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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第12章 東條健は許されない
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EPISODE223:最後のチャンス


 ――ヨーロッパのとある山の中で、神父を彷彿させる服装の男性が岩壁で何かを探っていた。右手で壁をつたって、やがて岩が積み上げられた場所に辿り着く。ここに何か隠しているのだろう。


「確か、ここだったかな。ぬんっ」


 目印は光をモチーフにした菱形の紋様だ。その紋様が入った重たい岩を腰を深く落として気合いを入れ、両手で持ち上げてどかす。どかしたあとに息を切らしてしまうほどの重さだった。岩の後ろに隠されていた入口から神父風の服装をした男性――クラーク碓氷は洞穴の中へ入る。中は薄暗く明かりはほとんど無い状態だ。どこからともなくドクロをモチーフにした黄金の杖を出すと、薄青色の炎を灯して辺りを照らす。


「誰も、アレを盗んでいなければよいのだが」


 隠しているものが盗まれていないか心配しながら、クラークは洞穴の奥へ足を踏み入れていく。行き止まりにかけられた鉄格子を開くと、その先には床に魔方陣が刻まれた小部屋があった。岩肌がむき出しになっていないことから、人工的に作られたことは明らかだ。


「……ラカタヨデイ、リカヒヨレワラア、ラカタヨデイ、リカヒヨレワラア……カァ〜〜〜〜ッ!!」


 魔方陣の上でまるで黒魔術でも唱えるようにおかしな言葉を延々と唱え続け、クラークは奇声を上げて黄金のドクロの杖を突き立てる。魔方陣が淡い金色に輝き、周囲の地面がせり上がって中から大きな宝箱が現れた。

 目を見開いて不気味に微笑むと、クラークは大きな宝箱を開いて中にあった手のひらほどの小さな宝箱を取り出す。鍵がかかっている。開けられるのは――対応する鍵を持ったクラークだけ。ドクロをあしらった禍々しい鍵を入れて小さな宝箱を開く。まばゆいほどの光が漏れ出して辺りを明るく照らした。箱の中で光を放っていたのは、白みがかった金色の宝玉だ。大きさは、ピンポン玉かビー玉ほど。


「おお、これだ! これぞ私の切り札……『白き光』!!」


 『白き光』――と、そう呼んだ宝玉を手にしながらクラークが歓喜する。眩しいために片目を瞑っていた。


「これで名誉挽回だ、ファハハハハハ!!」


 洞穴の中で『白き光』を手にしたクラークの笑い声がむなしく響き渡った。――だがそれは、これから起きようとしている更なる波乱の幕開けでしかなかった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 しばし時が経ち、どこかの岩山にそびえ立つ機械仕掛けの古城にて――。窓の外で雷鳴が轟き光る中、クラーク碓氷が城の内部を歩いていた。会議場とおぼしき部屋の扉を開いて、中に入る。中央の円卓にある自分の席に座ろうとしたが、クラークの椅子は残っていなかった。


「……私の椅子がない。どういうことだ?」


 謹慎が解けて、敵を倒すための切り札も手にして本拠地に戻ってきてみればこの有り様だ。居場所はないということか? 深刻な顔をするクラークの喉元に、槍と大剣が突きつけられる。


「ひっ! び、ビートロンに、スタグロン!?」

「動くな!」

「もはやお前には、椅子も居場所も残されてはいない!」


 彼に武器を突きつけたのは重厚な鎧を着込んだ白いカブトムシのようなシェイドと、同じく鎧をまとった黒いクワガタムシのようなシェイド。カブトムシの怪人の方がビートロンで、クワガタムシの怪人の方がスタグロンだ。クラークが怯えるほどの威圧感と実力を備えている。二人は甲斐崎の身辺を警護するSPのような存在で、同時に幹部に匹敵する強豪なのだ。


「久しぶりだな、クラーク。謹慎中に何をしていた?」


 向こうから、黒装束の若い男性が歩いてきた。彼はこのヴァニティ・フェアの社長こと、甲斐崎。無駄な贅肉ひとつついていないスリムな外見で、冷静沈着な知性と獰猛な野性を持ち合わせた存在だ。全身から禍々しい悪意を放っており、弱者なら立ち姿を見ただけでも卒倒するほど。そんな彼の隣には秘書であるメガネの女性――鷹梨の姿があった。茶色の髪を束ねて、スーツが良く似合う凛とした佇まいをしている。


「しゃ、社長……! わ、私は以前の失敗の件で十分反省して次にどうするか策を練っておりましたっ!!」

「そうか」


 恐れおののきながら報告するクラーク。甲斐崎を見てビートロンとスタグロンはクラークから身を引き、甲斐崎の傍らへ移動する。クラークは一瞬前に出て鷹梨に始末書を提出し、すぐに引き下がった。


「社長、私に最後のチャンスをください。今度こそ、必ずや東條(たける)一味の息の根を止めてご覧に入れます!」

「確証はあるんだろうな?」

「ええ、ありますとも! 確証ならね!!」


 必死な様子でクラークは甲斐崎へ宣言する。


「自信たっぷりだな、いいだろう。だがクラーク、俺も遊びでお前を幹部にしたわけじゃない。必ず作戦を成功させろ」

「承知しております!」

「もし今回もしくじったなら、俺自身の手でお前を葬ることだって考えている。成果を上げるまで帰ってくるなよ!」

「はいっ」


 サングラス越しに鋭い眼を光らせて、甲斐崎はクラークに最後のチャンスを与えてやった。甲斐崎らに見送られ、緊迫して息を荒くしながらクラークは会議場をあとにする。心配そうに眉をひそめた鷹梨は、「クラークさん、大丈夫かしら……」と、一言呟いた。


「ふふふ……奴らに私の力を思い知らせてやる」


 去り際に彼が口走ったその言葉は誰も聞いてはいなかった。


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