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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第12章 東條健は許されない
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EPISODE225:吹き荒れろ! ストライドハリケーン


「行くぞっ!」


 アルヴィーが見守るなか、健はどっしり身構えているコルドチルドとシズラマズラに斬りかかる。


「おっと!」

「当たるかよ!」

「「食らえ!!」」


 だが氷焔兄弟には紙一重で避けられ、攻撃を外した彼に冷気と火球が放たれる。吹き上がった爆炎を防ぐもよろめいた隙に冷気が直撃してしまい、健の足元が凍りつく。


「まずった!」

「ヒィハアアアアアッ!!」

「うわあああっ!?」


 頭部に燃え盛る炎のたてがみを灯したシズラマズラが、たてがみを激しく振り回して動きが取れない健を薙ぎ払う。


「ヒョオッ!!」

「えあああああっ!」


 飛び散る氷の破片と共に宙に放り出された健にコルドチルドが飛びかかり錫杖を叩きつける。そのまま地面へ落下し健の体に激痛が走った。


「よくもやったな! お返しだ!」


 起き上がり、健は懐から赤いオーブを取り出して長剣にセット。シルバーグレイの刀身が赤色に染まり炎をまとった。


「む!」

「あれがオーブの力か!?」

「気を抜くな、シズラマズラ!」


 眉をひそめるコルドチルドとシズラマズラ。炎の剣を掲げ健は立ち尽くすコルドチルドに斬りかかる。しかしその寸前でシズラマズラが彼の前に立ちはだかり自らが盾となって兄のコルドチルドを守った。


「させねえよ!」

「なにっ!!」


 刀身で燃えたぎる炎のエネルギーがシズラマズラの体へ吸収されていく。唸り声を上げて、シズラマズラは驚いて動けない健を殴り飛ばして壁に叩きつけた。


「俺に炎は通じねえ! ブッ飛べ!」

「ぐわあああああああああッ!!」


 ――シズラマズラは、炎や炎の属性を付加した攻撃を吸収できる。そして体内に取り込まれた炎のエネルギーは彼の力に変換されるのだ。シズラマズラは両腕を上げて健の攻撃から吸収した炎のエネルギーを解放し、周囲に爆炎を発生させて健を吹き飛ばす。


「ッ……」


 爆風の熱で溶けた周囲の氷がすぐさま凍りつく――それほどまでに今の日本は冷たく寒い。冷たい地面に手をつけて健は立ち上がり、赤いオーブを青いオーブと交換。刀身が青くなり、輝くほどに冷たい冷気をまとった。これでシズラマズラの弱点を突いてやろうという魂胆だ。自分の戦いを見守っているアルヴィーに手助けをしてもらわないのは、「ひとりでやれるところまでやってみたい」という意地か、それともその必要はないと判断したからか。


「シズラマズラぁー! これでどうだ!!」


 助走をつけて跳躍し健が剣を振りかぶる。だが寸前でコルドチルドが割って入り――攻撃を受け止める。


「!?」

「ふっふっふっ、俺も弟と同じでねぇ……消えなっ!」


 氷の力が吸収され、コルドチルドは錫杖で健を突き飛ばすと取り込んだ氷の力を解き放ってエネルギー波を放つ。氷漬けになって動けない健に、シズラマズラは火球を放って弾けさせる。爆発と同時に氷が溶けるも健は転倒し地面を転がった。


「ぐわああああああああ!!」

「健っ!」


 凍っているせいか面白いように地面を転がり、縁石に激突してようやく止まった。白く凍りついた表面に赤い血が飛び散る。


「く、くそぉッ」

「しっかりしろ。落ち着いて戦えば勝てるはずだ」

「それはわかってるけど……」

「とにかく、相手の動きに惑わされるな」


 息を荒くしている健の肩を担いで立ち上がらせるアルヴィー。助言を与えて自身は引き下がり、健に任せた。薄情に見えるがこれも健の成長のためだ。いままでもよほどのことが起きぬ限りは手を貸さなかった。


「どうした! もう降参か?」

「おあいにくさまッ! 降参なんかしないよ!!」

「そうかい、自信たっぷりだな!」


 片方の弱点を突こうとしてももう片方がかばって攻撃を吸収してしまう。となれば無理に炎や氷の力を使わない方がいい――。そう確信した健はオーブを長剣・エーテルセイバーから外してコルドチルドに真正面からぶつかる。錫杖と長剣が火花を散らし、流れ出た血はすぐに凍りつく。ただでさえ相手は手強いのに寒さで体力も奪われてしまうため、厳しい戦いとなっている。


