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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第12章 東條健は許されない
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EPISODE231:ターゲットは健?


 「許されざる者」と呼称して襲いかかってきた謎の敵・Φゴーレムから、風のオーブの力を用いて逃走した健は住んでいるアパートのすぐ近くまで来ていた。階段を上がって外観の2Fまで着くと、玄関の扉を開けて中に入った。


「た、ただいま……」

「おかえり、遅かったねー……って、健さんまた大ケガしたの!?」


 ようやく帰ってきた健を出迎えたまり子だが、またも傷だらけになっていた健を見て目を丸くする。


「シロちゃんがいないんだから、あんまり無理しちゃダメよ!」

「わかってるけど、今回も一筋縄じゃいかない相手だった。下手したら死ぬかもしれなかった」

「もう……あなたって人は」


 どこまでも自分の身を削っている健に呆れたようなことを口にすると、救急箱を念力で手元まで運んで傷の手当てを始めた。ついでに着替えとして『天火星』とプリントされたTシャツと部屋着のズボンも運んできてくれたので、「どうも、サービスいいなあ」と健は感謝した。


「それで、ごはんは食べたの?」

「まだよ」

「冷めてるので良かったら、サブリュックにカレーまん入ってるからそれ温めて」

「フフッ、ありがとね!」


 包帯を頭や右腕に巻かれ頬にガーゼを貼られた状態で、健はまり子にカレーまんを買ってきたことを告げる。サブリュックからカレーまんを取り出したまり子はそれをレンジまで持っていった。戻ってきたまり子は健に、「今日はごはん作らなくても大丈夫」と告げる。「な、なんで?」とマヌケな顔をして問うてみれば、まり子は「テレパシーでみゆきさんにごはん作ってって頼んだの」と、返事をした。そして温めが終わったのでレンジまでカレーまんを取りに行く。一分間で十分にあったまったカレーまんからは香ばしい匂いが漂い、食欲をそそられる。


「だから安静にしててね〜」

「う、うん」


 そのとき、玄関からブザーが鳴り響く。「はーい」と言って玄関まで行きドアを開けると――件のみゆきの姿が。外が寒かった為かコートを羽織っている。


「み、みゆきィ!?」

「健くん、どうしたのそのケガ!? ってか、まり子ちゃんはどこ? 晩ごはん作らないとあたしの恥ずかしい秘密をみんなに言いふらすって、それどういう意味よ!!」

「お、落ち着いて。とりあえず上がって!」

「う゛〜〜〜〜ッ!!」


 健をまくし立て威圧しながら部屋の中へ上がっていくみゆき。歩き方はガニ股であり、誰から見ても怒っていることが丸分かりだ。


「ねえまり子ちゃん、なんであたしを呼んだの?」

「お兄ちゃん遅いから何か食べようって思ったんだけど、カップ麺ばかりじゃダメだなーって思って……」

「子供ぶっちゃって、だったら自分で作りなさいよ! あなた自分で出来るでしょ!?」

「そ、そんなに怒ることないでしょ〜?」

「うっさい!」


 まり子がテレパシーで脅しをかけてまで自分を無理矢理呼び出したことに対してみゆきが憤る。


「あれ、アルヴィーさんは?」

「み……みゆき、落ち着いて。あ、アルヴィーは今わけあって不在なんだよ」

「そうなんだ……っていうかさ、健くんもどうしてさっき電話切ったの? もしかしてまた何かあったの?」

「そ、それには日本海溝よりもふかぁい事情がありまして……」


 辛辣な態度と表情でみゆきが健に詰め寄る。手を腰に当てているせいか威圧的だ。目を見張りながらまり子はカレーまんを食べていた。


「ひょっとしてそのこととアルヴィーさんがいなくなったことに何か関係があるとか?」

「い、いや、そういうわけではないんだよ。いなくなったのは確かだけど……」

「聞かせてよ、いや聞かせろ。聞かせてくれなきゃごはん作んないから!」

「うううぅぅぅ〜〜、わ、わかった、わかりましたよぅ」


 ひょんなことから健は今の状況に至るまでの経緯を話すこととなってしまった。まり子も温めたカレーまんを完食し水を飲むと、真剣な顔で正座して事情を説明することに決めた。



