EPISODE211:身代わり防御
駆けつけた不破が加わり、三対二となった。ひとり増えただけでもだいぶ違ってくるものだ。欲を言えばもうひとり来てほしかったものだが、この状況においてそんなことを言うのは贅沢だというものだ。
「へっ! 三対二か、俺たちの方が上だなっ!」
「それはどうかなッ!」
「ぐえぇ!!」
カルキノスが跳躍して不破へ接近、右腕の巨大なハサミを叩きつける。しかし不破はひらりと身をかわしカルキノスに槍の穂先を叩きつける。
「食らえ!」
「うりゃりゃりゃりゃりゃッ!!」
「なにッ!」
「はああああああッ!!」
「ぬおおおおぉ――!!」
ヴォルフは全身を震わせ氷の針を飛ばす。だが不破はランスを激しく振り回し、周囲に放電しながらそれを弾く。更にヴォルフへ連続で突きを浴びせた。
「東條、こいつらはオレに任せてお前はデカブツに集中しろ!」
「恩に着ます!」
不破にヴォルフとカルキノスの相手を任せ、健は金棒を構えて待ち構えていたオニグモめがけて疾走。助走をつけてからのジャンプ斬りを繰り出してオニグモに一撃浴びせる。
「ふんっ!」
「っ!」
重さ100kgはくだらない巨大な金棒を激しく振り回してオニグモが襲いかかる。地面に叩きつけて衝撃波を発生させるが、健は盾でガード。風が巻き起こりオニグモを退かせた。
「小わっぱめ、やりおる!」
金棒をしまい、オニグモは武器を蛮刀に持ちかえる。回転しながら大きく薙ぎ払い、突風を起こして健を吹っ飛ばす。
「でぇぇぇぇいッ!!」
「ぐはあああッ!!」
健は氷のオーブを長剣にセットし、オニグモの懐へ踏み込んで叩っ切る。氷のつぶてが宙に舞いオニグモは仰け反った。
「おりゃあ!」
「グヘェェェ!!」
不破が電気を帯びたランスをカルキノスへ叩きつけ、退かせると立て続けにヴォルフに斬撃を浴びせる。
「ガルルルルッ! 貴様、図に乗るな……!!」
ヴォルフが唸り声を上げ、目にも留まらぬ速さで走り出す。「超高速移動か……なら、どっちが速いか勝負だ!」と、不破は助走をつけ徐々に加速。彼もまた超高速で走り始め、ヴォルフに追い付いてぶつかり合いに持ち込む。加速していないカルキノスには声だけしか聴こえず、何が起こっているのか理解できない。
「ちょっ、なにも見えねえんスけど……」
呆気にとられて立ち尽くしていたそのとき、不破とヴォルフが相討ちとなりお互いに吹っ飛んで地面に叩きつけられた。
「やるじゃねえか、オオカミ野郎……」
「お前もな!」
「小わっぱめが!」
オニグモが金棒を叩きつけて衝撃波を走らせる。健は跳躍してそれをかわし、空気中の水分を凍らせて滑り出す。
「なぬ!?」
「驚いたか、そぉれっ!」
「ぐわあああああ!!」
滑走して往復しながら、健がオニグモを何度も斬りつける。オニグモの体は宙へ放り出され、地面に叩き落とされた。
「とどめだぁぁぁッ!!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「マンモスいてえェェェェ!!」
ランスを激しく振り回しながらヴォルフとカルキノスに突進し、不破は空高く跳躍してランスを真下に構え――そのまま急降下。電気を帯びた衝撃波を発生させて二体を一気にぶっ飛ばした。
「ケホッ、な、なにもんだ……あいつ」
「少なくとも、ヒーローごっこしてるヤツではないな……うぐっ」
起き上がるも、カルキノスとヴォルフは膝を突く。新型バトルスーツの性能と日頃より鍛えている不破のセンスと実力が化学反応を起こし――二体を圧倒するまでに至ったのだ。
「トドメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「ぬぅ……このままでは、まずい……!」
続いて、健が青い氷のオーブを黄色い雷のオーブと交換して装填。気合いを溜めて飛び上がると雷をまとった金色の刃を振るおうとする。
「ッ!?」
「カルキノスッ!?」
が、オニグモは当たる寸前に電気を帯びた糸をカルキノスへ伸ばして絡み取り――自分の前へ持っていく。硬い外骨格を持つカルキノスを、自分の身を守る盾にしようというのだ。
「せいやああああああああああッッッ!!」
「ウワァァァッ!!」
健はオニグモへとどめを刺すことに集中しており、敵がカルキノスを盾にしたことにまったく気付いていなかった。そのまま、雷をまとった剣による渾身の一撃をお見舞いし、爆炎が上がる。
「やったか!?」
健が地面に降り立ったとき、不破が叫ぶ。しかし――煙の中から現れたのは先程の必殺技でダメージを受けなかったオニグモと、オニグモによって盾にされてボロボロになったカルキノスの姿。カルキノスは全身傷だらけで紫の血を流している。
「「……やってなかった!」」
健と不破がいっぺんに同じことを呟く。汚いボロクズのような状態のカルキノスを投げ捨て、オニグモは「今日は日が悪い。小わっぱども、次に会うときまで首を洗って待っておれ」と捨て台詞を吐いて日陰に消えて逃走した。「なんて奴だ! 味方を盾にするだなんて」「野郎、汚ねぇ真似しやがって……」と、健と不破はオニグモの卑劣極まりない行動に怒りを露にする。