「キィンッ!」

「うあっ!!」


 コルドチルドは腰を深く落としてからの正拳突きを繰り出し健をのけぞらせる。


「アイシクルランチャー!!」


 更に全身から突き出た氷柱を健めがけてミサイルのごとく射出。避けようとするも氷柱は誘導ミサイルだった為に避けきれず全弾命中してしまう。健は苦悶の表情を浮かべながら宙に放り出された。


「くっ、こいつでお返しだ!!」


 体勢を整えて健は長剣を横に携えて力を溜め――大きく回転しながらコルドチルドとシズラマズラに斬りかかる。


「スパイラルクラッシュ!!」

「ひょおおおっ!?」

「ごふっ!?」


 正面からの回転斬りを食らいダメージを受けたコルドチルドとシズラマズラは後退。――相手を見くびっていた。目付きを鋭くして真剣な面持ちになり、氷焔兄弟は手に持った錫杖と杖を合わせる。


「兄貴、アレだ! すっげえので仕返ししよう!」

「合体技だな? よしッ!」

「合体技だと!?」

「健、気を引き締めろ! 奴ら何をしでかすかわからんぞ!!」


 目を丸くする健にアルヴィーが注意を促す。どんな攻撃が来てもいいように、健は盾――ヘッダーシールドを構えて備える。


「受けてみろ――」

「これが俺たちの必殺技――」

「「ブラザーアメイジング!!」」


「来るッ!」


 武器を交差させた氷焔兄弟の冷気と炎が弾けて混ざり、巨大な紫のエネルギー弾となって健に襲いかかる。


「だあああっ!!」


 氷焔兄弟の合体技・ブラザーアメイジング――その威力は計り知れず、大爆発が巻き起こり健の体は大きく宙へ放り出される。


「がッ!! ま……負けるもんか……ッ」


 血を流し、片目を瞑って苦し紛れに健が呟く。無茶をしてでも人々を助けようとする必死さと、何者にも屈しない不撓不屈の精神――経験はまだまだ積まなくてはならないが、覚悟があるのは確かだった。その言葉と行動だけでも十分に決意が感じられる。


「ほう、まだあがくか。弟よ、あいつに引導を渡してやろう!!」

「あいよ!!」


 しかし相手は余裕綽々――そもそも二対一だ。健のほうが圧倒的に不利である。彼ひとりでアルヴィーの力を借りずにここまで持ったのは奇跡に近い。


「炎と氷は使っちゃいけないんだよな。それなら――!」


 上がる心拍数、みだりに乱れる息。今は窮地に追い込まれているのだ、よって落ち着いて慎重に戦わなければ命はない。そう自分に言い聞かせて健は懐を探る。相手に吸収されそうにない属性がちょうどふたつあった。雷を司る黄色のオーブと風を司る緑色のオーブ――このどちらかだけでも通じればいいのだが。


「――風だ!」


 ここは、汎用性の高い風の力を巧く使って器用に立ち回ろう――それが健が下した判断だ。エーテルセイバーの柄に風のオーブを装填し、シルバーグレイの刀身が今度は爽やかなエメラルドグリーンに変わっていく。


「風ェ? ハッ! そんなもん使ったところで何にも起きねえっつうの!!」

「だったら起こしてやるさ、僕の手で!」


 シズラマズラが口から炎の息を吐き出して健を燃やそうとする。だが健は腰を深く落として身構え――次の瞬間には加速して炎を回避。


「何ィ!?」

「ほら、こっちこっち!」

「うわッ、ぐひゃあああァァァ!!」


 目にも留まらぬスピードに追い付けず戸惑うシズラマズラに、健は何度も斬りかかる。超高速で動けるのは最大で十秒間のみ。途中でブレーキをかけると加速状態を解除して宙返りし、翻弄される弟の姿を前に動揺しているコルドチルドの背後へ回り込む。「こっちだ!」と一撃入れてやると、横っ飛びで距離を置く。


「しまった、貴様!」

「それっ!」

「ぐはっ! でぇぇぇい!!」

「よっと!」

「くっ……」


 自分から背後を取った健に錫杖を振りかぶりも盾で弾かれ、怯んだところを風の力を付加した斬撃を受けてコルドチルドは舞い飛ぶ。氷の弾丸を放つもかわされ、コルドチルドは焦りから表情を歪めた。


「風の力とは厄介だな……ちょこまかと!」


 コルドチルドが全身から生えた氷柱をミサイルのように射出して健を狙う。氷柱の弾幕の中を健は超高速で駆け抜けてやり過ごす。


「ゴキブリかてめえはよおおォォォ!!」


 激しく憤ったシズラマズラが空中に巨大な火の玉を打ち上げ、爆発させて火の雨を降らせる。一旦ブレーキをかけてから、健は火の雨をかわしつつ突っ走る。コルドチルドとシズラマズラにすれ違いざまの一撃をお見舞いしてやった。


