EPISODE222:Trick or treat?
――そして、訪れたハロウィン当日。健たちは白峯の家でパーティーをすることになっていた。あのあと白峯に連絡して許可をもらっていたのである。発案者は健で、企画を立てた理由は「たまには息抜きもしておきたい」からだ。
「衣装よし」
赤い血――ではなくトマトジュース入りのワイングラス片手に笑う健。(作り物だが)口からはキバを生やし、タキシードの上に黒いマントを羽織っているその姿は吸血鬼を思わせる。髪型はオールバックで瞳は赤いが、これはカラーコンタクトである。元々赤かったわけではない。
「食べ物よし」
衣装の次は食べ物だ。ハロウィンにちなんで様々なお菓子の他、パーティーをやるのでチキンなどの料理も用意されている。猫耳をつけて肉球のついたグローブをはめているみゆきの格好は妖怪の化け猫か、あるいは猫又を彷彿させる。顔つきもどことなく猫っぽくなっていた。可愛らしいが、逆に言えばあざとい。
「だ……出し物よし」
机の上に置いてある人生ゲームやトランプなど、みんなで遊ぶためのゲームが用意できていることを確認したアルヴィーが苦笑いを浮かべる。裸体に包帯を巻いただけのあられもない姿だが、これはミイラ男のコスプレである。紛れもなくミイラ男である。胸の辺りだけ妙に締め付けがゆるいように見えるが、それは錯覚だろう。「チャイナドレスがよかったな……」と、声を小さくして彼女は愚痴をこぼした。
「そして飾り付けもよし。あとは不破くんが来るのを待つだけねっ」
「だけねっ!」
準備したものや飾り付け出来たかどうかの確認を終えて、白峯が無邪気に笑う。ホウキを持っていて頭にはとんがった帽子を被っており、魔女を思わせる格好だ。科学者ならフランケンシュタインの怪物の方が良さそうだが、そこは気にしないでおこう。白峯の傍らにいるまり子も同様に黒衣を着ていて、まさしく魔女のようだ。あざとい感じは否めないが、子供の姿をしているためか小さくて非常に可愛らしい。この魔女の衣装は、師匠と弟子、という設定で作ったようだ。――なお、これらの衣装はすべてまり子がハロウィンに備えて作っていたものである。
「そういえば、市村さんは来ないのかしら?」
白峯がまり子へ訊ねる。ちゃんと屈んでいた。
「今日は実家で家族とカニ鍋食べるんだって!」
「カニ鍋か! そろそろお鍋の季節よね〜、うふふ」
無邪気に笑い合うまり子と白峯。どちらも根が明るく無邪気なところがあるので気も合うのだろう。健たちも二人を見ていて眩しいくらいだ。
「葛城さんも来てくれたらよかったのになぁ……」
ふと、高天原市での戦いで知り合った女子高生・葛城あずみのことを思い出す健。至極残念そうな表情をしていることから、彼女も仲間に入れて一緒にはしゃぎたかったことが伺える。
――と、そこで玄関からブザーが鳴る。玄関に行ってみてドアを開ければ、そこには不破がいた。一角獣のワッペンがついたネイビーのジャケットを着ていて、白いズボンを穿いている。
「みんな、すまん! 遅れちまった!」
必死で走ってきたらしく不破は息を荒くしていて、遅れてきたことを謝罪する。「ずっと待ってたのよ〜。さあ、上がって」と、白峯はそんな不破を許して家の中に上がらせた。
「ひゃあ、みんな準備早いんだな……」
既に健たちが一通り準備を済ませていたため、リビングはハロウィンパーティーの会場となっていた。思わず不破は息を呑む。
「不破くん、何の格好する?」
「んー、何が余ってますか?」
何のコスプレをするか迷った不破に、「東條くんは吸血鬼でみゆきちゃんは猫娘で、私とまり子ちゃんは魔女で……」と、白峯は健たちを指差しながら誰が何のコスプレをしているのかを教える。
