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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第12章 東條健は許されない
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EPISODE228:行くべきか行かざるべきか


 不破たち三人が会議室に入ると、すぐに会議が始まった。不破の隣には宍戸が座り、その隣に村上が座っている。彼の隣には会議室前の廊下で待っていた片眼鏡の捜査官――斬夜燿司の姿が。


「……ぼくを府警に、ですか?」

「うむ、君を大阪府警に転属させてほしいと要請があったのだ。東京に比べて、関西のシェイド対策課はやや戦力が不足しているからな」


 眼鏡をかけた初老の警察幹部の男性――井沢が頷く。大阪府警のシェイド対策課が戦力不足であるため、実力の高い不破をそこに派遣して戦力を補おうという話が持ちかけられていた。――転属命令だ。


「それに不破君ひとりだけでも関西へ行けば、京都に住んでいる白峯博士とのコンタクトも今までより格段に取りやすくなる」

「ですがぼくがいない間、東京はどうなるんですか?」

「心配はいらない。こちらの方で君に代わって戦力となりえる人材を発掘するとも」


 七三分けの警察幹部――木野が不破に説明する。異動する彼の代わりに彼が抜けた穴を埋める人材、つまり彼に匹敵する実力の持ち主を探そうというのだ。しかし、だからといって不破がおとなしく幹部からの要求を呑むようには――見えない。


「大阪府警へ異動するのは不破だけですか?」

「いや、村上主任。君には引き続き東京で指揮を執ってもらう」


 生え際が危うい警察幹部――浜崎が村上の質問に答える。村上が指揮を執らなくては対策課は成り立たないため、彼の異動はなし。ということは――。


「待ってくださいよ、村上主任がここに留まるということは……」


 思案顔を浮かべる宍戸。彼女に井沢が、「宍戸巡査か斬夜捜査官か……不破君の他に大阪へ行かせるとすれば君たちだな」と声をかける。


「あの、僕は東京(ここ)に残らせていただいてもよろしいですか?」

「何故だね、斬夜捜査官」


 不破と一緒に関西へ行けそうなのは宍戸と自分しかいないのに、なぜ留まろうというのか? 警察幹部の浜崎が斬夜にその理由を問う。すると斬夜は、


「失礼ながら僕は警視庁の本部でまだ学びたいことがたくさんありますので……宍戸さんはどうなんです? やり残したことはありませんか?」

「え……私ですか?」


 やり残したことがあったか振り返る宍戸。――とくになかった。オペレーターとして戦闘部隊に所属するメンバーを補佐するのが彼女の仕事だ。それなら府警でも出来る。環境の違いに慣れればの話だが。


「やり残したことなんてありません! 準備が出来たらいつでも大阪へ行くつもりです」

「はっはっはっ、どうやら宍戸さんは村上主任を見捨てるつもりらしい!」


 迷いのない宍戸を手拍子して皮肉を言う斬夜。笑い上戸なのかしばらく笑い続けたが、途中で咳払いをして元のしたり顔に戻った。


「どうするね、不破君? 悪い話ではないと思うが」

「……関西のことなら心配はいりません。ぼくが最も信頼できるエスパーがいます。警察の者ではないですが、どんなに強い敵が襲ってきても、何が起きようとも、彼らにならすべてを任せられる」


 ――遠まわしに府警に行く気はないと述べているのか。真摯な表情で語りかける不破を、警察幹部たちは眉をひそめて見つめる。村上や宍戸は驚き、斬夜は苛立ったのかテレビ番組なら放送禁止を食らうようなすさまじい表情を浮かべていた。


「つまり府警へ行く気はないと、そういうことかね?」

「いえ、そういうわけではないかと……そうだよな、不破?」

「不破さん!」


 井沢ら警察幹部が、村上と宍戸が一斉に不破へ視線を向ける。斬夜はそんなに不破に府警へ行ってほしかったのか凄んだ表情で歯軋りしていた。


「ぼくに考える時間をくださりませんでしょうか? 東京をシェイドから守るだけでも精一杯なのに府警に行くなんてすぐにはできない。どうか、お願いします! 考える時間をください、お願いします!!」


 机に手を置いて立ち上がり、不破が警察幹部たちに訴える。その表情は真剣で、彼の眼差しからは鉄よりも固い意志が感じられる。


「いいだろう。一週間だけ君に猶予を与える。だが、一週間だけだぞ。それまでに決められなければ君は強制的に府警へ配属されることとなる。それでいいかね?」

「……ありがとうございます!!」


 井沢が「やれやれ」と言いたげな表情で不破に告げる。――期限は一週間以内。それまでに判断ができければ強制的に大阪府警へ行くこととなる。考えて決心をする時間をもらえただけでも不破は嬉しかった。



 ◆◇◆◇◆◇◆



「なあ不破、あれでよかったのか? 上からの命令に背いてるようなもんだぞ」

「いーんだよ、それにオレが言いたいことはあの場で全部言った」


 会議室で警察幹部との対談が終わった後、不破たちは廊下を歩いてエレベーターに入った。大阪府警に行く気などなさそうな雰囲気の不破を見て村上が苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。


「お前なあ……この調子だとクビ切られちゃうぞ?」

「でも不破さんがいないと、私落ち着けません」

「そうならない為にもだね……」


 不破には残ってほしいという宍戸に村上が苦言を呈する。揉めている三人のうしろで斬夜が腕を組みながらイライラを募らせていた。彼は唇を噛みしめており、足踏みを繰り返していて落ち着きがない。やがてエレベーターから降り、別のエレベーターまで移動してその中で壁のボタンを特定の順番で押す。決して滅茶苦茶に押しているわけではない、これは暗号なのだ。――シェイド対策課、その本部に行くための。


