EPISODE235:衝撃! 進化する敵
そのときだ。健の懐でシェイドサーチャーが音を鳴らして、シェイド反応を感知したことを知らせる。
「!」
懐からサーチャーを取り出してスクリーンを見てみれば……小さな点がこの付近にいくつも見られる。シェイドの強弱に応じて点の大きさも変わる仕組みだが、今回は弱そうだ。
「シェイドだ! 白峯さん、僕行ってきます!」
「わかった、みゆきさんとまり子ちゃんは私に任せといて」
「お願いします!」
みゆきとまり子のことを白峯に託して健は白峯家から外に飛び出す。サーチャーの反応を辿って走っていくとそこにはシェイドから逃げ惑いまたは蹂躙されている人々の姿があった。ありとあらゆる隙間から沸き出たシェイドはどれも溶けかけの泥人形またはゾンビのようなおどろおどろしい外見をしていた。彼らはクリーパーという、シェイドの中でもっとも弱い最下級のものたちだ。
「やめろォ!!」
「ぐおっごっ」
それを許せない健は、若い男性の頭を掴んで柵に叩きつけるなどの暴行を加えていたクリーパーにジャンプしつつ回し蹴りを浴びせてなぎ倒す。「早く安全なところへ!」と救い出した男性に避難を呼びかけると、長剣に青いオーブを装填。氷属性を付加すると空気中の水分を凍らせて滑走を始める。
「スノウスライドっ! はぁぁぁぁぁいッ!!」
「グオッゴオオオオォォォォ!!」
滑走し、すれ違いざまに斬りつけてザコの群れを散らす。一掃したところでサーチャーが更なる反応を感知する。町の西側だ。再び滑走して健は西側へ向かう。
「うりゃりゃりゃりゃアァァァーー!!」
西大路の西側にある建設現場にて、メタリックブルーの大型銃を持ったスカジャンを着た若い男性がクリーパーの群れと戦いを繰り広げていた。円を描いて自分を取り囲んでいたクリーパーに銃口からビームをぶっぱなして一気に爆散させると脇から沸いて出たクリーパーにもビームを撃ち爆発させた。
「ちぇっ、なんぼ倒しても倒しても沸いてきよる。キリがないやんか……」
サーチャーの反応を見て駆けつけてからというもの、彼はずっと戦いっぱなしだ。しかし敵が途絶える気配は一向にない。銃を片手に、市村は苦い顔をして呟く。
「ギョオオオオッ!!」
「ブッホ!?」
そのとき、文字通り横槍が入って市村をぶっ飛ばした。市村に矛を突き出してきたのは半魚人を思わせる姿をしたピラニアのシェイドだ。水色の体で四股や関節にヒレがついていて、キバは鋭く眼は黄色い。鱗で出来た軽装の鎧を着ていてやや強そうである。
「ギョギョッ!」
ピラニアのシェイドが矛を振り回して市村に襲いかかる。大型銃で殴り、振りかざされた矛を弾いてやり過ごすが背後から近付いてきたクリーパーに体を掴まれて動きを封じられる。
「うくッ……」
口から出た血を拭き取って真剣な表情で銃を構える市村。何気にかなり厄介な組み合わせだ、ピラニアのシェイド――ギラニアンと戦っている間に脇からクリーパーが襲ってくるのだ。ギラニアンに気をとられているとクリーパーに捕まってしまう。かといってクリーパーを蹴散らそうとすればそのときはギラニアンの矛を直に受けることとなる。どちらにしても苦戦は免れない。
「このお魚野郎!」
市村が銃からビームを乱射する。沸き出るクリーパーを片付けるには十分すぎる威力だが、ギラニアンは矛を風車のように激しく振り回してビームをことごとく弾いた。――ごり押しは通じない、ということか。更に一掃したクリーパーも代わりのものが一度に大量発生する。少なくとも約十体はいた。
「うそーん、ちょっとヤバいやんか……」
ふざけた様子でそんなことを言っていることからまだ彼には余裕がありそうだ。だが不利な状況なのに変わりは無い。
「質より量を地で行っとるな、ちょっとばかしなめとったわ」
「ギギョギャアッ!!」
「おわーっ!!」
市村は額から汗を流す。そのとき半魚人がダッシュで近付いて口から大量の水を吐き出した。吐き出された水は高圧水流となって市村を押し流し、近くに停めてあったブルドーザーに叩きつけた。そこから市村は顔面から地面に落ちた。
「くッ」
立ち上がった市村にギラニアンは連続で突きを繰り出して襲いかかる! 転がって回避するも横から来たクリーパーに捕まり動けなくなってしまう。
「ギョギョ……シネェェェ!!」
ギラニアンは、その矛先を市村に向けて心臓に突き立てようとする。もはやこれまでなのか。いや……むしろこれからだ。
