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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第12章 東條健は許されない
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EPISODE226:第三の影

「ンフフフフフ」


 異常に発達した左腕でアルヴィーを掴んだまま、不敵に笑うファンタスマゴリア。ガイコツ顔の赤い目がこわばった健の姿を捉え見下す。


「ファンタスマゴリア! 貴様、何を企んでいる!」

「氷焔兄弟は自らお前たちをおびき寄せる役を買って出てくれた。私の屈辱を晴らすためにな」

「屈辱……?」

「忘れたとは言わせんぞ。本来なら我らが手に入れるはずだった風の力――人間と手を組んででも手に入れようとしたのに結局お前たちの手に渡ってしまった。おかげで社長からは大目玉だ」

「!」


 以前、高天原市での戦いで手に入れた風のオーブ。それを手に入れるまでの道のりは決して楽なものではなかった。健たちにとっても、ヴァニティ・フェアにとっても。最終的には健たちの手に渡り、思わぬ犠牲者を出してしまったものの争奪戦は幕を閉じたのだ。


「お前たちのせいで私にはもうあとが無いのだ。どうしてくれる!」

「そんなこと僕が知るか! アルヴィーを返せ!!」


 前方に盾を構えて長剣を掲げながら健が突進。彼の行く先にファンタスマゴリアは目から光線を放って焼き払う。


「くっ」

「残念だが返すわけにはいかん! 今の私には白龍が必要なのでね」

「た、健……私に構うな。お主だけでも逃げろ」

「アルヴィー! うおおおおおッ!!」


 その手を離そうとしないファンタスマゴリアからアルヴィーを取り戻そうと健は真正面から突っ込むが、斬りかかる寸前でファンタスマゴリアの姿は消えてしまう。――幻だ。本物は、健が幻に気をとられている隙を突いてうしろに回り込んでいた。


「カァーッ!!」

「うわああああああああ!!」


 ファンタスマゴリアが右手に持った黄金のドクロの杖を天にかざす。おびただしい数の稲妻が激しく降り注いで健に襲いかかった。


「ッ……」

「あがいても無駄だ小僧!」


 立ち上がった健に鬼火を放ち、弾き飛ばして怯ませる。とどめに口から薄青色の炎を吐き出してファンタスマゴリアは自分から健を遠ざける。地面で燃え上がる鬼火を飛び越えてファンタスマゴリアに斬りかかろうとしたが、またも寸前で消えてしまった。


「く、くそぉ……」

「ふっふっふっ……白龍がついていない貴様など、そこらのガキと同じ! せいぜい家の隅でガタガタ震えていろ!」


 自分を嘲笑うファンタスマゴリアの声だけが響く――息を荒くしながらその場に立ち尽くす、健。


「……っ……」


 アルヴィーをさらわれた無念から表情を曇らせ、地面に崩れ落ちた健は拳を震わせてコンクリートに叩きつける。溢れる感情を抑えきれないために、何度も。


「くそ……くそッ、くそぉぉぉッ!!」


 ――後悔の念からしきりに拳を叩きつけて、健の右手に血が溢れ出す。その拳には、アルヴィーをさらわれてしまった悔しさと、手も足も出なかった己の不甲斐なさへ対する怒りがこめられていた。


「……アルヴィー、僕はこれからいったいどうすればいいんだ! あなたがいないと何もできないっていうのに! ファンタスマゴリアはあなたをさらって何をしようとしているんだ! 答えてくれ……答えてくれよおおおおぉぉぉぉッ!!」


 健がさらわれた彼女の名を呼んで天を見上げて慟哭する。なんと愚かなのだろう、叫んだところで彼女には届かないというのに。――彼は、あまり世話を焼いてもらうわけにはいかないと、彼女にはあまり頼らなかった。それでは自分が強くなれないと思ったからだ。たびたび「もう少し頼ってほしい」と言われてきたものの、アルヴィーのその言葉を気にしたことはなかった。今になってようやく気付いたのである。もっと頼るべきだったと、もっとアルヴィーに心から信頼を寄せるべきだったと――。


「うっ……あああああああああああああァッ!!」


 感情のままに慟哭し、健は走り去る。その一部始終を――空中を浮遊する目玉を模した機械が捉えていた。機械が捉えた映像は、とある研究所へと送られていく――。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「哀れなものだ……実に哀れ」


 薄暗い研究室の中で渋い初老の男性の声が響く。白衣を着ていて、中肉中背。ホワイトボードにはびっしりと何らかの資料が貼り付けられており、デスクや棚にはフラスコがびっしりと並べられている。コンピューターには先程の目を模した機械が送信した映像が映っており、机の上には羊皮紙の表紙に幾何学的な魔方陣が描かれた古い書物も。