「不破さん、なんであの場で幹部の皆さんに自分の意見をはっきり言わなかったんです? 行くなら行く、残るなら残るってはっきりしてくださいよ。いつも偉そうなくせにこういうときはだらしない方なんですね、正直言って僕はあなたに呆れましたよ。不破さんってひょっとしたら脳ミソも筋肉でできてるんじゃないですか?」

「よく回る舌だな、静かにしてくれ、それと一言余計だ」

「これは病気みたいなものでしてね。こればっかりはどうしようもない」

「ああそう……」


 イラついている斬夜が不破にネチネチと嫌味を浴びせる。先程からずっとこうである。不破が彼に何をしたというのか。斬夜から恨みを買われるようなことなどしたことはないはずだが。


「皆さん、着きましたよ」


 エレベーターが地下深くに到達した。宍戸が降りるように他のものに呼び掛け、宍戸も他の全員が降りた後にエレベーターから降りる。――降りてしばらく歩けばそこにはモニターが壁一面にびっしりと並んだ大きな部屋が広がっていた。オペレーターの男女がキーボードとモニターに面と向かっており、街の中にひそかに仕掛けられたカメラの映像から街を監視している。こうやって犯罪者やシェイドの動向を探るのだ。


「……宍戸ちゃん、斬夜捜査官。仮に不破が府警に行くと決めたとして、そのときに君たちはどうする。不破に着いていくのか?」


 モニタールームの中央にある椅子に腰かけて伸びをしてから、真剣な表情で村上が宍戸と斬夜に問う。どちらを行かせるかで、今後どうしたらいいかは変わってくる。そのときのことを視野に入れて考えての質問だ。不破が府警に行かずここに留まるというのなら、そのときはそのときだ。


「不破がいなくなると、彼の代わりになる人物を見つけるまでの間、我々の戦力は大幅にダウンする。不破と同じくらい強いエスパーなんて限られてるからな。いや、ごまんといるか?」

「村上ィ……さりげなくオレをバカにしてないか?」


 苦い顔で視線を向ける不破を、村上が「冗談だよ」となだめる。


「そのエスパーを見つけるまで、不破さんの代わりに誰かが戦闘部隊に入らなくてはいけないってことですよね?」

「ご名答! しかし宍戸ちゃん、オペレーターである君を戦場に駆り出すのは危険だからな……」


 村上が宍戸の問いに答える。彼が言うように、宍戸はオペレーターであり非戦闘要員。戦いの専門家である戦闘部隊との力の差は歴然。何の経験もない素人がいくら良い装備をしてどんなに強い武器を持って行っても、敵にやられて死んでしまうのは目に見えている。


「戦闘部隊には女性の方もいらっしゃいますが、ちゃんと訓練されてますからね。宍戸さんとは違ってね」

「捜査官、口を慎んでいただけませんかね?」

「でも事実じゃないですか」


 またも斬夜が嫌味を垂れる。斬夜には何度注意しても無駄だろう。何度叱られても懲りずに嫌味を言い続ける。彼はそういうタイプだ。


「そこまで言うなら、お前がオレの代わりをやればどうだ?」

「え? なぜ僕が?」


 にやついた不破から戦闘部隊に行くことを勧められ、斬夜は引いた顔で不破を見る。


「だって斬夜さん、以前シミュレーションで良い戦績を上げたじゃないですか。私なんかより絶対上手くいきますって!」

「い、嫌ですよ! それとこれとは話が違います。それに薄汚いシェイドの血でスーツを汚したくはないですから」


 宍戸から持ち上げられて斬夜が戸惑う。そんなにシェイドと戦うのが嫌なのか、それとも自分から血を流したくないのか。


「バトルスーツを汚したくないから戦うのは嫌だっていうのか? 血を流したくないっていうのか? 血と汗を流してでも怪物どもから人々を守るのが俺たちの使命なんだ。甘ったれんな!」

「は、放してください!」


 不破が眉をひそめて斬夜を諌め、掴みかかる。暴挙に出た不破を見て動揺した宍戸や村上は「不破さん、落ち着いてください!」「待て不破!」と彼に呼び掛けてやめさせようとする。急な出来事にモニターに向かっていたオペレーターたちも振り向き、現場を見て動揺した。


「……どうするかはオレが決める。お前が決めることじゃない」


 手を放した不破が斬夜にそう告げる。歯軋りし、拳を震わせる斬夜は「トイレに行ってきます」と行ってモニタールームから出て行った。トイレはモニタールームを出てエレベーターの扉を右折したところに設けられている。無論、男トイレと女トイレ、足が不自由なものが使う専用のトイレに別れていた。男子トイレの手前で、斬夜は壁に拳を打ち付けた。


「どうするかはオレが決めるだと? ふんっ、さっさと行けばよかったものを!!」


 斬夜が荒々しい口調で怒鳴り声を上げる。いつもは落ち着いている彼にしては珍しい光景だ。右手をわなわなと震わせるも、頭をなでて呼吸を乱しながら自分を落ち着かせる。これで感情にブレーキが利くようだ。


「へへ、あなたにいつまでも東京にいられては都合が悪いんですよ……不破ライ!!」


 ――テレビ番組なら放送できそうもない歪んだ形相で笑いながら、斬夜はそう言った。言葉の節々から不穏な空気が漂っていたが、今はまだ誰も知る由はしない。

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