――今まで、人質を取るような真似をしても仲間を身代わりにするようなシェイドはいなかった。シェイドなりの同族に対する仲間意識や協調性が感じられた。しかし、オニグモにはそんなものはなかった。健と不破が奴から感じ取れたのは、目的のためなら平気で他者を利用し捨てることも厭わない残忍性と実力以上に卑劣さに長けていることだけだ。
「うっ……がぁぁぁぁぁ……くぅっ」
「お、おい、カルキノス! しっかりしろ!」
ヴォルフガングがカルキノスに駆け寄り介抱する。彼の肩を持ち、「今日は見逃しといてやる……」と、その場から去っていった。オオカミだけに一匹狼なのかと思えば、そんなことはなかった。ヴォルフガングは残忍で好戦的だが仲間思いでもあった――ということだ。
「……っ!」
「東條、大丈夫か!?」
「は、はい……なんとか」
健が地面に膝を突く。激しい戦いで著しくダメージを受けており、血まみれだ。それでも健は、無理をして笑顔を作った。不破の手を借りて立ち上がると、剣と盾を仕舞った。
(オニグモ……奴はいったい何を企んでるんだ)
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「ヴォルフ、バイトくん!」
「大丈夫ですか、多良場さん!」
その頃、ヴァニティ・フェア本部にはヴォルフガングが深手を負ったカルキノスを連れて帰還していた。部下を心配して、辰巳と鷹梨が駆け寄る。
「だ、大丈夫です……でもあちこちボロボロッス」
「わかった、しばらく休んでていいぞ……」
顔面に包帯を巻いた辰巳が、多良場を介抱してねぎらいの言葉をかける。
「……だから某の足を引っ張るなと言うたのに」
そこへ先に帰還していたオニグモが姿を現す。辰巳は多良場の体をゆっくり降ろすと、鋭い目付きでオニグモを睨む。鷹梨とヴォルフガングもオニグモに冷たい視線を向けていた。
「……モニターで一部始終を観させてもらった。貴様、どういう了見だ……なぜ多良場を盾にした?」
「そうです。わざわざあんなことをする必要はなかったのでは」
「何度も言わせるな。某の足を引っ張ったこいつらが悪いのだ」
「なんだと、貴様ぁ……!」
辰巳と鷹梨、そしてヴォルフガングから抗議を受けるもオニグモはものともせず。だが、そこへ黒装束の男性――社長の甲斐崎が現れる。
「よさないか、お前たち」
「「「社長!」」」
すらりとしていて無駄な贅肉一つ無い鍛え上げられた体。端正な顔つきからは冷静沈着さと猛々しいほどの野生を感じさせる。更に――生半可なものではない威圧感も。イザコザを起こしていた辰巳らを黙らせると、甲斐崎はオニグモの方へ歩み寄る。
「ほう。これは、これは……」
「話は聞かせてもらった。今回は、まあ許そう。だが、今後同じような事をするのなら……そのときは容赦しない」
「存じております。しかし、貴殿にそれが出来ますかな」
「あなたこそ、そろそろ腹をくくっておいた方がいいのではないかな?」
面と向き合うオニグモと甲斐崎。互いに本音を隠さす表に出していて、まるで腹の探り合いのようだ。
「……まあ、そこで指をくわえて黙って見ていてくだされ。世界を震撼させるような見世物を――いずれ、皆様にお見せいたしましょう」
「ああ、楽しみに待っておくよ」
威勢良く甲斐崎へそう告げると、オニグモはその場から去っていく。期待する言葉をかけたように見えたが、これは紛れも無く皮肉だ。言葉通りの意味ではなく、甲斐崎は彼に期待などしていない。
「……社長。あんなことをされたのに黙って見過ごすおつもりですか?」
鷹梨が眼鏡のブリッジを上げ、甲斐崎へ訊ねる。元々真面目な彼女だが、このときはいつも以上に真剣な表情をしていた。
「なぜオニグモを始末しないのです? あんな素性の分からない奴を放っておいては洒落にならないのでは……」
辰巳も、胸中に抱いていた今回の件に関する疑問を甲斐崎へ投げかける。割と仲間思いな彼からすれば、今回のオニグモの行動にはハラワタが煮えくり返るような思いをしていたことだろう。
「心配するな、お前たち。せっかく見つけた手駒をすぐに捨ててしまってはもったいないだろう?」
「……え?」
「どうせ捨てるなら、俺なら利用するだけ利用してから捨てる。たとえるなら、ボロ雑巾のようにな――」
Q&Aコーナー
Q:なぜサイが生きてるときにガードベントをやらなかった? ちょうどヘビもいたのに
A:そもそもうちのヘビさんもサイ男さんもそんなキャラじゃないんです。王蛇さまバンザイ!
Q:あじゃぱー!
A:宇宙的に哀れなやつ……
Q:カルキノスを食べる時はどうすればいいですか?やっぱり茹でるべき?
A:いえ、契約が切れたときに下半身からボリボリ食べるべきです
Q:カニが飛ぶな!
A:飛んでねえよ。