーが突っつく。今井の頬から空気が抜けて平たくなった。


「わっ」

「気持ちはわかるけど、ほどほどにね〜」

「そ、そうですよね! あはは……」


 今井とジェシーが笑い合う。浅田は砂糖を多めに入れたコーヒーを飲んで、眠気を覚ました。


「それより、東條さんのことが心配だわ」

「昨日出勤日なのに来なかったもんね」

「何も昨日だけじゃなくて、この頃はずっとそうじゃない? ケガしたり体調を崩したり、そんなことだらけ……」

「そうだよねー、東條くん具合が悪いだけじゃなくて外出する関係で休むことも多いし……」

「大丈夫なんでしょうか?」


 浅田もジェシーも、そして今井も先程の雰囲気から一転して真剣な顔で話し合う。


「なんにも起きてなきゃいいんだけどねー」

「大丈夫よ。また、元気な姿を見せてくれるわ〜。今はそう信じましょう……」


 今までのことを考えると、あの真面目で明るい東條が何の理由もなしにバイトを休むとは思えない。何か理由があるはずだ。今はダメでもきっといつか元気な姿を見せてくれる……。彼女らはそう信じていた。――京都のみならず、関西は明日もまた天候が荒れるようだ。これが意味することは恐らく、波乱の幕開けだろう。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ここでいったん東京の様子を見てみよう。関西が激しい雷雨に見舞われている一方、関東の天気は安定していて空には数多の星々が輝き満月も静かに大きく輝いていた。

 警視庁の庁舎内――その上層階では、何人もの警察幹部を引き連れて警視総監の北大路が廊下を歩いていた。この廊下は窓ガラスが大きく、上から見た街の景色が目の前に広がっていて見応えがある。今の時間帯と天気なら都会のネオンも遠くの方まで見ることが可能だ。


「……」


 警視総監の北大路は初老の男性で、冷静沈着で厳格な表情を保ったまま歩いている。海千山千、威厳に溢れたその姿は警察のトップに立つにふさわしいものだ。


「おお、これはこれは……北大路警視総監!」


 その警視総監に場の空気を乱すような軽率な口調で声をかけたのは――対岸から歩いてきた斬夜捜査官だ。「お会いできて光栄です!」と、やたら上品にお辞儀をする。


「……何の用かね?」

「実は、折り入ってお願いがありまして。不破刑事の大阪府警への転属に関する件なんですが、長い間村上主任の指揮のもとで活動してきた彼が今になって違う上司のもとで働くのは少しやりにくくないかな? と、そう思いましてね」

「ほう……」

「そこでなんですが、不破刑事だけでなく村上主任もご一緒に転属させてみては?」


 斬夜は、不破を気遣って頼み込んでいるように見えるが――そんなことはない。何かの企みを言葉の裏に孕ませているのだ。「何を無茶な。関西支部の主任を村上に変えろとでもいうのか?」と、北大路の隣にいた幹部が斬夜の願いに難色を示す。


「あー、それと……仮に不破刑事と村上主任を転属させれば、空いた主任のポストはどうなさるおつもりでしょうか?」

「心配はいらない。そのときは、村上主任に代わる有能な人材を私たちのほうで探すつもりだ」

「それはそれは、もったいなぁい……」

「何がだね?」


 疑念を抱いた様子で眉をしかめる、警視総監の北大路。


「いえ、よければそのポストを僕にお譲りいただけないかと思いまして。というのも、僕は戦闘はあまり好きではないんですが……指揮には自信があります」


 ――斬夜の正体はシェイドだ。人とは血の色が異なる。人間の姿に擬態することで見た目はごまかせても血の色ばかりはごまかしようがない。だから彼は、直接戦闘に参加する機会の無い主任あるいはオペレーターの座を狙っていたのだ。虎視眈々と――。


「貴様、何を勝手なことを!」


 警視総監の取り巻きのうちひとりが怒鳴る。


「そういうことか。君はずいぶん正直だな。だが、一理ある」

「では……村上主任が転属した場合は僕を主任にしていただけると?」

「考えておこう」

「ありがとうございます!」

「では、私たちはこれで失礼するよ」


 そう言って警視総監の北大路は、取り巻きの幹部たちとともに斬夜の前から去っていく。――そして、斬夜は見るものをひやひやさせるほどに禍々しい笑みを浮かべた。


「よし、ここまでは計画通りだ。あとは……ウフフフフフ」


 テレビだったら放送禁止を食らうレベルのいびつな表情。浅ましく傲慢な態度。権謀術数に長けた腹黒さ。彼は何を企んでいるのだろうか?


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