「どけぇッ!!」
「ギョオオオオオ!!」
「ゴゴッ!?」
間一髪、健が滑走しながら割って入りギラニアンやクリーパーの群れを蹴散らした。地上に飛び降りて健は、「市村さん! 大丈夫ですか?」と声をかける。
「へっ、エエとこ来てくれたな。手伝ってくれや、こいつらわし一人だけやったら始末に負えん」
「わかりました。じゃあ僕はあのドロドロを……」
「なんやそれ、自分だけ楽しようって魂胆か? ま、エエわ。わしがあの半魚人やっちゃる!」
共同戦線を張った二人は、自分は左、お前は右に行け――という風に役割を分担。健はクリーパーの相手をし、市村は半魚人もといギラニアンに集中するという作戦だ。
「オラァ!」
「ギョォッ!?」
市村が身構えているギラニアンの腹部を蹴り上げて鉄骨や三角コーンが積み上げられて出来た山へぶっ飛ばし、ビームを撃ち込んで反撃。山を吹き飛ばすと、今度は武器をランチャー砲・バーニングランチャーに持ち替えて跳躍し、怯んでいるギラニアンめがけて空中から発砲する。砲撃の反動で市村は後方に体が浮き上がるもそれを利用してどんどんランチャーを発射し、ギラニアンを徹底的に痛めつける。
「ドッカンドッカンぶっ飛ばしたらぁ!」
地上に降り立つとランチャーを構えて砲口をギラニアンに向け、したり顔を見せつける。
「さすがにこれはガードでけんらしいな? 逃がしまへんでェ」
「ギョ……」
「死ねや!!」
怯えるギラニアンにバーニングランチャーを放とうとしたかに見えたが――。
「なんちゃって」
「ギョ?」
「工事のおっちゃんごめんな!!」
「ギョギョッ!?」
ところが市村は武器をバーニングランチャーから大型銃ブロックバスターに持ち替えて、空中に吊り下げられていた鉄骨を撃ち落とす。騙し討ちを避けきれなかったギラニアンに鉄骨が直撃し、ギラニアンは気絶。その隙に市村はブロックバスターにエネルギーを充填する。
「ほな……さいならァァァァ!!」
「ギョギョ〜〜〜〜ッ!!」
極大なビームが放たれ、ギラニアンを焼き尽くす。ギラニアンは爆散し塵芥となった。
「どないやァ!!」
銃をくるくる回してから銃口から立ち上る白煙を息で吹き消すと、市村はガッツポーズ。
一方の健は――冷気をまとった剣でクリーパーを次々に凍らせて粉砕し、あとわずかというところまで追い込んでいた。
「それっ!」
「ぐぼおおお!!」
左手から冷気を放ってクリーパーを凍らせ、そこにジャンプしつつ斬りかかって回し蹴りで追撃。爆炎を上げると氷の破片とともに砕け散った。
「ハイッ! ハァァァァイッ!!」
すぐ横にいたもう一体にもキックを浴びせ、怯んだところを一閃。もう一体も氷の破片を撒き散らしながら爆発した。
「次はお前だ!」
一通り片付け、残るはたじろいでいる一体のみ。だが健は容赦なしに斬りかかり、更に盾で殴りかかる。うめく最後の一体だったが、そのとき異変が起きる。
「グ……グガ」
「なんだ?」
「グガ! グガァァァ!!」
起き上がった最後の一体が突如として悶え、体に亀裂が入っていく。更に高熱を発したために体が赤茶けていき――最終的に『脱皮』した。
「なんやて!?」
「だ……、脱皮した!」
脱皮したクリーパー……『だった』ものは両手を大きく広げて雄叫びを上げる。それは骨で出来た鎧を着込んだ怪人の姿をしており、肌は青紫。骨の鎧や骨で出来た剣で武装していることから脱皮する前より強そうだ。
「グゥ、ガアアアアア!!」
唸り声を上げ、クリーパーだったものは地面に骨の剣を打ち付ける。ブルドーザーやショベルカーの影から数体のクリーパーが現れ、同じように脱皮して骨の鎧を着た姿になっていく。武器も異なり、頭蓋骨を模した斧や同じく骨の意匠がある銃を持ったものも。
「なんや、あの姿は? どういうこっちゃ……」
「まさか僕らエスパーが日々鍛錬を重ねて強くなっているように、あいつらも……進化を続けているのか!?」
「な……なんやて……!?」
「信じたくないけど、多分そういうことなのかも知れません!」
――進化を続けていたのはやつらシェイドとて同じだった。恐れていたことが現実になってしまうとは。健と市村に緊張が走り、二人とも顔から血の気が引いた。
「グガガアアアア!!」
「来るで!」
敵を前に一斉に咆哮を上げるクリーパーだったものたち――いや、グラスケルトン。さあ、ここからが本番だ。