「そうッスか。何がいいかなー、定番の狼男か、それともフランケンか……吸血鬼だと東條と被るしなぁ」
「不破さん、キョンシーとかどうですか? 僕と被らないようにするなら、あえて変化球で」
「やだよ、お札貼んなきゃいけねえだろ……」
「わたしは、ゾンビがいいかなって思います」
「かゆ……うま……って、嫌じゃあ!!」
健とみゆきが挙げた意見を、不破はことごとく拒否する。「なんなら私と変わってくれ、ミイラ男」とアルヴィーから持ちかけられると、「ミイラ男か……悪くない」と、微笑んだ。アルヴィーのあられもない姿にチラチラと現を抜かしながら。
「えー、変えちゃうの? セクシーでいいじゃんかー」
頬を膨らませながら文句を言う健。アルヴィーの胸をチラチラ見ていたが、健全な男子ゆえに仕方のないことである。すぐにアルヴィーから鉄拳による制裁を受けたが――。
「……はっ、そうだ!」
殴られてからしばし経って、急に何かを思い出した様子で健は起き上がる。視線をまり子に向け、彼女に「まり子ちゃん、先にやっておきたいことがあったんだよね?」と問いかける。
「なんだ、やっておきたかったことって?」
「――ごめんなさい」
「え……?」
疑問符を浮かべる不破。真剣な顔をしながら前に出たまり子は、不破の前で頭を下げる。
「クモ女、お前急にどうした」
「あなたにはいろいろと、迷惑かけちゃったから」
「……」
――まり子が発した何気ない一言。それには、以前に警察との間で起きた件や不破に対してずっと不遜な態度を取っていたことなど――それまでに起きた出来事すべてに対する謝罪がこめられていた。
「……なんだ、そんなことか。いいよ、もうそんなに気にしてねえから」
「……」
「それに十分反省したみたいだしな。罪を償うっていうのなら、オレも手伝うぜ」
不破は、微笑みと共に彼女を許した。互いに憎み合い敵対する関係にあった二人はたった今和解して、仲間同士となったのだ。頭をなでられて嬉しくなったか、まり子は清々しい笑みを浮かべる。周りもニッコリ笑って和気あいあいとしたムードになったが、しかし――。
「べーっ!」
「む!」
まり子は「あっかんべー!」と、ふざけて不破を怒らせる。
「こらーッ! この悪ガキぃ!!」
せっかくのパーティーをそっちのけて不破とまり子による取っ組み合いが始まった。だが二人とも、妙に嬉しそうだ。
「……ははっ、二人とも子供っぽいなあ」
「でもいいんじゃない? 二人とも分かりあえたんだし」
「うむ、仲良く喧嘩するほどの仲か。それもいい」
感慨深そうに笑う、健、みゆき、アルヴィー。それだけ、二人の間にあったわだかまりが解けたことを嬉しく思っていたのだろう。
「さ、みんな揃ったことだしパーティー始めましょう!!」
「おーっ!!」
白峯の言葉を合図に、楽しいハロウィンパーティーが幕を開けた。この場に葛城や市村たちがいれば完璧だったのだが、どちらも用事があったので仕方がない。無論彼らの分も、健たちは存分に楽しむつもりだ。
辛いことも悲しいことも全部水に流して健たちはパーティーを楽しんでいたが、その一方――。
□■□■□■□■□■□■□■
ヨーロッパのとある山の中。そこは霧が深く立ち込めていて生い茂った木々やむき出しの岩肌など、周囲の環境は日本とは明らかに雰囲気が違う。その山の中を、神父のような格好の壮年男性が訪れていた。
「長きに渡る屈辱……、いよいよそれを晴らすときが来た」
にやついて独り言を呟きながら、神父風の男性が懐から何かを取り出す。それは、ドクロを模した禍々しい形状の――不気味な鍵。神父風の男性の目の前には岩壁。何かが隠されていそうだ。
「今に見ていろよ、くっくっくっくっ……!」
神父風の男性、クラーク碓氷は何を企んでいるのか。そして、彼が隠し持つものとは――。