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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第12章 東條健は許されない
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EPISODE232:ドッキリ待ち合わせ


 ――その頃の都内、とある一流企業のビル内。会社を経営している甲斐崎が社長室を出て廊下を歩いていた。エレベーターで一階まで降りて歩いていると、部下のものがやってきて声をかける。


「社長、シュンギク重工との会食はどうなされますか?」

「悪いがキャンセルだ。急用が出来たからな」

「キャンセルですか?」

「向こうにもそう伝えておいてくれ」

「わかりました!」



 歩きながら部下の男性にシュンギク重工との会食をキャンセルすると伝え、ロビーからビルの外へ出る。道路で待っていた黒くてシックな雰囲気の専用車に乗り込んだ。助手席だ、運転席には秘書の鷹梨が座っている。彼女が運転するようだ。


「社長、どちらまで行かれますか?」

「ホテルニューサワキまで。そこで待ち合わせをすることになっているんだ」

「承知しました。シートベルトはしっかりしめてくださいね」


 鷹梨に言われるまでもなく、甲斐崎はシートベルトをしめる。シェイドだから人間の法律など関係ないが、社会に潜伏している以上は表面上だけでもルールを守っておく必要がある。周囲から怪しまれないために、だ。


「……鷹梨、突然だがお前に新しいミッションを与える」

「と、いうと?」


 運転中に次の任務に関する話を、甲斐崎がサングラスをハンカチで拭きながら鷹梨に持ちかける。


「クラークの動向を探れ、ヤツが何をしでかすかわからんから念のためにな」

「承知しました。ただちに向かいます」

「いや、ホテルに着いてからでいい」

「はっ! 申し訳ありませんッ」


 ――といったやや微笑ましいやり取りを中で交わしながら、甲斐崎の専用車は道路を走る。やがてホテルニューサワキにたどり着き、甲斐崎と鷹梨は車から降りて駐車場からロビーへと進んでいく。広々とした開放的なロビーは全体的にゆったりとしていているだけで心が落ち着く。カウンターへ行き、甲斐崎は受付嬢に「部屋を借りたいのだが、どこか空いていないか?」と訊ねる。「6Fの555号室が空いております」と受付嬢はニッコリ笑って部屋の鍵を貸し出した。代金を払い鍵を受け取ると甲斐崎は鷹梨と共に6Fの555号室に向かい、そこに居座る。値段の割には比較的広くてくつろげる。しかもベランダやソファーまであり、もちろんテレビや冷蔵庫もあるしシャワーもある。まさに至れり尽くせりだ。ソファーに座って一息つくと甲斐崎は、「鷹梨、お前休まないのか?」と彼女に問う。


「え、『彼』と待ち合わせをするのでは……」

「構わんさ、なんなら横になってもいいぞ」

「ですが……」

「遠慮はするな。羽休めは大事だからな」

「しかし、任務のほうはどうすれば」

「行く前に英気を養え。体力は温存しておくんだ」


 はじめは遠慮した鷹梨だったが、甲斐崎の言葉に従って彼女もくつろぐことにする。二人とも楽な姿勢でソファーに座り、愚痴や世間話をして相手を待った。しばらくして――ドアを開けて何者かが555号室に入ってきた。「来たか」「あなたは……」とそれぞれ呟いた甲斐崎と鷹梨の表情は、リラックスしたものから真剣なものへと変わる。部屋の明かりを一番暗い段階にして何者かは甲斐崎のもとに近寄って丁寧なしぐさで頭を下げる。同時に体を緑が混じった黒い霧に包んでその姿を――緑と黒を基調としたカマキリを彷彿させる怪人に変化させた。薄暗い部屋で赤い目が不気味に輝く。


「うまく行っているか?」

「ええ、我ながら順調そのものです。警察の連中は誰もワタシの正体に気付いてなどおりません」

「さすが、諜報活動はお前のお家芸だな」

「シェイドサーチャーとやらもワタシには通じませんからちょろいもんです。なにせ、気配を消せますからね。何が国家権力だ、笑わせる……」


 怪しげに笑うカマキリの怪人。声はエコーがかかっていて、男性か女性かは判別できない。


「それで、何か情報は掴めましたか?」

「シェイド対策課の不破ライというエスパーが、大阪府警へ転属して戦力が大幅に落ちるかもしれない。まだ彼が府警に行くと決まったわけじゃないが」

「そうですか。不破ライが府警に行ってしまえば、残るのは普通の人間だけですからね」


 カマキリの怪人から警察側の情勢を聞き出した鷹梨。――しかしながら人間など恐るに足らないとは思っておらず、同僚の辰巳がそうしているように彼女も人間を危険視している。そもそもまだ前線に赴いてはいないため、人間がどれほどのものかその目で確かめていない。百聞は一見にしかず、だ。データだけでは敵の強さは計れない。だから戦いに出た際は自分の目で実力を確かめる。彼女はそういうタイプなのだ。


「そうそう、政府の犬どもは近頃になって武装を強化または増やしているようですがどうせただのガラクタだ。エスパーでもないのに我らに挑もうなど笑止! ひゃはははは!!」


 二人にシェイド対策課が武装を強化していることを伝えて下品な笑い声を上げるカマキリの怪人。しかし険しい顔をした鷹梨から「お静かに」と一喝され、しぶしぶ黙る。


「とにかく、情報は以上でございます。甲斐崎様」

「……ならばしゃべっていないでさっさと行け。我が忠臣、シャドウマンティス!」

「御意!」


 カマキリの怪人――シャドウマンティスの名を呼び、まるで突き放すように彼に命じる。このあと鷹梨と二人きりの時間を楽しむつもりなのだろう。シャドウマンティスはドアを開けて555号室から出ていく。


「ちっ、甲斐崎様もあんな小うるさいののどこがいいんだか」


 至極不機嫌そうに舌打ちしたシャドウマンティスは緑が混じった黒い霧に包まれ、その姿を人間に擬態させる。


「まあいいさ……僕がいかに優秀で甲斐崎様からどれほど信用されてるのか証明してやる」


 スーツの懐から片眼鏡を取り出して右目につける。妙におしゃれな服装も相まって怪しい雰囲気たっぷりだ。――ところで彼の姿に見覚えはないだろうか。そう、彼は――。



「そうだ、僕は優れている。ほかのシェイドとは違うんだ……くっくくく」



 斬夜燿司である。


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