「いくら大きな力を持っていてもしょせんはただの人間。白龍がいなければ何も出来ぬ……」


 淡々とした、垢抜けた口調で初老の男性が独り言を呟く。彼からは何を考えているかわからない、底知れぬ不気味さが感じられる。しばらくして初老の男性は研究室の奥にある――培養槽が並んだ機械的な空間に入り、そこに佇んでいた怪人の肩に手をやる。

 怪人は機械仕掛けのガイコツのような姿をしていて全身にコードを張り巡らせており、全体的にグロテスク且つ不気味な雰囲気を醸し出している。――彼の創造者たる初老の男性が手を触れたことで機械仕掛けの怪人が動き出し、男性の方に体を向ける。


「――我がしもべよ。あの青年――東條健は我らの妨げとなる存在だ。許されざるものを生かしておいてはならぬ。……殺せ」


 不気味な初老の男性が怪人に語りかける。鋭い目を光らせて、「御意……スベテハ 終焉(デミス)ノ 名ノ下ニ」と、男性にひざまずく。ほどなくして与えられた使命を遂行するべく――床の隙間へ溶けるように消えていった。


「……主よ、我々も東條健の抹殺に向かってよろしいでしょうか」


 培養槽がある部屋の奥から何かを叫ぶ顔の仮面を被った青年が姿を現す。細身の長身で髪は金色の長髪。黒と黄色を基調としたジャケットを着ている。

 傍らには悲しむ表情の仮面を被った女性がついていた。こちらは藍色と白を基調としたコートを着ており胸元をはだけていた。ニーハイソックスとガーターベルトを着用している彼女はすぐ隣の青年よりは小さいが身長は高めで、紺色の長い髪を束ねている。腰はくびれていて胸は豊満。――男女ともにスタイル抜群だ。仮面の下が美形である事は容易に想像がつく。どちらもベルトのバックルが金色の四つに割れた地球のような形をしていた。


白龍(アルビノドラグーン)がヴァニティ・フェアの幹部の手によって引き離されたとはいえ、あの少年は手強い相手です。Φゴーレムだけでは心許ないかと」


 大人びた声で初老の男性に呼びかける仮面の女性。本人は至って真面目だが妖艶な姿も相まって色っぽい。


「待て、お前たちはまだ手を出すな。ここはΦ(ファイ)ゴーレムに任せよ。データがまだ十分に集まっていないからな」

「データ収集……ですか。となると、Χ(カイ)Δ(デルタ)はまだ稼動できる段階ではないのですか?」

「その通りだ。よって、Φには必然的に働いてもらわなくてはならない」


 初老の男性と叫ぶ顔の仮面をつけた青年が話し合う。彼らが言う『ゴーレム』とは先程の機械仕掛けの怪人の事を指している――と見ても問題なさそうだ。Φというのは恐らく先程の怪人の個体名と思われる。ΧとΔについてもそれと同じだろう。


「それにまだ急ぐ時ではない。まずはヴァニティ・フェアとあの青年たちを潰し合わせるのだ」

「賢明な判断ですわ。どちらかが片方を潰せば、我々が残ったほうを潰すだけで済みますからね。――ところで例の古文書の件はどうなりましたか?」

「構図はほぼ覚えたが、完全に解明するにはまだ時間がかかりそうだ」

「かつて古代人が作り上げた錬金術の解析……やはり一筋縄では行きそうにないですね」


 今度は泣き顔の仮面をつけた女性と初老の男が話し合う。古文書とは研究室のデスクに置かれていた表紙が羊皮紙となっている書物の事を指しているのだろう。初老の男も仮面の女も深刻な雰囲気であったことから彼らにとっては最も重要そうな事項と思われる。


「……『砂の王子』、『蒼海の魔女』よ。今は来るべき時に備えて力を蓄えておけ。私も研究を進めておく。同志たちにそう伝えろ」

「承知しました、我が主よ」

「「すべては、終焉(デミス)の名の下に」」


 仮面の男女が『主』である初老の男性にひざまずく。『砂の王子』とは叫ぶ顔の仮面をつけた青年のことであり、『蒼海の魔女』とは泣き顔の仮面をつけた女性のことだろう。男女は隙間へ姿を消し、初老の男は培養槽がある部屋から自身の研究室へと戻った。――どうやら、敵はヴァニティ・フェアだけでは無さそうである。


「永遠の命と万能の力をもたらす『賢者の石』……必ずや手中に収めてみせる」


 研究室に戻った初老の男は魔方陣が描かれた古い書物を見て、ひとこと呟いた。

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