 ――プリプリ怒っているみゆきに事情を説明しています。しばらくお待ちください――



「……ってことがあったんだ」

「そ、そんな――本当なの?」

「にわかには信じがたいけどホントなんだ」


 洗いざらい事情を話してもらったみゆきは深いショックを受け、しばらく固まった。


「そのファンタスマゴリアってシェイドはどこにいるの? そいつがアルヴィーさんをさらったんでしょ?」

「残念ながら奴の居場所はまだ掴めていないんだ。手がかりも何もない」


 心配そうに眉をひそめる三人。


「……ファンタスマゴリアが根城にしてそうな場所ならひとつだけ心当たりがあるけど」

「な、なに! それってどこなんだい!?」


 やはり場所を知っていたのか。ならば教えてもらわなくては、囚われのアルヴィーを助けに行く為に! ――健は目の色を変えてまり子に問う。


「この前、お兄ちゃんたちは高天原に行ったでしょ? そこの町外れの森に教会が立ってるの。アイツが隠れるとしたらそこね」

「なるほど。ってことはそこにアルヴィーさんが?」

「たぶんね」


 確認を取ってきたみゆきに、まり子は曖昧な答えを返す。


「たぶんって、それはどういう意味かな?」

「なにしろわたしがヴァニティ・フェアにいたのは、もうだいぶん前のことだもん。ひょっとしたら違う場所に隠れてるかもしれないわ」

「なっ……そんな」


 落胆する健だったが、「でももしかしたら無いかもってだけだから、大丈夫だとは思う」とまり子から声をかけられ、「よかった!」と表情を明るくする。少しは希望が持てたがまだ不安な要素がすべて取り除けたわけではない。


「でも問題はもうひとつあるんだよな……」

「もうひとつって?」


 思案顔で顎に指を当てる健にみゆきが訊ねる。


「さっき言った、機械仕掛けの怪物さ。僕のことを我らの妨げになるだの、お前は許されないだのってわけのわかんないこと言いながら襲ってきたんだ」

「まさか、さっき電話切ったのはそれが原因だったの?」

「そうなんだよ、ほんっとうにごめんッ! 埋め合わせは必ずするから……ね?」

「わかった、それならしょうがないよね」


 健が先程遊園地に行く話を持ちかけられた際に話を蹴ってしまったことをみゆきに詫びる。


「それでそのロボットみたいな奴は倒しても倒しても起き上がって、何度でも僕に襲いかかってきて……僕を殺す気満々だった。きっとどっかでアルヴィーが僕から離れたのを知って狙ってきたんだ」

「ヴァニティ・フェアの差し金なのかしら、その怪物……」

「いや、そいつは烏丸先生を殺した怪物と同じヤツだ。そのときも僕のときと似たようなことを言ってた、使命を果たせなかったヤツは許されないって……」


 ――確証を得たわけでもないのに何故そんなことが言えるのか? それはヴァニティ・フェア、というより甲斐崎の手口には見えないからである。彼らは普段、人間社会に潜り込んでいる為ときには科学技術を利用するが、同じシェイドに対して改造を施すようなことはしない。それに高天原で烏丸があの怪物に殺される前に、烏丸は怪物――Φゴーレムのことを知っているようなことを口走っていた。つまるところヤツは烏丸がいた組織から放たれた刺客であり、甲斐崎の手下ではないのである。


「もしかしたら今後、あの怪物は僕だけじゃなくてみゆきや他の人まで狙ってくるかもしれない」

「ちょ、そんな不吉なこと言わないでよ」

「だけどその可能性はあるんだ。僕だけじゃない、みゆきや葛城さんにみどりちゃんも烏丸が風のオーブを手に入れるのを邪魔した。たぶんあの怪物は自分たちの邪魔になる人を片っ端から排除するつもりだ! 次は君やみんなが命を狙われるかもしれないんだ!」

「えっ……」


 みゆきや周りの人々まで巻き込みたくない一心で健が悲痛な叫びとともに訴える。


「まだそうと決まったわけじゃないでしょ。お兄ちゃん、落ち着いて……」

「その場に居合わせなかったから君はそんなことが言えるんだ、のんきなこと言うんじゃないよ!!」

「お兄ちゃんってば!」


 猛ってまり子に辛く当たる健。雰囲気が物騒になり始めたそのとき――部屋の中にいた三人の腹の虫が鳴った。


「……あ……」


 炎のごとく猛っていた健の表情が呆気にとられたものに変わる。険しい表情をしていたみゆきも、心配そうにしていたまり子も、何故だかおかしくなって笑いが込み上げてきた。


「ごめん、ちょっと熱くなりすぎた」


 目尻を下げて健が情けない笑みを浮かべる。


「いいのよ、さて……ごはん作ってあげることになってたわね。食材は何がある?」

「一通りはそろってたかな」

「じゃ、テキトーでいい?」

「わたしはいいわよ、お兄ちゃんは?」

「じゃ、僕も!」

「オッケー、パパッと作ってあげるから待っててねー♪」


「「はーい!」」


 ――そういったやり取りをかわしたあとにみゆきは健とまり子のために夕飯を作り始めた。その後はそこまでのギスギスした空気から一転して楽しく盛り上がったそうだ。

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