「おのれ、まだウロチョロするつもりか!」


 コルドチルドが三度(みたび)健めがけて全身から突き出た氷柱をミサイルのごとく射出。超高速で動き回る健をホーミングするが――健はそれを逆手に取って氷柱のミサイルをシズラマズラがいる方向へ誘導する。これが狙いだったのだ。


「あ、兄貴!」

「!? しまった……シズラマズラァ!!」


 今更気付いても手遅れだ。無常にも氷柱のミサイルはシズラマズラに命中し、凍結。健は急ブレーキをかけてから、シズラマズラの方へ加速しながら走る。五人に分身して跳躍し――エーテルセイバーを斜め下へ構える。


「食らえ!」

「「「「「トリックディバイド!!」」」」」


 五人一斉に叫んで急降下し、シズラマズラの体を貫く。


「うっ……あ、兄貴ィィィィ!!」


 火花を散らしながら、左手で胸を押さえ兄に助けを求めるように右手を伸ばすも兄に手は届かず――シズラマズラは爆発して塵芥となった。


「し、シズラマズラァ!! おのれぇ……よくも我が愛しい弟を!!」

「シェイドにも兄弟愛はあるんだな……けど、だからって許すわけにはいかないッ!!」

「許さんぞ! 貴様だけは……絶対にぃぃぃッッッ!!」


 弟を目の前で倒され、兄が慟哭する。怒りに燃える視線を健に向けるとコルドチルドは雄叫びを上げて突進。錫杖を振るって襲いかかる。


「ッ!」

「死ねぇッ」


 健の心臓を狙い錫杖を突き出すコルドチルド。後ろに宙返りしてかわし、エーテルセイバーを振るって突風を巻き起こす。コルドチルドの体が宙に舞い上がり、壁に激突した。


「とどめだ……!」


 気合いを溜めるとエーテルセイバーを掲げてうなだれるコルドチルドへ突進。


「はあっ!」


 力強い切り上げ攻撃を放つとともに竜巻が発生してコルドチルドを巻き込み、空中へと吹き上げる。ビルの屋上から空高く飛び上がって健はその手でしっかりとエーテルセイバーを握りしめ、打ち上げられたコルドチルドに唐竹割りを繰り出す。


「ストライドハリケェェェェン!!」

「ぬっがああああああああああああァァァ――――ッ!!」


 急降下しながらの唐竹割りでコルドチルドを叩き斬り、ビルから地上へと落下。衝撃で周りに巨大な真空波が発生し凍った地面をド派手に粉砕して破片を飛び散らせる。咆哮を上げながらコルドチルドは爆発した。無事に着地した健は長剣をクルクルと回してから鞘に収める。――奪われた熱が取り戻されたことで雪と氷は溶けて、地面に染み込む。清々しい青空とあいまってまるで雨上がりのようだ。――これで凍り付いていた街は、いや、日本は元に戻った。


「やったな、健!」

「まあね! 僕ひとりだとやっぱりキツイな」


 いつの間にか地上に降りてきていたアルヴィーが健と手を取り合う。両者ともに心から澄み渡るような微笑みを浮かべている。


「ふへへへ――」

「!」


 だがそこで先程倒されたコルドチルドが、空気を読まず不敵な笑いを上げる。よろめき、体を震わせながら立ち上がると二人に「勝負には負けたが、俺たちは……役目を果たしたのだ……ッ」と、息も絶え絶えに不吉めいた言葉を告げる。


「役目? どういうことだ」

「じきにわかるさ……へへへっ」


 アルヴィーの問いを嘲笑した刹那、コルドチルドが紫の血を吐き出す。


「すまん、弟よ。俺もダメだった……今、逝くぞぉぉぉぉ!!」


 火花を散らして先にあの世に逝った弟に言葉を投げかけ――再びコルドチルドは爆散。今度こそその命を散らした。


「……」

「怪物とはいえ、肉親を思うヤツではあったということか」


 コルドチルドの最期を見届け、やるせない表情でその場に佇む健とアルヴィー。帰ろうとした直後――突如として足元に幾何学模様が刻まれた魔方陣らしきものが出現して激しい電気が二人の体にほとばしる。


「なッ!?」

「うわあああああッ!!」


 激痛にあえぐ二人。やがてアルヴィーの方に異形の腕が伸びて彼女を掴み、健の方には薄青色の鬼火が放たれて彼を焼き尽くし吹っ飛ばす。転倒した健が上半身を起こして見上げると――そこにはアルヴィーを捕らえ左腕に持ったガイコツの神官のような姿の怪人がいた。ボロボロの法衣をまとい右肩に目玉を模したプロテクター、左肩には上半分だけの鋭い糸車――。


「貴様……ファンタスマゴリアか!」

「ンフフフ……ああすれば来てくれると思っていたぞ、小僧」

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